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Paradoxides gracilis
仏人地質学者Joachim Barrande(1799-1883)により研究され、著書[Systeme silurien du centre de la Boheme](1852)にて詳細な図版が描かれている本種は、三葉虫の研究史に足跡を残している重要な種類として知られます。世界のカンブリア紀の地層で見つかるParadoxidesの中でも収集家に知られる存在です。当時からの産地だったVinice Hillは、長年の採掘により枯渇しており、焦茶で艶のある本標本の様な質感があり、10cmを超える標本は、世界の収集家が放出しない限り市場に出来て来る事はありません。特に大型で頬棘が残る個体は希少価値が高いです。
Middle Cambrian(Drumian) Paradoxididae,Paradoxidoidea,Redlichiina,Redlichiida TRI-307 JinceTrilobites
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Paradoxides davidis trapezopyge
三葉虫コレクターのバイブル的な図鑑である「THE TRILOBITE BOOK」では、多くのページを割いて紹介される特別な存在として知られます。本種の初期にして完成された優美な姿と迫力ある大きさは、記名者で著者のRiccardo Levi-setti(1927-2018)だけでなく、多くのコレクターも魅了される存在である事に異議はありません。著書の中でも詳細が触れられていますが、P.davidisは、4つの亜種に細分され、素人目でも判断できるのは尾板の大きさで区別できます。本標本は、最も尾板が大きな亜種という事になります。産状として剥がれ易い母岩全体に幾つかの個体が折り重なる様に重なり、実物を見ると図鑑の様な完全な標本など奇跡的といえる状態である事が理解できます。元々崩れやすいカンブリア紀の大型三葉虫なので、この標本の状態でも一般的に入手できた中では最上位クラスであります。 [Left side:Negative,Right side:Positive] 【参考リンク】「Phenotypic variation in the Middle Cambrian trilobite Paradoxides davidis SALTER at Manuels, SE Newfoundland. 」 https://paleoarchive.com/literature/Bergstrom&Levi-Setti1978-PhenotypicVariationParadoxidesDavidis.pdf
Middle Cambrian Paradoxididae,Paradoxidoidea,Redlichiina,Redlichiida TRI-734 Manuels RiverTrilobites
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Acadoparadoxides briareus
一般的に入手可能な三葉虫の内、最大級の大きさを誇るのが本種です。私の全コレクションの中でも最も大きな三葉虫です。片側10㎏を超える重さのため、撮影の為に標本箱を下ろしたり、移動したりするだけでクタクタになる程です。Paradoxididae(科)の仲間は、チェコ、カナダ等広い範囲で産出し、何れも大型になりますが、モロッコ産の巨大さは群を抜いている様に思えます。A.mureroensis(Sdzuy, 1958)が最も知名度がある種名ですが基本的には出回る標本の大きな個体は本種と思われます。2010年代以降に大きさによる細分化が行われ、A.nobilis(SDZUY,1958)やA.levisettii(Geyer and Vincent, 2015)など小型の種類も同定されるようになりました。本種は、見た目のインパクトが大きくインテリア等の一定の需要があるため、模造品や補修品が多く流通しています。個人的に真贋を見分けるポイントとして、綺麗すぎない事やAcadoparadoxides独特の側葉部の成長線がある事が挙げられます。長年市場を見ていますが、10万以下で買える様な標本にレベルの高い標本は先ず無いと感じます。 [Left side:Negative,Right side:Positive]
Middle Cambrian Paradoxididae,Paradoxidoidea,Redlichiina,Redlichiida TRI-146 Jbel WawrmastTrilobites
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Hydrocephalus minor
Jince累層の独特の色合いと艶のある質感が残ります。同じ産地のParadoxides gracilisに近いですが、そこまでは大きくならず、尾部周辺に流れるような棘があり、見た目の印象は異なります。どちらかというとEccaparadoxides pusillusに近い印象があり、EccaparadoxidesとParadoxidesの中間系みたいな感じかと思います。尾部周辺の棘は、柔らかな棘を持っていたのではと推測できる質感です。
Middle Cambrian Paradoxididae,Paradoxidoidea,Redlichiina,Redlichiida TRI-122 JinceTrilobites
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Eccaparadoxides pusillus
チェコのJinceでは比較的見かける種類ですが、不完全な標本が多く、完全体での入手が難しい種類の一つです。同じ産地のParadoxididae(科)の近縁種であるParadoxides gracilisよりは小型で、Hydrocephalus minorと大きさ的には近いのですが、本種は尾部周辺のフリルが特徴的で風雅です。これらの種類に共通ですが、比較的初期の三葉虫のためか棘がそれ程は固くなく平坦な体形をしています。美しい姿をしていて産出が途絶えた現在でもコレクターに根強い人気があります。
Middle Cambrian Paradoxididae,Paradoxidoidea,Redlichiina,Redlichiida TRI-458 JinceTrilobites
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Rejkocephalus rotundatus
Rejkocephalus=Hydrocephalusという認識で良いですが、バラバラになりかけている事もあり、違いが良く分かりません。最後の写真に以前のオーナーか採取者の記載があるのですが、Eccaparadoxides pusillusやParadoxides gracilisといった近縁な仲間の表記もありますので、同定は難しくなっています。この化石は、複数体の個体がまとまって散乱しているJinceらしい標本で、この様な産状の化石は、当時の状況を想像できて面白いと思います。
Middle Cambrian Paradoxididae,Paradoxidoidea,Redlichiina,Redlichiida TRI-394 JinceTrilobites