ちょこ大佐のゲーム三昧5

初版 2019/11/03 08:24

『戦場の霧』問題について


戦場の霧、という言葉をご存じでしょうか?

例えば、シミュレーションゲームでマップ上に両陣営のユニットが並んでいますよね。当然、自分のユニット(部隊)がどこにいるのか、相手のユニットがどこにいるのか見えます。更に、自分の各ユニットの戦闘力や移動力、相手の各ユニットの戦闘力や移動力も見えます。囲碁や将棋のように、完全情報を把握しているわけです。そうでないと、ユニットを動かせませんもんね。でもこれって、実際の戦場ではありえない状況です。相手部隊の正確な位置は勿論、その戦闘力なんか実際わかりませんよね?戦場に霧がかかるように、情報は不完全な物しか手に入らない、特に相手の状況は。これが、プロイセン王国の軍事学者のカール・クラウゼヴィッツが唱えた『戦場の霧』理論です。

シミュレーションゲームをプレイしている時、自分のこのユニットは戦闘力5、こちらのユニットは戦闘力7、合わせて12だから相手のあの戦闘力6のユニットを両方で攻撃すれば戦闘力比12:6つまり2:1の戦闘力比で攻撃できる、とか計算して移動して相手ユニットを包囲していく、これはあたりまえのように行っていますが、実際の戦闘ではこんなことはありえないわけです。シミュレーションゲームなのに、実際の戦闘から乖離している、この戦場の霧に対して、ウォーゲームではいろいろなシステムを考案、開発して対応しています。


例えば、『サイコロ』。

戦闘力比は同じだけど、サイコロの出目によって戦闘結果が違ってくる。これはウォーゲームの父、アバロンヒルを設立したチャールズ・ロバーツの発明したCRT(コンバットリザルトテーブル)、戦闘結果表があって初めて活きてくるわけですが、これにより不確定要素を加えて戦場の霧を再現しているわけです。


例えば、『アントライドシステム』。

「グデーリアン装甲集団」(SPI 1976)で、戦闘するまでその戦闘力がわからないという、画期的なアントライドシステムが発明されました。これほど戦場の霧を再現しているシステムはありません。「グデーリアン装甲集団」は、このシステム以外にも多数のアイディアに溢れており、PGG(パンツァーグルッペグデーリアン)システムとしてその後のゲームに大きな影響を与えます。


例えば、『チットプルシステム』。

2000年代に入るとアメリカにもヨーロッパのファミリーゲーム、特にドイツゲームが入ってきて、ウォーゲームにも影響を与えていきます。その中でゲームの展開のバリエーションに大きな影響を与えたのが『チットプルシステム』です。カップの中にチットを入れ、毎ターンチットをランダムに1枚引いて、発生する事情や移動・行動の順番を決めるわけです。6面体サイコロだと結果が6種類しか設定できませんが、このチットプルシステムだと制限なく結果が設定できます。引かれるチットの種類には、特別なイベントが発生するもの、増援部隊が引かれる、戦闘結果が引かれるもの、移動や行動の順番が引かれるものなど、様々な結果が起き、戦場の霧を再現します。


例えば、『カードドリブンシステム』

これもドイツゲームからの影響です。お互い手札にカードを持ち、毎ターンカードを引いて手札を入れ替え、自分に有利な手札に構築していく。相手に手札は見えませんので、これも立派な戦場の霧のシミュレーションです。ソロプレイプレイヤーにはきついですが。


ウォーゲームは、AHが礎を築き、チャールズ・ロバーツによってZOCの概念やCRT、ターン制など基本となる汎用システムが確立したわけですが、その後SPIにより様々なシステムが発明され、特に天才ジェームス・F・ダニガンの持論『ゲームによってシステムは変えるべき』の信念のもとに、数々のシステム、成功も失敗もありましたが、1970年から80年にかけて、システムの多様性の時代が訪れます。

しかし、SPI倒産後は長らく停滞の時代が続き、2000年代に入ってからドイツゲームの影響を受け、また、昨今の才能ある日本人デザイナーの多出によって現在は再びシステムの多様性の時代になっています。戦場の霧問題も様々な新しいシステムによって回答が出されています。


ウォーゲームは、過去のゲームではありません。今でもそれは進化しているのです。

(アントライドシステムの代表作「ドライブオンスターリングラード」のユニット。表はアントライドを現わす”U”の文字と移動力しかありません。裏には攻撃力と防御力が書かれています。接敵したら裏返して本来の実力がわかります。重要拠点で攻撃力0が出たりすると涙ちょちょ切れますw)


#戦場の霧

#ゲーム三昧

ひとりこつこつとヒストリカルSLGをやっています。

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