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Morocops ovatus
モロコプス・オバトゥス (Morocops ovatus) の標本です。 モロッコでもトップスリーに入る程度にコモンな種類のファコピダであり、大抵のマニアが2-3標本目までに入手する種でもあるかと思います。かつては標本の質が全体的に良好でなかった事もあり、モロッコのファコプス類の鑑別は困難でした。しかし、近年のプレップ技術の向上と研究の成果により、かつては一様に見えた同地のファコプスにも、非常に豊かなバリエーションがあることがわかっています。 本標本も、サイズや質感が中々良く、テーブルの上に置いて眺めていると目を楽しませてくれます。 以下、拙ブログのリンクですが、本種の鑑別方法などを掲載しております。 http://676bbs.blog.jp/archives/19311663.html よろしければご参考ください。
Middle Devonian - Oufaten, Morocco Morocops ovatustrilobite.person (orm)
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Austerops salamander (?)
こちらは、確定的ではないですがモロッコのアウステロプス・サラマンデル (Austerops salamander) の可能性が高いのではないかと思われる標本です。 一時期、モロッコのファコプス類 (モロコプス、ボエコプス、ファコプス、アドリシオプス属など) の鑑別に凝っており、その一部の種の分類を、記載論文を参考にしつつ、私のブログなどで特集しておりました。その際、特に、アウステロプスを取り上げきれていないのが心残りでした。 この標本は実は2年ほど前に入手したのですが、何の種かよくわからずそのうち調べようと思い、どこにも公開せず死蔵しておりました。今回ふと思い立ちもう一度真面目に調べたところ、最初に抱いた印象通り、やはりアウステロプスの一種かなと思いましたので、過去の宿題の部分的な解消がてら、公開することに決めました。 一応はハミープレップとのことで、20mm足らずと小さいながらも、細部の構造がよく確認できます。写真ではよくわからないと思いますので、以下、簡単に特徴を描写しておきます。 頭鞍には細かい顆粒が無数にある一方で、頬部や胸尾部表面はツルッとしております。頭鞍の膨らみは弱め。頬部は狭く後方に角はなく丸みを帯びています。複眼の縦列の数は最大7個前後で、vertical rowで見れば、17-18列あるように見えます。全体的には際立った特徴はないのですが、ファコプス類としては全体的に平坦でかさが低い印象です。 これらの特徴を過不足なく満たすものとしては、アウステロプス・サラマンデルが第一の候補にあがります。各種モロコプス (Morocops) の類や、アドリシオプス・ウェウギ (Adrisiops weugi) 、ファコプス・アラウ (Phacops araw) などはいずれも、特徴が違い過ぎてハナから論外として、他に、パッと見でありうる種としては、 ・Boeckops stelcki (ボエコプス・ステルキ) ・Reedops pembertoni (リードプス・ペムベルトニ) ・Austerops speculator punctatus (アウステロプス・スペクラトル・プンクタトゥス) などが挙げられます。 ただボエコプス・ステルキとしては、側葉と中軸間の結節状構造がない事、頬部の細顆粒がないことから除外的で、リードプス・ペムベルトニとしては、頬部が狭い事、頬部の後部の角張りがない事から可能性は低いのでないかと思います。 アウステロプス・スペクラトル・プンクタトゥスは、流石に同属だけあり見分けづらいのです。ただ、プンクタトゥスの場合、頭鞍の顆粒が疎で、その間に無数のpitsがあるという特徴があります。本種ではそういった要素がなく、むしろ細かな顆粒が頭鞍の全体を覆っています。また複眼の構造も、プンクタゥスとは合わないように見えます。 少々長文になりましたが、そんなわけでこちらは暫定、アウステロプス・サラマンデルと考えております。最も小さいので、若年個体の可能性があり、成熟体と特徴が異なる場合、そこがやや怪しい点ではあります。
Middle devonian - Oudressa area, Morocco Austerops salamander (?)trilobite.person (orm)
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Diademaproetus holzapfeli praecursor
