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JUNGHANS Max Bill by Junghans Chronoscope 027 4003 44M
ドーム型のプレキシガラスが愛らしいこの「クロノスコープ」は、バウハウスを体現した最後の巨匠、彫刻家のマックス・ビル氏が1962年にデザインした名作の復刻モデルである。建築デザイン出身の私としては、何より手に入れたかった一品。 ほぼベゼルが見えないくらいまで大きく取られたダイアル面に極めて整然とアワーマーカーが刻まれている。クラシカルなペンシルハンドはドーム型の風防に沿うように曲線を描き、時刻の判別で決して誤ることのないように配慮されている。ユンハンス社は大量生産を行える規模のメーカーであるが、一つ一つの時計に込められた職人魂のようなものを感じてしまう。 円熟した未完成というのがバウハウスデザインの本質だと思うが、このクロノスコープも卓越した隙きのないデザインでありながら、どこかアソビが残されている。そしてそのアソビの部分こそが、年齢や性別、はたまた人種などを問わず、誰にでもフィットする懐の深さを生み出しているのだと思う。 標準装備のミラネーゼブレスもあたりの柔らかい素晴らしい出来だったが、現在はNATOに換装して服装に合わせたコーディネートを楽しんでいる。時計本体が良い意味で記号のようにシンプルなので、どんなストラップでも受け入れてしまう。一年を通してずっと使える万能時計…と言いたいところだが、防水性能が弱すぎるので真夏の使用はできるだけ控えている。大雨などはもってのほか。う~ん…せめて50m防水を… 風防もプレキシガラス(要するにアクリル)なので、簡単に傷が付いてしまう代物だ。気をつけるしかないか…形は可愛いので。 機械式のクロノグラフとしては安価な部類なので、クロノグラフ入門用としても良い時計だ。
プレキシガラス 幅40ミリ JUNGHANS ステンレス・スティール砂布巾
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GRAHAM CHRONOFIGHTER 1695 Ref. 2CXAS
時計史で最初にクロノグラフを完成させた天才時計師「ジョージ・グラハム」の業績を称え、その名を冠したブランド「グラハム」。歴史にオマージュした名前とは裏腹に、作る時計はどれも時代を先走ったかのような奇抜な見た目を特徴にしている。特に「クロノファイターシリーズ」に共通のトリガー式クロノ用プッシャーは強烈な印象を見るものに与える。これは手指の中で最も反応速度に優れる親指でのクロノグラフ操作を可能にする、画期的な機構である。 この「クロノファイター1695」はグラハムの奇抜なラインアップの中で最もクラシカルで大人しいデザインの時計である。スーツに合わせることが許される唯一のクロノファイターだろう。 6時位置にあるインダイアルはスモールセコンドではなく、30分積算計である。クロノグラフ機構を持ちつつも余計な要素を省いたダイアル周りは非常にシンプル。作りの良いコブラ針の分針に似たハンドもどこかしらゴシックな様式美に縁取られ美しい。 ケースバックには全面的にグリニッジ天文台がエングレービングされているが、これがまた惚れ惚れする出来栄え。この細工だけで値段が跳ね上がってるんじゃないだろうか… 実は未だに同モデルの黒ダイアルも欲しいと思っている。白黒並べてみたい…
サファイアクリスタル 42ミリ GRAHAM レザー砂布巾
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ROTARY Canterbury GS05333/21
ベネディクト・カンバーバッチがドラマ「SHERLOCK」で身に付けていたROTARYのクラシカルな3針時計。その意匠を継承したのが「カンタベリー」シリーズだ。 ラ・ショー・ド・フォンで創業したロータリーだが、その本領はロンドンに本拠地を移した後に発揮された。今ではすっかりイギリスの国民時計として親しまれる庶民的なブランドである。そして現在は幸か不幸かCitychampの傘下。 さて、このカンタベリーだが、見た目はぶっちゃけ「ブレゲ」。いや、1メートルも離れたところから見ればブレゲにしか見えないと思う…とまぁ、そんなことは置いておいても、相当高見えする時計であることは確かだ。 まず、ダイアルが秀逸。このお値段でここまできれいに見えるクル・ド・パリを施せるとは…ローマ数字のアワーマーカーやブレゲ針(!)もクラシカルな味が滲み出るニクい作りで、じ~っと凝視しても安っぽさは皆無だ。 ケースやリューズ、プッシャー関係も手抜きなし。かろうじて4万円ちょいの時計であることを教えてくれるのは、1秒1ステップで可愛く動く秒針の存在くらいだろう。ジャケットにチノみたいなラフ目のビジネススタイルでも、カンタベリーを巻いているととても上品に見えるらしい。妙齢の女性からのウケが最高に良いのも特徴だ。 こういう安くて魅力のある時計に出会うと、「時計沼」の深さと広さがよく解って面白いなぁ(〃∇〃)
