中期オルドビス紀、謎の厚殻緩巻きタルフィセラス

初版 2024/03/10 11:35

改訂 2024/03/11 20:05

前置き

今回のターゲットはジャイロコニック(緩巻き)ながら、厚みのある(高さに対して横幅の成長倍率が異様に高い)珍しいノーチロイド。

腹側寄りを通る連室細管が確認できる。

・緩巻き

・厚みのある独特の螺管形状

と合わせて類似形態の属を探っていく。

Charactoceras sp.

https://muuseo.com/Nautil_Works/items/51

Arato510

写真:Charactoceras sp.として販売されていた購入標本

情報の不整合

先ず、Charactocerasは後期オルドビス紀の属とされており時代のズレがある。
そして、形態の違い。
成長倍率の高いエボリュート(若殻に沿った巻き)した螺管が特徴。

今回、入手した標本はジャイロコーン(緩ま巻き螺管)。
重なる要素が一つもない。

引用:“Treatise on Invertebrate Paleontology Part K, Mollusca 3, Complete Volume”

別の資料では僅かに緩まきの属を発見。

螺管断面の形状は不明。

引用:Early cephalopod evolution clarified through Bayesian phylogenetic inference

しかし、所持標本にこのような細肋は確認できない。

おおよその当たりを付ける

様々な不一致によりCharactocerasではないと思われる。
しかし、この標本が何者なのか情報が全くない。

・中期オルドビス紀
・巻き殻
この情報でタルフィセラス目かリツイテス目に絞れる。

リツイテスの特徴的な細肋が一切ないのでタルフィセラス目で間違いないと思われる。
念のため、リツイテス目の螺管を持つグループを内包したリツイテス科の属種をまとめた論文を確認。

にはこの様な形態(サイズ、成長倍率等)の属種は見当たらなかった。
そのためタルフィセラス目に当たりを付けて取り合えず教科書を漁って行く。

螺管断面の形状が類似したトロコリトセラス科の属

・Litoceras
トロコリテス科
断面が類似。
中期オルドビス紀で時代の整合性も取れる。
巻きの種類は言及されておらず不明。
※アンモナイト目リトセラス亜目のLytocerasとは全くの別物

しかし連室細管の位置が異なる。
Litoceros:巻き内側(背側)寄り
所持標本 :巻き外側(腹側)寄り

引用:“Treatise on Invertebrate Paleontology Part K, Mollusca 3, Complete Volume”

螺管断面の形状が類似したタルフィセラス科の属

・Pionoceras
タルフィセラス科
断面が類似。
中期オルドビス紀で時代の整合性も取れる。
連室細管の位置も同じ。

しかし巻き方が異なる。
Pionoceras:エボリュート(若殻に沿った巻き)
所持標本 :ジャイロコニック(揺る巻き)

引用:“Treatise on Invertebrate Paleontology Part K, Mollusca 3, Complete Volume”

他の手がかりが皆無なため、前述したリトセラス属とピノセラス属の近縁(同じ科の属)を探っていく。

トロコリテス科とタルフィセラス科の属を一通り探す

それぞれが属する科の特徴を洗い出す。
・トロコリテス科
オルドビス紀~シルル紀
密巻き種が多い
連室細管が巻き内側(背側)寄り

・タルフィセラス科
オルドビス紀
密巻き種が多い
連室細管が巻き外側(腹側)寄り

連室細管からタルフィセラス科に近いものと思われるが、どちらも密巻き。
タルフィセラス科の進化の前後系統に類似形態の属がいないか調査。

ジャイロコニックな先祖系エストニオセラス科

後期カンブリア紀~中期オルドビス紀に反映した、

エレスメロセラス目から分化してタルフィセラス科を産みだしたと考えられているタルフィセラス目の始祖系統。

引用:“Treatise on Invertebrate Paleontology Part K, Mollusca 3, Complete Volume”

微緩巻きは沢山いる。

しかし、どの属も連室細管が背寄りで螺管断面の形状が近い属が見当たらない。

ジャイロコニックな子孫系バランデオセラス科

ジャイロコニックな子孫系バランデオセラス科

バランデオセラス科は中期オルドビス紀~中期デボン紀に栄えたグループで、初期は密巻きが多く、後の時代にジャイロココニックやシルトコニックなどの巻きが解れた形態がいる。

引用:“Treatise on Invertebrate Paleontology Part K, Mollusca 3, Complete Volume”

こちらも緩巻きは沢山いる。

リブが濃いめで螺管断面の形状が近い属が見当たらない。

螺管断面の形状が類似したネフリチセラス科の属

そんな中、バランデオセラス上科に形態的類似性が確認できる属を発見した。

・Nephriticeras
断面が類似。
巻き形態が類似。
連室細管の位置は中央。


しかし、時代は中期デボン紀。
ネフリチセラス科全体がデボン紀から発生したグループの模様。

当てが外れた。

まとめ

他にもタルフィセラス目で以下の科を探した。

Apsidoceratidae
Plectoceratidae
Uranoceratidae

しかし、類似した属が見当たらなかった。

Apsidoceratidae(アプシドセラス科)のCharactocerasが近いだろうか。

しかし後期オルドビス紀の属。

今回の標本、中期オルドビス紀ダーリウィリアンと表記しているけど、購入時は英国式のLlanvirn。

英国式Llanvirn=国際標準Darriwilianと判断して変換して扱っているけど、もしかしたら年代に僅かなズレがある可能性もなくもなくもない。

と思われる。

お手上げ状態なので、結局セラーが付けていたCharactoceras sp.として扱う事にした。

Author
Cmigcqxp

Arato510

オウムガイ類、アンモナイト類、べレムナイト類などの頭足類化石を専門に収集するコレクター。

10年くらい昔、1年ほど収集にのめり込んだ後に忙しくなり、化石の『か』の字も思い出せない程に激動の人生を歩んでいました。

長い時を経て2023年8月頃に収集再開。
トータル収集歴2年弱の自称、頭足類ノービスです。

収集歴は浅いけど、最初期からちゃんとした『標本』を収集してるので、割とコアなコレクションが多いです。
海外市場を主軸にしたマーケットハンティングがメインですが、ごく稀に北海道などに赴いて巡検ハンティング(自掘り)をすることもあります。

https://twitter.com/Nautil_Works

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