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Siegmar Fricke / A Thunder Orchestra “Energy Is Eternal Delight”
このアルバムは元々は、ポルトガルのカセット・レーベルSPHから1990年にリリースされていたスプリット・カセット作品の再発なんですが、何と、この再発を2枚組レコードで行ったのが、日本(東京)の電子音楽レーベルCalax Recordsなんです。何となく親しみを感じますね。それで、このスプリットのアーティストについて、先ず、紹介していきたいと思います。Siegmar Frickeは、独の電子音楽/実験音楽家で、Pharmakustik名義で、Conrad Schnitzler先生とのコラボ作品3部作(“Kontraktion”, “Extruder”, “Schubkraft”)を出しており、そのことについては以前に紹介しました。なので、そこで彼のバイオグラフィーに関してはそこの紹介文をご参照下さい。Fricke氏は、他にも、復活後のMaurizio Bianchiとも何作もコラボ作品を出しており、活発に活動しています。一方、A Thunder Orchestraの方ですが、ベルギーのDirk De Saever(本名Dirk Desaever)のソロユニットです。他にもDanton's VoiceとかWhite House White名義でも作品を出しています。しかしながら、情報は少なかったんですが、Calax Recordsのインタビューで少しハッキリしました。Desaeverは、ベルギーのHobokenにて、16歳の時に、音楽を始めていますが、最初はカバーバンドのドラムだったようです。しかし、余り上手く叩けなかったのと、練習部屋に置いてあったアナログ・シンセ(Korg MS-10)をいじるのが面白かったことから、シンセに転向。その後、父親が資金を出してくれたので、ドラムマシンやシンセや録音ソフトを入手して、22~23歳まで自身の音楽作製に没頭しています。その間に、自身の個人レーベルClimax Productionも運営し、先述のように様々なユニット名で活動しています。同国のバンドThe Neon Judgement, The Klinik, Absolute Body Control達ともカセット・カルチャーで結び付いていたようです。そして、彼が影響を受けたアーティストはSkinny Puppy, Laibach, Severed Heads, Chris & Cosey, Die Form, Cabs, Test Dept., The Virgin Prunesとのことですが、先述のように22~23歳の時に機材を全て売り払って、音楽活動から手を引いています。その後、大学の司書をやりながら、何と(!)クラシック・ギターを練習して、今やバロックやルネッサンス、タンゴなど幅広いスタイルの曲を演奏できるらしいです。それでも、Alex Turnerがプロデュースした曲は大好きで、他にもThe Last Shadow Puppets/”Aviation”やPearl Jam/"Alive”, Joy Division/"Atmosphere", Bauhaus/"The Passion of Lovers"だとかは彼のお気に入りだとか。いやはや、こう言う方だとは思いませんでした。 と言う訳で、本作品を紹介していきたいと思います。LP1はSiegmar Fricke氏の曲全8曲から成り、LP2はA Thunder Orchestraの曲全8曲から成ります。 LP1 Siegmar Frickeサイド A1 “Go Skate Or Go Home!”は、意外にもストレートなビートとシグナル的シンセから成るミニマルな曲で、所々でのエフェクトの掛け方が絶妙。 A2 “This Is John”は、男女の語りをサンプリングして弄り回し、ミニマルなピアノとキックと組み合わせた曲で、中々面白い。後半はシンセのリフが! A3 “Parking In France”も、やはり声のサンプリングと、独特のグルーヴを持ったリズム及びデジタルっぽい音色のシンセが特徴的な曲です。 A4 “On the 3-hour-jam”でも、タイトルの語りをサンプリングして、如何にもクラウトロックなシーケンスとメロディを合わせた彼らしい立ち位置の曲です。 B1 “Rap Signals”は、シンコペーションの効いたリズムと声のサンプリングとが絶妙なミニマルな曲で、テープ・スクラッチ等のSEの使い方が秀逸です。 B2 “In Good Shape“では、馬の駆けるようなリズムとウィスパー・ヴォイスのようなシンセの浮遊感が堪らない曲です。 