-
Himukalt “Dreaming Of A Dead Girl”
米国女性パワー・エレクトロニクスの筆頭、その名もHimukalt!その正体は、米国ネバダ州在住のEster Kärkkäinen女史です。彼女は、ヴォイス、エレクトロニクスだけでは無く、鋏を使った独特のコラージュ・アートワーク(xerox)もこなしており、欲望、性欲、敵意、怒り、マニア、抑鬱、血液、肉欲に関するサウンドを使うことで、肉体の複製や再生を試みることをコンセプトに表現活動をしています。今回は、彼女の本気度を知らしめることになった、パワ・エレ総本山の独Tesco Organisationからのリリース作品”Dreaming Of A Dead Girl”を紹介しましょう。Himukaltのバイオグラフィーについては、前回、書いた通りなので、そちらをご参照下さい。両面とも3曲ずつ収録されています。彼女のコンセプトがより一層剥き出しになった感がアルバム全体に漂ってますね。全体の第一印象は、押し殺したヴォイスが特徴的なパワー・エレクトロニクス作品です。それでは、各曲について紹介していきましょう。 A1 “Sehr Empfindlich”は、小声の囁きとゆったりと圧死させられるような電子音から成る曲ですが、その声が何故か「いけないこと(個人的には近親相姦を想起)」をしてしまった独白のように聴こえます。 A2 “The Chemical Lust”は、ひび割れた電子音とリズムが、もろパワ・エレのストロング・スタイルで、更に潰れ、歪んだ声が聴こえてます。 A3 “Hysterical”では、最初、通奏低音の上に乗る形で、女性の叫び声とか呻めき声のコラージュから始まります。そうしていると、テンポの速いキックとKärkkäinenの歪んだヴォイスによる告発が始まり、段々と切迫して、ドラマチックな展開になっています。 B1 “Suicidal Ideation”は、淡々としたリズムにぶ厚い電子音と抑制されたヴォイスが乗る「告白」系のパワ・エレです。淡々としている所に余計、悪意を感じます。 B2 “Naked, Soiled, Desperate”でも、ひび割れた持続電子音と淡々としたKärkkäinenの独白、そこに切れ込む電子ノイズ。題名通り、完璧にして名曲です! B3 “This Pig Is Crying Out”も、また緩やかな波状電子音と押し殺した独白系ヴォイスから成り、段々と彼女のヴォイスは電子音に覆い被されてしまい、後半にはハーシュな電子ノイズに蹂躙されてしまいます。 何となく、後味の悪いアルバムだと感じますが、これはEster KärkkäinenのHimukaltとしてのコンセプトがより明確になったことを意味するものと想像します。独白系のヴォイスは、抑制された「もの」(=秘密にせざるを得ない物事)を体現し、それ故に、この作品では必然であったのでしょう。それ故、危険なアルバムですので、聴く際は、注意して下さい‼️R18指定ですね! A3 “Hysterical“ https://youtu.be/o6mVJMAmac8?si=UxirK07oWPgRppQn [full album] https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_mhwpE74YaPbtE463Je_oY0OwR8M-2MSUE&si=qk9izIoRCVV0Ly2j [BandcampのURLも貼っておきます] https://himukalt.bandcamp.com/album/dreaming-of-a-dead-girl #Himukalt #DreamingOfADeadGirl #TescoOrganisation #PowerElectronics #Voice #13ThAlbum #Collage #Artwork #Female #SoloUnit #独白 #電子音 #EsterKärkkäinen
Power Electronics Tesco Organisation 不明Dr K2
-
Kraang “Uro: 1981-83”
皆さんはKraangのことを知っていますが? Kraangとは、本名John Russell Murphy (以下、John Marphyと表記)のことで、彼は、主に、豪州や英国で、SPKやThe Associatesのドラムを担当していた伝説のドラマー/パーカッショニストですが、惜しくも2015年に他界しています。もう少し、詳しく、彼のバイオグラフィーを紹介しておきます。生まれは1959年に豪州VictoriaのMelbourneで生まれており、父親がジャズ・ドラマーだったこともあって、幼少の頃から打楽器の練習はしていたようです。