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Dancing Lady
「ほぼ本人役」のアステア。シルエットも声も尖っている印象。 当時のジョーン・クロフォードの人気がどれほどなのかは知らないが、いくらなんでもダンスはひどすぎる。 最初に字幕なしで観た際、大まかにしかストーリーがわからなかったので、彼女は自分が下手なことを悩んでいるダンサー役なのだと信じて疑わなかった。 一大シークエンス風の「Let's Go Bavarian」は後の『バンド・ワゴン』での「I Love Louisa」で見せる「ドイツ=ビール」「ドイツ人=無表情」というステレオタイプな演出が既にあって面白い。 ご想像通り、アステアのシーン以外は観ません。
1933 ロバート・Z・レオナード デイヴィッド・O・セルズニック ダンシング・レディNozomi Shirakawa
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Flying Down to Rio
ジンジャー・ロジャースとの共演シリーズの記念すべき第一作。 全体のミュージカルシーンには、美女の顔見せ・脚見せやマスゲーム的な要素がまだまだ残るが、「Flying Down to Rio」で指揮棒を振りながら地上で滑るように踊るアステアがかっこいい。 後のジンジャーとのナンバーに比べると「The Carioca」でのデュオが何故そこまでうけたのか疑問を感じるが、いわゆる「ペアダンスでございます」みたいなクセがなく、愉快に踊る二人の雰囲気がエキゾチックな楽曲と相まって、ということなのかなと想像する。 (二人の役どころが“少しワル”みたいなのもイイ) タップに関して、「Music Makes Me」で早いステップを繰り返し踏んでみせる(しかも足のアップ!)アステアは実は非常に貴重だ。
1933 ソーントン・フリーランド ルウ・ブロック 空中レヴュー時代Nozomi Shirakawa
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The Gay Divorcee
冒頭の「Don't Let It Bother You」でのアステアの“指ダンス”がけっこう好き。 また、同じ曲で船上の舞台で踊らされるシーンで、タップではあるが状況的にタップシューズではないということに忠実に(?)バタバタとした革靴の音にしてあるのが面白い。 RKO期のアステアの作品に対してはストーリーの薄さがよく指摘されるが、このての「勘違いもの」は会話の内容などを入り組ませて練っているのでニヤニヤできる楽しさがあると思う。 アステアとジンジャーがお互いの勘違いを解き“軟禁”からの脱出を画策するシーン、 " I don't care what you did as a boy."(意訳;「あなたにも男の子だった頃があるの?」) のセリフまわしがとても自然で大好き。ああいう演出はどうやってつけるのだろう? 「A Needle in a Haystack」が「No Strings」に、「Night and Day」が「Cheek to Cheek」に、翌年の『トップ・ハット』で洗練・昇華される。
1934 マーク・サンドリッチ パンドロ・S・バーマン コンチネンタルNozomi Shirakawa
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Roberta
フレッド・アステアを知り、レンタルビデオ店をいくつもいくつもまわっては未見のものが一つでもあれば会員登録をし、借りてきてはダビングし……という活動をしていた高校生時代に幻の一本だった作品。 タイトル前に「ピピピのモールス信号」(RKO)と「ガオー! のライオン」(MGM)が両方流れるあたりに、なかなかソフト化できなかった理由がありそうだが、わざわざ調べる気にはならないので省略。 「Let's Begin」、「I'll Be Hard to Handle」など格段に楽しいナンバーが収められている。 特に後者はアステアとジンジャーが実際にシューズを履いてタップを踊る唯一のシーン。 確実に踏んでいる緊張感と、同時録音だと思われる息づかいや笑い声が嬉しい。 「I Won't Dance」でのソロはまさに“アステア one and only”! タップでもダンスでもない独自のジャンルだと思う。 作品ごとに確実にダンスの技術と勘を上達させてきたジンジャー・ロジャースが「Smoke Gets in Your Eyes」ではイマイチ。厚めのゴージャスさが合わなかったか?(普段はアステアしか見てないが、そんな理由でジンジャーに目がいってしまう) が、その直後の「I Won't Dance」の短いデュオではドレスをたくし上げやんちゃに踊る姿がすこぶるカワイイ。
