モノに宿るもの
公開日:2017/9/24
休日はレコードをかけお茶でも啜りながら朝をのんびり過ごすことが多い。
選曲はその時の天気や時間、気分に合わせて行うことが多いため、一枚のレコードを何度もリピートすることは少なく、手持ちのレコードから満遍なく聴くようにしている。
レコード数は定期的なレコード裁判で整理しているため、常時数百枚程度(購入した数はこの数倍以上)なものの、満遍なく聴いていても、殆どターンテーブルに上らないものもある。
レイ・チャールズ ″Listen″。
往年のスタンダードナンバーをスウィートなファルセットに乗せてカバーしたアルバム。
久々に手に取った。
このアルバムを手に入れたのは18年程前だっただろうか。
フリーマーケットの一角で、如何にも金に困っているような風体と冴えない表情をした男子大学生が着古した服や、さして読んでもなさそうな本とともに、数枚のレコードを並べていた。
レコードの値段はどれも100円だったが、そそられるものはなく、その場を去ろうとしたが、彼の膝元に隠すように置いてあるレコードを発見した。
暗闇に浮かび上がる男の翳を帯びたジャケットに目を奪われた。
″その、膝元のレコードも100円かな?ほしいんだけど。″
そう彼に告げると、彼は非常にばつの悪い表情で
″これは売り物じゃないんで…ただ、売り場に箔をつけるために持ってきただけなんです。これ、一番大事にしてるんで…ごめんなさい″
そういわれてしまったら、諦めるしかないな、と思い立ち去ろうとした時、
″でも、いま金がなくてこまってるんで、譲ります″
そういう彼の表情はちっとも弾んだものでなく、どんよりしていた。
当時社会人になりたてで、自分も金は無かったが、なんだか大人ぶってその場にあったレコードを全て併せて買いとった。売値の10倍程の値段で。
″絶対、大事にしてくださいね″
このレコードを手に取ると、あの時別れ際に、彼に言われた言葉を思い出す。
レコード裁判にかかることなく、このレコードは一生手元に残り続けるだろう。

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