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昭和コミカルムード歌謡「おさけ」。和製「テキーラ」ジョージ山下とドライ・ボーンズ
なんとかかんとか言いながら/みんな呑んでる酔っている/人間様の好きな水/素晴らしい水だよ/おーさーけ/キチガイ水だよ/オーサーケ と1966年のドライ・ボーンズは歌うわけです。古今東西に蔓延するウンザリするようなアルコール讃歌か、吐き気がするほど多いですね、その手の楽曲は。しかし面白い、実に人懐っこく、ポップかつキャッチー、ちょっと忘れがたいほどの大衆性といいましょうか、ヒットしても良かったんじゃないですかねーこれは。他のコーラスグループも唄っていますが。世界的スタンダード「テキーラ」をベースに、それを日本に置き換えただけの発想で作られたのは明白、一聴して大笑いですが、そこがまた愛おしい。とにかく人生において、スキさえあればアルコールにありつきたいと願う健気な酔漢たちを歓喜さすのに十分な非常に愉しい一曲です。
ディープ歌謡 7" Single コロムビア揖斐是方
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『他人の穴の中で』付録『俺より他に神はなし』唄・平岡正明
クシシュトフ・キェシロフスキーの「デカローグ」の1は「俺より他に神はなし」という十戒のひとつを寓話化し、AI文明を妄信する者が神に罰せられる末路を描いていましたが、この一神教絶対宣言である暴虐の決定論が小気味良いですね。日本人の汎神論とは仲良くできないかな、やっぱりな。 そのフレーズをそのままタイトルとし作詞をしたのが、日蓮宗僧侶の上杉清文。歌うは革命三羽烏の一人、平岡正明その人。 私事にわたり恐縮ですがまさに人生を変えた曲のひとつです。この曲の歌詞の一部を読んだのは「ニューミュージックマガジン」誌の書評だったか、衝撃でした。1981年頃の話です。 風はひとりで吹きゃしねえ/風を吹かせる奴がいる/とかくこの世は駆け引きで/正義が勝つとは限らねえ/ひとが泣こうがくたばろうが/俺がよければすべてよし/俺より他に神はなし このソノシートを目当てに「他人の穴の中で」を買い、歌詞カードを手に入れ、我流でこの曲に触発された「俺が居る」を作曲し録音、三上寛がレパートリーとしてアルバム化し、それから幾星霜を経て今の自分に至るわけで、遡ればすべて平岡氏の歌うこの曲に尽きるのです。 非常にチープな伴奏にのせて歌われるこの曲ですが、まさに耳で聴く平岡節そのもの。氏の硬質な文体がもつハードボイルドかつニヒリスティックな肌合いをそのまま歌にしたような歌詞。これは野坂昭如楽曲における桜井順の、ドアーズにおけるロービィ・クリューガーの功績に等しい。歌い手と作詞者の見事な一体化。 かつて「俺が居る」の文底には反天皇制があると評した人もいましたが、その源流は当然この一曲に還元されていきます。個の持つ絶対性。それをこの日本人社会で声高に歌う行為のラジカリストぶり、とでもいいましょうか。 三上バージョンがリリースされる前に、平岡氏本人に認知された曲とはいえ所詮「俺が居る」は氏の書名の通り「他人の穴の中で」生まれた傀儡のイカサマ曲であります。
ディープ歌謡 ソノシート 書籍 秀英書房揖斐是方
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馬鹿ねc/w 弱い女じゃありません/西村じゅん マリア四郎・作詞 フェロモン・ディープ歌謡の奇盤
昭和ディープ歌謡のおぞましき妖花、マリア四郎。天草四郎だか転びばてれんだかしらんけど、そんなイメージ・キャラクターでとりあえず頑張りました。しかしながら不発。レコード会社を移籍したのちは「みやざきみきお」 名義で「シクラメン・ブルース」を。史上初の全裸歌手としてジャケットにもその姿が。それでも不発。みやざきみきおを調べる過程で彼が作詞したこの人のこのレコードを知ることとなりました。1971年発売のディープ歌謡、作詞がみやざき、作曲はあの「赤く赤くハートが、ああーうずくのさー」の新井靖夫。なんでも、この西村じゅんという人物は「ショッキング・ヴォイス 歌謡界に登場」というキャッチコピーでうりだされたそう。針を降ろしてみたら驚きました、どう聴いても「男性」の声。回転数をまちがえたかと。こんな声の女性などおらん。ということは当然、実は「男」説も囁かれるはずで、タモリが紹介していた扇ひろ子を思いだしたり笑、どっちなんだ本当は。なんにしても極めて珍しい声質の異色歌手であることは間違いありません。ビーメンが「弱い女じゃありません」といってるので、やっぱり男なのか・・・なお、みやざき氏の作詞はたいした巧くないですね。
