Dindymene didymograpti 再び

初版 2024/04/19 20:24

改訂 2024/04/21 09:15

最近ディンディメネ・ディディモグラプティ (Dindymene didymograpti) の2体目を入手した。

ボブ・ケネディさんが出品していたので、なんとなしに入札していたら、割と呆気なく落札できてしまった。基本的に、私は同種を2体入手することは殆どないが、別に1種につき1個体の制限という縛りを課している訳でもないので、入手したならしたでまあ良いかなという感じ。

今回の標本は、胸尾部や頬部はそれなりに良い感じなのだが、惜しくらむべきは、頭鞍周辺が欠けている。全長は11ミリ。

その点、1体目の標本はむしろ良い個体で、これといった欠けもなく、頭部後方のアンテナ (突起) まであり、ディンディメネ基準では最高峰 (?) の標本と言える。サイズも13ミリと今回の標本より2ミリも大きい (注: どこをどう測り間違えたのか、一体目の標本のサイズを8ミリと記載していますが、13ミリの間違いでした) 。

『たった2ミリの違いか』というツッコミの声が聴こえてきそうだが、このサイズ帯の2ミリは侮れない。13のうちの2ミリというのは、相当大きい。実際、2体の標本を並べてみると、前回標本はサイズが一際大きく見える。

唐突な話だが、昔々、20世紀末にオオクワガタブームが来ていた頃、70ミリ前半と70ミリ後半の個体では、何百万円もの価格差がついていたのを思い出す。全長10センチ未満の数ミリの差というのは、表面積にすると視覚的には大差があり、後者は随分巨大に見えたものだ。いわんや、1センチ台の生物の数ミリをや。分かりにくい例えかもしれないが、そういうものなのだと思います。

さて、私がこの種を好きな理由は二つありまして、一つには名前の面白さ、もう一つには形の面白さがある。

まず名前に関して、属名のディンディメネというのは、アナトリア地方の大地の神、地母神の名で、日本でいうところのイザナミに相当する。ディンディメネのまたの名を、キベレ (キュベレー) という。かの、ロシア・オルドビス紀の有名三葉虫にも繋がるというわけである。

種小名のディディモグラプティについては、いつかその意味を調べようと思いつつ、そう決意してから、かれこれ8-9年近くが経過した。今回漸くちゃんと調べてみる事にしました。

ディディモグラプティ (Didymograpti) はDidymosとGraptiに分解する事ができる (たぶん) 。前半のディディモス (Didymos) は古代ギリシャ語かラテン語で『双子』という意味らしい。そして、後半のgraptiはおそらくgraptusの格変化で、ラテン語で『描かれた、彩色された、彫られた』というような意味であるようだ。

という訳で、didymograptiで『描かれた双子の』というような意味になるのだろうか。種小名と属名とを無理やり繋げるなら、『描かれた双子のディンディメネ』?あるいは、『双子が描かれたディンディメネ』?などとなるのか。

それっぽいような、意味不明なような。特に双子というくだりがイマイチ意味がわからない。もし、正確な意味がわかる方が居られれば、どうかご教示くださいませ。

とりあえずこれで、8年来の宿題を解決した (解決しようとする努力はした) 訳です。

細かい話は抜きにしても、ディンディメネ・ディディモグラプティという言葉は非常に語感がいい。思わず二度、三度と声に出して唱えなくなるゴロの良い言葉だ。

続いて、形態の面白さに関して。

まず、本種は眼が飛び出しがちなエンクリヌルスの仲間であるにも関わらず、盲目であるという特徴がある。洞穴性だったのか、深海性だったのか、眼を必要としない環境にいたのだろう。

また頭鞍後方に小さな突起がある。昔はこれが、まるで避雷針のように見えた。

そんな訳で、頭部に関してはあまりエンクリヌルス感がないのだが、全体的なフォルムや、特に逆三角形の尾部に関しては、まさにエンクリヌルスのそれである。全体像が知られていない段階でも、尾部だけ見れば、文句なく何らかのエンクリヌルスと言い切れてしまうだろう。

こんなに名前が面白く、形態も悪くないのだが、人気のほどは今ひとつ。ディンディメネに関して、これほどワーワーいっている人間など、三葉虫コレクター界狭しといえども、世界に私一人ぐらいな気もする。

そう遠くない系統の種で、似たようなサイズのものとして、例えばNY州のスファエロコリフェ・ロブスタ (Sphaerocorype robusta) がいる。言うまでもなく、人気は段違いで、まさに月とスッポン。

比べる相手が悪すぎるにしても、本種の何がいけないのか。

一つには、本体の色と母岩の色が殆ど変わらず、本体が背景に紛れてしまっているという事はあると思う。実際、イギリス(あるいは欧州)の三葉虫のいくつかが地味に見える理由の一つとして、この母岩と標本の色が殆ど同じですよ問題が、一部にあるように思います。

あとはプレパレーション問題もあるでしょうか。あまり作為的なプレップもよくないが、例えば、この手の標本なら、今流行りのすり鉢状プレップ (標本を円の中心に、すり鉢状に標本周りを削るプレップ) を施してやれば、もう少し映える気もするのだが。

決して数が多い種ではないので、3体目を入手できる可能性は低いが、また良い標本があれば手をつけるかもしれません。

化石が大好きです。現在主に集めているのは三葉虫ですが、恐竜やアンモナイトを含め化石全般が好きです。これまで買い集めた、あるいは自分で採取した標本を紹介していきます。古生物の持つ魅力の一端でも伝える事ができれば幸いです。

http://blog.livedoor.jp/smjpr672/

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    ktr

    2024/04/19 - 編集済み

    ディンディメネの名前に関してですけど、まず最初にディンディメネという名前がついたのはチェコ産のもので、命名者はハウレとコルダです。それからだいぶたって、英国でよく似たのが出たので、ディンディメネに瓜二つの、という意味で dindymograpti という種小名をつけて、Cornovica という属を立てたのがホイッタードですが、その後 Cornovica がシノニムに格下げされ、もとの Dindymene が属名として復活したために、Dindymene dindymograpti という、馬から落ちて落馬した式の名前になったのではないか、と想像しています。

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    • なるほどですね。
      歴史的経緯をお聞きして、よく分かりました。
      『didymos- 双子の』というのは、最初に記載されたチェコのディンディメネに、よく似た、瓜二つの〜という意味で名付けられたのですね。昔の名を反映してかCornovica didymograptiという名前でも確かにヒットしますね。
      ありがとうございます、すっきりしました。

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    Trilobites

    2024/04/21 - 編集済み

    入手する気が無く入札していて、気が付いたら落札してたケース偶にありますね。更に記事にたことで、ktrさんの詳しい解説、偶然が重ならなかったら聞けなかっただけに、有難い記事です。

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    • 偶然性というのは侮れませんね。大きくいえば、人生の諸事は、良くも悪くも、コントロール出来ぬ偶然の積み重ねの結果だなと実感する今日この頃です。ともあれ、一人で悶々とするには限界があるので、こうして疑問を尋ねることが出来る同志の方々が居らっしゃる事、muuseoのような場がある事に、本当に心から感謝です。

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