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ADN’ Ckrystall “De Unicornis Veritate”
ADN’ Ckrystallって聞いて、知ってるって方は相当のシンセマニアですね。私は全然知らずに、まあ中古だから買っちゃおうか位の気持ちで購入しました。この作品は1982-1983年に録音され、1983年には出来上がってはいたのですが、今までリリースはされていなかった「幻のセカンド・アルバム」と言うお蔵入り物件です。それで、スペインのWah Wah Recordsが発掘して、2021年にリリースしたと言う訳です。それで、ADN’ Ckrystallと言うのは、仏のシンセ奏者/宅録者であるErick Moncollinのソロユニット名で、その意味は、ADNと言うのは仏語でDNAのことで、Ckrystallと言うのは、先ず、Ckが本名のeriCkから、Yは彼自身のレーベル或いは曲名Ysil-puckiesから、LLは”aLL… Viola !”のLLから取って、”Jazz’ Mad (彼の中では1980-1983年らしい)”を思いついた「森」を繋げて作った造語です。先ず、Erick Moncollinのバイオグラフィーを調べてみました。Moncollinは、南仏Tarbes近郊の街で生まれ、子供の時に独に4年、パリに3年、そうして仏Tourouseに居を構えています。幼少期には、King Crimsonや”The BeatlesのWhite Album”, T-Rex等を聴いており、その内、Hawkwind, Captain Beefheart等を聴いて育ち、大学時代には、Gong, Utopia, John Cale, Magma, The Stooges, Amon Duul 2, Guru Guru, Tangerine Dream等の電子音楽系クラウトロックにのめり込んでいます。時に仏のCatharsisがお気に入りだったとか。それで、Oberheim 2-4 & 8, SEM Voices, EMS Synthi 100, VCS 3, RMI Kbd Computer 1のシンセに触れたくて仕方がなかったそうです。しかし、シンセ・ショップで、Korg MS-20 flat prototypeを試してみて、凄い音が出ることに気付き、気に入ったそうで、その時に、Yamaha CSQ80のテストをしていたVangelisと、またはMini-Moogを弾いていたTim Blakeともジャムっていたそうです。その2週間後、最初のリズムマシン, ピアノ-ストリングスKbd, エフェクター2台, モノ・シンセを購入し、1977-1979年はToulouseのアートスクールでシンセを使い倒して、色んな実験をしています。1980-1983年が”Jazz’Mad”の年になりますが、その時期に、Moncollinは洞窟や重機置き場、農場のような場所で、ライブ活動を始めています。その時に、地元でシンセの達人Benoit Hutinと出会い、そのライブ音源を聴いたHutinがADN’Ckrystallのアルバムを出すように言われ、初めてスタジオでの録音を経験しています。その時には、Moncollinは、Crumar, ブラス・エフェクターとヴォリューム・ペダルを繋いだMultiman 52, 2台のKawai Synthi 100-F, Roland CR-65, Korg PS-3200, Roland Jupiter-4, Boss Flanger, MXR phaser、それにTEAC 8トラック・レコーダーを使っていましたが、その後のライブの前に、Roland SH-05とSCI Pro-Oneも購入しています。そうして、最初はシンセ奏者のいるバンドを参考にしていましたが、どうも彼等はシンセ以外の楽器も演奏しており、シンセの可能性を拡大しようとはしていないようでした。1977年にパンクが勃興してきた時に、Gary Numan/Tubeway ArmyやSimple Mindsが出てきましたが、仏ではそれ程シンセポップ指向のバンドは多くはなかったとのこと。しかし、1980-1990年には、ゴス/ガレージ/バットケイヴ/ニューウェーブ/エレクトロ/ニューロマ/パンク/実験音楽/ファンク/ポップ・バンドがゴロゴロ出てきましたが、玉石混交でした。一方、ADN’Ckrystallのライブは、そのアナログ機材のセッティングは大変でしたが、Moncollinはそんな機材を無理矢理パッチングしたりして乗り切っていました。