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Buzzcocks “Love Bites”
またまた来ましたよー。皆んな大好き、Buzzcocksの登場です!今回は、彼等のセカンド・アルバム”Love Bites”を紹介します。Buzzcocksのバイオグラフィーについては、前回、書きましたので、そちらをご参照下さい。因みに、バンド名の意味は、「唸るチ◯ポ」ではなくて、「Buzzとはステージ上の興奮を、Cockとは北英国のスラングで友達を表すことから、『ステージ上で熱狂する友人達』」のことですから。なお、Buzzcocksは、前回書きましたが、ちょっとだけ補足をしておきます。3枚目のアルバム”A Different Kind of Tension”を出した後、4枚目のアルバムのデモテープを制作中の1981年に解散してしまいましたが、1988〜1989年に、EMIがBuzzcocksの初期のアルバムのバックカタログをCDフォーマットで再発したことや、BBCのJohn Peel Sessionでの録音盤やボックスセット”Product”をリリースしたことで、Buzzcocksは、オリジナル・メンバーで世界ツアーを行うことになりますが、ドラムのJohn Maherは、The SmithsのMike Joyceにツアー中だけ代わってもらってます。そうして、彼等はリユニオンし、4曲入りEP”Alive Tonight”を新録で出し、本格的に復活します。I.R.S. Recordsが、1991年にセルフ・コンピ・アルバム”Operator's Manual: Buzzcocks Best”を出したことから、米国でも彼等への関心が高まります。その後もBuzzcocksは盛んにツアーやリリースで活動を続けています。その中でも、2002年には、ShelleyとHoward Devotoは、1976年以来初めて、コラボ・アルバム”Buzzkunst”を制作し、リリースしていますが、内容は、エレクトロ・ミュージックとパンクを合わせたものだそうで、個人的には是非聴いてみたい作品ですね。前回と書きましたが、Vo/GのPete Shelleyが、2018年12月6日にエストニアのTallinの自宅で、心臓発作で他界してしまいます。その後をことを少し。Buzzcocksは、Shelleyに捧げると言う意味で、様々なゲストVoを入れて活動を続けましたが、彼等はバンドを続ける為に、Steve Diggle (G)が全てのVoを担当することとし、そう言った新体制でのアルバム”Sonics in the Soul”を2022年9月にリリースし、現在も活動中です。 本作品は、ファースト・アルバム”Another Music In A Different Kitchen”のリリース後、6ヶ月後にリリースされたと言うと、「即席アルバム』と思われるかもしれませんが、曲自体の構想が既にあって、かつファーストの評判も良かったことから、このスピード感で、本作品がリリースされたのだと思います。そう言う忙しない行程でリリースされた本作品ですが、1978年のアルバム・チャートは13位を獲得し、26日間の英国ツアー後、シングルカットされた”Ever Fallen in Love (With Someone You Shouldn't've)"は、1978年10月の英国チャートで12位にまで昇り、また12月にリリースしたシングル”Promises”も英国チャートで20位にまで達しています。また、シングルB面の”Lipstick”は、Magazineのデビュー・シングル”Shot By Both Sides"と同じコーラス・パートを使っていたのは良く知られた事実です。それで、セカンド・アルバムである本作品録音時のメンバーは、Pete Shelley (Vo, G, Kbd), Steve Diggle (G, Vo), John Maher (Drs), Steve Garvey (B)です。では、本作品の内容(A面6曲/B面5曲)について、各曲を紹介していきましょう。 ★A1 “Real World” (3:29)は、GのリフとBのリフがソリッドで、Shelleyの独特の声質のVoが良く映え、メロも切ないです(Pere Ubuの曲とは同名異曲)。 ★A2 “Ever Fallen In Love (With Someone You Shouldn't 've?)” (2:40)は、もう何も言うことの無い名曲中の名曲ですね。スピード感もソリッドな音そしてShelleyのVoの魅力が一杯詰まっています。 ★A3 “Operators Manual” (3:30)も、ゴタゴタしたリズム隊にGのコード弾きが乗り、サビでは3拍子になると言った、彼等にしては珍しいアレンジの曲です。 ★A4 “Nostalgia“ (2:51)は、典型的はBuzzcocksサウンドです。スピード感も申し分も無く、Shelleyも歌いまくっており、ちょっと甘酸っぱいメロにも興奮します。 ★A5 “Just Lust” (2:57)も、正にBuzzcocksそのものな曲で、更に早いテンポでのパンクな演奏で痺れますね。メロディ・ラインもエクセレント! ★A6 “Sixteen Again” (3:14)も、最早、金太郎飴なんですが、ソリッドでカミソリのような演奏に、歌いまくるShelleyのVo、もう堪りません!ちょっと甘酸っぱいところもミソです。これは1st収録曲”Sexteen”へのアンサーソングでしょうか? ★B1 “Walking Distance” (1:58)も、MaherのタイトなDrsとスピード感溢れるBとG、これだけでご飯3杯お代わりできます。因みにインスト曲です。 ★B2 “Love Is Lies” (3:10)は、意外にアコギを使った曲で、英国らしいアンサンブルが感じられ、Shelleyもしっとり気味に歌っています。隠れた名曲ですね。 ★B3 “Nothing Left” (4:23)では、ロータムのDrs後、堰を切ったように、始まるソリッドな演奏とShelleyのVoがビンビンにパンク心を刺激します。間奏のGソロもフリーキーでカッコ良いです。 ★B4 “E.S.P.” (4:39)も、2本のGを上手く使ったアレンジで、パンキッシュでソリッドな演奏に、同じリフを弾き続けるGが心地良く、素晴らしいです! ★B5 “Late For The Train” (5:51)では、リズムマシンのようなMaherのタイトかつ変則的Drsに、BとGの刻みがマッチしており、途中で、逆回転Gソロが挿入されるところもちょいと実験的なインスト曲で、グッときますね。そしてブレイクも! 個人的には、このアルバムも楽しめましたねぇ。元々は、私はセルフ・コンピ”Singles Going Steady”CDで、Buzzcocksを聴いていたのですが、そうすると、如何にもパンクな曲しか収められてはおらず、個々のアルバムに含まれているちょっと変わった毛色/実験的な曲を聴き逃してしまってました。例えば、A3のアレンジ、B1やB5のインスト曲やB2でのアコギを使った曲等も、ちゃんと聴いてこなかったのは後悔しました。それから、今回、聴いてみて思ったのは、John Maherのドラムの凄さです。勿論、Buzzcocksの魅力はそのソリッドなアンサンブルなんですが、とにかくそれを支えているMaherのDrsは凄いです。そんな発見をしたアルバムです。パンクのオリジネーターの諸バンドは、やはりひと癖あるので、パンクだからと馬鹿にせずに聴いてみて下さい❗️ A2 “Ever Fallen In Love (With Someone You Shouldn't 've?)” [live version] https://youtu.be/rQgjLkVzd8A?si=zy7Fq-kZms04QIYb [full album] https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_mYTm4eShV63LiQ11dQ2O-uzPqHlAa487E&si=yNIhQT747OrW-zYy #Buzzcocks #LoveBites #Fame #UnitedArtistsRecords #Reissue #SecondAlbum #Punk #PowerPop #1978年 #Manchester #Bisexuality #LoveSong #SolidSound #Vocal #PeteShelley #SteveDiggle #JohnMaher #SteveGarvey
Punk / Power Pop Fame (United Artists Records) 3800円Dr K2
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Felix Kubin “Teenage Tapes”
独実験ポップ界の天才Felix Kubin (フェリクス・クビン)の10代で宅録していた曲を集めたセルフ・コンピ・アルバム、その名も”Teenage Tapes”を紹介します。Felix Kubinのバイオグラフィーは、以前に書いたかもしれませんが、再度、生い立ちから紹介していきたいと思います。本名Felix Knothで、独Hamburg生まれの電子音楽家/作曲家/キュレーター/サウンド-ラジオ・アーティストで、自身のレーベルGagarin Recordsも運営しています。8歳の時からピアノと電子オルガンを習っており、1992-1996年にハンブルク応用科学大学にて、ドローイング/サウンド・インスタレーション/ヴィデオ/アニメーション映像について研究し、1995年にはDAAD研究資金を獲得し、蘭EnschedeのHogeschool voor de KunstenのArtEZメディア・アート学部に1年間留学しています。話しが前後しますが、彼は1981年、12歳の時に、シンセとオルガンとヴォイスとドラムマシンで、最初の曲を作っています。