本を作る、ということ

初版 2019/11/27 17:06

改訂 2019/11/27 17:13

「こういう本がほしいな」→「どうやらそういう本は出ていないらしい」→「じゃあ作ってみようかな」……というのが、本を拵える動機の「本来の姿」なのではないかしらん、と思っている。


まず初版何千部出す、という前提ありきで「さて、何か手っ取り早く売れそうなテーマはないかな……」と探しはじめるような企画が当たり前になっているから、昨今のように「出版不況」をなげくことになるのではないか。


図版研が惹かれ、ない袖を振りちぎって蒐めている明治・大正・昭和初期の書物はどれも、「こういう本が作りたい!」というキモチにつき動かされた編著者や版元の、ある種の「美意識」が感じられる。そしてそれが端的にあらわれるのが、そこにそえられている「図版」なのだ。単に対象物がなんなのかわかればよし、というのではなく、そこに表現しようとする「現物」を眼にしたときの美しさ、面白さ、不思議さ、かっこよさ、……そうした「印象」「感動」をもなんとか見る者にもつたえたい、という想いがこもっているような、そんな気分にさせられるのだ。イラストや写真などの原画制作から製版、印刷、装釘、製本、一冊を作り上げるどの工程も現代のようにコンピュータをはじめとする機械におまかせ、ではなくいちいち手作業だったこそのものもあるだろう。


印刷物や出版物を作る過程の作業そのものが好きなこともあって、自らの企画でも一冊作ってみたい、という考えで三年ほど前に出したのが『鑛物標本』という小冊子だ。

昨日展示した『原色日本鑛物圖譜』などの図鑑と、それからその当時に収蔵した大型木箱入りの国産鉱物五十種集合標本とをひとつひとつ見較べてみられるようにしたら面白いかな、と考えて構成してみた。

あくまで作ること自体がたのしくて作るので、本来は一冊できあがれば十分なのだが、プリンタ本ではなくてある程度ちゃんとした印刷製本で、となると、自前の設備を持っていない以上どうしても外注しなければならなくなる。しかし小ロットを刷るオンデマンド印刷にしても、一部づつだと製作単価がバカ高くなってしまう。

そこで仕方なく、一昨年の二月に十二冊だけ発注した。印刷工場ではヤレの分も見込んで多めに刷るため、「予備」として五冊余分に納品してくださった。しかしそんなに何冊も同じものを手もとに持っていても邪魔なだけなので、小出版を扱ってくださる独立系の本屋さんいくつかに卸しを掛け合ってみた。

何店かからは断わられ、いくつかからはお返事もいただけなかったが、幸い歩いて納品に伺える場所にある名の知れたお店「Title」さまに少々扱っていただけることになり、サイトのオンラインショッピングのところで簡単な紹介もしてくださった。これは後々までありがたい影響があった。

ほかのお店でも少しづつ買ってくださって初刷りがすべて捌け、また追加のご注文もいただいたので二刷は三十部ほど作ったがこれもなくなった。さらに(Titleさまのご紹介記事をご覧になった)Natural Historieさまからちょうだいしたご注文に応じる必要もあって同じ年の七月、三刷を思い切って五十部ばかり発注した…

…ところが、これが少々多過ぎた。どうやら二刷りまでで世の中の需要が一巡してしまったらしく、有楽町の東急プラザ七階ハンズエクスポさま内にあるNatural Historieブースでもご在庫を持て余しておいでのようで、たま〜に立ち寄ってみても冊数が一向に減っているようには見えない。

https://www.facebook.com/Lab4RetroIllustJapan/videos/519699521769683/

大日本レトロ図版研【きゅー】所 - 東急プラザ七階にある #ハンズエキスポ さま内の #ナチュラルヒストリエ...

東急プラザ七階にある #ハンズエキスポ さま内の #ナチュラルヒストリエ さまご出張店舗ブースにて、#古道具 としての #鉱物標本 と #古本 としての #鉱物図鑑...

https://www.facebook.com/Lab4RetroIllustJapan/videos/519699521769683/

ということで、結局図版研でもまんまと不良在庫を抱える羽目になってしまった。元々売る方には大して興味がないため、こういう事態はなるべく避けたかったのだが……。とはいえ、二年経ってもたかだか百部すら捌きおおせないようでは、人をして「欲しい」と思わしめるものにはなっていなかった、という「敗因」は否めない。


やはり、製作資金の制約に甘んじてペラペラな表紙の簡易製本にしたのが、ぱっと見の魅力を大いに減殺することになったのは間違いないだろう(というか、当初は追って特装版上製本も作ろうと考えていたので、こちらは「普及版」としてZINEレヴェルにとどめておいたつもりが、実際市場に出してみたらどうもそんなに需要が見込めなさそう、ということでヤメにしたのだった)。実際、それが大きな理由のひとつとなって卸しを断わられたお店もあった。見た目の吸引力が薄いと、そもそもお客さまのお手にとっていただけないし、その割に値段がそれなりにするとなると売れ行きが見込みにくくなるので、本屋さんも二の足を踏まれるのはいたし方ない。


さてその後、図版資料蒐集費がかさみ過ぎて(去年から今年の前半にかけてはマジで懐ピンチに陥ったので抑制に努めてはいるものの、相変わらず月々の支出の一番大きな部分がレトロ図版資料調達費、という状態は変わっていない)取りかかるに取りかかれなかった次の企画が、ここにきてようやく動きはじめているところだ。もちろん、書籍としての仕上がり如何にかかってはいるが、少なくとも扱うテーマの方向性としては周囲で期待のお声が寄せられていて、それなりに需要はありそうに思える。金もうけなどは到底希むべくもないが、せめて外注費持ち出しにならない程度で「これは欲しい☆」と思えるような本を作りたいものだ。

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「科学と技術×デザイン×日本語」をメインテーマとして蒐集された明治・大正・昭和初期の図版資料や、「当時の日本におけるモノの名前」に関する文献資料などをシェアリングするための物好きな物好きによる物好きのための私設図書館。
東京・阿佐ヶ谷「ねこの隠れ処〈かくれが〉」 のCOVID-19パンデミックによる長期休業を期に開設を企画、その二階一面に山と平積みしてあった架蔵書を一旦全部貸し倉庫に預け、建物補強+書架設置工事に踏み切ったものの、いざ途中まで配架してみたら既に大幅キャパオーバーであることが判明、段ボール箱が積み上がる「日本一片付いていない図書館」として2021年4月見切り発車開館。

https://note.com/pict_inst_jp/

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