この時期(Jazz’Mad)のライブで覚えているのは2回だけで、1回目は、1982年12月のクラブL’Enferで、Moncollinは中心に位置し、その周りに観客が配置されていました。観客は踊っており、1980年代ニューウェーブの反応だなと思っていたそうで、ライティングもあってサイケなニューウェーブ・パーティーとなっていました。もう一つは、ピレニア山脈のクラブ活動Le Puouletでのライブで、Moncollinが歌っている時、酔っ払った警官が、彼のシンセを弾きたがって、演奏の邪魔をしてきたので、クラブのオーナーがこの警官を叩き出し、店を閉めて、もう一度、最初からリプレイしたことらしいです。Moncollinは、特にシンセが上手く弾けた訳ではありませんが、とにかく、彼はシンセの音が好きであったとのこと。ある友人は、「Jazz’Madはまるでロード・オブ・ザ・リングのサントラのようだ」と言っていたそうですが、Moncollin自身はクラウトロックからの影響が大きいと思っていたそうです。彼は、1982年作のアルバム”Jazz’Mad”時代から、割とコンスタントにアルバムをリリースしており、本作品が22枚程のアルバムとなります。この後に、1枚10㌅Mini-LP”Frankraut”を2023年に出しています。ちょっと、データと言うよりも、彼の回想録みたいな感じなんですが、彼が、ADN’ Ckrystallとして、買い集めたシンセを使い倒して、エレクトロな音楽をずっとやり続けてきたのは分かってもらえたでしようか? と言う訳で、本作品”De Unicornis Veritate”を紹介したいと思います。この作品は、ファースト・アルバム”Jazz’Mad”をリリースした後に、セカンド・アルバムとして、直ぐに出す予定だったのですが、何故かお蔵入りになってしまった作品なので、1983年と言う時代背景で聴いてみたいと思います。なお、作曲・演奏・打ち込み・録音等はMoncollin1人やっています。では、内容と各曲を紹介していきたいと思います。 ★A1 “De Unicornis Verythème”は、細やかなシンセの手弾きによる、ちょっと悲しげな旋律から成る小曲です。 ★A2 “In Mutabilitate”も、割とアップテンポなリズムマシンも使ったシンセの手弾きで、音色も余り変わらないですが、一発録りっぽいのか? ★A3 “De Codex Unicornis”も、懐かしいヴィンテージモノのアナログ・シンセによる曲で、リズムマシンも使ってます。ここでは、シンセらしいSE的音作りも披露しています。多分、シーケンサーも使っていないのでは? ★A4 “Unicornis Garden”もチャカポコしたリズムマシンに、ポリシンセのコード進行と、モノシンセによるメロディが組み合わさった曲ですね。如何にも1980年代初頭のシンセの音色です。 ★A5 “Dragonus, Dragonis”も手弾きシンセとリズムマシンによるややアップテンポの曲ですが、リズムマシンの音色が、どうもエレクトーンに付属しているようで、懐かしいです。 ★B1 “De Spirito Signo”は、大体同じようなリズムパターンで、手弾きによるアナログ・シンセのインスト曲なのですが、そのテクニックは凄いです。リズムマシンに、ポリシンセによるコード進行がメロディ代わりになっていますね。 ★B2 “De Unicornis Creature”は、ベース・シンセとコードを弾くポリシンセに、柔らかいモノシンセのメロディが乗ると言う曲ですね。 ★B3 “La Corne Spiralée”は、リズムマシン無しで、ポリシンセのコード進行にモノシンセによるメロディと言う簡素な弾き語り(勿論Voはないですが)から成る曲ですね。後半にもリズムも出てきます。 これは、正直、余りにもテクノロジーを使わな過ぎて、全部、手弾きでほぼ一発録りのようで、聴いていて、折角のシンセなんだから、もっと音色だけでも替えたりした方が良いのでは?と思いました。そうですね、私がまだ多重録音していなかった高校生時代に、一発録りで曲を録音していた時のことを思い出しました。せっかく、色々集めたシンセを沢山持っているのに、そこら辺は惜しいです❗️多重録音すれば、更に表現が広がったと思いますよ。また、全曲、インストなのも、ちょっと残念です。