その後2年間で、4トラックMTRで色々試して、1983年には、Stefan Mohrと共に、Die Egozentrischen 2 (ディー・エゴツェントリッシェン・ツヴァイ)と言うバンドを始めている早熟な音楽少年でした。そんな天才少年を、Zick ZackのオーナーでオーガナイザーでもあるAlfred Hilsbergが見逃す訳もなく、Kubinを色んなライブイベントに招聘したりして、更に、彼のカセット作品と若干の新録も加えて、アルバム”The Tetchy Teenage Tapes of Felix Kubin 1981–1985" (この作品も素晴らしい!)をリリースします。そうして、1990年代になると、Kubinは、Klangkriekと言った自分のバンドで、ノイズを使った実験音楽を始めます。1992-1994年には、ダダ共産主義者グループLiedertafel Margot Honeckerのメンバーになり、1988年には、自身のレーベルGagarin Recordsを始めて、再びアヴァン・ポップ路線に回帰、その翌年には、パフォーマンスや新たなラジオ番組の形態及び室内楽と電子音楽の為の作曲を通して、自身の音楽の方向性を広めていきます。加えて、独や海外での多くの出版物やワークショップ及びレクチャーを行い、更に映像や演劇の為の音楽も作っています。Kubinは、Sónar, Wien Modern, Présences électronique, Ars Electronica等のフェスで100回以上のライブを行っており、更には、MoMA PS1, New Museum of Contemporary Art, Galerie nationale du Jeu de Paume等の美術館でもパフォーマンスをやっています。それで、2005年以降は、彼は現代実験音楽と関わる機会が多くなり、特に現代音楽のアンサンブルやコンサートホールでの演奏用音楽の作曲に招聘されるようになります。2010年には、Ensemble Intégralesとのコラボで、”Echohaus"と言う6つの別々の部屋で行われたヘッドフォンで聴くライブコンサートを指揮し、この作品はBerlinのMaerzMusik Festivalで初演されています。2013年と2015年には、Chromdioxidgedächtnis"とNDR das neue werkと言うラジオ番組シリーズの"Takt der Arbeit" の2曲の作曲を依頼され、2016年にも、Internationales Musikfest Hamburgで、自身の作品”Falling Still”も初演されています。また同年には、20台のKorg MS-20シンセの為のオケの曲”A Choir Of Wires”も作曲し、GentのLUCA School of Artsの学生に演奏させています。2019年には、ポーランド系ドラマーHubert ZemlerとのデュオCELを結成、またHamburgのEnsemble Resonanzとのコラボで、2曲作曲しています。2019年には、仏人映画監督Marie Losier が、Felix Kubinの日常を撮った映画"Felix in Wonderland"で、Locarno Film Festivalにおいて受賞しています。 と言う風に、Felix Kubinは早熟にして多作、しかもポップミュージックと現代音楽との行き来して、八面六臂の活動をしてきた訳ですが、実は、1990年代に来日もしていて、素晴らしいソロ・パフォーマンスを披露してくれています。そんな天才Felix Kubinの10代でつくつた曲のセルフ・コンピ・アルバムが、この”Teenage Tapes”で、Korg MS-20シンセを駆使した曲が選ばれており、12曲中6曲が未発表曲と言うレア・アイテムになっております。それでは、各曲を紹介していきましょう。 ★A1 “Japan Japan” (2:10)は、強烈なマシンビートにシンセと変調Voで応酬する曲で、シーケンスも複雑で、彼の代表曲にして良曲です。 ★A2 “Agitabo“ (2:50)は、マシンリズムと気が狂ったようなシーケンスを組んでおり、手弾きも含めて、これが10代の作る曲とは思えませんね。因みにインスト曲。 ★A3 “The Germans” (3:32)は、ホワイトノイズとキックでの四つ打ちリズムに、重低音からのベースラインとおどけたようなシンセのメロディが不釣り合いながらもマッチしています。これもインスト曲。 ★A4 “Melancholia” (3:52)は、ストリングス・シンセによるリズムとシンセの物悲しいメロディから成るインスト曲ですが、途中の曲調の転換も含めて構成が秀逸! ★A5 “Krematorien” (3:18)も、ホワイトノイズを使ったリズムと複雑なリズムマシンのリズムに、若かりしKubinのVoが乗る曲で、やはり、曲構成やシンセのユーモラスな使い方が超人レベルです。 ★A6 “Sonntagsspaziergang” (2:41)は、戯けたようなシーケンスとシンセのメロディとリズムマシンで、展開が早いインスト曲ですが、曲構成は素晴らしいです。 ★B1 “Calling My Brain” (1:40)は、怪しげなシーケンスとVoから成る曲で、展開も絶妙で、とにかくシンセの使い方が素晴らしい! ★B2 “Sie Träumen Alle” (5:20)も、忙しないシーケンスとリズムマシンに、キッチュなシンセとVoが乗る曲で、途中のブレイク等、よくアレンジ出来るなぁと感心!また、ユーモアも忘れていません。 ★B3 “Gelegenheitsexperiment 1” (2:01)は、シンセ音による音とエレクトーンのリズムボックスみたいなリズムでスイングするようなインスト曲なんですが、ジャジーさは皆無です。 ★B4 “Hans, Der Ist Nicht Artig” (3:14)は、多分TR-606のリズムと性急なシーケンスに、ツボを押さえたシンセが絡むインスト曲。やはり天才か! ★B5 “Qualität Des Staates” (3:18)も、性急なマシンリズムとシーケンスとVoに、ユーモラスなシンセから成る曲ですが、完全にピコってて、しかも録音技術も卓越しています。 ★B6 “Kunststoff Version” (2:26)も、また忙し過ぎるマシンリズムに、SE的シンセ音やヴォイス等が乗っかるインスト曲で、細かい所まで凝っていますね。 10代の頃のFelix Kubinは、サヴァン症候群ではないかと思わせる程、曲作りや構成、シンセの音作りや録音技術が、多動の中で渦巻いており、そこから出来た音楽は、多分他のNDWバンドよりも数十倍凄い完成度です❗️シンセとリズムマシンがあれば出来ると言うレベルを遥かに超えています。正しく、エレクトロ・ポップ界の天才児であると確信しました。なので、エレ・ポップ好きなリスナーさんで、未聴の方は、是非とも一聴されることをお勧めします❗️ハマるかもよー。それから、個人的には、Felix Kubinと平沢進がコラボしたら面白いと妄想しましたね。 A6 “Sonntagsspaziergang” https://youtu.be/J5jg9wLKVfg?si=47zftl0M7IC7StyG [full album] https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_lwDMvjLYcRGnyGslNQliiyKzvO7Xs42_U&si=oZdn2huN9_gbDX7K #FelixKubin #TeenageTapes #MinimalWave #SynthPop #Experimental #Electro #Synthesizers #DrumMachine #Vocal #KorgMS-20 #Organ #SelfCompilationAlbum #PreviouslyUnreleasedTracks
Neue Deutsche Welle (German New Wave) / Synth Pop Minimal Wave 3800円Dr K2
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Mario Scherrer “Squares And Crossings”
これも謎物件!こう言うのは買ってしまうんですよねー。性ですねー。業ですねー。と言う訳で、このMario Scherrer (マリオ・シェレァー)なるアーティストのことを少し調べてみました。スイスのアーティストで、ソロとしては、1986年にカセット作品を1本出していますが、同じ時期に、Nordland (ノールランド?)と言うバンドに参加して、Discogsでは、1985年〜1993年までリリースはしていたみたいです。それで、Scherrerによる本作品の制作経緯についてライナーノーツに記述がありましたので、それを和訳してみます。元々、Scherrerは、スイスRomanschornで生まれ、大学で音楽科学/音楽史とギターを学んでおり、その後、Der Tages-AnzeigerとBasler Zeitungで、音楽や文学についての記事を書いていたそうです。そんな彼から見たZürichは、次のようなものでした。1980年代に、スイスでは、市が無理矢理執行した文化補助金に対抗して、Züri brännt(ツゥーリ・ブレント)暴動が起こっており、その為、Zürichの若者は文化プログラムを解体されていたのです。そんな中で、特にPlatzspitz公園は、ヘロイン中毒者が集まるようになり、別名”Needle Park”とまで言われるようになります。それに対して、当局は、違法薬物の取引もその公園内であれば見て見ぬ振りをしてやり過ごそうとしますが、逆に欧州中の売人とヤク中が集まってきてしまい、Zürichの街には、犯罪とヤクのやり過ぎ、使用済み注射針と暴力と怒りが蔓延してしまいます。