1935 ウィリアム・A・サイター パンドロ・S・バーマン ロバータNozomi Shirakawa
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私的『 FRED ASTAIRE collection 』DVD化
完全な形での『フレッド・アステア全集』のような映像ソフトはこれまでのところ発売されていない。 幾つかの映画会社をまたいでいるので難しいのだろうし、そもそもDVD化されていない作品が一本ある。 今回の面倒な作業を始めたのは、同じパッケージングで並んでいるのを見てニヤニヤしたいという動機も大きい。 (今後も幾つかの編集等を鋭意計画中。ミュージカル作品以外については予定なし)
Nozomi Shirakawa
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Top Hat
ストーリーがつまらない とか、キャストや服装が同じでどの作品かわからなくなる とか、そんなごもっともなご批判など どうでもよくなる。 『コンチネンタル』での感触を、I・バーリンによる書き下ろしの音楽と共に磨き上げた名作。 個人的にC・ポーターよりも、G・ガーシュインよりもバーリンが好きだが、なかでも「No Strings」はベストの一つ。 この作品以降、アステア映画でのダンスナンバーには隙が無くなったと感じる。どれも納得がいくまで作りこみ、満足するまで撮影したのだろう。 冒頭の「紳士クラブ」や、終盤のスイートルームの上の階で、一見めちゃくちゃなステップを踏んでいるようなタップも、何度も何度もリハーサルしたに違いない、絶対。 「The Piccolino」のデュオは、踊りこなすのがかなり難しいと思う。
1935 マーク・サンドリッチ パンドロ・S・バーマン トップ・ハットNozomi Shirakawa
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Follow the Fleet
珍しく海軍の船員役か! と驚くのも束の間、やっぱり「元ダンサー」。 お、水兵服か! と珍しがるのも束の間、最後は燕尾服。 (どちらも良い意味です) 「Let Yourself Go」での身体のキレはスゴい。ほとんど見ていないが、隣で踊っていて悪目立ちしていないんだからジンジャーもかなりのものなのだと想像できる。 ストーリー仕立てが楽しい「I'd Rather Lead a Band」(最後のポーズはどうしたものなのだろう?)と「I'm Putting All My Eggs in One Basket」(最後のポーズの後、ジンジャーがスカーフを緩めるのは演技だろうか?)。 そしてしっかりとしたダンスシークエンス「Let's Face the Music and Dance」。 ジンジャーのタップソロも見られる(『ダンシング・レディ』のJ・クロフォードより100倍良い)。
1936 マーク・サンドリッチ パンドロ・S・バーマン 艦隊を追ってNozomi Shirakawa
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Swing Time
「Pick Yourself Up」はアステア=ロジャースのタップデュオナンバーとしてはベストだと思う。 「Waltz in Swing Time」、「Bojangles of Harlem」、「Never Gonna Dance」―― 難易度では頂点を極めたダンスナンバー群。 最後のシーンのまとめ方が、まぁなんというかアレだが、キャストとしてはエリック・ブロアーに代わる(?)ヴィクター・ムーアがいい味を出している。 この映画で、燕尾服とモーニングの違いを初めて意識した。 アステアには山高帽はイマイチ似合わないと思う。
1936 ジョージ・スティーヴンス パンドロ・S・バーマン 有頂天時代Nozomi Shirakawa
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Shall We Dance
アステアマニアを自負しているし、関連グッズなどではなく「映画のアステア」を大好きでいる自分なれど、恥ずかしながら、この作品と前作『有頂天時代』は混同してわからなくなってしまう(コロンビアに於けるリタ・ヘイワースとの2作品もだ)。 バレエダンサー役というのが、それだけでまず笑わせてくれるが、「Slap That Bass」や「They All Laughed」の中で、ちょこちょこと茶化した風に小出しにしてくるポーズにもニヤつかされる。 「Let's Call the Whole Thing Off」でのローラースケート……ジンジャー、えらい! 題名にもなっている「Shall We Dance」、タイトルだけだと『王様と私』の同名異曲が有名だが、こちらのガーシュイン版の方が好き。 最後の「大勢のジンジャー」は少し怖いがナイスアイディア。 そして「They All Laughed」での衣裳はとても素敵。実際は何色なんだろうと想像したくなる。やっぱり赤とオレンジと黄色、とかだろうか。