ディープ歌謡 7" Single コロムビア揖斐是方
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あのゴム紐を、覚えていますか? ブルドッグ/フォー・リーブス
ゴム紐を己の演芸に使った成功例としては、まず口にくわえるユートピア、次に彼らのこの曲でのパフォーマンスでしょう。動画検索で改めて見ても、これは奇天烈を極めます。喜多川御大から「ユーたち、ゴムを使いなさい」とか言われたらしいのですが、それにしても。当時は全く笑わなかった、が、45年が経過して、なんなんだこれはと。確かに歌っている最中の演出・小道具としていろんな試みがあったのは事実です昭和歌謡では。しかし、腰に結わえたゴム紐を曲の途中から使いだし、ビヨーンビヨーンと伸ばしたり引っ張ったりするのです。困りましたねこれには。しかも「黙れ うるさいぞお前ら 見ろ 俺の目を」と歌いながら「寄るな 女に用はない 信じろこの俺を」と続く。そして決め台詞が有名な「ニッチもサッチもどうにもブルドッグ」ってもう何が何だか大笑いの錯乱状態ではありませんか。しかし、四人のコスチュームやサディスティックな歌詞から察すると、ブルドッグとは男色相手の、ゴム紐は鞭の暗喩とも解釈でき、実はこれこそジャニー喜多川氏のフェイバリットだったのではと勘繰ることもできます。すでに二人が鬼籍に入りいまや「トゥー・リーブス・レフト」の寂寥。昭和のワイルドな滑稽さ炸裂の怪曲です。
ディープ歌謡 7" Single CBS SONY 二束三文にも満たない揖斐是方
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三島由紀夫への弔魂歌『憂国』伊藤久男・歌 児玉誉士夫・作詞 古賀政男・作曲
「ニッポンはこれでいいのかーっ!」という命掛けの絶叫に、国民は「いいですよ別に」と笑顔で答えたに等しい、あのお馴染みの事件から半世紀余、しかし三島由紀夫の問いかけは今日いよいよ重く響き渡ります。このレコードは事件から一年後、1971年11月に発売された三島と森田への弔いの歌。歌うは「イヨマンテの夜」の、あの伊藤久男です。作曲が古賀政男ですから、これもれっきとした古賀メロディーといえるでしょう。しかしこの内容ですから、あまり表立ったところでは顧みられていないのかもしれませんが、その辺の事情はどうなんでしょうかね。「筆に尽くせぬ憂国を 剣に替えて叫びたり」と作詞したのは、自称CIAエージェントにして任侠右翼の巨魁、もちろん代表作は「ロッキード事件」の、あの児玉誉士夫。ただ、「剣に替えて」じゃなくて「刃に替えて」にしたほうがよかったのではないでしょうか。ジャケットには7ページにわたって、B面の曲ともどもこの曲の舞のための振り付け写真が。三島由紀夫事件に関して、こうした形でのシンパシーを表現した作品は、他にあまりないのではと思います。その意味では極めて貴重な楽曲といえるでしょう。#三島由紀夫
ディープ歌謡 7" Single コロムビア揖斐是方
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「幻のブルース」 フラワー・ショウ 華ばら 藤本卓也 泥臭い
何事においても、濃くて泥臭く古臭くてベタな表現が影を潜めてから、この国はつまらなくなったとお嘆きの方はいらっしゃいませんでしょうか。作曲家・藤本卓也などはまさしく歌謡界でそのスジの権化、矢吹健「あなたのブルース」を筆頭に昭和史を彩る、所謂ディープ歌謡の巨匠。夜のワーグナーだかドビュッシーだか知らんけど。ローオン・レーベルからのリリースなので作風はコテコテのナニワサウンド、あの「フラワーショウ」の華ばらがワイルドかつパンチのある歌唱を聴かせる「まぼろしのブルース」です。そういえば「まぼろし」などと言う言葉はとっくに使われなくなりました。昔は「まぼろし探偵」「幻の湖」「まぼろしの世界」「幻の10年」などいろいろありましたが。イロモノの芸人さんがレコードを出してそれがヒットすることが昔はよくありました。中にはとても巧い人もいて、すっかりその気になって笑いをないがしろにした人もいましたが笑。この楽曲は勝彩也や佐久間浩二などのバージョンも勿論有名ですが、アレンジの巧さも相まってこの盤が一番迫力に富んでいます。
ディープ歌謡 7" Single ローオン揖斐是方