そんな中で、Scherrerは、1986年に本作品”Squares and Crossings (Discogsでは”The Guild”となっています)”をCalypso Now(Hotcha氏が始めたスイスのカセット・レーベルで250本弱カセット作品を出している)からリリースします。これは、スイスの音楽評論家達が執筆していたThe Guildと言う連載雑誌の発案でしたが、この動きに反応したのは、Scherrer 1人であったようで、直ぐにパンク・ムーブメントでかき消されます。ただ、その一方で、ニューウェーブ、ポップ、ミュージック・コンクレート、即興、詩作、アンビエント等もごちゃ混ぜになっていき、これには、ダダの本拠地であったCabaret Voltaireの存在も大きく関わっていたようです。なので、本作品は、正にスイス・サブカル・シーンの歴史の一部を切り取ったもの考えられていたようです。彼自身によると、本作品は「境界無き音楽 (Boundless Music)」と捉えているようです。 それで、先述のNordlandについても、もう少し触れておくと、Nordlandは、1985年にMario ScherrerとPriska Weber (後のScherrerの妻)とAnna Kellenbergerの3人によってZürichにて結成されたシンセウェーブ・バンドで、1986年に4曲入りのセルフタイトルEPを、翌年にはシングル”Just Keep It Away"を、1989年には初のフルレングズ・アルバム”Mistery"をリリースしています。因みに、その時のメンバーは、Mario Scherrer (Vo, B, Kbd, Drum Machine, Sampler), Priska Weber (Vo, G, Kbd, Drum Machine), Hermann Eugster (Drs)でした。何でもMontreux Jazzフェスとかにも出演して、Virgin Franceからも声を掛けられたこともあったようですが、それを蹴っています。因みに、Scherrerは、スイスでは、7年間クラシックギターの先生をしており、その後、1年間、スペインMadridのスイス人学校で音楽教師もやって、更にその後、イタリアに移住して、1993年に、NordlandとしてCD”Three Clouds”を自主リリースしています。現在、Scherrer/Weber夫妻はスイスに戻り、Scherrerは、スイスの片田舎Trogonの高校で、18年間、独逸文学の教師をやっており、時々、Ingalill名義でライブをやっているそうです。 それでは、漸く、本作品について紹介していきます。先述のように、Mario Scherrerにとっては、本作品は個人的にも、スイスのサブカルチャーの歴史的にも重要なものです。そして、ハッキリとクレジットされてはいませんが、どうも彼1人で制作したもののようです。彼の持っていた機材は、Tascam Portastudio 4-Track MTRと2チャンネルの古いオープンリール、HH Electronics社のエコー, Roland TR-808 Drum Machine, Fender Jazz Bass JX3P, Krog Classical Guitar 1978, Microphoneと簡単なテープレコーダーとのことで、これ以外にもシンセも持っていたようですが、詳細なクレジットは不明です。それでは各曲を紹介していきましょう。 ◼️LP1 ★A1 “Some Different Men”は、ミニマルなシーケンスとマシンリズムに乗って、SE的な電子音やシンセと共に、リバーブの効いたVoや口笛が聴取できる良質なシンセウェーブな曲です。 ★A2 “The Came Along”は、シンセによるSE音から徐々にパルス化して始まる曲で、LFOに合わせて、Bとリバーブの効いた語り調のVoが乗ってきます。ちょい実験的? ★A3 “An Old Familiar Cry”では、マシンリズムにBとポリシンセに加えて、バリトンVoで歌ってます。曲自体はしっとり系。ちょっとだけHuman Fleshっぽい? ★A4 “Sin-Claire”は、シーケンスに合わせて、可愛らしいシンセのメロとウニョウニョした電子音が飛び回るインスト小曲です。 ★B1 “Inside Of You”は、電子アンビエントな曲で、やや冷んやりした感触ですが、そこに呪文のような低音Voが忍び込んできます。 ★B2 “Occultus Introitus”は、多層的なシンセ音によるミニマルな低音とメロ的高音とから成る電子室内楽で、インスト曲です。 ★B3 “Is David On The Floor”は、始め多層的シンセから成るアンビエントですが、その内、凝ったマシンリズムと共にダルなVoとシンセ・メロとベースラインに転換する、ゆったりした曲です。 ★B4 “Way Off”は、最初からエコーVoと通奏低音から成る曲で、段々とポリシンセやシンセメロが立ち現れ、ボディブローのように効いてきます。 ◼️LP2 ★C1 “You And I”は、ちょっと凝った打ち込みリズムと持続シンセ音及びBがバックを務め、1人語り風Voが乗ってくる曲です。