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バイオレットコモンオパール/蛋白石
厚切りスライスされたメキシコ産のパープルオパール原石です。 母岩に包まれたノジュール状で産出することが多く、この標本もその名残としてアイボリー色の外殻を纏ったままとなっています。 これもまた歴としたオパールの一種で、虹の揺らめきは現れないものの鮮やかなスミレ色が特徴的です。 別名「モラドオパール」とも呼ばれますが、moradoは現地の公用語であるスペイン語で "紫" を意味しています。 この紫色の部分についてですが、実は短波のブラックライトを照射することによりアップルグリーンの蛍光を放ちます。 オパールの醍醐味たる遊色効果は観察できませんが、こうした奇抜な色変化で意表を突いてくるところはオパールらしいと思います。 やはりオパールは多種多様で面白い。 改めてそう感じさせる一石でありました。 #オパール
宝石 鉱物標本 5.5~6.5 2015年テッツァライト
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チェンバーサイト/チェンバース石
原産地バーバーズヒルのライラック色チェンバーサイトです。 石の愛好者以外には全くと言っていいほど馴染みのない存在でありますが、テキサス州チェンバーズ郡で発見されたことに因んで命名された鉱物です。 結晶形はご覧のとおり、立方晶系と見紛うばかりの見事な四面体を成すのが特徴。 ピラミッドやテトラパックを思わせるユニークな形状をしていますが、当然ながらこれも人の手の加わっていない自然物です。 ましてや古代文明の人々が創造した遺物などでもありません。 正真正銘の天然結晶であります。 モース硬度は水晶と同等の7を有し、なおかつ透明で美しい外観をしているため宝石たり得る素質を備えています。 しかしながらこの石は如何せん小粒な原石が多く、研磨するには少々大きさの足りぬものばかり。 かく言う私のチェンバーサイトも数ミリほどしかありません。 いつかもっと大きくて見応えのあるサイズの結晶に出会いたいものです。
宝石 鉱物標本 7 2015年テッツァライト
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稲倉石鉱山の菱マンガン鉱/ロードクロサイト
遷移金属マンガンを主要成分とするため自色は春爛漫なピンク色。 このMnイオンに起因する色が最大の特徴であるためギリシャ語で "薔薇の色" を意味する『ロードクロサイト』という名が与えられました。 炭酸塩が単体の金属元素と結合していること。 そしてそれらが組み合わさり三方晶系という結晶構造を形成していることから、方解石を筆頭とするカルサイトグループに分類されています。 このグループの共通点として、明瞭な劈開性を有し、自形結晶・劈開片ともにしばしば菱面体を形成することが挙げられます。 そのため付いた和名が『菱マンガン鉱』。 菱鉄鉱や菱亜鉛鉱など、頭に "菱" が付く鉱物と同様の命名則であります。 こちらの石は、北海道の積丹半島に位置する『稲倉石鉱山』で産出した "桜マンガン" のカット石。 本来であればマンガンを目的に採掘される鉱石ですが、華やかな色調を見込まれて彼のように研磨が施されることがあります。 コロラド州やペルーを初めとする海外産の個体の方がより透明で煌びやかでありますが、このとおり国産の良品も柔和で愛らしいです。
宝石 鉱物標本 3.5~4 2015年テッツァライト
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トパゾライトガーネット/灰鉄ざくろ石
ガーネットとしては「灰鉄柘榴石」という品種に属するため、先に投稿していたデマントイドとの色違い種にあたります。 https://muuseo.com/tezzarite/items/75 あちらの鮮やかな翠色はCrに起因するものですが、このウィスキーのように芳醇な琥珀色はFeに由来しています。 デマントイドがダイヤモンドの如きざくろ石であるなら、こちらは "トパーズの如き" ざくろ石。 topazoという語が入っている通り、黄褐色で透明な外観が彼の石を思わせることから『トパゾライト』とも呼ばれるガーネットです。 イエローアンドラダイトと呼称すべきとの主張もありますが、黄玉に親しみを覚える身としてはこの呼び名の方が好きです。 こちらのトパゾライトはウラル山脈の蛇紋岩帯から産出した個体であります。 そのため、やはりと言うべきか結晶内部に蛇紋石系アスベストであるクリソタイルの繊維を取り込んでいる様子が確認できました。 画像3枚目に見られるような針状の結晶がそれです。 こういった結晶の外縁部位に存在するインクルージョンは、恐らく研磨加工する過程で除去されてしまうのでしょう。 宝石らしい輝きや分散光は磨かなければ拝めませんが、原石の状態でなければ観察できない光景があることも忘れてはなりませんね。
宝石 鉱物標本 6.5~7 2015年テッツァライト
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オパライズドクラム/オパール化した二枚貝