B3 “This Is John (Remix 91)”は、A2のリミックスみたいですが、サンプリング(男声のみ)とピアノはそのままに、キック音と(笛の様な)電子音が強調されています。 B4 “Strikes”は、デジタルっぽいシンセに導かれて、ミニマルなビートと構成から成る曲となっており、コード進行がちょっと哀愁的ですね。 LP1のFrickeサイドは全体的に、電子系クラウトロックからミニマル・ウェーブへの橋渡しとなるような作品になっており、以前聴いたParmakustik名義と全く違っていて、ちゃんとポップになっている所が面白かったです。独逸人独特のミニマルさと声のサンプリングを多用しているのも高得点です。 LP2 A Thunder Orchestraサイド C1 “Birch”は、いきなりの6/8拍子の変則エレ・ポップで、危機迫る感が半端ないです。恐らくヴォーカルもDesaever自身ですね。 C2 “Coming Closer”は、またまた交響楽のような演奏なんですが、これ、どうやって作ったのでしょう?因みに切羽詰まったヴォーカル入りです。 C3 “Reaching Out For That Brand New Little Nothing”で、やっと普通(?)のエレ・ポップらしき曲になってきましたが、構成は極めてミニマルです。 C4 “Show You The Way”でも、変則的なマシンリズムに、ジャンクな打楽器とダルダルなヴォーカルから成る変態的な曲です。 D1 “Columbarium”は、微音でスタートしたかと思ったら、重くて太いシンセ・ベースから成るシーケンスとキックが始まり、それに隠れてシンセ音が遊んでいますが、最後はしっとりと終わります。 D2 “Dropsical”も、アンビエンスなシンセ音とキックの対比が面白く、C面に比べて大人し目な曲ですね。 D3 “She Lives In A Dream”では、またまた室内楽のような演奏をバックに、ハキハキしたヴォーカルが乗ってきます。 D4 “Retribution”でも、大人しいイントロから、怒涛のリズムがフェイドインして、やがてシンセによるミニマルなリフが入ってきます。 A Thunder Orchestraサイドの方は、より変態的と言うか仕掛けがある曲が程良く並んでおり、ここら辺は何かある意味「素人」っぽい感じがして、当時のカセット・シーンを懐かしく思い出しました。後、謎なのは、C2やD3でのクラシックの演奏のようなバックの音はどうやって作ったのかな?と不思議に思いました。 総じて、両者ともミニマルな構成が基本にあって、Fricke氏はクラウトロックからのガチガチの独逸っぽいアプローチを行い、A Thunder Orchestraはより実験的で素人的なアプローチを行っており、その違いも非常に興味深かったです❗️ひょっとすると国内盤でも購入出来るかもしれないので、興味のある方は是非‼️ LP1 Siegmar Fricke A1 “Go Skate Or Go Home!” A2 “This Is John” A3 “Parking In France” A4 “On the 3-hour-jam” B1 “Rap Signals” B2 “In Good Shape“ B3 “This Is John (Remix 91)” B4 “Strikes” LP2 A Thunder Orchestra C1 “Birch” C2 “Coming Closer” C3 “Reaching Out For That Brand New Little Nothing” C4 “Show You The Way” D1 “Columbarium” D2 “Dropsical” D3 “She Lives In A Dream” D4 “Retribution” [original cassette album] https://youtu.be/S80_AiSXWIs?si=jyvIPPipFIuAoIur [SoundcloudのURLも貼っておきます] https://on.soundcloud.com/DKccZ26Af3hCmGp58 #SiegmarFricke #AThunderOrchestra #EnergyIsEternalDelight #CalaxRecords #SPH #Reissue #2LPs #SplitWork #Germany #Belgium #DirkDeSaever #Electronic #MinimalWave #Groove #Sampling #Experimental #Classic
Electronic / Minimal Wave / Experimental Calax Records 不明Dr K2
