MF祭り

初版 2023/06/24 18:48

改訂 2023/06/24 23:34

先日なんとなしにオークファンの過去の記録を見ていたら、『ひえー』となった。

注釈しておくと、オークファンというのは、オークション補助機能のついたオンラインサービス。例えば、機能の一つとして、有料版ならば、ヤフオクのここ10年間の出品内容を全て検索する事が出来る。ヤフオクには、巣穴氏やMDLさんを始めとした常連の出品者がいて、クオリティの高い標本を出品し続けてくれているので、その機能を利用して検索条件を工夫すれば、ウェブ博物館としても利用することも可能だ。

今回見ていたのは、かのMF (マスターフォッシル) 祭り。主に2014-2020年頃のこと。ただ出品内容的には、メインは2016年頃までかな。出品開始時期から数えれば、もうかれこれ10年近くが経とうとしている。流石に未だにかの祭りの話をしているのは私ぐらいなもので、懐古趣味もいい加減にしろと言われそうでもあるが、ちょっと見始めたらハマってしまった。

勿論、当時も『うわー』という気持ちで出品標本を見ていた。しかし、当時の『うわー』と今の『ひえー』は明らかにその性質を異にする。

当時も三葉虫の知識はそれなりにはあったが、ある程度有名な種以外は、まだ知らない種も多数あったように思う。出品される毎に『うわー、こんな種がいるんだ。しかも、凄いサイズ、保存状態だな〜欲しいな〜』という程度の気持ちで入札した事も多かったはずだ。

一方、今は市場に出てくるレベルの種や図鑑に頻出する種であれば、種名や希少性、種によりどの程度の保存状態なら十分か、などはおおよそは把握している (気がする) 。従って今見ると、当時などよりはるかに解像度高く、MF祭りの異常性がわかる。

『ひえー、こんな希少で保存の良い種がこの価格で!? この種にこんなサイズの標本が!? こんな三葉虫、世界に2-3体では!? これは未記載種では!? (余計なお世話だが) この種、名前が全然違うのでは!?』などなど。そう言う意味での『ひえー』である。

当時から十分な知識があった方が羨ましいなと思う一方で、ある意味、気の毒でならない。毎週こんな出品内容だったら、気になる標本が多過ぎて、仕事が手につかなかったのではないか。何に入札して何を諦めるかの取捨選択が難し過ぎて、悩みに悩んだのではないか、などと邪推してしまう。ただ純粋にワクワクしていた当時の私は、まさに、知らぬが仏状態だったのだろう。

他の方の手に渡った、それも10年近く前の出品物を見て品評するという、おおよそ生産的・健康的とは言えない行為を、ちょっとだけ敢えてしてみる。一応、これを持って私の中でのMF祭りのケリとしたい。多いので、以下簡単なコメントと共にひたすら列挙していく。画像も何もない上に、ただ列挙し続けるだけなので、大変見づらいと思いますが、どうかご容赦を。

ウィークスのクーセラ、サイズもありお尻も大きなタイプで、素晴らしい標本。しかし、入札するには時すでにあまりにも遅し。50mmの巨大なウィークスのモドシア、未確定種との事だが、これはコンフォルティ (M. conforti) かな。同じくウィークスのアラパホイア (Arapahoia sp.) 、それからデイラセファルス・アステル、これまで市場で見たのはこれら一体のみか。どちらも、落札価格が凄いことになっているが、確かに希少性はピカイチだろう。私がこの前入手したメノモニア・セメレもある、ほぼ完全と言えそうな標本が1-2体。面白いものとしては、ウィークシナと書いてあるが、どう考えてもエルラシアらしき標本も見つけた。ウィークスにしては母岩の色合いがおかしいし、アグノスタスも共産している。

ブリストリア各種、インソレンス以外にもブリストレンシス、フラジリス、モハベンシスなど揃っている。博物館か。メソナシス・フレモンティとされているが、明らかにブリストレンシスだなという標本も見つけた。ザカントイデス・グラバウイ、もう何もいうまい。巨大 (70mmほど) なアルベルテラ、保存も最良。巨大 (80mmほど) なユタスピス、母岩とのマッチがいい。一般種のモドシア・ティピカリスやアサフィスカスの美しい保存の標本もちらほら。当時は希少種に気を取られ、目に入っていなかっただろう。中には80mmのモドシアという、別種さながらのものも。その後とんと見かけぬ、オレノイデス・アボッティ、均整が取れていて、長く湾曲した棘が素晴らしい。

スファエロコリフェ (ロブスタ) 数個体、もうこんな機会は二度となし。巨大スパサカリメネ数個体、よくある頭胸部境界でのズレもない、欲しい。シュードメラ・バランディ、このオークションでしか見たことのない超希少種。巨大80mmサイズのプレスビィニレウス、凄い。オドントケファルス、何個体か出ているが、この保存状態の希少種をこの価格で買える機会はそうそうあるまい。それからシュードキベレ。顔が下を向いていない、こういう体勢の良いものは案外少ない。ペンシルバニアの超保存のクリプトリサス。そしてフラギスクタム、可愛い。