1977年に、Murphy (Drs)は、Adam Punk (本名Gavin Quinn: Vo), Jarryl Circus (本名Jarryl Wirth: G), Joy Relentless (本名Julie Jordan: B)と共にパンクバンドNewsを結成しており、1978年には シングル"Dirty Lies"等数枚のシングルを出していました。しかし、MurphyはNewsを脱退し、Ollie Olsen (Vo)のバンドWhirlywirldに加入します。MelbourneのバンドPrimitive Calculatorsに習って、このバンドもちょっとした実験音楽シーンで、インスト・バンドとして活動していましたが、Murphyは、ここでかなりアクティブに活動しています。例えば、1986年には、Richard Löwensteinが脚色した映画”Dogs in Space”のディレクターをやったりもしています。1980年に、MurphyとOlsenはLondonに移り、そこでHugo Klangを結成、1982年にシングル"Grand Life for Fools and Idiots"をリリースしますが、1984年にMurphyは豪州に帰り、1990年代初頭までに、そこで、Olsenと共に、色々なポストパンク・バンド(Orchestra of Skin and Bone, NO, Max Q)で演奏しています。一方、Murphyは、英国/豪州でも、インダストリアル系のバンドを含めて、the Associates, Dumb and the Ugly, Harpoon, Sooterkin Flesh, the Slub, SPK, Lustmord, Our Father of Serpents, Stress, Jaundiced Eye, the Wreckery, Box the Jesuit, Bushpig, Whitehouse, Death in June, Der Blutharsch, Sword Volcano Complex, Browning Mummery, Current 93, Blood Axis, Kraang, Sleeping Pictures, Scorpion Wind, Naevus, Nikolas Schreck, NON, Of the Wand & the Moonでも活躍しており、Nico, Zeena Schreck, The The, Gene Loves Jezebel, Shriekbackでもヘルプで参加しています。Murphy自身は、Shining Vril名義でソロで録音もしており、また、インダストリアル・トリオKnifeladderやフォーク・ノイズ・グループForesta Di Ferroや、インダストリアル・トリオLast Dominion Lostの一員としても活動しています。しかしながら、Murphyは、2015年10月11日に、56歳と言う若さで、Berlinで病死しています。ザッとJohn Murphy個人のバイオグラフィーはこのように成りますが、Kraangは、1980年終わり頃に活動開始したMurphyのソロプロジェクトで、”Krang Music”をカセット作品で出しています。一方、Kräng, Krang, Rkang, Kangと言った名称でもライブ活動も行っており、2007年頃、Till BrüggemannとAnnie Stubbsと一緒に演る時にはKrankとも名乗っていました。 それで、本作品の内容についてご紹介します。本作品Kraag名義で、1981-1983年の期間にリリースした作品からの選曲となっています。Kraagが有名になったのは、恐らく、SPKやWhitehouse, Lustmordなどのインダストリアルやパワ・エレの大物に参加していたからでしよう。それで、独Tesco Organisationが、Kraang名義のセルフ・コンピをリリースしたのだと思います。それで、本作品ですが、両面共2曲ずつ収録されていますが、どこかのコンピやアルバムに発表済みで、未発表音源ではないです。また、これらは、1981年1月〜1983年9月にLondonで録音された音源で、使っている機材については、EMS AKS Synthと安物の機材だけだそうです。では、各曲を紹介していきます。 A1 “Agony”は、金属類等を引き摺るような/摩擦するような強靭なノイズの塊から成る6分程の曲で、恐らく、ライブ録音ではないかと思われる荒々しさをバシバシ感じます。 A2 “Neurasthenia”も金属質なノイズとザラザラして歪んだ電子音がゴリ押しのように押し寄せてきます。時にラジオ音のようなチューニング音等も聴取可能です。それにしても、凄い熱量ですねー! B1 “Man Is Meat”は、腐食した電子音に、ヘロヘロのヴァイスが被る曲で、これ、聴き方によっては、所謂「物音系」ノイズを激しくしたようでもありますね。ここではハッキリとラジオ音(或いはテープ音)が聴き取れるので、余計に怪しさ満点ですね。タイトルを見ると、某アーティストは嫌悪するかも。 