崩れゆく見本帖の悩み
初版 2020/11/13 22:15
図版研のカタログコレクションの中には、商品現物を綴り込んだ「見本帖」の類いもそれなりの数がある。
そのうちでも、戦前の紙屋さんの本格的な冊子になった見本帖は、かなり珍しい部類に入ると思う。
現代の紙見本帖を眺めていても、実に色々な色柄や質感の紙が1冊にまとめられていて、眺めていて飽きないものだが、…
…これが100年近くも前のものともなれば、今日ではまず現物にはお目にかかれない用紙ばかりで、実にたのしい。
図柄はもちろん、型押しされた紋様なども見たことのないようなものがある。
名前のつけ方にしても、現代では出てこないような発想のものがいくつもあって面白い。
伝統柄を下敷きにしたようなものもあるかと思えば、…
…かなり斬新なデザインのものも。
どこかで目にしたような図柄も、こうした見本帖でないとその名前がわからないもの。
因みに、名称や色、サイズや型番などが書かれているのは裏側なので、写真の右側に写っている表側は左側にある紙の同名別色ということになる。
こうしてパラパラめくってみていると、…
…モダン柄の銘仙を思わせるものもあるし、…
…書籍の装幀に使われていそうなのもあれば、…
…洋服地みたいな柄のもある。
如何にも昭和初期のモダン尖端文化全盛期のあたりのものらしい、おしゃれな雰囲気が充ちている。
覆刻したら、結構人気が出そうなのがかなりあるのではないかしらん。
表裏がこんなに違うラシャ紙って、今はないよね。
これ1冊で300種。たのしい。
ところでこの中に「ヱナメル」という、金属光沢のあるしゃれた型押し特殊紙シリーズが含まれているのだが…
…これがどうも酸性紙らしく、その一部がかなり脆くなっていて、うっかりするとこなごなに崩れてしまうのだ。
製本用糊で割れてしまったところをくっつけたり縁を補強したりはしているのだけれども、覧るときにはなかなか神経を使う。殊に紙種データの部分は失せると資料価値が大いに損なわれて困るので、何とか保ちたいものだが……薬液に浸す脱酸処理などすると折角の特殊加工がダメになったり、というような何かまた別のダメージに見舞われそうだし、樹脂で固めてしまえばカタチは保てるにしても、この用紙独特の風合いやら指触りやらニオイやらは失われてしまう。それは避けたい。
紙質や革背などの装幀造本が劣化している資料は特に、ほかの図書館などではダメージが進むことをおそれて利用者に貸し出すのをやめてしまわれ、ディジタルデータだけしか覧られなくなっているところが多い。維持管理を考えればいたし方のないことだろうけれども、やはり現物を手に取って眺めてみることで初めてわかることは少なくない。
東京・阿佐ヶ谷に目下開設準備中の私設図書館「レトロ図版博物館」
http://kuronecosiloneco.seesaa.net/article/478435577.html
では、零細施設ならではの「いちどきに1組限定の貸し切り」というご利用形態だから、こういう扱いの難しい資料も敢えて現物に直に触れていただく「体験」をも含めてご提供したいと考えている。
もちろん、ご利用者の方にはそれなりのお扱いが求められるし、お見せする側にも「破れちゃったら破れちゃったでその時はその時、淡々とできる範囲で修繕するまでのこと」というような、ある種の「諦念」が必要にはなるのだが。
なお、今週末15日(日)0時から二期工事の資金調達を目指してクラウドファンディングを始めることにしている
けれども、「レトロ図版博物館」を始めるのに最低限必要な改修は現在進めている一期工事で済ませる手筈だから、たとい「完成」に漕ぎ着けられなくたって見切り発車で年内に開けちゃう積もり。
#コレクションログ
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#マイクロライブラリ
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図版研レトロ図版博物館
「科学と技術×デザイン×日本語」をメインテーマとして蒐集された明治・大正・昭和初期の図版資料や、「当時の日本におけるモノの名前」に関する文献資料などをシェアリングするための物好きな物好きによる物好きのための私設図書館。
東京・阿佐ヶ谷「ねこの隠れ処〈かくれが〉」 のCOVID-19パンデミックによる長期休業を期に開設を企画、その二階一面に山と平積みしてあった架蔵書を一旦全部貸し倉庫に預け、建物補強+書架設置工事に踏み切ったものの、いざ途中まで配架してみたら既に大幅キャパオーバーであることが判明、段ボール箱が積み上がる「日本一片付いていない図書館」として2021年4月見切り発車開館。
https://note.com/pict_inst_jp/
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