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トーライト/トール石
黒褐色味を帯びたこの結晶は人類にトリウムの発見をもたらした鉱物です。 90番目の元素であるトリウムは1828年にスウェーデンの化学者イェンス・ヤコブ・ベルセリウスによりこの石から見出され、北欧に伝わる雷の神トールに因み命名されました。 そしてトリウムを含有していたこの鉱物には「トーライト」という名称が与えられます。 北欧神話随一気性が激しかったという戦神の名を冠するだけあって、この石にもまた荒々しい放射性が備わっています。 トーライトが含有するトリウム核種は、おそらく天然存在比99.98%かつ半減期140億年の『トリウム232』。 従ってこの石が発する放射線は、トリウム232がラジウム228へ壊変する際に放出されるα線。 そしてラジウム228から鉛208へ至る壊変過程で放出されるα線とβ線が多くを占めていると思われます。 放射性鉱物…そんな危なっかしい代物を一般人が所持していて大丈夫なのかと不安視される方もおられるかもしれません。 そこで簡単ではありますが以下のようなリスク評価をしてみました。 まずトリウム232が放つα線エネルギーには4.012MeVまたは3.950MeVの2パターンがありますが、これらは空気中を数cm進むことが精一杯な強度であるため、人間の皮膚に到達しても表面の不感層70μmを通過することができません。 よってα線による外部被ばくを考慮する必要はありません。 次にトリウム232の子孫核種が放っているβ線について。 β線は皮膚の中を数mm進むことができるもののやはり透過力が弱く、薄い金属板で遮蔽することができます。 従って常に肌身離さず装着しているならまだしも、ケースに入れ十分な離隔をとって保管しておく分にはβ線の影響もそこまで心配する必要はないと思います。 「触らぬ神に祟りなし」と言っていてはこの石と触れ合うことはできませんから、「時間」「距離」「遮蔽」の3つを心掛け楽しく安全に愛でて参りたいと思います。
鉱物標本 4.5~5 (Th,U)SiO₄ パキスタンテッツァライト
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ロージルコン/風信子石
ジルコンはジルコニウムを主成分とする宝石鉱物ですが,不純物としてウランやトリウムを含みます。 そのため放射線測定器に感応し,放射性崩壊によるα線やβ線の放出が活発に行われていることが判ります。 ウランおよびトリウムの崩壊により放出される放射線はなんとジルコン自身を侵し,さながら内部被曝を受けているかのように結晶構造を破壊します。 この現象をメタミクト化と呼び,すなわち原子配列が失われガラス同然の物質に変異してしまうのです。 こうして結晶構造が蝕まれたジルコンは光学特性が変化し,例えば屈折率は低下し,宝石として光り輝く力が失われてしまうのです。 さらに耐久性にも難が生じ,このように性質が低下したジルコンのことをロータイプと呼び区別されます。 思えば輝きが鈍ることは宝石として極めて致命的であり,このジルコンという鉱物には哀愁すら感じてしまいます。 ですが私はこの重大な欠陥を抱えた幸薄いロージルコン結晶が堪らなく好きです。 派手さとは無縁な,しかし光に透かすと見るものを引き込む暗緑色。 水磨作用により擦り切れているものの正方晶系らしさを残した結晶形。 イイです実に素敵です。 傷みを知る者にしか出せない味ってあると思うんですよね。
宝石 鉱物標本 7.5 2021年テッツァライト
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エカナイト/エカナ石
エカナイトは1953年にセイロン島で発見された暗緑褐色の放射性鉱物。 その発見者にしてスリランカの学者であったエカナヤク氏(F.L.D.Ekanayake)に因んで命名され、1961年に新種として認定されました。 組成中にトリウムと微量のウランを含有するケイ酸化合物で、往々にして多くの個体が「メタミクト化」を引き起こしているとされます。 メタミクト化とはウラン・トリウム等の放射性元素を含有するために起こるもので、それらの崩壊に際して放たれる放射線により、自己の結晶構造が破壊されてしまう現象です。 その照射を長期間にわたり受け続けた結晶には格子欠陥が生じ、硬度や屈折率、色味といった諸々の物性が低下してしまうのです。 エカナイトが主成分とするトリウム核種は、おそらく天然存在比99.98%かつ半減期140億年の『トリウム232』。 従ってこの石が発する放射線は、トリウム232がラジウム228へ壊変する際に放出されるα線。 そしてラジウム228から鉛208へ至る壊変過程で放出されるα線とβ線が多くを占めていると思われます。 試しにサーベイメータを近付けてみたところ忙しないクリック音とともにカウントが上昇。 測定の結果、計数率455cpm、線量率にして1.363μSv/hという数値が得られました。 一応は宝石として扱われている鉱物ですが如何せん色が地味すぎるため価格も人気も低く、一般的なジュエリー売場に並ぶことはまずありません。 そして何より放射性であることが災いしてか、こうして愛好者向けのカット石が少量ばかり流通するのみであります。 放射性鉱物…そんな危なっかしい代物を一般人が所持していて大丈夫なのかと不安視される方もおられるかもしれません。 そこで簡単ではありますが以下のようなリスク評価をしてみました。 まずトリウム232が放つα線エネルギーには4.012MeVまたは3.950MeVの2パターンがありますが、これらは空気中を数cm進むことが精一杯な強度であるため、人間の皮膚に到達しても表面の不感層70μmを通過することができません。 よってα線による外部被ばくを考慮する必要はありません。 次にトリウム232の子孫核種が放っているβ線について。 β線は皮膚の中を数mm進むことができるもののやはり透過力が弱く、薄い金属板で遮蔽することができます。 そこでアルミ板を隔てて計測すると、線量率は0.039μSv/hにまで低減されることが確認できました。 また、保管用のガラス蓋ケースに入れた状態で測定したところ0.189μSv/hに減少。 アルミほどではないにしろ、ガラスでも確かな低減効果が認められました。 従って常に肌身離さず装着しているならまだしもこのようにケースに入れ、更に十分な離隔をとって保管しておく分にはβ線の影響もそこまで心配する必要はないと思います。 強いて気を付けるべきことがあるとすれば、それは誤飲等による体内への取り込み。 このようなルースであれば飲み込んだとしても間違いなく体外に排出されますが、α線の真の恐ろしさは内部被ばくにあると言っても過言ではありませんのでこれだけは何を置いても避けなければなりません。 渋い色味ながら、ペンライトで照らすとペリドットのように笑み返してくれるこの石が私は大好きです。 なので今後も「時間」「距離」「遮蔽」の3つを心掛けて、楽しく安全に愛でて参りたいと思います。
宝石 鉱物標本 4.5~6 2012年テッツァライト