B2 “Uro”はフィードバックを多用したノイズ曲で、カットアップのようなテープ操作もしているようです。今までの3曲と違って、音質がマシになっており、その分、荒々しさは無いですが、音を操作すると言う行為がより鮮明になっており、単に一発録りではないのだなと感心します。しかしながら、これがシンセの音か⁈と思える程、凶悪な出来栄えになっています。 正直、私は、このLPがリリースされるまで、John MurphyもKraangのことも知りませんでした。多分、WhitehouseやSPKが当時はそれ程好きでは無かったことによるのかも知れません。本作品は、正直言って、音は悪いです。しかしながら、それを越えるだけの熱量を持ったノイズ・ミュージックがそこにはあります。なので、初期ノイズ、時にSPKなんか辺りに興味のあるリスナーさんは是非とも聴いて欲しい一枚です‼️ A2 “Neurasthenia” https://youtu.be/wZNfo02eICM “Uro” (1982) https://youtu.be/XhkPE1hsLB4 #Kraang #Uro1981-83 #TescoOrganisation #SelfCompilation #LimitedEditions #Remastering #CassetteWorks #JohnMurphy #SoloWork #Industrial #PowerElectronics #EMS-ASK #Synthesizer #CheapDevices
Industrial Tesco Organisation 不明Dr K2
-
Genocide Organ “Leichenlinie”
出ました!Genocide Organの不屈の名作、ファースト・アルバム”Leichenlinie”を紹介します。Genocide Organのバイオグラフィーは前回、書きましたので、そちらをご参照下さい。私の持っているのは、再発の再発で、Tesco Organisationの30周年記念としてリリースされたものです。ジャケの「屍体写真」と言い、裏ジャケに記された”Der Tod ist ein geradliniger Prozess (死とは当たり前のプロセスである)”との文言、インナーノーツに含まれている独Wehrmachtでの「戦死者の身分証(?)」のカード、全て完璧です。流石、独逸パワー・エレクトロニクスの代表作です。また、Jason Mantisによるリマスタリングに当たって、A6 “This Is No Lie”とB5 “Amazade Y Negri”の2曲が付け加えられています。それで内容なんですが、「これぞ、正しくパワー・エレクトロニクス」と言うべきもので、ビビ割れた低音電子音に、張り裂けんばかりの叫び声のようなヴォーカル、更には、曲によっては不明瞭なリズムマシンとシーケンサー或いはナレーションのテープ音も使用されており、全ての音が歪んでいます。既に、ファースト・アルバムにて、Genocide Organの音が確立していた感があります。なお、A面には6曲、B面には5曲、収録されていますが、これらの曲は、1987年と1989年に、観客無しで、Strebelwerk /Mannheimでライブ録音(要するに一発録り)されていると言う訳です。それ故、テンションの高さは申し分無いです。私は、1990年代に彼等が初来日した時のライブ・パフォーマンスを観ていますが、4人のメンバーは皆、フェイスマスクを被り、軍服姿で、Korgのシンセやメタル・ジャンクなどを演奏し、Wilhelmがアジテーション・ヴォイスを放射、バックには戦争や犯罪などの映像が流れると言うトータルに「本場のパワ・エレ」を初めて体感しました。やはり、独逸人らしい重く陰鬱な空気に支配された「硬い音楽」ですね。本アルバムも同様の音楽なのですが、個人的に特に気に入っているのは、不明瞭なリズムと悲鳴のような電子音それにメタル・ジャンクの乱打音が入り混じり、雑然としたB1 “Stalins Orgeln”や、全ての要素に力強い音を体現しているB5 “Amazade Y Negri”なんかですね。最後に、この時のメンバーは、D.A.X.ことRickey Kramer, Doc M. Riot, Roland FreislerことWalter Adam von Dewitz, Wilhelm Herich, P. Eckertの5人で、D.A.X.以外の4人が全員ヴォーカルも担当しています。また、D.A.X.とWilhelm Herichの2人が曲を作っているようです。