モロッコの普通種、ディアデマプロエトゥス・ホルザップフェリ・プラエクルソル (Diademaproetus holzapfeli praecursor) です。舌を噛みそうな名称の長さです。別の普通種、コルヌプロエトゥス (Cornuproetus) と似てますが、本種では頭部先端のへら構造が発達していることで簡単に見分けられます。 この標本の面白い点としては、まるで雨宿りでもしているかのように、腕足類が三葉虫の上を覆っている事です。可愛らしくも、コミカルにも見えます。素敵なコンビネーションです。 ディアデマプロエトゥス・アンタトラシウス (Diademaproetus antatlasius) という名も、市場などで昔からよく見かけます。どちらかが通称かシノニムなのかなと勝手に考えていましたが、実は歴とした別種のようです。 非常に細かい話ですが、鑑別点としてはアンタトラシウスの方は、 ・頭鞍前域 (pregrabellar area/field) を欠く ・前縁/底縁 (Anterior border) が、より盛り上がっている ・頭鞍の前側が平坦気味 ・頭部が、側方~斜め方向からみて、アーチ状に湾曲が強い だそうです。詳細は省きますが、確かにそれら特徴からは、この標本はアンタトラシウスではなくプラエクルソルだなと思います。なお、上記解剖学的用語は、日本語訳が一部見つからず、私が勝手に訳語を充てておりますので、参考程度でお願いします。
Middle Devonian Timrhanrhart Jbel Gara el Zguilma Diademaproetus holzapfeli praecursortrilobite.person (orm)
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Liolophops sublevatus
ドイツの有名古典的産地アイフェル (Eifel) 産、リオロフォプス・サブレバトゥス (Liolophops sublevatus) の紹介です。 ファコプスの仲間でありますが、モロッコの種々のファコプスや北米のエルドレドジオプス (Eldredgeops) 系と比較して、全体的に細身で体高が低い印象です。それに対して、複眼の全体に占める割合は比較的大きく、頭鞍には細かな顆粒が観察できます。 モロッコの種との比較で言えば、最多種モロコプス (Morocops) やアドリシオプス (Adrisiops) よりも、アウステロプス (Austerops) やボエコプス (Boeckops) が印象としては近いなと思います。 古典的産地であるにもかかわらず、細部まで保存状態が良く残っています。アイフェル産としては、比較的、市場に出回る機会の多い種であるように思いますが、全体数が少なく希産である事に変わりはありません。
Middle Devonian Freilingen Rommersheim, Eifel region, Germany Liolophops sublevatustrilobite.person (orm)
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Scabriscutellum sp.
スカブリスクテルムの一種 (Scabriscutellum sp.) です。ティサノペルティス (Thysanopeltis) と似ておりますが、こちらは明らかに尾板周りの棘がなく、そちらとは容易に鑑別する事ができます。あくまで種にもよりますが、モロッコ三葉虫としてはコモンな種であり、状態を問わなければ入手は容易です。 しかしその鑑別は困難を極め、分類は混乱の最中にあります。まず、Thysanopeltisは別にしても、他に見た目の近い属レベルで違う(かもしれない) 種々のスクテラムが存在します。 第一に、プラティスクテルム (Platyscutellum sp.) 。Platyscutellum cf. massaiなどと表記される事が多いです。これは尾板が極端に頭部に比較して小さく分かり易い種ではあります。ただスクテラムの中でも、見た目が奇妙で大型で目立つので、モロッコの偽物三葉虫の代表としてフェイク品を頻繁に見かけます。次に、体全体が細かい顆粒に覆われたメタスクテルム (Metascutellum sp.) 、ないしはゴルディウム (Goldium sp.) と呼ばれる種もいます。Metascutellum aff. pustulatumなどと呼ばれております。それらよりは極少数ですが、複眼や中葉から目立って長い棘が生えている、ボヨスクテルム (Bojoscutellum sp.) と呼ばれる謎の種もいます。いずれも、主にチェコの類似種などを元に名付けられており、厳密な意味での記載という訳ではないように思います。 さて、ややこしい事に話はそこで終わりません。このスカブリスクテルムにも、やはりと言うか色々なタイプがいます。 中でも、2006年に記載 (Chatterton et al., 2006) された種、 ○スカブリスクテルム・ラフチェニ (Scabriscutellum lahceni) Occipital ring及び胸節軸葉の前3節と後3節にのみ、太く垂直な棘が生えるタイプ ○スカブリスクテルム・ハムマディ (Scabriscutellum hammadi) 尾部周りにルーペで観察できる程度の小さな無数の棘を認めるタイプ 私の知る限り、スカブリスクテルムのうち、厳密に正式に記載されているのは、この2種のみかと思います。 他にスカブリスクテルム・フルシフェルム (Scabriscutellum furciferum) という古くから知られた種がいて、多くの市場のスカブリスクテラムに、取り敢えず名としてつけられております。 