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見知らぬ人でなく / 久保田早紀
1982年発表の5th.アルバム。 10曲中9曲が井上鑑の編曲。 全編にわたって都会に住む女性の孤独感や不安感を唄い、ハッピーなラブソングは皆無。 しかしながら、前作で感じられた心の振れのような不安定さは無くなり、彼女のヴォーカルは落ちついていて安心して聴ける。 前作発表後に地元のプロテスタント教会で洗礼を受けた事が、その理由であるのに間違いない。当時の彼女の精神状態は知る術もないが、今まで発表された作品を通して感じた私の印象が正しければ、幼少期に通った教会の日曜学校で慣れ親しんでいた神に救いを求めたのも、何となく納得できる。 以前にも書いたが、前作同様に都会に生きる女性の日常を描くのが彼女の望んだスタイルだとすれば、それは今回の作品で全うできたのか。 最後の曲「車窓」ではこう綴っている。 ♪旅に 出るなんて 思いも しなかった 見送ってばかり いた私だから♪ ここから更にまた新たな世界へと旅立つ事になる。 #アナログレコード
久保田早紀 Pops 見知らぬ人でなく VINYL 日本盤ただくん
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AIRMAIL SPECIAL / 久保田早紀
1981年発表の4th.アルバム。 編曲は萩田光雄に加え、佐藤準も4曲担当。 CM曲にもなった「オレンジ・エアメール・スペシャル」の ♪full of sunshine L.O.V.E.♪ に思わずイスからズリ落ちそうになった。何なんだ、この明るさは… 前作で幻想世界を旅する”久保田早紀”と決別した彼女が選んだのは、東京に生きる等身大の女性”久保田小百合”だったという事か。 しかし明るめの曲が並ぶA面に対してB面では一転、都会での孤独感を綴ったやや暗めの曲が続く。陽と陰の対比を狙ったのかも知れないが、どうも違和感は拭いきれない。 この時期のライヴを観る機会があったが、まだ方向性は完全には定まっていなかった感じだった。 このアルバムは、そんな心の迷いがそのまま出てしまったように思える。 注目すべきは1st.アルバム同様に冒頭にある「プロローグ」という曲。勿論異なる曲だが、これは新しい久保田早紀の始まりを宣言したもので、ここで彼女は ♪鏡に映った横顔は あなたの知らないもう一人の私 さよならを上手に言いたい♪ と歌った。 前作の「ビギニング」で示唆された新しい方向性の回答が、ここで明らかになった訳である。 ところで先に紹介した「天界」ジャケにサインを貰ったのは、このアルバム発表直後に行われた新宿ルイードでのライヴ後でだったが、この時は「異邦人」をなかなか演ろうとしなかった。 このアルバムからの曲が主に演奏されてた記憶があるが、アンコールが終わっても異邦人は演らず。客は皆が納得できずいつまでもアンコールを求めていたので、久保田早紀本人が出てきて「すみません、もう曲が無いんです。」と告げると、ファンの一人が「異邦人しかないでしょう!」と叫び会場は拍手の嵐。すると久保田はバンドメンバーと暫く打ち合わせをして、ついに演奏してくれた。打ち合わせも結構長い時間していたので、本当にセットリストには入っていなかったようだ。やはりこの曲に対しては当時はかなり複雑な感情を持っていたのではないだろうか。 いつまでも「異邦人」のイメージを求めるファンに対して、本人は早くそこから脱却したい。そんなギャップが彼女の心の底で葛藤となっていたのは間違いない。 そんな気持ちの揺れのようなものが、このアルバムからは感じられるようだ。 因みに、実際の久保田早紀は思っていたよりも随分小っちゃくて可愛らしかった🥰 オレンジ・エアメール・スペシャル https://youtu.be/USq-rN47X6w?si=CezweE59hhq7orN8 #アナログレコード
久保田早紀 Pops Airmail Special VINYL 日本盤ただくん
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SAUDADE / 久保田早紀
