プロコル・ハルムの青い影 そのルーツ

初版 2021/07/20 05:40

プロコル・ハルムの「青い影」、国内初出は D-1012(キング・レコードの DERAM レーベル)で1967年7月20日発売です。

多くの人にとってインパクトが大きかった曲ではないかと思います。


バッハのアリアの影響

イントロに、バッハのアリア(管弦楽組曲第3番)からの引用が指摘されています。でも原曲を聴いてみても、どこが引用なのかピンと来ないと感じた方もまた多かったのではないでしょうか?

今回はその辺りを探ってみたいと思います。


実は、「青い影」のイントロのオルガンですが、このメロディはバッハの原曲にはありません。類似性があるとすれば、冒頭の音が長く引き延ばされているという点だけです。冒頭音の引き延ばしは「青い影」の重要なポイントではありますが、引用と言うほどのものではないでしょう。


むしろ、もっとはっきり確認できるのがバス・パートです。

まず、原曲のスコアの冒頭部分を掲げてみます。

メロディは第1ヴァイオリンに現れるのですが、出だしは全音符の引き延ばしです。

そして、バスが特徴的な8分音符を刻んでいるのがお判りいただけるでしょうか?

ここが大切なポイントです。

でも、譜面なんか読めないという方もいらっしゃいますよね。

そこで、バス・パートのみを、こんな風に書き換えてみました。スコアの黄色くマーキングした部分を、ハ長調に置き変えて音名で現しました。↑は1オクターブ上の音を意味します。

実際に演奏されているところを貼っておきます、バスの動きがビジュアルとしても捉え易いようにピアノ編曲版を選びましたので、左手に注目して最初の部分だけでもご覧になってみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=uOrXrpKUIFM



このバス・パートからオクターブの上下動を取り除くと、


ドー・ドー・シー・シー・ラー・ラー・ソー・ソー


という単純な下降音階になります。

ここにリズムの弾みを加えて、


ドー・ッド・シー・ッシ・ラー・ッラ・ソー


とすると、「青い影」のベース・パートになります。

音名画像の「アリア」の下段に示しているのがそれです。

黄色同士・緑色同士が関連する音になります。原曲から変更されているのは

  • オクターブの上下運動をなくしたこと(音程の動きは平坦に)
  • リズムが8分音符の刻みから、付点4分+8分音符になったこと(リズムには弾みをつける)

この2点です。

そこに注意して、「青い影」のベースを聴いてみてください。

実はこのベースの音型は、イントロだけでなくヴォーカルが入ってからも音楽の屋台骨として延々と流れています。

https://www.youtube.com/watch?v=cTxvYuyEssU



整理しますと類似性のポイントは、

  • メロディの冒頭音の引き延ばし
  • バス・パート

ということで、「これだけ?」と言ってしまえばそれまでですが、どちらの曲にとっても曲の骨格を形成する重要な要素になっていると思います。


バッハのカンタータ第140番の影響

更にもう一点あります。

これは余り語られていないように思うのですが、オルガンのメロディの中に、とてもよく似た原曲があるのです。

それもバッハの作品で、カンタータ第140番「目覚めよと呼ぶ声あり」です。

先程と同様にハ長調の音名で、原曲と「青い影」を示してみます。

リズムは変更されていますが、音程の動きがそっくりで、むしろこの方が「引用」と言うのに近い気がします。

原曲がこちらです。室内楽にアレンジされたバージョンですが、始まって 0'25" あたりからのオーボエのメロディがそれです。

https://www.youtube.com/watch?v=CQCtpJpJrW0


「青い影」では 0'08" からのオルガンに注目して下さい。


如何でしたか?


「引用」とは言っても、そっくりそのまま頂戴したというものではないのですね。バッハの音楽から影響を受けていることは確かですが、それを素材として取り込んだ上で、自分たちの音楽として再構成したと言った方が良いように思います。

そういう意味で、「引用」ではなく「ルーツ」だと思うわけです。


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#比較

#参考

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#バッハ

国内盤アナログ・レコード(1950年代〜1960年代〜1970年頃)のデータ・ベース(リスト)を作成しています。
(国内盤レコードDB)
ジャンルはオール・ジャンルで、フォーマットはExcel ファイル(xlsx)です。
現在仮開示しているのは、
日本グラモフォン
東芝
日蓄工業
日本ウエストミンスター
日本ディスク(1950年代)
日本マーキュリー(1950年代)
ユニバーサル・レコード(1950年代)
日本コロムビア
キング・レコード
です。

今後、随時追加していく予定ですが、時間はかかります。

ダウンロードして自由に使って頂いて結構ですが、同時に開示している説明ファイル(ワード文書 or リッチ・テキスト)を
よくお読みになってください。また、現段階ではあくまでも仮開示であり、完成形ではないことにもご留意ください。

https://1drv.ms/u/s!ApINowI3ybkacrP3M_GV7wSe6j0?e=67lDy2

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