1937 マーク・サンドリッチ パンドロ・S・バーマン 踊らん哉Nozomi Shirakawa
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A Damsel in Distress
「アステア=ロジャース シリーズ」から一度離れたことになる。 その背景や理由についてはいろいろな所に書かれているが、それを考慮しながら見る必要はない良い一本だと思う。 これまでソロかジンジャーと踊るかしかなかったアステアがトリオで、しかも男性ダンサーを含む3人で見せる「Put Me to the Test」(捉えどころのない覚えにくいタイトル)は秀作。 伝わりやすく小気味いいリズムのステップに、ジョージ・バーンズが途中で二度 " Yeah! "と声を出す気持ちもわかるというもの。 中盤の遊園地のシーンの諸々を見て『バンド・ワゴン』の「Shine on Your Shoes」を連想して楽しくなるか、『レッツ・ダンス』の「Tunnel of Love」を思い出して苦い気持ちになるかは、その日の体調と運勢による。 「Nice Work If You Can Get It」のドラムナンバー、燕尾服は製作側からの要望だったかもしれないが、アステア本人が見せ場としてやりたいようにやった感じが滲み出ているようだ。 原題は「囚われの姫君」の意(自分のための備忘録)。
1937 ジョージ・スティーヴンス パンドロ・S・バーマン 踊る騎士Nozomi Shirakawa
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Carefree
気儘=「きまま」と読む。 この作品がアステアとの初めての出逢いだった。 1990年(頃)の正月三が日(あたり)に、日本テレビの深夜枠で、水野晴郎氏の映画番組の特番として『アステア=ロジャース特集』が組まれた。 オンタイムでは見ずに、ビデオに録画したのだが、記憶が間違っていなければ放映の順に見たはずなので、どういう意図でこの一本が最初だったのかは不明。 他の主演作と比べられる今ならわかることだが、ダンスシーンが少ない作品である。 その最初のナンバーが「Since They Turned 'Loch Lomond' into Swing」(全然覚えられない)で、ゴルフクラブを手に、見事なスイングを披露しながらタップを踏むというもの。 とにかく驚いた。「なんだ、この楽しさは!」と。 何度も何度も巻き戻して見直して、このダンスにタップが入っているのに気付いたのは、かなりの回数を経た後だ。 つまり、タップの技術を見せるのではない、、、「見て楽しかった、それがタップだった」という体験。 この体験の翌年からタップダンスを習い始めた。 そんな個人的な思い出は置いておいたとしても、この作品でのジンジャー・ロジャースはとにかくキュートだ。 催眠状態で街に出て、いろいろなイタズラをしでかす時の表情のカワイさといったら! そうそう、ほぼどうでもいいことだが、アステアが珍しく精神科医の役です。
1938 マーク・サンドリッチ パンドロ・S・バーマン 気儘時代Nozomi Shirakawa
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The Story of Vernon and Irene Castle
一連の「アステア=ロジャース シリーズ」の最終作(後に一本だけ共演するが)。 最終作で実在のダンスペアを演じるというのは、妥当というか、誠に相応しい。 衣裳を始め、事実に忠実に描かれたというハナシなので、各ダンスの振り付けも当然そうなのだろうが、どれもアステアにしか見えないというのは流石、というべきか、ご愛嬌とするべきか。 (オリジナルナンバー「By the Light of the Silvery Moon」の軽妙さは素晴らしい) そしてそして。 前作辺りから顕著になってきた、ジンジャー・ロジャースの際立つ美しさ。 初共演の『空中レヴュー時代』から6年。スター女優に“変身”したジンジャーに比べ、アステアは相も変わらず燕尾服を着せられ・・・というようなことが、いろいろな文献に書かれている。 ちなみにこの作品で、アステアは出演ミュージカル映画史上 唯一「死ぬ」。 今回は実在の人物の事実に基づいているので例外なのだが、フレッド・アステアという男、実は「死なない」のだ。 この件に関しては別のところで文章にまとめたので、ご興味がある方は「死なないアステア はしりがき 白川」とGoogleででも検索してみていただきたい。