1980年発表の3rd.アルバム。 さて、これは問題作です。 レコードでのA面は彼女が好きというファドの故郷ポルトガルで現地ミュージシャンと共に録音され、B面は東京での録音。アレンジは全曲従来通り萩田光雄による。 そのA面では「異邦人」をファド風にアレンジしていたり、「アルファマの娘」「トマト売りの歌」などポルトガルをテーマにした彼女の自作曲はファドに対する彼女なりの敬意の表れだろうが、どこか違和感がある。 そしてB面の東京録音の曲では、一転して普通のポップスである。過去2枚の幻想的な作品とは雰囲気は異なり、現代の日常がテーマになっている。シルクロードのイメージが定着するのを恐れての急激な路線変更を図ったとしか思えない。 このアルバムは出来上がったキャラクターを一度リセットして、本来の22歳の女性に戻るために必要なステップだったのだと思う。 アナログレコードA面は好きなファドの地を訪れる事で今までの活動に一区切りを付けるつもりだったのだろうが、この違和感は何だろう。これが彼女がやりたかった音楽なのだろうか。 アナログレコードB面最初の曲は「サウダーデ」。ここで彼女は ♪この空に誘われるままに旅に出てみたの 今よみがえる遠い国のこころサウダーデ♪ とデビューからこのポルトガル録音までを振り返り、最後の曲名は「ビギニング」。 ♪旅立つ朝に見送りはいらないわ ありがとう 今は人生の歌もそっと口づさめる♪ と過去への決別と新しい方向性を示唆して終わる。 以前書いた通りもしこれが彼女からのメッセージだとすれば、これで過去2枚は作られたキャラクターだという事が明確になる。 おそらくその2枚は、「シルクロード」路線で売り出す方針と彼女の清楚なお嬢様風のルックスや声からレコード会社から押し付けられたイメージだったのだろう。萩田光雄のアレンジは素晴らしいが、これは必ずしも彼女の望んだスタイルではなく、にもかかわらず予想外の大ヒットでかなり悩んだに違いない。 本作最後の曲に「ビギニング」と名付けた事から、次回作こそが彼女が本来目指していたスタイルだと思う。異論のある方は多いだろうが、私はそう確信している。 異邦人 https://youtu.be/HNnJ2ikgpHw?si=8Rvtr4cQCgubqCwa #アナログレコード
久保田早紀 Pops Saudade VINYL 日本盤ただくん
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天界 / 久保田早紀(サイン入り)
1980年発表の2nd.アルバム。 詞やサウンドは前作の延長線上にあるが、幻想的なサウンドはやや抑えられ、バリエーションに富んだ音作りがされている。前作ではオリエンタルな世界が舞台だったのに対し、今回のテーマはタイトルにあるようにズバリ「天界」。 次作以降スタイルが変化していくが、最後の曲「最終ページ」にそれを暗示するヒントがあった。 ♪夢中で演じたドラマが 静かに終わった 青春の光と影のような すばらしい出会いと そして別れ♪ 当時は何気なく聴いていたが、これに気付いたのは随分経ってからだった。彼女のようなストーリー性の高い詞を書くソングライターの場合、必ず何処かにメッセージが隠されている。 そしてこの後、今までの久保田早紀から脱皮する為にポルトガルに旅立つ。 25時 https://youtu.be/knsHUGE0abU?si=UNQ1smtXXvPq0MZl #アナログレコード #サイン入り
久保田早紀 Pops 天界 VINYL 日本盤ただくん
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夢がたり / 久保田早紀
1979年発表の1st.アルバム。 説明不用の「異邦人」大ヒットを受けて発表されたこのアルバムは、両親の影響による異文化への憧れや、星空を観るのが好きという不思議大好き少女のキャラクターが見事に形作られている。 サウンド的には編曲の萩田光雄に依る所が大きいのだろうが、その神秘的なまでの耽美主義的世界観を見事に表現し、歌詞はまだ見ぬオリエンタル世界の幻想旅行記のようだ。 特に「白夜」は秀逸で、あのオーケストラアレンジが大好き。このアルバムの中でも聴き所の一つだろう。 しかし彼女にとっての最大の不幸は、まだ二十歳そこそこの女の子がいきなりデビューアルバムでこのような大傑作を作ってしまった事だ。 これがこの後の彼女の活動に大きな十字架となってのし掛かってしまう。 「朝」で ♪ここは何処、今はいつなの、私は誰…♪ と図らずもこれが架空のキャラクターであることを示唆しつつ、 ♪ちょっと振り向いてみただけの異邦人♪ である自分は、 ♪幼い日の壊れやすい記憶を指先でそっとたどって♪、 ♪ファドが低く流れていく♪ 中でギター弾きを探す。「白夜」では ♪星に訊ねてみたらあの人は帰る♪ と言われ、 ♪化石の街をあの人をさがして裸足でさまよう♪ 「夢飛行」や「幻想旅行」。「ナルシス」では ♪誰も知らない孤独な少女の初恋♪ を唄い、 ♪星空へからだを投げ出した♪ 「星空の少年」。 完璧なまでに自己完結の幻想世界を構築している。 異邦人 https://youtu.be/Gr-dsRFbOGs?si=EAf45w0Q1EUh7Blm #アナログレコード
久保田早紀 Pops 夢がたり VINYL 日本盤ただくん