意欲作
初版 2023/08/14 17:13
改訂 2024/01/31 18:31
モーツァルト/ピアノ協奏曲第15番変ロ長調K.450
第1楽章 アレグロ
第2楽章 アンダンテ
第3楽章 アレグロ
モーツァルトのピアノ協奏曲は彼の成長や芸術的スタンスの転換でいくつかの転機があったのだろうと思う。
音楽史を学んだわけではないので爺の先入観と思い入れによるものだけれど、
第1番から4番までのハイドン等の模倣から始まり、
5番から8番までの自身のスタイルの模索、
第9番から14番までの聴衆や雇い主や演奏者とか様々な要素を織り込んでなお、音楽的に輝くことの出来た才気の時期。
そしてピアノ協奏曲の部門ではこの第15番から始まった、自分の内なる音楽への希求の時期。
18番からのさらなる円熟と溢れ出る音楽的霊感の奔流…この時期から彼は進化しつつあるフォルテピアノへのどきどきするような期待感の上に、可能性を鍵盤の上で実現する欲求に従ったのだと思う。
当時の聴衆、とくに彼がアピールしたかった貴族たちにとっては戸惑いも産んだ。感情を激しく揺さぶられるような強い音楽を、特に女性たちは好まなかった。
それでも。モーツァルトは自分の音楽を書かずにはいられなかったんだろうね。
デモーニッシュな暗さすら自身の音楽で表現する。それによって失う聴衆
逆にベートーヴェンのようにそのエモーショナルな音楽に捕らえられ、自らカデンツァを書き、自分のコンサートで演奏せずにはいられないほど、音楽家たちの心を掴みもした。
大衆音楽の好みと反することは当時の音楽家としては生活の糧を失うことにもなる。
もう一度強調するけれど、この分け方はちと乱暴だけど、歴史的文献などひもとくのが苦手なじじいが勝手に聴き込んで書いてる印象だからね。
で、とにかくモーツァルト自身が自作をカタログし始めた第14番が大司教の比護の下から離れ、完全なプロとしてやって行ける自信を持った一作だとすれば、
この第15番こそが、ピアノ協奏曲をそれまでのハープシコードから、より進化したフォルテピアノで弾くことによって、音楽的広がりと色彩、そして当然難度の高いピアノ技巧を確実に表現することができ、大きく自身の音楽家としての可能性を飛躍させた意欲作なのです。
第1楽章のアレグロは拡大されたオーケストラの後のピアノの入りが素晴らしく輝いています。
アインガング(協奏ソナタ形式で管弦楽が呈示する2つの主題の後、独奏楽器が無音の中で導入する、ソリストの最初の見せ場でもある。)の快活とユーモアの入り混じった輝かしい音彩。
オーケストラもレンジが広くとられ、単なる伴奏ではなく、表現力において以後の協奏曲のパターンを決定づけている。
カデンツァ(歌舞伎役者が見得を切るようなソリストの見せ場)も煌めくようなピアニズムを聞かせどころに持っている。
一点の曇りもないアポロ的楽章。
そして、個人的にはもの凄く好きなアンダンテ。
短調に深々と染まらずに、内省に穏やかに沈みながら弦楽の織り出すフォーマットの上でピアノが歌う歌は可能性の広がった鍵盤の表現力一杯に流れる。
心が染まるくらい蒼く澄んだ空高く、飛べるのを確かめるようなフレーズ。(この部分はミケランジェリの2つある演奏が最高!)
大切なものを抱えたまま、急な階(きざはし)を降りて行くパッセージ。
わずかずつ変化する音形が弦楽に導かれてピアノに染まって行く。
管弦楽とのテーマの交歓が微妙な気分の陰影を織り上げて行くその流れに包まれていると心が落ち着く。
これは閃きの音楽をそのまま楽譜にしたのではない。
単に降りてきた音楽とは思えない様々なインスピレーションがある。
天才が努力している。
最後の楽章にはフルートが入る。
音楽は軽々と走り出し、管楽の柔らかな色彩が映える。
アインガングは技巧的であるけれど、上滑りするような柔な音楽ではない。
シンプルではない。でも、重なって潰れるようなロマンティックな饒舌はなく、幾筋もの音楽の流れがピアノの逞しさに纏まって行く。
第3楽章はベートーヴェンの第5協奏曲の煌めきと遜色のないスケールを持っています。
書き終わったときに成功が約束されたような作品です。
その成功は現在の聴衆の耳には第20番や21番、23番や27番のようなもてはやされ方はしないけれど、
とにかくお見事!
演奏は全体の総合力で選びました。ネヴィル・マリナー指揮のアカデミーOC ピアノはアルフレート・ブレンデルです。
Mineosaurus
古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。
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