これぞ正しく "貝の火"。 白亜紀に生息していたとされる二枚貝が化石となり、ライトニングリッジの地でオパール化したものです。 一部に欠けこそ見られますが圧壊することなく立体形が保たれており随所に二枚貝らしい名残も留めています。 特に表面の凹凸模様や蝶番の状態は克明そのものであります。 一見すると単なるメノウ化貝化石のようにも見えますがそこはオパール。 角度を変えれば遊色が確認できますし、水で濡らせば赤い干渉光まで現れます。 オパールは極微小なシリカ球が積層することで生成される鉱物。 そして遊色効果は、それら粒子が『長い年月をかけ』『静かに』『整然と』配列することで初めて顕現する現象です。 もし地震などの外乱の多い環境であればこの生成過程が大いに搔き乱されてしまい、美しい遊色は望めなくなります。 化石化に至る過酷なプロセスと、オパールの生育に不可欠な穏やかな環境。 この両極的な生成条件をクリアした彼らこそ、地球の生み出す奇跡なのではないかと思います。 一体どのような徳を積めばこんな宝石に転生することができるのでしょうか。 私も一生を終えたらオパールになりたいものです。 #オパール
化石 宝石 鉱物標本 5.5~6.5テッツァライト
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パロットクリソベリル/金緑石
インド南東部に位置するオリッサ州・チンタバリ鉱山で産出する特別な金緑石です。 この石は1997年~2003年という、ごく僅かな期間しか採掘されませんでした。 そのため新しい原石が供給される望みは殆どなく、現在の流通品やストックで最後と言っても過言ではありません。 クリソベリルはギリシャ語の“金色/chrysos”を語源とするだけあってライトイエローが持ち味の鉱物ですが、その中でも特に異彩を放っているのが、この『パロットクリソベリル』ではないでしょうか。 接頭のパロットは“オウム/parrot”という意味。 その名の通りオウムの体色を思わせるストロングトーンの緑が特徴であり、蛍光していると錯覚してしまうほどの高彩度を誇ります。 ちなみに鳥類を含め一部の動物の中には、繁殖期を迎えると異性の目を惹くための『婚姻色』を纏う者たちがいます。 もしこの石の放つ色がその婚姻色なのだとしたら、その目的は一人でも多くの人間を惹きつけることなのだと思います。 私はすっかり魅了されてしまったので、彼らの目論見は上手いこと達成されたのでしょう。 #クリソベリル
宝石 鉱物標本 8.5 2015年テッツァライト
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モルダバイト/天然ガラス
隕石衝突による凄まじいエネルギーが生み出したインパクトガラス『テクタイト』の一種です。 約1500万年前、とある隕石が現ドイツ・バイエルン州へと飛来し巨大なクレーターを穿ちました。 膨大な熱量によって一帯の砂岩は融解。 そして吹き飛ばされる過程で急冷され、ガラス状物質へと変異しました。 こうして生成された天然ガラスの大部分は東方のチェコ・ボヘミア地方へと飛散し、緑色テクタイト『モルダウ石』として発見されるに至ります。 その名称は“Týn nad Vltavou”すなわちヴルタヴァ川(モルダウ川)流域の町に由来します。 テクタイトは他にも種類があるのですが、その中でもとりわけ美しいのがこのモルダバイトではないでしょうか。 ゆったりとした緑色が印象的で、森林浴でもしているような安らぎを与えてくれます。 テクタイトはガラス質なので、厳密には鉱物ではありません。 しかしその成因が自然的かつ神秘的な現象であることとその美しい外観から、今日では宝石・パワーストーンとして市民権を得ているのです。 こちらのモルダバイトはなんとも不思議な形をしています。 一体どのような飛び散り方をしたら、こんなゴジラの尻尾みたいになるのでしょうか。 ともかく瞬間的に生じた極限環境が壮絶であったことは想像に難しくありません。
宝石 鉱物標本 5〜6 2015年テッツァライト
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エクリプスマーブル/多結晶質方解石
ジャワ島で産出したエクリプスマーブルのオーバルカボションです。 エクリプス "ジャスパー" の名でも知られる石ですが、その実態は多結晶質の方解石をベースとする混合体。 宇宙に浮かぶ天体のような模様が特徴で、このような外観から2009年に観測された皆既日食の際、海外のパワーストーン界隈で大いに注目されたのだそうです。 個人的には日食というより月のイメージが強かったため、こちらのように真ん丸お月さまに見える石を探し当てました。 闇色の黒地に黄斑がぼんやりと映る様は、朧月夜の空を描き写したかのよう。 さらに月輪のようなのグラデーションが、外縁部から徐々に蝕まれつつある様子を表現しているようで何とも雅であります。 ちなみにこの "月" の正体は、ヒ素の硫化鉱物である『オーピメント(石黄)』が浸み込んだものであるとされています。 月は常に人々に寄り添い、慈しみの光で危険な夜を照らし私たちを守ってくれます。 しかしその一方で精神をかき乱し、人々を惑わせるという怪しげな伝承があるのもまた事実。 そういった狂気的な一面がこの毒物によって鮮やかに体現されているようで、エクリプスという石を単に神秘的なだけでは終わらせないアクセントになっているのではないかと思います。
宝石 鉱物標本 3 2015年テッツァライト