Shall we ダンス?

初版 2022/10/07 22:41

改訂 2024/06/12 17:16

昨日久しぶりに「shall we ダンス?」のDVDを見ました。公開当時、映画館に3度も足を運んだ数少ない作品です。何度見ても引き込まれる傑作ですね。ストーリー、キャスト、撮影、音楽、すべてが観た人を暖かい気持ちにさせてくれる素晴らしい映画です。映画館の大画面でこの映画を見れて本当に良かったと思います。

働く世の男性がときどき日々の生活を「つまんねーな」と思う前半の描写、とても丁寧で共感できました。通勤電車から見える光景はルーティンですから、「いつもとちょっと違うものが見えると気になる」というのにも納得です。

それがビルの窓からぼんやり外を眺める物憂げな女性なら尚更です。

ヒロインの「高嶺の花」という雰囲気はハリウッド版より断然上でした。これは駅のホームでステップの練習をしている杉山さんを見つめている舞さんですね。

草刈民代さん、プラドのルーベンスの三美神に似てるんですよね。

この映画は脇を固めるキャストがみなピッタリ役にはまっていました。特に竹中直人さん、渡辺えり子さんは本尊を支える日光・月光菩薩のような輝きです。本物の菩薩のような「たま子先生」も素晴らしかった。私もたま子先生にダンスを習いたいです。

「青木さん、気持ち悪いんです」とパートナーに言われるのも納得の竹中直人さんの快演でした。

ダンス教室に杉山さんを発見し、この柱から出たり引っ込んだりのシーンは抜群の面白さ。周防監督が「えり子さんはダンスの練習をきちんとするんだけど、竹中さんは練習しなくて大変だった」とコメントしていたのが信じられないほどこなれた演技でした。

このトイレで杉山さんが青木さんとダンスの練習をする場面は、この映画を代表する名シーンですね。社交ダンスとトイレとのシュールな組み合わせが見事です。

豊子さんと青木さんのにらみ合い。「ゴジラ対キングギドラ」って感じがいいですね。

杉山さんのワルツを指導する舞さんの大きな声に振り向く青木さん、最高です。

本物のドニー・バーンズはドニー青木と違って物凄くカッコいいです(笑)。昔ラテンダンスの世界選手権を見ましたが、他を圧倒するキレ。パートナーのゲイナーの鍛えられた足の筋肉にも目が釘付けになります。

本物はこちら。

この映画で草刈さんが日本アカデミー賞で「最優秀主演女優賞」を受賞したのには「太っ腹だぞ、日本アカデミー!」と思いました。食事に誘った杉山さんを木端微塵にしてしまうこのシーンでは、おじさん世代として杉山さんに心から同情しました(笑)。舞さんが杉山さんを「心底軽蔑している」という雰囲気が実によく出ていました。

中年男性のちょっとした「スケベ心」から始めたダンスでしたが、ここから杉山さんのスイッチが入り一気に面白くなりましたね。

マッチョが「倉高健」という名前だったり、モックン演じる若き名ダンサーが「木本弘雅先生」だったり、結構いい加減な設定もよかったです。

サウンドトラックも買いましたが、音楽を聴くだけでそのシーンが鮮やかに甦ります。パソ・ドブレはダンス競技会では同じ曲が多いのですが、この周防義和さんの音楽はとても魅力的でした。

また、大貫妙子さんの「シャルウィダンス?」はイントロを聴くだけでワクワクしてきます。

特に舞さんにこっぴどくやられた杉山さんが、そのあとにダンスに真剣にのめり込んでいく際にかかる「t.t.tango (タマニハ・タノシイ・タンゴ)」は聴くと気分が高揚する素晴らしい曲だと思います。「タンゴに大正琴を入れる」なんて誰が考えつくでしょうか。

ずけずけ物を言う豊子さん、実は働き者でとても優しい人だという事があとで分かります。「めぞん一刻」の一之瀬さんタイプかな。大会の練習中、杉山さんと舞さんを二人きりにするために「ウーロン茶買ってくるわ」と言って戻って来ないのは彼女の思いやりですね。

渡辺えり子さんはダンスの練習をかなり積んだようで、彼女の踊りは映画でも上手だなぁとはっきり分かるほどでした。

ハリウッド版Shall we Dance ?も作られて私も見に行きましたが、舞台がシカゴ主人公が弁護士では、設定からして共感しづらいですね。ダンスの文化がない日本の、フツーのおじさんの物語だから私は共感しました。杉山さんと舞さんの「精神が解き放たれていく」様子が美しかったです。

ダンス教室の階段を上るこっ恥ずかしさ」が分からなければ、「Shall we ダンス?」の本当の面白さは理解できないと思います。

青木さんや豊子さんと同じく、「舞さん、お別れパーティー」に杉山さんが現れないのではと私もハラハラしていました。ここでの草刈さんは本当に綺麗でした。

タキシードではなく、杉山さんが「通勤帰りのくたびれたスーツ」で登場というのがグッときました。

ダンスは楽しく、人生もまた捨てたものではない。元気をもらえる邦画の傑作だと思います。

追記~ただひとつ、納得できないのは杉山さんの妻が「ダンスも浮気だと思う」と言うセリフです。杉山さんがダンスを始めた動機は不純でしたが、ダンスそのものは不実ではありません。どんな人間にも他人が侵してはならない自由があってしかるべきだと思います。相手が夫であろうが妻であろうがです。杉山夫妻のこれからに関して、そこだけが気になるところでした😅。

1990年3月に行ったロンドンで、初めてエドワードグリーンのドーバーを購入しました。以来、ここの靴の虜になりました。質の良いしっとりとしたカーフ、美しい木型、無い物ねだりと分かりながら、この時代のエドワードグリーンの靴を今も追い求めてしまいます。
他に古い靴も修理して履いています。特に戦前の英国靴は素晴らしいと実感しています。

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    グリーン参る

    2022/10/13

    30歳頃のドニーバーンズです。途中に出てくる太ったおじさんもかつての名ダンサーです。
    https://youtu.be/BDMMGxL9CME

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    グリーン参る

    2022/10/14 - 編集済み

    前述の「太ったおじさん」ことBuddy Schwimmerさんはアメリカのダンサーで、Two stepの創始者です。ちょっと丸くなりましたが、キレッキレのステップですね。
    https://www.youtube.com/watch?v=9Z9cLfU7dpI

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    グリーン参る

    2022/11/22

    昨日BSプレミアムでハリウッド版の「シャル・ウィー・ダンス?」をやっていました。アルコール依存症になっていたたまこ先生(涙)。
    この映画の中で「社交ダンスでは男性は'額縁'、女性は'中の絵'よ」とジェニファー・ロペスが言っていました。ハリウッド版オリジナルの台詞ですが、意味は深いなぁと思って聞いていました。

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    woodstein

    2022/11/22 - 編集済み

     この映画では、草村礼子がよかったですね。そのことに関しては、いずれこの作品について触れる機会があれば、語ってみたいと思っています。

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      グリーン参る

      2022/11/22

      おっしゃる通りたまこ先生役の草村礼子さんは、この映画ではとても重要な役どころですね。全編通して「聖母」のような存在だと思います。優しいだけでなく厳しさもありました。「青木さん、かつらを捨てて一皮むけたのね(だったかな?)」という天然ボケも良かったです。
      是非是非「機会があれば」とおっしゃらず、早速この作品についてお聞かせください!

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      woodstein

      2022/12/01

       返答になるかどうかはわかりませんが、この映画に関する思い出の一つを私のミュージアムのモノ日記に載せましたのでよかったらご参照ください。
      https://muuseo.com/woodstein/diaries/80

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