時に小鳥のようなシンセ音も! ★C2 “Kabbala”では、多層化した声のループと宇宙的シンセ音が混ざり合っていますが、その内、雷のようなシンセ音やLFO音に代わって終わります。 ★C3 “By The Square”も、リズムはあるものの、ポリシンセ音とシンセベース(?B?)に埋れるような呟きVoが密かに入ってきます。曲自体はミニマルですね。 ★D1 “Schürfung”は、暗めのトーンの波状シンセで始まり、そこに宇宙音が絡んでくるインスト曲です。 ★D2 “Crossing”は、またもや声のループが多層化していく実験的な曲で、女性Voや、更に男性Voもどんどん加わってきます。 ★D3 “Fragment III”も、録音速度を弄ったシンセ音(?)やグルグルした電子音が主体を占める実験的な曲で、うっすらとリズムパタンが混じっています。 ★D4 “Liturgica”は、深ーい、本当に深いアンビエントな曲です。思わず、良い心地になってしまいます。 ★D5 “Nothing To Explain”は、軽めのマシンリズムに合わせて、シンセ・ベースとポリシンセをバックに、やはり呟くような不明瞭なVoが乗る曲です。 ★D6 “Fashion Time”も、マシンリズムにポリシンセの持続音とベースラインをバックに、呪文風Voが乗る曲です。 ここまで聴いてきて、バイオグラフィーでのScherrerの当時の証言のようなヤサグレたものは殆ど感じず、寧ろ、アンビエント調の優しい音楽が主体を占めており、そのギャップに驚かされます。同じスイスのGranzoneとはまた違うスイス地下音楽界を垣間見れたのは貴重な体験でした。そんな訳で、暴力とヤク中の中からこんな優しい音楽が生まれたのは何故か?と考えさせられました❗️興味のある方は是非体験してみて下さい! D5 “Nothing To Explain” https://youtu.be/ovpFiyDVzII?si=o8x-aJSy6wRAqqaW [full albums] https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_lIRLx9nS80jbRKqQvhk0VUb3Ot3GO4I70&si=3LoRQIOF0iFbDkiG [オマケ: Nordland “Around The Circle's Ground”] https://youtu.be/v5wXeQpo1c8?si=2KG_iAEIbz_59IdL #MarioScherrer #SquaresAndCrossings #DeeDeesPicks #CalypsoNow #SoloAlbum #SelfCompilation #TheGuild #SwissSubcultureScene #DadaMovement #SynthWave #Ambient #Electro #Experimental#NordLand #Synthesizers #DrumMachine #Ingalill #PriskaWeber #ZüriBränntRiot
Electro Pop / Ambient Dee Dee's Picks 3800円Dr K2
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Nikolaus Utermöhlen “Karlsbad”
君は、Die Tödliche Doris (「ディー・テードリッヒェ・ドーリス」と発音、「致死量」と「ドリス(女の子名前)」を組み合わせた造語「致死量ドーリス」とも言われる。以下Dorisと表記)を知っているか? と始まる訳ですが、このDorisの創設者にしてメンバーだったのが、今回、ご紹介するNikolaus Utermöhlen (「ニコラウス・ウーテンメーレン」と発音)で、作品”Karlsbad”で、唯一のソロアルバムです。先ず、その前に、Dorisを含めたUtermöhlenのバイオグラフィーをご紹介しておきます。先ず、Dorisは、Wolfgang MüllerとNikolaus Utermöhlenによって、1980年に西Berlinで結成されたパフォーマンス&音楽集団で、1987年に解散しています。メンバーは当初、Chris Dreierもいましたが、Käthe Kruse, Dagmar Dimitroff, Tabea Blumenscheinも加わったりしますが、最終的には、Wolfgang MüllerとNikolaus UtermöhlenとKäthe Kruseのトリオに落ち着きます。しかしながら、元々は、ダダイスト集団Die Geniale Dilletanten (「天才的ディレタント」の意味で、スペルミスもありますが、それで良しとしてそのまま使われている)の一部と、彼等は、ニューウェーブとポスト・パンクの合体を目指して活動をしていた訳です。その中から、Dorisを始め、Einstürzende NeubautenやMalaria!