変態的
初版 2024/02/17 19:40
改訂 2024/02/17 19:40
私の知人にすばらしいレコードコレクターがいます。
いや、彼の場合、コレクターというよりも、熱心なリスナーといったほうがいいかもしれません。
その膨大な集積は、集めたものというより集まったものというべきでしょう。
ところで、その人がいうには、レコードというものは一度聴けばそれで十分で、何度も聴く必要がない、と。
そして、どうやらその手持のレコードのほとんどが、一度聴かれただけで、そのまま仕舞われているようなのです。
どうしてかと訊くと、音楽というものは最初に聴いたときが感動のピークであって、あとは何度聴いても初回の感動を超えられないから、というのです。
彼にとって音楽を聴くことは、ものを食べることと同じで、その旺盛な食欲でばりばりものを食ったら、あとに残るのは残骸と食器類だけなのと同じく、彼のもっているレコードはすべて彼が音楽を貪ったあとの残り滓みたいなものなのです。
私が疑問なのは、どうして彼がその残骸を処分せず、いつまでも手元に置いておくか、ですが、これにははっきりした答がもらえませんでした。
いずれにしても、こうまで自分と正反対の人間がいるというのは、私にとっては驚きでした。
私は一枚のレコードをしつこく何度も聴くほうなので。
じっさい、レコードなんて好きなのが何枚かあればそれで十分じゃないか、と思うことがあります。
私は彼のことを一種の変態だと思っていますが、彼の方でも、私のことを一種の変態だと思っていることでしょう。