サファイアクリスタル 40ミリ ROTARY レザー砂布巾
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BULOVA ACCUTRON II SURVEYOR BUL-96B239
一番最初に手に入れたブローバ。「サーベイヤーシリーズ」はアキュトロン2の中でも70年代風の味わいで知られる。私の中ではこの時計への評価が後のブローバ増殖へ繋がっていった。 標準的なクオーツの8倍の高精度を誇るUHFクオーツをしれっと搭載しつつもその辺りのアピールは控えめ。ゴールドでまとめたダイアルはラグジュアリー感満載だが、ラグ一体型のケースがスポーティーな雰囲気も漂わせていて広い年齢層、様々なシーンに受け入れられるデザインだと思う。ドーム型に僅かに盛り上がる風防ガラスも良い雰囲気だ。 深い角度で切れ込むラグからフラッシュフィット、ブレスへの流れが非常に立体的で美しい。仕上げは価格なりのレベルだが、磨き分けが巧みなので遠目での印象はクラス以上に良く見えているようだ。「それどこの時計?」と訊かれることが多いのはその証か。 クロノ針の赤い差し色がニクい。安くて印象的、人とは違う個性をさり気なく表現するにはよい時計だ。
ミネラル・ガラス 幅41ミリ BULOVA ステンレス・スティール砂布巾
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ORIENT NEO70's WV0011TX
70年代に流行したデザインを再解釈して現代風のサイズ感に収めたシリーズ。レトロな外見だが中身はソーラークオーツを搭載している。 ブレスはシャラシャラだしケースの仕上げもそこそこだが、程よい大きさとツボを抑えたデザインで総合点は高いと思う。特に時代感を醸す凝った作りのダイアルは見応えがある。厚みに制限のある空間をうまく使って最大限の立体感を表現することに成功しているのではないか。過去のアーカイブからの引用とはいえ、さすがに「時計を知っているなオリエント」と感じる。 個人的には儚げなハンドの形状がレトロチックで好みだ。インダイアルの配置とバランスも心憎い限り。ブレスを装備した時計にしては129gと軽量なので「今日は忙しくなりそうだな」と嫌な予感がする一日の始まりに選ぶことが多い。余計なことを考えずに仕事に集中したい時にはその軽さが強い味方となる。 ただ一点、デイト表示のディスクがかなり奥まったところにあるので日付が見づらい。これはソーラーパネルが全面にあるため止むを得ない処置なのだが時々無性に気になることがある。 グレーのダイアルが品よく光を拡散して高級感があり、価格以上の見た目を演出している。寝坊して機械式のセッティングをする余裕がない時にありがたい一本だ。
クリスタルガラス 幅42ミリ ORIENT ステンレス・スティール砂布巾
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HAMILTON Lloyd H19412733
偉大な建築家フランク・ロイド・ライトへのオマージュとして作られた「ロイド」は、現行のハミルトンのラインアップの中ではかなり異質な部類に入るだろう。 丸みを帯びたカレのケースに八角形のダイアル。同じく八角形のインダイアルが整然と並ぶさまはどこかしらユーモラスで生物的でもある。そしてこの印象こそ、ロイド・ライトの建築に感じるインプレッションそのものなのだ。 私はもともと建築出身なので「ロイド」の名前だけで「買わなくては!」と思ってしまった。まだそれほど自分に時計コレクターの自覚が備わっていなかった頃のことだ。 因みにこの時計には夜光が全く塗布されていない。なので夜の視認性はゼロに近い。ただ、なぜ夜光を塗っていないかについては完全に理解できる。つまり夜光を塗るとデザインが著しく壊れてしまうのだ。とはいえケースはもちろん、ハンドやインダイアルの縁取り、アワーマーカーに至るまでもがメタルポリッシュでピカピカなので昼間の視認性は十分に担保されている。 ダイアルのギョーシェは細かく上品な光沢変化が楽しめる。リューズも雰囲気を壊さないシックなデザインだ。 レザーストラップは立体的で厚みがあり高級感を感じるが何せ…硬い!未だに手首のアールに沿ってくれないほどに。ここまで硬い理由はなんだろう? 手持ちのマックス・ビルと並べて見ると、デザイナーとして背筋が伸びる心境になる。見ず知らずの私にまで伝わる偉大なクリエイターの知の遺産。やっぱりデザインって素晴らしい! 残念ながらすでにディスコンになってしまったらしい。10年後くらいに復刻しないかなぁ。
ミネラル・ガラス 37ミリ HAMILTON レザー(Dバックル)砂布巾