【手彫証券印紙】第四次発行1銭黒色:ポーラス紙【新発見?】

初版 2023/10/28 09:35

改訂 2023/10/30 08:44

手彫証券印紙・第四次発行1銭黒色で、明らかにポーラス紙に印刷された例を複数発見いたしました。

第四次発行1銭黒色/ポーラス紙はこれまで発表されているカタログなどの文献には明確な記載がなく、(もしかしたら)新発見と考えられるので、少し長くなりますが、これまでにわかったことをLab ログとしてまとめてみました。

ミュージアムでの展示アイテムも併せてご覧いただければ幸いです。

第四次発行と第五次発行で使われた用紙について

手彫証券印紙には和紙と洋紙の二種類の紙が使われていて、高額面(5円、20円)を除くと、第一次発行から第三次発行では和紙、第四次発行と第五次発行では洋紙が使用されました。

このうち、第四次発行と第五次発行とでは使われた洋紙の種類に細かい違いがあって、専門蒐集の対象となっています。

第五次発行1銭黒色印紙で使われた用紙の種類については、このLabジャーナルでも別途ご紹介したとおり、大きくわけて無地紙とポーラス紙の2種類が存在します(下記リンク参照)。

【手彫証券印紙】第五次発行1銭黒:用紙について | unechan - philatelic Laboratory | MUUSEO My Lab & Publishing

https://muuseo.com/unechan/diaries/58

unechan

https://muuseo.com/unechan/diaries/58

一方で、第四次発行1銭黒色については、長谷川カタログ(2016)によると無地洋紙とアイボリー紙の2種類に分けられています。

これまで私のコレクションにあった第四次発行1銭黒色も、第五次発行1銭黒とよく似た無地紙に印刷されたもの、もしくは、第五次発行1銭黒には見られない、より白っぽい平滑な無地紙に印刷されたもの(洋紙の厚さと白さにはヴァリエーションあり)のどちらかでした。

これらの事実、並びに他の額面(特に5銭と10銭)での用紙使用からみて、ポーラス紙は第五次発行のみで使用されたものと認識していた次第です。

第四次発行1銭黒色・ポーラス紙の発見

私は手彫証券印紙の専門蒐集と調査研究を志しているところですが、その最初の取り組みとして、このLab ログやミュージアムでもご紹介しているとおり、第五次発行1銭黒色を題材として深掘りしたコレクションを構築中です。

第五次発行1銭黒色はもっともありふれた手彫証券印紙で、カタログ価格も使用済みでは50円、文献では「駄物」と称されることもあるという代物です。

発行数や使用数が極めて多いので見向きもされないことが多いようですが、単片のみならず多数貼りの証書も手頃に入手できることから、プレート再構築や、用紙・目打・色調のバリエーション揃え、定常変種探索など、面白くて遊べる要素がふんだんにあるという、実に魅力的な印紙であると思っています。切手に例えると、「手彫で作られた小判切手」というイメージでしょうか。

さて、第五次発行1銭黒色の専門蒐集の一環としてプレート再構築を進めており、その題材として使うために、ブロックやストリップが貼られた証書を見かけたら積極的に入手することにしています。

過日、某Yオークションに出品された第五次発行1銭黒色の多数貼りをいくつか含む証書ロットを入手することができました。お目当ては7枚貼りの明治17年付証書と田型(2x2枚)が貼られた証書の断片で、取り組んでいる再構築シートのパーツをさらに連結できる材料になるかと考えたのです。

果たして届いたものを見てみると、証書貼り、証書断片貼りの双方とも印紙の間のガッターが狭くて、紋様の特徴も第五次発行のそれとは違っており、残念ながら第四次発行1銭黒。オークションサイトにアップされていた画像が小さくて印紙の細かいところがよくわからなかったのが悪かったか、と少々落胆したのですが、それにしても見た目の雰囲気(インプレッション)は濃い黒色で若干ぼやけた感じが第五次発行1銭黒のそれと実によく似ていました。

こんな雰囲気の第四次発行1銭黒は持っていなかったので、これはこれでコレクションに追加できると気を持ち直し、証書断片に貼られている4枚を水剥がしすべくよくよく観察してみると、用紙の雰囲気がどう見てもポーラス紙! 証書越しに光を当ててみると、ポーラス紙独特の網目構造もあります。全く予期していなかった発見でした。

第四次発行1銭黒色・ポーラス紙の詳細な分析

件の証書断片に貼られていた4枚の印紙を水剥がしをしたものです。印紙の状態が優れなくて、左側の縦2枚ペアと、右側の上下2枚に切れてしまったのは少し残念ですが、どうにか再接が可能な程度にはおさまってくれました。