そんな、独パワ・エレ界の帝王Genocide Organの最初のアルバムを体験することは、彼等の音楽やその向こうに見え隠れする政治的態度を読み解く上で、重要だと思われますので、是非、この機会に聴いてみて下さい❗️ B1 “Stalins Orgeln” https://youtu.be/VnAL2IPWtb0 [full album] https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_n8E6acd1cPHP77GXUjrJLaM6Mo7hYT19I #GenocideOrgan #Leichenlinie #TescoOrganisation #Reissue #Remastering #30thAnniversaryEdition #PowerElectronics #Electronics #Agitation #Vocal #MetalJunks #Tapes #German #FirstAlbum #1989年-2019年 #D.A.X. #DocM.Riot #RolandFreisler #WilhelmHerich #P.Eckert
Power Electronics / Industrial Tesco Organisation 不明Dr K2
-
Throbbing Gristle “Dimensia In Excelsis (Live In L.A. 22.5.1981)”
漸く辿り着きました。インダストリアルの始祖TGことThrobbing Gristle(「脈打つ男根」の意)の登場です。しかもあのパワ・エレの総本山Tesco Organisationからです。でもこれはTG側からはアン・オフィシャル扱い、つまりブート扱いです。TGのバイオグラフィーは長いですし、私が語るのも憚られますが、少しだけ紹介しておきます。1975年に、パフォーマンス集団COUM Transmissionを母体に、Genesis P-Orridge (Vo, B, violin, G), Cosey Fanni Tutti (G, Cornet, Vo, Tapes) Peter “Sleezy” Christopherson (Tapes, Sampler, Cornet, Electronics) 及びChris Carter (Synth, Tapes, Electronics, Programming) の4人で、Kingston upon Hullで結成されました。もう少し正確に言うと、1976年10月に「売春展」と名付けられたCOUMの展覧会(公費を使って、Coseyの使用済みタンポンを陳列した問題展)をやった時が、正確なデビューと成ります。そして1978年にファーストシングル "United/Zyklon B Zombie"とファーストアルバム“The Second Annual Report”を1977年に自身のレーベルIndustrial Recordsよりリリースしました(その前に”The Best of …vol.1”と”The Best of …vol.2”と言うカセット作品を出しています)。その歌詞や内容は、神秘主義、極端な政治的思考、セクシャリティ、社会の暗部や地下組織/文化及び言語の象徴的操作などで埋め尽くされていました。あと、音楽的にも、ドラムレスで、しかもテープ操作だけ担当するメンバーがいるなどかなり変わっており、また”24 Hours”と言う26本組みカセットからなる途方もない限定50部・アタッシュケース入りの作品も1982年に出しています(この後に ”TG24”なる24枚組みCDを2002年にMuteの傘下のGray Areaから出しています)。1981年に一度、解散しますが、2004年に復活しましたが、Sleezyが2010年11月24日に亡くなったことで、その年をもってTGを終了し、また、復活に際して、肉体改造を行っていたGenesisも2020年3月14日に亡くなってしまいました。これで半分のメンバーがいなくなり、TGは永遠に封印されてしまいました。今回はバイオグラフィーはここまでにしておきます。 本作品は、TGが初めてアメリカで行ったライブ音源からなります。そのライブは、L.A.のVeterans Auditriumで、1981年5月22日で行なわれました。マスタリングの所為か音は生々しくて、怪しげな雰囲気がプンプンしますね。個人的にはTGはライブ音源の方が良いと思っているので、このリリースはナイスですね。正しく「TG、アメリカを占拠する」です。流石、Tesco Org.ですね、このアメリカ初ライブに目をつけたのは。正しくカオスを体現しています。インダストリアルからパワ・エレが分派してきた訳ですから、パワ・エレの始祖はインダストリアルになりますし、そのまた始祖はTGになると言うことでしょう。そんな生々しくもカオスなライブ音源を聴くことをお勧めします。 https://youtu.be/iw4tgz_lM-k #ThrobbingGristle #DemensiaInExcelsis #Live #LA #米国初ライブ #Industrial #TescoOrganisation
Industrial Tesco Organisation 不明Dr K2