こんにちは、あゆとみです。
https://muuseo.com/stamp/items/218
1950年代の男子のヘアスタイルに最も影響を与えた人物を調べると、必ず登場するのがエルビス・プレスリーだ。
当時の彼の髪型といえばポンパドール。
前髪を額の上に高く上げて、ポマードやワックスで固める、あのスタイルだ。
https://www.youtube.com/watch?v=-XLYBkPTUM0&list=PLLfMENdUdVftMzLtPgl4kz5G2MPfiSSxb
ポンパドールという名前は、1745年にルイ15世の公妾としてその名を馳せたポンパドール侯爵夫人に由来する。
この夫人はとても興味深い女性だ。
貴族でこそなかったものの、資産家(銀行員)の家に生まれた彼女は、幼少期から秀でた美貌と才気に恵まれていた。
当時は占い師に子供の人生を占わせるというのが流行っており、母親が彼女を占わせたところ、「将来、王様に寵愛されます「と言われたとか。
これを受けて、母親は彼女に徹底的な英才教育を施した。例をあげると、プロの踊り子を読んで、踊りを習わせたり、シンガーを呼んで歌を習わせたり、とにかく各道のプロにありとあらゆることを習わせたのだという。
その甲斐あってか、彼女は学問、ダンス、歌、絵、なんでもござれのスーパーウーマンに成長して、やがて占いどうり!!にルイ15世に見初められることになる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ルイ15世_(フランス王)
ところで、ルイ15世は大変な好色家で、飽きっぽいことでも有名だったのだが、彼女はその引き出しの多さで、42歳でなくなるまで、彼を魅了し続けたという。
もっとも、23歳の時に王に出会って、男女の関係は29歳で解消されたらしいが、その後もよき友、相談役として、死ぬまで王様と良好な関係を築いていたらしい。
なにせ、自らの名前がヘアスタイルの型名になるくらいだから、当時の女性たちにって圧倒的なカリスマであり、おしゃれ番長的な存在であったことも想像できる。
この人のユニークなところは、妾であることにすっかり満足していたところだ。
正妻をどうにかして自分がその座に座ろうとか、一番の寵愛を受け続けるために他の女性を遠ざけようと策略を寝るとか、よくありがちな権力争いには興味なし。それどころか、正妻を敬い、正妻にも好かれ、王の好みの女性がいれば、むしろスカウトして王に紹介していたぐらいだという。
彼女のパッションは、権力争いではなく、もっと他のところ、例えば芸術にあったのだ。
彼女が趣味で習っていた銅版画が現存しているが、上手で驚かされる。
https://www.npr.org/2016/05/10/477369874/more-than-a-mistress-madame-de-pompadour-was-a-minister-of-the-arts
積極的に芸術家や思想家と交流し、彼らのパトロンとして惜しみなく財をつかったため、フランスの芸術文化の発展に大いに貢献したのだとか。中でも、この時期の建築、装飾美術、特に陶磁器の発展は彼女の力によるところが大きいとされている。
https://senoo-shouji.com/2015/11/26/王立の伝統と威厳を保つ幻の窯・セーヴル/
https://en.wikipedia.org/wiki/Madame_de_Pompadour
若く美しい外見とか、王の寵愛とか、移ろいやすいものに執着せず、一度の人生をハッピーに生きるために、物事に優先順位をつけて、自分の興味のあること、好きなことに集中して生きた、極めて聡明で理性的な女性だと言えるだろう。
現代ならこの人は妾にとどまる人ではなく、何にでもなれる可能性を秘めた人であったと思う。
https://www.amazon.co.jp/かの名はポンパドール-佐藤-賢一/dp/4418135103/ref=pd_lpo_sbs_74_t_1?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=8XR1S19JVFBR4V24GW4P
さて、ポンパドールヘアの話に戻るが、このヘアスタイルは、およそ1世紀半の時を経て、1890年に再び人気になる。
当時大人気だったアメリカのイラストレーター、チャールズ・ギブソンが理想として描いた女性達のヘアスタイルの一つがポンパドールだったのだ。彼の絵は社会現象となり、この絵の女性のようになりたいと思う女性達、総称ギブソン・ガールを生み出した。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ギブソン・ガール
https://www.youtube.com/watch?v=M_hKwPXYRBQ
イラストレーションが女性のトレンドセッターになったという点で、チャールズ・ギブソンは中原淳一を連想させる。
https://muuseo.com/etretat1967/items/1
このギブソン・ガール現象は、第一次世界大戦に入るまで続いたらしい。
戦時中は全く流行らなかったポンパドールの人気が再燃したのは、第二次世界大戦後の1940年代後半のことだった。
しかも、以前は女性間で流行っていた髪型が今度は男性達の間で人気になるのだ。
まずは戦争特需の恩恵を全く受けずに暮らしていた貧しい労働者階級のティーンエイジャーの中から、前髪をグリース(ポマードなどの脂)でポンパドールに整えたグリーサーズという集団が生まれた。
そして同じく労働者階級から台頭したエルビス・プレスリーが登場し、全米中の若者は彼に熱狂した。彼の人気によって、ポンパドールは貧富こもごも巻き込んでの全国的なフィーバーになったのだ。
https://muuseo.com/tomitaro/items/123#!page-2
それにしても、自分の死後にこんな事態になったなんてことを知ったら、さしものポンパドール夫人もびっくりすることだろう。
「え?私の髪型が、若者にそんなに人気に?キング・オブ・ロック?ロカビリー?サイコビリー?まあ、それってなんですの?」
なにせきらびやかな装飾美術が好きだったお方だ。
土臭いロックとは結びつかない感じもする。
ただ、新しいものを生み出す創造性も持っていた好奇心旺盛な彼女でもある。
案外、お気に召しそうだ。
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