エカナイト/エカナ石
エカナイトは1953年にセイロン島で発見された暗緑褐色の放射性鉱物。
その発見者にしてスリランカの学者であったエカナヤク氏(F.L.D.Ekanayake)に因んで命名され、1961年に新種として認定されました。
組成中にトリウムと微量のウランを含有するケイ酸化合物で、往々にして多くの個体が「メタミクト化」を引き起こしているとされます。
メタミクト化とはウラン・トリウム等の放射性元素を含有するために起こるもので、それらの崩壊に際して放たれる放射線により、自己の結晶構造が破壊されてしまう現象です。
その照射を長期間にわたり受け続けた結晶には格子欠陥が生じ、硬度や屈折率、色味といった諸々の物性が低下してしまうのです。
エカナイトが主成分とするトリウム核種は、おそらく天然存在比99.98%かつ半減期140億年の『トリウム232』。
従ってこの石が発する放射線は、トリウム232がラジウム228へ壊変する際に放出されるα線。
そしてラジウム228から鉛208へ至る壊変過程で放出されるα線とβ線が多くを占めていると思われます。
試しにサーベイメータを近付けてみたところ忙しないクリック音とともにカウントが上昇。
測定の結果、計数率455cpm、線量率にして1.363μSv/hという数値が得られました。
一応は宝石として扱われている鉱物ですが如何せん色が地味すぎるため価格も人気も低く、一般的なジュエリー売場に並ぶことはまずありません。
そして何より放射性であることが災いしてか、こうして愛好者向けのカット石が少量ばかり流通するのみであります。
放射性鉱物…そんな危なっかしい代物を一般人が所持していて大丈夫なのかと不安視される方もおられるかもしれません。
そこで簡単ではありますが以下のようなリスク評価をしてみました。
まずトリウム232が放つα線エネルギーには4.012MeVまたは3.950MeVの2パターンがありますが、これらは空気中を数cm進むことが精一杯な強度であるため、人間の皮膚に到達しても表面の不感層70μmを通過することができません。
よってα線による外部被ばくを考慮する必要はありません。
次にトリウム232の子孫核種が放っているβ線について。
β線は皮膚の中を数mm進むことができるもののやはり透過力が弱く、薄い金属板で遮蔽することができます。
そこでアルミ板を隔てて計測すると、線量率は0.039μSv/hにまで低減されることが確認できました。
また、保管用のガラス蓋ケースに入れた状態で測定したところ0.189μSv/hに減少。
アルミほどではないにしろ、ガラスでも確かな低減効果が認められました。
従って常に肌身離さず装着しているならまだしもこのようにケースに入れ、更に十分な離隔をとって保管しておく分にはβ線の影響もそこまで心配する必要はないと思います。
強いて気を付けるべきことがあるとすれば、それは誤飲等による体内への取り込み。
このようなルースであれば飲み込んだとしても間違いなく体外に排出されますが、α線の真の恐ろしさは内部被ばくにあると言っても過言ではありませんのでこれだけは何を置いても避けなければなりません。
渋い色味ながら、ペンライトで照らすとペリドットのように笑み返してくれるこの石が私は大好きです。
なので今後も「時間」「距離」「遮蔽」の3つを心掛けて、楽しく安全に愛でて参りたいと思います。
宝石
鉱物標本
4.5~6
2012年
テッツァライト