モロッコデボン紀のカリメネ、今もたまに市場に出るがこれは非常に保存状態がいい。今は高くなってしまったAmpyxの縦列標本も数体。前方に曲がった棘が特徴的なキンガスピス、この種にしてはかなりの良保存・サイズ。モロッコの巨大パラホマロノタス・カルブス、こんな保存状態の良い、完全に丸まった本種が欲しい。Newタイプの細身のアカントピゲ、今も市場に数は少なくも出回るが、ここまでプレパレーションの良いものは滅多になし。

メトポリカス各種、それからボエダスピス。流石に落札価格は高いが、それでも相当なお買い得。ニエズコウスキア (Nieszkowskia) 、保存はまずまずだが、やはりかっこいい。スファエロコリフェ・クラニウム、なんと素晴らしい & 羨ましい。

スコットランドのロンコドマス、保存もよく棘が全て残っており、しかもまさかの立体プレップ。黒い光沢が美しい、ノルウェー産標本各種、未だに価格は高いまま。

ナニコレと思うものもちらほら。例えば50mm近くもあるモロッコオルドビス紀のcyclopygeの類、複眼もあるように見えるが、こんな種いるのか。ネバダ州産とされる謎ニレウス、確かにフォルムはニレウスっぽい。11mmほどと小型、色味はまるでノルウェー産のように黒々としている。ロシア産の赤いイラエヌス (アタブス)、周囲の鉱物の関係で、こんな色になったのだろうか。カナダ産のコカスピス(Kochaspis sp.) という種、体表を覆うぶつぶつが凄い。ミズーリのブマスタス、ブマスタス・ベッケリ (Bumastus beckeri) という名がついている、初めて聞く名。

こんな感じの感想が湧いた。まだロシアの多くの種と親しくなっていないので、それらに慣れ親しんだ後は、また感想が更に変わるのだろうか。

しかし、これだけの規模とレベルの標本がひととこに集まっていた事が、改めて凄まじいと思う。同時に、放出され散逸してしまった事が惜しいという気持ちもある。放出の恩恵を少なからず受けた私が言うのもなんですが。標本の産出地域に多少の偏りはあるものの、この標本群で博物館を開いていたならば、世界でも有数の (三葉虫限定) 自然史博物館が出来ていたのだろう。

化石が大好きです。現在主に集めているのは三葉虫ですが、恐竜やアンモナイトを含め化石全般が好きです。これまで買い集めた、あるいは自分で採取した標本を紹介していきます。古生物の持つ魅力の一端でも伝える事ができれば幸いです。

http://blog.livedoor.jp/smjpr672/

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    ktr

    2023/06/24 - 編集済み

    MF祭り、私もご同様に当時はその凄さをじゅうぶん理解していませんでした。
    あれは三葉虫のみならず、恐竜とか、アンモライトなんかもおそろしいくらいに充実してましたね。
    マンモスの全身骨格なんていうのもありましたし……
    なんというか、一個の小博物館の崩壊を目の当りにした、という感じです。
    もう二度と経験することはないでしょうね。

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    • ミネラルショーや各種展示会でも言える事ですが、理解した上で改めて見ると全然印象が変わりますよね。

      アンモライトはあまり注目出来ていなかったのですが、恐竜もすごかったですね。
      恐竜関係は、カルカロドントサウルスだけ落札しましたが、貴重なものは全敗だった記憶があります。
      マンモスの全身骨格なんてものもありましたか‥。そんな目立つものなのに、何故か私の記憶にありません。

      博物館が収蔵品を売り払うとしたらあんな感じなのかもですね。
      死ぬまであんな機会はない気がします。

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    Trilobites

    2023/06/24 - 編集済み

    懐かしいですね。あの時もう2,000万位余裕資金があれば、メトポリカスやブリストリア、オレノイデス何かのコンプリートが出来たのに、なんて思う事もありましたが、そんな事をしたら多分今頃は収集を辞めてたと思いますね。結果的にMFは、総合で原価割れし存続できなくなりましたし、分散はしましたが、日本に多くの希少三葉虫が持ち込まれ、コレクターの裾野が広がったのは功績かなと思っています。

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    • どうもこんな昔の話をまたすいません。2000万ですか、恐ろしいですね笑
      でも確かにあの超割安オークションですら、欲しい種を全部コンプリートするにはそのくらいは必要でしたね。
      もしも、あの時にそれらを集めてしまったら満足して、終わりではないにせよ、10年ぐらいは新しい標本を入手する意欲が削がれてそうです。きっとギリギリの予算内で、なんとか入手したという記憶も、コレクションのスパイスになっているんだろうなと思います。あの放出で三葉虫にいよいよ本格的にハマった人は、私も含めて多いんだろうなと思いますね。

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