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Silk Stockings
結果的には11年後に一本撮ることになるのだが、当時としては、ミュージカルからの引退となった作品。 楽曲とダンスと出演スターが一番で、内容はさほど重要視されなかったミュージカル映画全盛時代とは違い、もともとの脚本がしっかりしたものが選ばれている。 円熟味の極みといえるフレッド・アステアに、ビューティフルダイナマイトなシド・チャリシーの組み合わせは「ハリウッドミュージカルの終焉」に相応しすぎる華を添える。 二人のデュオ「Fated to Be Mated」の振り付けの素晴らしさは言わずもがな、カメラ割りによってシドの衣裳をスカートにしたりキュロットにしたりという撮影のこだわりが嬉しい。 シドの魅せ場「The Red Blues」は圧巻! 1957年……エルヴィス・プレスリーの「監獄ロック」がヒットし、ビートルズがデビューするまで3年。 時代的に、もうミュージカル映画ではないだろうという雰囲気に自らとどめを刺すようなラストナンバー「The Ritz Roll and Rock」。 この仕上がりには納得だったのか、投げやりだったのか。 だが個人的には、楽曲としてコレ好き。
1957 ルーベン・マムーリアン アーサー・フリード 絹の靴下Nozomi Shirakawa
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You'll Never Get Rich
正直に白状すると、コレと『You Were Never Lovelier』は区別がつかなくなってしまっている。マニアとしては恥ずかしい。 ただ、原題も出演者も、ストーリーがつまらないところも全部が似すぎている。 そんなことより。 撮影技術でダンスの動きがより的確に捉えられるようになったり、音響効果で音楽とタップの音のバランスが良くなったりと、その辺のおかげも少しはあるのかもしれないが、この作品から数本のアステアの“キレ”には目を見張る凄まじいものがある。年齢的にも最も“体がキく”頃に差し掛かっていた筈だ。 どアタマの「Boogie Barcarolle」でのリタ・ヘイワースとの短いデュオ。 シャッフルやフラップというタップ特有の足の使い方がどうのこうのではなく、ただ足を打つだけ、単に歩くだけ、のような動きのシャープさといったら! そしてこの絶妙なブレンドバランスを「A-Stairable Rag」で、しっかり一曲見せてくれる。
1941 シドニー・ランフィールド サミュエル・ビショフ 踊る結婚式Nozomi Shirakawa
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Broadway Melody of 1940
どのダンスナンバーも素晴らしいが、やはり「Begin the Beguine」ということになろう。 わざと一度 話を逸らす。 もう一人の主役スター、エレノア・パウエルはダンサーである ―― 体の柔軟性も活かしさまざまなスタイルを取り入れることもできるが、彼女は「タップダンサーである」と言いきっていいと思う。 だから演技は稚拙だ(或るシーンで “驚いて物陰に身を隠す”という芝居など、大袈裟すぎて微笑ましくなってしまうほど)。それはそれでいい。それを補って余りあるほどのダンスシーンの美しさがあるのだから。 で、 その彼女が、この共演から41年後、アステアの「AFI生涯功労賞」受賞パーティーでの祝辞で、 「あの作品(『踊るニュウ・ヨーク』)は、二人のHOOFER(=タップダンサー)がせめぎ合って作り上げたものだった」 というようなことを語っていた。しかも、あの演技力からは想像できないような説得力ある語気で。 話を戻す。 好みの問題はあるにせよ、「Begin the Beguine」はタップダンスとして(ダンサー同士の意地とプライドを懸け)振り付けられた作品として最高峰の一つだと思う。MGMのミュージカルアンソロジー『ザッツ・エンタテインメント!』の冒頭で紹介されているのもその証拠。 他のシーン、例えば「Jukebox Dance」を踊り終えたアステアとパウエルの二人が顔を見合わせ笑いながらフレームアウトしていく様子などは、作品の役柄ではなく素のダンサー同士にしか見えなくて嬉しくなってしまう。 また「Don't Monkey with Broadway」では、アステアには非常に珍しい男性ダンサーとのデュオが見られる。
1940 ノーマン・タウログ ジャック・カミングス 踊るニュウ・ヨークNozomi Shirakawa