表面の見た目は第五次発行1銭黒とそっくりです。下の画像で、左側はこの4枚ブロックの右上の印紙、右側は第五次発行1銭黒色, Plate II, Pos.37のポーラス紙・濃黒色ですが、一見すると違いがわからないほど似ています。

決定的な違いは印紙間のガッター幅で、下の画像の左側に今回のもの、右側に広幅ガッターをもつ第五次発行1銭黒色を並べてみました。今回のものは明らかに狭幅ということがわかります。これに加えて、フィラテリストマガジンNo. 39で発表した第五次発行1銭黒の印面紋様の特徴、特に右下左下の雲形紋様の小ループ欠損が今回の印紙では見られないので、ガッター幅とあわせて、今回のものは第四次発行1銭黒であることが確実となりました。

さて問題の紙質ですが、目打部分のボサっとした感じはポーラス紙そのものです。

紙の構造を見るために、今回のものを裏面からスキャンした画像がこれです。

実に明瞭な網目模様があって、裏面から裏面が透けて見えます。これはまさにポーラス紙に印刷された第五次発行1銭黒印紙のそれと合致していて、無地紙では決して見られないものです。

さらに詳細を見るために、右上の印紙の透過拡大画像を撮影してみました。

網目模様の「孔」から光が透過している様子がよくわかります。

さらに詳しく観察したところ、網目模様の構造、特に網目の並びかた(角度)も第五次発行1銭黒ポーラス紙のそれと一致することがわかりました。

もう一方の証書貼り印紙についても表面のインプレッション、透過画像、ともにポーラス紙の特徴が確認されました。例として、証書に貼られた7枚のうち、右側の3枚の一番下の印紙を示します。表面スキャン画像からも網目模様が観察できます。なお、印面紋様は第五次発行1銭黒のどのポジションとも一致しません。

第四次発行1銭黒色・ポーラス紙の追加発見と使用時期/場所について

さて、この発見があって1ヶ月少したってから、先のものと同じような証書ロットが再び出品され、無事に入手することができました。実は今回も第五次発行1銭黒のマルチプルのマテリアルを追加したく落札したのですが、前回の学習から、もしかしたら第四次発行1銭黒のポーラスが混じっているかもという淡い期待を抱いていた次第です。

到着した証書の束を開いてみたところ、第五次発行1銭黒印紙貼りの証書に混じって、先に入手したものと全く同じ雰囲気の第四次発行1銭黒色印紙貼りの証書が4通ありました。

いずれも狭幅ガッターで、濃い黒色。証書に貼られた状態で透過画像を観察し、ポーラス紙特有の網目構造があることも確認できました。追加マテリアルの発見です。

この4通と、先に入手した7枚貼りの証書の合計5通ですが、いずれも明治17年の田地売り渡し証文で、宮城県(磐城国)宮村の記載がある、もしくは、「宮城県宮村」の役場印が押印されているという共通点がありました。

さらに、貼られている印紙はすべて実測ピッチが9の目打10で、目打孔が大きめのものでした。この目打は第五次発行1銭黒色ではポーラス紙でしか確認できておらず、かつ、後期(明治16、17年)で、最後期の目打8 1/2が出てくる前の使用例として現れるもので、これらの証書が書かれた明治17年と使用時期が合致します。

これらのことから、この5通の証書は、同じ時期に同じ地域=宮城県宮村近辺で書かれて、その地域の(同じ)印紙類売り捌き所に持ち込まれ、そこに配給されていた第四次発行1銭黒印紙が貼られたもの、と考えています。

明治17年といえば第五次発行1銭黒色が主流となっており、第四次発行1銭黒色はすでに姿を消していた時代です。その時代に、あきらかに第四次発行1銭黒色で、かつ、ポーラス紙に印刷された濃い黒色の印紙がこのように使用されていたのはかなり不思議です。

なぜ第四次発行1銭黒色の原版を引っ張り出してきて印刷をする必要があったのでしょうか?第五次発行1銭黒色印紙の最後の実用版になんらかの不具合があって、凸版印紙(菊型)の発行までのごく短期間、在庫確保のために緊急措置的に印刷されたのでしょうか?それでは他の地域での使用例はあるのでしょうか?大都市では十分な在庫があったかも知れないので、地方都市での明治17年使用例に気をつけて探してみる必要があるのでしょうか?

1銭黒色印紙と言えども、まだまだわからない事柄が存分に残っています。

手彫証券印紙の奥深さと面白さを改めて感じさせてくれる発見でした。

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unechan

子供の頃から細々と続けてきた切手収集。長年のブランクを経て10年ほど前から再開し、日本切手クラシカル、ドイツインフラなどを収集。併せて手彫証券印紙の収集を始め、現在はこちらがコレクションのメインになっています。郵趣に加えて音楽(ジャズ)、釣り、鉱石収集、昆虫採集(蛾類)など趣味多数にて家族には迷惑をかけております…

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