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Hastings Of Malawi “Visceral Underskinnings”
この前、ご紹介したHastings Of Malawi (以下HOMと表記)ですが、HOMのアルバムを持っていたことを持っていたことを思い出して、発掘しました。本作品”Visceral Underskinnings”は、彼等のセカンド・アルバムに当たります。Nurse With Wound (以下NWWと表記)のオリジナル・メンバーで1990年代初頭まで在籍していたHeman Pathakと、NWWの1stアルバムにも参加しているDavid HodesとJohn Grieve(によって結成された英国ダダイスト・グループが、このHOMです。彼等のファースト・アルバムでは、1981年のある夜、スタジオで、ドラム、クラリネット、シンセ、ピアノだけでは無く、スタジオに置いてあった古いレコード、料理本、電話帳や電話と言った非楽器も用いて録音をしたとか。彼等のバイオグラフィーは前回、ご紹介しましたので、そちらをご参照下さい。 それで、HOMのセカンド・アルバム”Visceral Underskinnings”ですが、両面とも1曲ずつで、また曲名も記載がありません(ただし、Metalator 1 / Slowly Eric (ゆっくりとエリック) / Idealised Freedom Lament // Metalator 2 / Concrete Voluteとの記載が裏ジャケにある)。と言う徹底振りで、ファースト・アルバムを1981年にリリースしてから、何と35年振りに、本作品でもあるセカンド・アルバムが出されたと言いますから、そのマイペース振り(?)は凄いですね。彼等にとって、本作品は、40分に渡る光源の無い映画(つまり映像の無い映画)であり、電話や電子機器の発達した現代社会における人間の状態を反映させたものであるとのことです。何とそこには、米国初代大統領のGeorge Washington Johnsonの声やMalawiの初代大統領Dr Hastings Bandaの声も使われているらしいです。それらは、コンピュータ音楽とか声の合成とか冷戦時代の各局の放送とか米軍の武器の音とかを録音して、彫刻のようにHOMが30年以上かけて作り上げた作品な訳です。HOMは、サウンド・アートと音楽の交わるグレーな立ち位置に留まっていますが、HOMはその一方に属することを嫌い、またどちらにも良い顔をする訳でもないです。この立ち位置にある作品は、決して聴き易い作品ではなく、聴く者がその意味を解読しようが、解読しまいが関係がないとのことです。と言う訳で、内容の詳細も先述した通り、A面は、物音系の音とか金属製の音の連なりから始まり、古いレコード音へと急変し、電話のコネクターのクリック音や再びの古レコード音、更に、ドローン様の持続音へ。そして、電話交換手の声やプッシュ式電話の音が続き、やがて逆回転や正体不明な物音へと変容し、またまた古いレコード音へ。更に、重い重力音が唸り出し、どんどんと電磁気音へ、更に音響詩の男性の声とテープ操作とオルガン。更に土着民族の踊りや女性ナレーションになり、A面は終わります。B面も、金属製の音や唄いで始まるも、モーター音のような持続音へ。そして、キーボードの即興のような音に急変し、また日本語のナレーションと動物の鳴き声へ、更に、金属製の音へと移ろい、低速回転の男性の声に変容していきます。何かを燃やす音から散歩する音、更に人の声等がブレンドされ、再び、金属箱の音や水音に代わり、段々とテープ操作された人の声とストリングスへと移行、グチャグチャになった所で、罵倒する声や囁き、それに正体不明の物音に変わり、やがて囁くような微音へと落ち着いて終わります。今回、敢えて、内容を具体化して書いていますが、こんなことは無視して、音の万華鏡/紙芝居のようなHOMの音楽を堪能して下さい‼️NWWとの比較も面白いかも? 感じるのはあくまで貴方自身です❗️ Side A https://youtu.be/yz2aSXo1fzI?si=_B6x9muUK3MXvtsE Side B https://youtu.be/36R3X72i26k?si=P9sfCX6l-hiOytE6 #HastingsOfMalawi #VisceralUnderskinnings #SubRosa #PapalProducts #Experimental #MusiqueConcrete #Collage #BritishDadaistGroup #Dada #HemanPathak #DavidHodes #JohnGrieve #NurseWithWound #Telephone #OldRecords
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