正確には、チェコ産のスカブリスクテルム・フルシフェルム・フルシフェルム (Scabriscutellum furciferum furciferum) を元に記載された、スカブリスクテルム・フルシフェルム・ハムラグダディアヌム (Scabriscutellum furciferum hamlagdadianum) という亜種であります。これは確かに1971年にAlbertiらにより記載されています。ただ問題点として、今から半世紀前の当時、今ほどの剖出技術が整っておらず、仮に棘など細かい構造があったとしても、全部プレップ中に飛ばしてしまったものと思われます。Chattertonらは、このフルシフェルム・ハムラグダディアヌムは不完全な頭鞍と、複数の形態の異なる尾板を元に記載されており、その存在は少々怪しいと断じております。 図鑑の説明としては、不適切なほど長文になってしまいましたが、まとめると、極少数の記載種を除けば、スクテルムは正確に分類されるに至っていないという事であります。 そこでやっとこの標本についてですが、特徴としてはOccipital ring及び胸節の全てにやや小型の垂直な棘が並んでいます。入手元で、スカブリスクテルム・フルシフェルムとして手に入れたものであります。確かにその可能性はありますが、上記の通りフルシフェルムはその記載に疑問符が付く上、本種には軸葉に垂直な棘があり、当時のフルシフェルムは少なくとも棘の記載はないので、この種と断定する事はできません。ラフチェニが似ているもの、ラフチェニは胸節軸葉に関しては、前方3節と後方3節にのみ棘がある種である為、明確に違います。 つまり、本標本は、スカブリスクテルムの一種 (Scabriscutellum sp.) とするしかないかな、という結論です。今後の本種の研究を待ちたいものです。 その分類に対する疑義はともかく、見ての通り素晴らしいプレパレーションであります。プレパレーターは凄腕ハンミ氏 (Hammi Ait H'ssaine) 。お見事の一言であります。
Middle Devonian - Morocco Scabriscultellum sp.trilobite.person (orm)
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Gerastos tuberculatus marocensis
ゲラストス・トゥバキュラトゥス・マロチェンシス (Gerastos tuberculatus marocensis) です。もっともポピュラーなモロッコの三葉虫のうちの一つですが、正式な学名が長らく付いておらず、かつては、ゲラストスの一種 (Gerastos sp.) や、ゲラストス・グラニュロスス (Gerastos granulosus) など適当に呼ばれていた種です。ここ近年のモロッコ三葉虫の記載ラッシュにより、ようやく2006年に正式名称が与えられたようです。 本種の特徴としては、記載論文 (Chatterton et al., 2006) の説明によると、 ✔︎ 頭鞍に尖った目立つ荒い顆粒を持ち、顆粒は胸尾部の細かな顆粒より大粒 ✔︎ 頬棘は短いながらも、その先端は尖っている などでしょうか。特に、頭鞍の顆粒の大きさは分かりやすく、上写真でも頭鞍の顆粒が胸尾部のそれに比べて大きい事がわかるかと思います。 最近の論文では、モロッコの微妙な差異のあるゲラストスが10種類以上に分類されております。(G. hammi、G. ainrasifus、G. aintawilusなど) ただ、本種以外は比較的レアであり、中々市場で見かけないですし、そもそもゲラストスの見分けは大きな違いがあるわけではないので難しいです。 安価で今一つ軽視されがちな種でありますが、小柄な体格にぷっくりした複眼や、とても可愛らしい種でもあります。
Middle Devonian Timrhanrhart Foum Zguid, Morocco Gerastos tuberculatus marocensistrilobite.person (orm)
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Palarejurus sp.
パラレユルスの一種 (Paralejurus sp.) です。 モロッコデヴォン紀で産出する、有名で一般的な三葉虫のうちの一つです。 特徴は、その楕円形の可愛いらしい体型も一つですが、何より全身を覆う謎の『しわ』がこの種に特異的です。『しわ』は特に頭部と尾部に目立ちます。単なる模様だったのか、それとも成長線の類なのか、色々な仮説はありますが、想像を巡らせるのが精一杯で、研究者にもマニアにも誰にも分かりません。ただこのように、ある程度自由な想像の余地があることもまた、化石の一つの魅力だろうと思います。 モロッコのデヴォン紀の三葉虫は、市場が先行しており、正式な学名が未記載の種も多いです。パラレユルスもまた、素人目に見ても色々なタイプのものがあり、おそらくこの標本もまだ学名が付いていません。安全の為、この標本もsp.表記に留めています。 この標本はモロッコ三葉虫を得意とする、一級プレパレーターである、ハンミ氏 (Hammi Ait H'ssaine) によりプレップされており、微細な構造に至るまで高レベルに保存されております。特に複眼構造の保存は見事の一言です。
Middle Devonian - Morocco Palarejurus sp.trilobite.person (orm)