バックハウスのモーツァルト(ピアノ協奏曲第27番変ロ長調K.595)
初版 2024/03/09 14:30
ピアノ協奏協第27番 変ロ長調 K.595
第1楽章 アレグロ
第2楽章 ラルゲット(アラ ブレーヴェ)
第3楽章アレグロ(ロンド形式)
ピアノ:ウィルヘルム・バックハウス
指揮 :カール・ベーム
オケ :ウィーンフィルハーモニー管弦楽団 1955年スタジオ録音 1956発売
よくわからないことがある。
廉価版っていうのがよくあるけれど、それとは別次元の売り方もあるんだね。
ウィルヘルム・バックハウスはベートーヴェンやブラームスの弾き手として、ドイツ的な重厚さを感じさせるピアニストとされている。
でも、彼はもともとリスト直系の弟子であり、当然リストも弾いていることは知っているけど、彼が鍵盤の獅子王と呼ばれていた若い頃、ショパンのエチュード作品10を弾いていたらしい。
ボクの手許にはあろう事かルービンシュタインと組んだ百円ショップで見つけてきたそのCDがあるのだ。
ホントに百円だった。
見事にショパンでありました。
著作権切れてるのかなあ…いや、モーツアルトのじゃなくて、ショパンの演奏のさ。100円は安いよな。
売れたかどうかなど知るよしもありませんが、伝統的ドイツ重厚派ピアニストという固定観念があったボクはそのことにずいぶんびっくりしましたね。
でも、この、カールベーム指揮するウィーンフィルとのモーツアルトはそんなレベルとはちょっと違う。
1950年代、1960年代を通じてバックハウスをソリストとして行われるカール・ベーム指揮ウィーンフィルハーモニーの演奏はドイツ・オーストリア音楽会での最高のプログラムであったろうと思う。
この長き伝統を誇るオーケストラは定期演奏会のソリストとして当時バックハウス以外のピアニストを招かなかったそうです。
ボクが知らないだけかも知れないが、バックハウスのモーツアルトは数が少ない。
K.595には2種類の演奏があるけれど、この1955年のスタジオ録音はとんでもなく厳しい演奏だ。
ここでも、モーツアルトはあのクラリネット協奏曲のアダージオと同じく、微笑んでいるけれど、心は決して躍ることはない。
例えば程度の差こそあれ、ペライアやアシュケナージのロマンティックな『魔笛』を思い浮かべるような愉悦感や不可思議な浮遊感覚からくる心の平穏は聴くことが出来ない。
まるで、ベートーヴェンの後期ソナタを演奏しているように厳しく、淡々と気詰まりなほど禁欲的だ。
彼の演奏は愉悦的でロマン的様式のほのかな香り漂う曲趣の中に、ひっそりと膝を抱えているモーツアルトの孤高の悲しみを淡々と楽譜を追うことによって浮き立たせている。
楽曲に潜む、抜けきった孤独と悲しみにたどり着けようもなく、届かないことを知っているかのようにバックハウスは楽譜通りに弾く。
この演奏が気詰まりになり、何度も続けて聴けないのは、ボクがいつも聴いているモーツアルトの側面から何歩も踏み込んだ厳しいモーツアルトの孤高を突きつけられているからではないか。
ここでも、モーツアルトはあのクラリネット協奏曲のアダージオと同じく、微笑んでいるけれど、心は決して躍ることはないのだ。
バックハウスもライブでは愉悦的な演奏を残している。
でも、自分の演奏を自ら認めて記録に残すものについては、このような弾き方を選んだのではないだろうか。
ウィーンフィルハーモニーの音色もベームの抑制の利いた指揮ぶりもそのことを知悉しているようにきこえる。
不思議な安息の中に、どこにも持ってゆくことが出来なかった悲嘆と痛切がある。
それがモーツアルトなのかも知れない。
「載冠式」協奏曲K.537から3年間モーツアルトは1曲の協奏曲も書くチャンスすら恵まれなかった。
ウィーンで企画した最後の予約演奏会を開くことは叶わず、この曲は他人の演奏会での披露の道しかなかった。
そして変ホ長調から導かれていて、晩年の生活苦や日々の懊悩から音楽が完全に切り離されて澄み切っている。何なんでしょうね、この人間離れした音楽のエッセンスは。モーツアルトがたどり着こうとしていた場所には彼の魂を受け入れる聴衆がすでにいなかった。
もう一度、成功を願った彼の意識を支えていたのがこの曲だとすれば、ボクの聴き方はあまりに悲観的なのかも知れないけれど、バックハウスがこの曲から取り出して見せたモーツアルトは、たくまずしてかいま見たモーツアルトの素顔であったように思えて仕方がない。
聴く方の感情を鏡にするような昇華されたラルゲット破顔。
もしこの曲が第2楽章迄の未完で終わっていたとしても、僕の印象は変わらない気がする。第3楽章のロンド形式のアレグロにも眉根を開いて破顔するような笑みが想像できない。
YoTubeの演奏はオリジナルのLPからのものみたいですが音源は同じです。
Mineosaurus
古生物を中心に動物(想像上のもの)を含め、現代動物までを描くイラストレーターです。
露出度が少ない世界なので、自作の展示と趣味として行っている地元中心の石ころの展示を中心に始めようかと思っています。
海と川が身近にある生活なので気分転換の散歩コースには自然が豊富です。その分地震があれば根こそぎ持っていかれそうなので自分の作品だけは残そうかとAdobe stockを利用し、実益も図りつつ、引退後の生活を送っております。
追加ですが、
古いものつながりで、音楽についてもLabを交えてCD音源の部屋をつくっています。娘の聴いてるような音楽にも惹かれるものがありますが、ここではクラッシックから近代。現代音楽に散漫なコレクションを雑多に並べていきながら整理していこうかと思っております。走り出してから考える方なので、整理するのに一苦労です。
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