真珠(ミュケナイの王女と海亀の恩返し)

初版 2019/01/10 20:55

詩人ホメロスが、「オデュッセイア」と呼ばれる古代ギリシャの長編叙事詩でも語っていますが、トロイア戦争で有名なミュケナイ王国の王アガメムノンには、3人の娘が居ました。そしてその中でも、末っ子のマルガリーテアは、アガメムノン王から特に可愛がられていたようです。また長女イピゲネイアと次女エレクトラは、あまり性格の良い王女ではなかったと伝えられていますが、マルガリーテアはアガメムノン王からの惜しみない愛を受けて育ったため、非常に優しい王女として有名でした。


ある日、マルガリーテアがエーゲ海をのぞむ海岸を歩いていますと、海亀が引っくり返り海岸に打ち上げられている姿を発見しました。その海亀は非常に大きかったため、マルガリーテアはとても苦労したようですが、なんとか海亀を海に戻す事に成功しました。その日はその後何もなく、マルガリーテアは城に戻る事になりますが、翌日同じように海岸を散歩していますと、再びあの海亀が砂浜に居る姿を見つけました。


しかし今度は、引っくり返って動けないのではなく、海亀が自分から陸に上がってきたようです。マルガリーテアが海亀に近づきますと、海亀は嬉しそうに首を縦に振ってきました。そしてマルガリーテアが海亀の顔を撫でてやりますと、海亀が口の中から白く光る宝玉をマルガリーテアの手に載せました。


それは拳骨大の大きな乳白色の玉で、マルガリーテアはその美しさにとても驚きました。海亀は、その白い宝玉をマルガリーテアに渡すと再び海に戻っていったのですが、海の中から振り返り、ヒレでマルガリーテアを招きました。マルガリーテアは、海亀に呼ばれて少し驚きましたが、勇気を振り絞り、海亀に誘われて海に入ったようです。


マルガリーテアが海に入ると、海亀は甲羅に彼女をつかまらせ、一直線に海底に沈んでいきました。急に自身の体が沈み始めたマルガリーテアは驚きましたが、凄い速さのため、海亀の甲羅から手を離すことに躊躇し、そのまま海底に沈んでいったそうです。どれ程の時間が経過したのかは分かりませんが、マルガリーテアが気付くと、彼女の目の前に大きなシャコ貝が口を開けており、その中には先程の白い宝玉と同じ物が入っている事に気付きました。


海亀は、その白い宝玉を口で咥えると、再びその宝玉を彼女の手に載せたのです。どうやら海亀は、マルガリーテアへの恩貸しのために、合わせて2つの宝玉を渡したかったようです。再び海亀の甲羅につかまり、陸に戻ってきたマルガリーテアは、海亀の頭を撫でながら何度もお礼を言いました。


こうして海の中で生まれた宝玉が、マルガリーテアの手によって、私達人類の許にやってきた訳です。ミュケナイ王国はその後、アガメムノン王がトロイア戦争後に暗殺され、大きな混乱の渦に巻き込まれてしまいましたが、その後マルガリーテア王女が、この時に得た2つの白い宝玉を担保に資金を集め、王家を再興させた事は、オデュッセイアに書かれている通りです。後にこの白い宝玉は、光をもたらしたマルガリーテアの宝物という事で「μαργαριτης 」(マルガリーテース:光の子)と古代ギリシャ語で呼ばれ、これが現在の真珠の語源になっています。


このマルガリーテアへの海亀の恩返しの物語は、後にローマ帝国に伝わり、それがシルクロードを経由して最終的に日本にも伝わったようで、童話「浦島太郎」の原型であるとも言われています。



参考文献

ガセネッタ・マカーナ著 「不思議な宝石の歴史」 民明書房刊 (1961年)



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鉱物採集・収集を趣味?にしています。現在北海道に抑留中。

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