と言うバンドが出来てきた訳です。ここら辺の経緯などは、Dorisのリーダー/著者/音楽家/アーティストであるWolfgang Müllerが、Merve出版から”Geniale Dilletanten”の本を書いていますので、参考にしてみて下さい。それで、Dorisは、どちらかと言うと、パフォーマンス・グループで、音楽自体はアヴァンギャルドなものが多いですが、中にはポップなものもあります。観客達は、次のパフォーマンスでは、Dorisがどうやって、彼等を期待を裏切ってくれるのか?を楽しみにしていたと言う噂がある程です。また、レコード作品も特異なものがあり、例えば “Chöre & Soli(「合唱とソロ」の意味)”は8枚の小さなソノシートと再生機械がセットとなって売られており、また、"Unser Debüt (「我々のデビュー」の意味)" と "Sechs (「第六作品」の意味)" は独立した作品であるのですが、同時に再生することによって別のアルバムとして成立するようになっており、これらは2枚組として日本盤もリリースされています。1988年11月に来日しており、その来日記念盤が、それに当たります。Utermöhlenについてですが、Dorisでは、彼はベース、クラリネット、アコーディオンを担当していましたが、それ以外にも、実験的なオープンリールの使用や壊れたカセットテープ或いはプリペアード楽器なども担当していました。彼は、音楽活動以外にも、視覚芸術にも11年間程携わってきており、彼の作品一覧として、Vice Versa社より"Hier zu sein ist so viel weiter Weg als hier zu sein - Bilder 1989 - 1995"と言う本が出版されています。1987年にDorisは解散しますが、その後、彼は絵を描いたり、映像作家Heinz Emigholzの映像作品の為に音楽を作ったりしています。そんな才能溢れるUtermöhlenですが、1996年5月17日に、38歳と言う若さで、AIDSにより他界しています。大体、これが、Utermöhlenの略歴となります。 それで、今回、ご紹介するUtermöhlenのソロアルバム”Karlsbad”ですが、Doris自身のレーベルから1989年にリリースされていますが、私のは再発盤で、2023年にベルギーのレーベルLa Scie Doréeから再発されたものです。ここでは、Utermöhlenは、Tania StöcklinとCyrille Rey-Coquaisの映画”Georgette Meunier”の為に作られた作品として、クラリネット、アコーディオン、パーカッション、ドラム、リコーダー、ヴァイオリン、ギター、オルガンを使ったアコースティックな音から成る奇妙なウィットを感じることができる23曲を作製・録音しています。当然、「まとも」な音楽ではありませんが、サントラと言うこともあって、「雰囲気」の音楽と言う感じで、まとめています。それでも、中には、如何にもな「楽曲」と呼べそうなものも含まれてはいます。しかし、何ともテクが無いのがモロ分かる程の演奏なんですが、そこが、また面白いと言うか、味があると言うか、如何にもDorisっぽいと言うかで、評価は分かれるでしよう。そんなUtermöhlenのソロアルバム、一度は聴いてみては如何ですか❗️きっと、今の世の中(現代)では無くなった音楽を聴くことが出来ますよ❗️再発してくれたベルギーのLa Scie Doréeに大大大感謝です!因みに、このレーベルはAf Ursin名義でも活躍しているTimo Van Luijkが2000年に設立したものです。なので、音響派のリスナーさんは要注目ですよ! N.Utermöhlen, Max Müller, 3xDimitroff “Das Leben des Sid Vicious” (1981) https://youtu.be/BZU4AVMjVsU Bandcampにフルアルバムがありましたので、URLを貼っておきます。 https://nikolausutermohlen.bandcamp.com/album/karlsbad #NikolausUtermöhlen #Karlsbad #LaScieDorée #DieTödlicheDorisSchallplatten #Reissue #DieTödlicheDoris #SoloAlbum #Soundtracks #FilmMusic #Avant-Pop #Experimental #Acoustic #Clarinet #Accordion #Percussions #Recorder #Violin #Guitar #Organ #Audio/VisualArtist #AIDS
Experimental / Avant-Pop / Soundtracks La Scie Dorée (Die Tödliche Doris Schallplatten) 3800円Dr K2