1939 ヘンリー・C・ポッター パンドロ・S・バーマン カッスル夫妻Nozomi Shirakawa
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Broadway Melody of 1940
どのダンスナンバーも素晴らしいが、やはり「Begin the Beguine」ということになろう。 わざと一度 話を逸らす。 もう一人の主役スター、エレノア・パウエルはダンサーである ―― 体の柔軟性も活かしさまざまなスタイルを取り入れることもできるが、彼女は「タップダンサーである」と言いきっていいと思う。 だから演技は稚拙だ(或るシーンで “驚いて物陰に身を隠す”という芝居など、大袈裟すぎて微笑ましくなってしまうほど)。それはそれでいい。それを補って余りあるほどのダンスシーンの美しさがあるのだから。 で、 その彼女が、この共演から41年後、アステアの「AFI生涯功労賞」受賞パーティーでの祝辞で、 「あの作品(『踊るニュウ・ヨーク』)は、二人のHOOFER(=タップダンサー)がせめぎ合って作り上げたものだった」 というようなことを語っていた。しかも、あの演技力からは想像できないような説得力ある語気で。 話を戻す。 好みの問題はあるにせよ、「Begin the Beguine」はタップダンスとして(ダンサー同士の意地とプライドを懸け)振り付けられた作品として最高峰の一つだと思う。MGMのミュージカルアンソロジー『ザッツ・エンタテインメント!』の冒頭で紹介されているのもその証拠。 他のシーン、例えば「Jukebox Dance」を踊り終えたアステアとパウエルの二人が顔を見合わせ笑いながらフレームアウトしていく様子などは、作品の役柄ではなく素のダンサー同士にしか見えなくて嬉しくなってしまう。 また「Don't Monkey with Broadway」では、アステアには非常に珍しい男性ダンサーとのデュオが見られる。
1940 ノーマン・タウログ ジャック・カミングス 踊るニュウ・ヨークNozomi Shirakawa
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Second Chorus
なかなか見ることのできなかった作品の一つだったが、事前の情報として、あのチャップリンの奥方(だった)ポーレット・ゴダートと共演しているというのが驚きだった。 最後を飾るナンバー「Poor Mr.Chisholm(Hoe Down the Bayou)」だけで見る価値のある作品だが、それよりも長年マニアが思いを馳せていたのが、アウトテイクナンバーの「Me and the Ghost Upstairs」だ。 アステアとの共同振り付けとしてクレジットされるハーミズ・パンとの共演ナンバーとされ、その内容について大いに想像力をかきたてられてきた。 これが最近 YouTubeで遂に見ることができたのだが。。。 こりゃアウトテイク(つまりは「ボツ」)にするよな、と うなづきました。ハイ。 (いつも“誰かを想定して”構成を練り、振り付けをしている二人が、いざ自分たちで踊るとなった時に何をどの程度していいかわからなくなった、という感じなのではないだろうか)
1940 ヘンリー・C・ポッター ボリス・モロス セカンド・コーラスNozomi Shirakawa
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You'll Never Get Rich
正直に白状すると、コレと『You Were Never Lovelier』は区別がつかなくなってしまっている。マニアとしては恥ずかしい。 ただ、原題も出演者も、ストーリーがつまらないところも全部が似すぎている。 そんなことより。 撮影技術でダンスの動きがより的確に捉えられるようになったり、音響効果で音楽とタップの音のバランスが良くなったりと、その辺のおかげも少しはあるのかもしれないが、この作品から数本のアステアの“キレ”には目を見張る凄まじいものがある。年齢的にも最も“体がキく”頃に差し掛かっていた筈だ。 どアタマの「Boogie Barcarolle」でのリタ・ヘイワースとの短いデュオ。 シャッフルやフラップというタップ特有の足の使い方がどうのこうのではなく、ただ足を打つだけ、単に歩くだけ、のような動きのシャープさといったら! そしてこの絶妙なブレンドバランスを「A-Stairable Rag」で、しっかり一曲見せてくれる。
1941 シドニー・ランフィールド サミュエル・ビショフ 踊る結婚式Nozomi Shirakawa