レコードの物品税 その1

初版 2023/03/04 05:33

改訂 2023/03/08 16:38

個別物品税

 背景・経緯

 個別物品税(以下物品税と呼ぶ)とは、かつて特定の商品やサービスに課税されていた間接税のひとつで、荒っぽく括ってしまえば「贅沢品税」と言うべきものです。1937年の北支事件特別税に含まれていた「物品特別税」が起源となり、1940年に制定されました。レコードは当初から課税品に指定されていましたが、他にも自動車、宝石類、ゴルフ用品等が含まれていました。

 しかし、戦後になると所得水準が向上し、それに伴って価値観も多様化して行きます。何をもって贅沢品と考えるのかは難しくなって来ますし、新たな製品やサービスの開発に法が追いつかず、「○○が課税対象なのに△△が非課税なのはおかしい」といった不公平感も生まれてくるようになります。最終的には1989年4月1日の消費税法の施行に伴い、物品税は廃止されました。

レコードに対する物品税とその変遷

 レコードに対する物品税は、レコード・メーカーの蔵出し価格に税率を掛けて計算されていました。直接的な納付主体はメーカーでしたが、税額は定価に転嫁されていたので、実際はレコードの購入者が負担していたことになります。

 以下にレコードに対する物品税率の変遷を掲載します。(小さくて見づらいと思いますので、ダウンロードするか新規タブで開くなどしていただければ、と思います)

 一目で判るのが、戦中戦後の目まぐるしい税率の変化です。20%からスタートした税率はピーク時の1944年には120%にも達しています。そもそも、ゆっくりレコード音楽を楽しめるような時代ではなかったと思いますが、それにしても税額が商品価格を上回っていたというのも凄まじいものがあります。

 さすがに戦後は急速に下降し、最終的には15%で廃止となります。しかし、何度か改正された消費税率が今現在でも10%であることを考えれば、この15%というのはかなり高かったと言って良いと思います。

 「非課税物品」というのは課税対象外になるものを定義しています。「6インチ以下の紙製のもの」というのはちょっとピンと来ませんが、そういうものもあったのでしょう。その後、「童謡」「学校の教材」などが「さすがにこれは贅沢品ではないでしょう」ということで対象外になります。「珠算学習用のレコード」というのが、妙に具体的で面白いですね。「ご破算で願いましては、45円ナーリ……」というアレがレコードになっていたわけです。ただ、この定義もその後「およげたいやきくん」は童謡か否か、といった議論も誘発することになります。
因みに「およげたいやきくん」は童謡認定で非課税、「黒ネコのタンゴ」は課税対象でした。

消費税の導入とレコードやCDの価格

 前述の通り、消費税法の施行によって物品税は廃止となります。消費税の導入により、一般の商品は3%の消費税分価格が上昇しました。レコードやCDにも当然消費税は課税されましたが、取り除かれる物品税の方が大きかったため、定価は下がることになりました。例えば、当時主流だった定価¥3,200のCDは¥3,008(消費税込み)になりました。消費税導入後に発売される商品は、始めから定価¥3,008と印刷すればいいとして、店頭在庫品は問題になります。そこで各メーカーが自社の発売する商品の全価格帯について、新価格シールを作成し、配布しました。関係者はひたすら在庫品にシールを貼りまくったのです。それでも「○○○円シールが足らないぞ」とか色々問題も生じ、とにかく最後は販売の現場で「換算表」(価格の新旧対比表)で対応となりました。が、その換算表も全メーカー共通にはなっておらず(旧価格は同じでも、新価格はメーカーによって違う等)、結構な混乱や間違いも発生したものと思います。

 また、価格が下がるということは、在庫品を抱える者(小売店、卸店、メーカー)にとっては、手持ち品の資産価値が一夜にして減少することを意味します。そこで、綿密な棚卸を行って申請することにより、過去に納付した物品税が戻されました。(戻税=れいぜい)

国内盤アナログ・レコード(1950年代〜1960年代〜1970年頃)のデータ・ベース(リスト)を作成しています。
(国内盤レコードDB)
ジャンルはオール・ジャンルで、フォーマットはExcel ファイル(xlsx)です。
現在仮開示しているのは、
日本グラモフォン
東芝
日蓄工業
日本ウエストミンスター
日本ディスク(1950年代)
日本マーキュリー(1950年代)
ユニバーサル・レコード(1950年代)
日本コロムビア
キング・レコード
です。

今後、随時追加していく予定ですが、時間はかかります。

ダウンロードして自由に使って頂いて結構ですが、同時に開示している説明ファイル(ワード文書 or リッチ・テキスト)を
よくお読みになってください。また、現段階ではあくまでも仮開示であり、完成形ではないことにもご留意ください。

https://1drv.ms/u/s!ApINowI3ybkacrP3M_GV7wSe6j0?e=67lDy2

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    woodstein

    2023/03/08 - 編集済み

     このシリーズ、懐かしさもあって、毎回興味深く読ませていただいています。ただ、この回に関して、少し腑に落ちない点がありました。ご説明どおりならば、1989年4月の消費税導入前のCDの物品税は15%であったことになります。ですが、消費税導入に伴う販売価格の変更は、私が記憶しているところでは、
    ・3,200円→3,008円(本体価格2,920円)
    ・2,800円→2,627円(本体価格2,550円)
    ・2,500円→2,348円(本体価格2,280円)
    ・2,000円→1,875円(本体価格1,820円)
     旧価格を新価格の本体価格で割ると概ね1.1、すなわち物品税は10%であったことになります。
    ・2,920円×1.1=3,212円→端数を切り捨てて3,200円
    ・2,550円×1.1=2,805円→端数を切り捨てて2,800円
    ・2,280円×1.1=2,508円→端数を切り捨てて2,500円
    ・1,820円×1.1=2,002円→端数を切り捨てて2,000円
    という感じですかね。ということで、些末なことですが、少し気になったのでコメントさせていただきました。

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      chirolin_band

      2023/03/08 - 編集済み

      woodsteinさん、コメントありがどうございます。これは決して些末なことではなく、大事なところですので、新価格の計算式をきちんとご説明致します。

      廃止時の物品税率は15%で間違いありません。ポイントは、本文にも書きましたが、定価ではなく「メーカーの『蔵出し価格』に対してかかる」ということです。
      旧定価 ¥3,200 の場合を例とした、旧価格⇒新価格の導き出し方です。

      a.旧定価: ¥3,200
      b.物品税込み蔵出し価格(67%): ¥2,144
        ここに15%の物品税がONされているわけなので、これを取り除きます。
      c.物品税抜き蔵出し価格(b×100÷115):¥1,864
      d.物品税額(b−c):¥280
      e.新価格(消費税抜き)(a−d):¥2,920
      f.新価格(消費税込み)(e×1.03):¥3,008

      これでご納得いただけますでしょうか?

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      woodstein

      2023/03/08

       丁寧な御回答を頂き有難うございました。要するに、レコード・CD販売店のマージンが商品価格の概ね3分の1ぐらいで、それが介在すると、結果として、外形上は私が前回のコメントで申し上げたようなことになってしまう、と解釈しました。まあ、こちらは所詮単なるカスタマーですから表面的なことしかわからなかったわけで、少し空騒ぎしてしまい、chirolin_bandさんに余計な手間を取らせてしまいました。申し訳ありませんでした。

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