そう言う意味では、最近の作品も聴いてみたいですね! [live at Kernknach on Oct. 27, 2012] https://youtu.be/Mznj142vaaY?si=RSWkpunweeO7Pye5 [本作品はYouTubeにもBandcampにも無かったので、同時期のアルバム”Jazz’ Mad”を貼っておきます] https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_lWul6UC9qOn0dEDUFlBB_GNddVqBszYF0&si=PNf4QkRxfv6q3_J_ #ADN’Ckrystall #DeUnicornisVeritate #WahWahRecords #French #Synthesist #SynthMania #幻のSocondAlbum #1983年recording #2021年release #PreviouslyUnreleased #SynthWave #一発録り #インスト曲 #Synthesizers #ErickMoncollin
Minimal Wave / Experimental Wah Wah Records 3000円Dr K2
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Cour de Récré “s/t”
これまた「謎物件」!殆ど何の知識も無く、ちょっとだけ説明文を読んで、購入したアルバムで、このCour de Récréが如何なるバンドかは全然知りませんでした(ついでに読み方も分からん)。それで、ちょっと調べてみました。レーベルはスペインのElefant Recordsですが、バンドは仏Toulouseで活動しています。メンバーはChloé Crozat (女性Vo), Quentin Lasseyte (Instruments, Vo), StanことStanislas Batisse (Instruments, Vo)の女性1人と男性2人のトリオです。まだ、Cour de Récré (「遊び場」とか「校庭」の意味?)としては、ミニアルバムCD1枚と、デジタル・シングル1作、それにコンピCDRへの参加が1枚だけで、本作品はちゃんとしたフル・アルバムとしてはファーストになります。また、このアルバムは、レーベルElefant Recordsの新人バンド発掘シリーズ”New Adventures In Pop”の第53弾になります。最初のリリースが2018年なので、恐らくはその前(2016年位?)からは活動していたと推測出来ますが、ハッキリと書いてある資料はなかったです(すまん!)。資料がBandcampにありましたので、それからの和訳を掻い摘んで書いておきます。このバンドは元々、StanとHéloïse (この人物については不明)のデュオとして始まりましたが、Stanは仏Avignonに、HéloïseはチリのSantiagoに住んでいた為、バンドと言うよりプロジェクトみたいなものであったようです。その後、直ぐに、Stanの友人Quentinが加入し、ライブ要員として、Heloïseの代わりに、Chloéが参加しており、後には録音でも参加するようになります。しかし順風満帆とは行かず、Stanは2年間、カナダに移住しており、その為、最初のEP “Éponyme”は2018年になって、やっとリリース出来たようです。それで、2019年に、Stanは仏Avignonに戻ってきますが、今度はChloéはParisに行ってしまいます。どうもこのトリオには「距離」が付いて回るみたいでしたが、漸く2021年に、本作品であるファースト・アルバムをリリースしています。このトリオは、言わばシンセ・ポップに括られるのですが、彼等の曲には、Aline, La Monja Enana, Freezepop, The Pirouettes, Denimからの影響も少しはあるようです。それでは、Bandcampの解説も含めて、各曲を紹介していきます。 A1 “Chanson Cathartique”は、LIOの“Amoureux Solitaires”やÉtienne Dahoの“Tombé Pour La France”で聴かれる途轍もない楽しさに溢れていますが、一方で、彼等自身の素晴らしい才能も光っています。それは、多くのラブソングが持っているドラマ性に対して、全く新しい方向からのアプローチしたりする点です。この失恋ソングは、何でも悪い方向に持っていってしまう非モテの「彼」が、恋していることに気付いて、恥じらいながらも、最初の恋愛に再度挑戦し始めると言う話しなんですが、歌詞の絶妙なストーリー性とダンサブルな楽曲を持っているのも高評価出来る点です。更に、この曲では、コーラスやベルで予想外のエンディングも用意されています。A2 “Soleil Levant”は、Stendhal症候群(これは調べてみて!)