帰るところ

初版 2023/06/21 21:55

改訂 2024/02/11 09:25

モーツァルト/ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調 K.282

第1楽章 アダージオ

第2楽章 メヌエットⅠ-Ⅱ

第3楽章 アレグロ

近代から現代の音楽を聴き続けていると、ひとつのフレーズに込められる言葉の密度に飽食する。

重いロマンティシズムや浮遊する魂の揺れに同化していると突然ここに帰りたくなることがある。

いわゆる『デュルニッツ』の求めに応じて作曲された6連作ソナタの4番目。

モーツアルトはこの6曲を別個に仕上げたのではなく、1番から同じ楽譜に自筆で連作している。

6曲を一気呵成に仕上げている。

19歳の天才はフォルテピアノの黎明期に絶妙の形で降りてきた。

6曲ならどれでもいいんだけど、ボクは特にこのK282の第1楽章が好きだね。

まだソナタの形式になっていなくてモーツァルトの全ソナタの中でアダージオから始まるのは11番とこの第4番だけ。

モーツァルトのピアノソナタはこの2曲以外どれも第1楽章で走り込んで第2楽章で深呼吸する。

この作品は1音の響きに感応して心が空に向かって開いてゆくようにシンプルな線が弾かれている。

譜面を前に鉛筆を舐めな柄、椅子に座って子供の用に両足をぶらぶらさせながら家の中から青い空でも見るように天を向く。

今そこから産まれたように弾かなければならない。

コンペティションの緊張に耐え、鍵盤の上にたおやかに両手をかざし、最初の一音にロマン派のピアノに感応するように慎重に指を落とす。…てな演奏のためにこの曲を選んだらちょっと悲しい。

単純さを掌で掬い取って愛おしむように目の前に持ってきたときはもう指の間から生きた音楽はすり抜けていて

掌には『緩』が慎重と結びついて淀んで残っているだけだ。

失礼な話だけれど、この楽章はプロのピアニストよりも子供の弾くピアノに心を奪われることが何度もあった。

同じ感覚をいつもではないけれど、よく受けることがあるのはグルダの演奏だった。

今、できたばかりのモーツァルト。

まったく!

このシンプルさの中に表現の美しさと音の息づかいがピアニストの指を完全に離れきって響いてゆく。

天国でグルダが弾き終わってモーツアルトを振り返る。

「こんな感じだよな。」

「うん。」

てな会話がありそうな…

目を閉じて第1楽章を

グルダ the Tapesより

https://youtu.be/7SaUDnWVOsc

響に細かいきらめきがちりばめられるこれはスタンウェイではなく、モーツァルトを弾くときにウィーンの問題児グルダが好んで使用するベーゼンドルファのようです。個人的には協奏曲ではあまり華美になり過ぎるようで好みではないのですが、このシンプルなアダージオでは沁みます。

このコンプリートCDはそのうち展示の方に飾るつもりだけど、どうにも書きたくなった。

古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。

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    とーちゃん

    2024/02/11

     決して 深い知識や経験が
    あるわけではありませんが、
    音に触れた 数少ない機会から、
    ベーゼンドルファーの
    深みのある響きは、
    とても 耳に心地良かったです。

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    Mineosaurus

    2024/02/11

    コメントありがとうございました。個人的に協奏曲にこのピアノを使うと余りに典雅過ぎて芯がとらえられなくて、曲を選ぶところがあるような気がします。。ピアノソロになると全然違いますね。奏者のコントロールがもろに見えてくる。弾き手も選んでるようです。そんな気がします。

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