プレス・マーク(PM)の刻印と読み方 東芝5

初版 2023/01/05 06:36

改訂 2023/01/05 06:36

例外、不明点、注意点

見本盤(刻印の例外)

 1970年代後半頃までの多くの見本盤には、PMの刻印がありません。この「PMのない見本盤がある」という事実は、実はとても重要なことなのですが、それは後で説明します。

7:30の「2」(不明点)

 60年代のシングル盤の中には、PMとは別に、7:30の位置に「2」と刻印されているものがあります。この意味合いは不明です。

ジャケットと盤の差し換え(注意点)

 ワン・オーナーの個人所有品は問題ありませんが、コレクターやディーラーを経由した商品は、ジャケットと盤の組み合わせが差し換えによって崩れていることがあります。ジャケットも盤も(帯も)最良の組み合せでコレクション価値(商品価値)を高めたい、といった動機によるものと思いますが、研究する際には、注意しなければいけない点です。が、逆に「あり得ない組み合わせ」であることから、差し換えられていることを見破るヒントにもなります。

調査対象について

 手元にある東芝の洋楽レコード(クラシックも含む)を対象としました。総数は約900枚(LP,シングル,EPの合計)です。邦楽はほとんど手持ちがありませんので、調査出来ていません

国内東芝盤のマトリクスNo等について

 これ以降、PMがプレス時期を示すと考える根拠を説明しますが、その前に、東芝国内盤のマトリクス等について確認しておく必要があります。

マクトリクスの刻印位置

 PMが存在する時代の国内盤の場合、マトリクス関係は1箇所にまとめられています。イギリスEMIのように、9:00がマザー,3:00がスタンパーというようにはなっていません。

マトリクスの刻印

 手元にある盤の中から、典型的な事例を以下に記します。

 ご覧のように、マトリクスの枝番とマザーNoの区別が判然としませんが、ヘッダー部全体でマトリクスとマザーの情報を表している、と考えてよいでしょう。これらは、ラッカー盤(メタル・マスター)かマザーに刻印されていることになります。
 ディテール部は、その刻印のされ方が明らかにヘッダー部とは異なっており、出所の違うことが窺えます。これがスタンパーNoでしょう。f)やg)のように、大きな数字が見られることもその裏付けとなります。
 ここで重要なことは「PMの出所がスタンパーであるか否か」だけなので、マトリクスの問題については深入りを避け、本来のマトリクスNo,その枝番,マザーの番号までをひと括りに「ヘッダー」として表現します。(広義のマトリクスとお考えください)

PMの立証プロセス

 PMがプレス時期を表すと考える根拠を、以下の3つの視点から説明します。

スタンパーへの刻印

 もしPMがラッカー盤に刻印されているのならば、そこから作られたレコードにはすべて共通の情報が刻まれることになります。マザーだったとしても、範囲が狭まるだけで同じことです。それではプレス時期の情報とはなり得ません。つまり、PMがプレス時期を示すことを立証するためには、まず、それがラッカー盤やマザーではなく、スタンパーに刻印されていることを立証する必要があります。

都度刻印

 スタンパーに刻印されているということは、必要条件ではありますがそれだけでは不十分です。プレス時期ではなく、スタンパーの作られた時期を示している可能性があるからです。即ち、プレスの都度、追加刻印されて行ったということを立証すること、これが充分条件になります。

PMの意味

 数字やアルファベットが、年月を表すことを立証する必要があります。

立証1:スタンパー刻印

PMの無い見本盤の存在

 レコードの製造プロセスから考えて、上流工程で刻印されたものはそのまま下流の工程に引き継がれます。
PMの無い見本盤と言えども、マトリクス等は(ヘッダー&ディテール共に)刻印されています。PMだけが無いのです。PMがラッカー盤やマザーに刻印されているのだとしたら、見本盤にも存在しなければなりません。それが無いということは、スタンパーに刻印されているとしか考えられないことになります。
  以下に、同一盤の見本盤と本盤の実例を示します。アイテムは、「ベンチャーズ・ベスト20」(1973.10.20発売)です。

両者は、スタンパーこそ異なっていますが、ヘッダー部は同一ですので、マザーまでは同じです。
従ってb)のPM「3-X V/」は、これをプレスしたスタンパーから伝えられた情報であることが明白です。

ヘッダーが同一で別PMの存在

 本盤同士でも、ヘッダー部までが同一であるにもかかわらず、PMは別というものがあります。これは比較的容易に見つけられます。一例として、「キャラバン/ベンチャーズ」(1965年5月5日発売)の事例を掲げます。

片面刻印

 PMの刻印は原則として片面のみです。PMがラッカー盤やマザーに関する情報を示すのだとしたら、すべての面に刻印されている筈です。片面にしか刻印されていないということは、それが片面だけでことが足りる情報なのだということであり、換言すればA/B面共通の情報だということです。これはレコードの製造工程から考えて、A/B面が合体するプレス工程しかありません。

立証2:都度刻印

複数刻印の存在

 前述のように、PMの刻印はひとつとは限らず、複数刻印がたくさんあります。PMがスタンパー作成時期を示すのだとしたら、それはひとつだけでよいことになります。複数あるということは、スタンパー作成後の何らかのアクションの履歴を示しているわけで、具体的なアクションとは「そのスタンパーを使用して行われたプレス作業」と考えるのが最も自然でしょう。
 以下に、複数刻印の興味深い事例を挙げます。アイテムは「ビートルズ’65」です。

 b)が複数刻印となっており、同じスタンパーを使って、1968年8月,同年10月,1969年10月の3回に亘ってプレスが行われたことを示しています。
 本題からは外れますが、これを見ていると、ビートルズのアップル・レーベルへの移行に際し、ジャケットやレーベル等の紙系は必要な修正が行われたものの、盤に関しては何も手が加えられなかったことが窺えます。両者のヘッダー部は同一ですので、オデオン盤と地続きになっているようです。また、1968年10月というのは国内でのアップル・レーベル登場以前になりますので、b)の「8H」,「8K」はAPではなく、OP-8442としてのプレスだった可能性が高いです。最後の「9K」は、間違いなくAP盤のプレス時期です。この辺り、今後の研究を進める際の注意点にもなりそうです。

立証3:PMの意味

 多数の情報を発売日順にソートし、概観することによって仮説形成しました。
 年に関しては、発売年毎にある程度のグループにまとまること、社名表記の違い等から後期のプレスと思われる商品は、そのグループから外れていること等から仮説しました。
 月に関しては、タイプ1,2共に12種類しかなく、12種類で表現される情報範囲という観点から仮説しました。
更に、PMのある見本盤やリアルタイム購入品等、PM以外の情報からプレス時期を推定し易い商品での整合性を決め手としました。

国内盤アナログ・レコード(1950年代〜1960年代〜1970年頃)のデータ・ベース(リスト)を作成しています。
(国内盤レコードDB)
ジャンルはオール・ジャンルで、フォーマットはExcel ファイル(xlsx)です。
現在仮開示しているのは、
日本グラモフォン
東芝
日蓄工業
日本ウエストミンスター
日本ディスク(1950年代)
日本マーキュリー(1950年代)
ユニバーサル・レコード(1950年代)
日本コロムビア
キング・レコード
です。

今後、随時追加していく予定ですが、時間はかかります。

ダウンロードして自由に使って頂いて結構ですが、同時に開示している説明ファイル(ワード文書 or リッチ・テキスト)を
よくお読みになってください。また、現段階ではあくまでも仮開示であり、完成形ではないことにもご留意ください。

https://1drv.ms/u/s!ApINowI3ybkacrP3M_GV7wSe6j0?e=67lDy2

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