についての歌詞で、ディスコティックに盛り上がりますが、ヌーベル・ヴァーグ好きの日本人女子と恋に落ちる、日本映画推しのフランス人男子の話しについての曲で、Chloéのロリータ・ヴォーカルが堪能出来て、ダンサブルです。A3 “Le Jardin De Nobuko”は、ノスタルジーには何の価値も無いと歌う、極めて甘いポップ・ソングで、France Gall (私にはStereo Totalっぽく聴こえる)のようなMiaの若々しい歌声も聴けます。A4 “Coeur Cruel”は、このトリオが一番最初に作った曲で、EPとはヴァージョン違いが収められています。アシッドなベースラインと完璧なコーラスも聴くことができ、踊っても良し、メロディに酔いしれるのも良しの、これぞ、ポップと言うべき曲です。A5 “Agathe Agathe”も、彼等のサウンドを押し上げた曲の一つで、バロック的で、時にアップテンポで異形のシンセ・ポップであり、物凄くナイーブな恋心を歌っています。 B1 “Le Roi Est Mort”は、ルイ16世を国民裁判で死刑にした一方で、その為にマリー・アントワネットが悲しんだことを国民自身も思い起こした逸話についての曲で、アルペジオとシンセのリフ(ギターも使っている?)が特徴的な曲です。B2 “Vice Et Werther”は、ゲーテの「若きウェルテル(Werther)の悩み」を再構築した曲で、ウェルテルと別れたシャルロットが「ベストフレンドは近過ぎる。良い友人は人生に必要だか、恋愛は子供の遊びのようなもの」と言う意見を正当化しようとするもので、これをアシッドなベースラインとヴォコーダーと安物のシンセを使って、アップテンポのテクノ・ポップに仕上げています。Chloéと男性のヴォーカルの掛け合いが良いです。B3 “Palacio Ideal”はスペイン音楽の影響を受けているとのこと。と言うのも、Stanの父親は家でElefant Recordsのアルバムを沢山掛けていたからだとか。この曲は郵便屋さんのChevalとその娘の話しですが、Chloéが歌謡曲のように歌っています。B4 “Désolé Je Ne Fume Pas”は女の子のファンタジーについての曲で、その中では、彼氏は煙草を吸っているとのことです。WHOへの挑戦みたいな気持ちをシンセ・パンクな曲にしています。アルバムの中で、一番アップテンポで、Chloéのヴォーカルもやや荒っぽいですね。B5 “A L’ombre D’une Jeune Fille En Pierre”は、仏小説家マルセル・プルーストの作品と関係があるようで、ある彫像に恋した少女の話しで、歌詞も、仏作家/歴史家/考古学者プロスペル・メリメの小説”La Vénus d'Ille”から着想を得ています。また曲も最初はバラード調ですが、段々と”Dirty Dancing”由来の異形のファンク・ジャムへと変化していき、このアルバムを締めています。 とまあ、こんな内容らしいのですが、音楽は基本的にかなりピコってるシンセ・ウェーブでかつ舌足らずに聴こえる仏語の女性Voのコケティッシュで、甘酸っぱいサウンドが詰まっています。どうもデジタル・シンセを使っているらしいのですが、どう聴いても、1980年代のシロップ漬けシンセ・ポップのようで、いやーもう書いていて、こっちが赤面するような曲が盛り沢山です。そう言う意味では、かなり貴重なトリオと言うことが出来ますね。なので、あの10代の頃の甘酸っぱい想い(還暦過ぎたおっさんが言うのもなんですが)に浸りたい時には最適な音楽ですので、中にはドストライクな方もいるのではないでしょうか‼️ B2 “Vice Et Werther” https://youtu.be/poyMxtZrSyE [full album] https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_mGD0clEQM2WeOkyByJtaloUzbT0XZpGtE [BandcampのURLを貼っておきます] https://newadventuresinpop.bandcamp.com/album/cour-de-r-cr #CourDeRécré #ElefantRecords #FrenchPop #SynthWave #NewAdventuresInPop #Vocal #Electronic #Synthesizers #RhythmMachine #ChloéCrozat #QuentinLasseyte #StanislasBatisse #Stan #Toulouse #FrenchLoveSongs #10代の恋愛
Synth Wave Elefant Records 1800円Dr K2