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メモ書き込み機能つきフィルムカメラ@大正前期の写真術解説書
大阪の老舗写真器械商が大正の半ばごろに出した一般向け写真術解説書の巻末に、アメリカ・ニューヨークの写真器材メーカー、イーストマン・コダック社の広告が30ページ以上も載っているのだが、そこに「フィルムにメモ書きを焼き込むことができるカメラ」というのがあったので、今回はそれをご覧いただこう。当時フィルムは全く輸入に頼っており、この本が出た翌年の大正8年(1919年)に設立された大日本セルロイド(同社については、セルロイド工程の回でも出てきた https://muuseo.com/lab-4-retroimage.jp/items/122 )が、我が国で初めてフィルムベースの国産化に取り組みだしたのは大正9年(1920年)なのだが、同社が自力開発を目指すに至ったのは、その前にコダック社に提携生産を持ちかけて蹴飛ばされたかららしい。 https://www.fujifilm.co.jp/corporate/aboutus/history/ayumi/dai1-01.html かつてのロールフィルムには、写す前に感光してしまわないよう赤い紙が保護紙として被せてあったらしいが、説明文にあるようにこのカメラには裏側に蓋つきの小窓があって、そこにやや堅い芯の鉛筆か鉄筆の先を突っ込んで写真のタイトルとか日付とか書き込んでから蓋を開けたまま短時間カメラ裏側を自然光に当てると、保護紙が削れた部分のみ感光して文字がフィルムの端っこに残る、という仕組みだったようだ。実際にどんな風に画面に現われるかは、2枚目のページに載せられている図版でおわかりいただけるだろう。 3枚目以降、この機構をもったカメラのラインナップが木口木版の図版入りでくわしく紹介されている。これだけいくつも種類が出ているということは、少なくともアメリカではかなりの人気を博したのではないかと想像される。本体もフィルムも、価格は通常品とさして変わらなかったようだ。しかし(それほど数を見ているわけではないけれども)、日本でこうした手描きメモが焼き込まれた写真というのにはついぞお目にかかったことがない……日本文字はアルファベットよりもはるかに画数が多いから、こんなせせこましいスペースだと書きづらいだろうし、わざわざ特殊なカメラを買ってそこまでしなくても印画紙に焼いてからメモっとけばいーじゃないの、ということで需要が伸びなかったのかもしれない。
通俗寫眞術 大正07年(1918年) 大正02年(1913年) 木口木版刷り+網版刷り+活版刷り図版研レトロ図版博物館
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宝石とその原石の図@大正期の鉱物学教科書
梅雨入りが近づいていてどうもぱっとしないお天気とか、識れば識るほどモヤモヤする世の中の仕組みとか、いろいろ気ふさぎなので綺麗な石ころの絵でもながめて、せめて気分だけでもさわやかにさせておきたい。 ……ということで、100年ばかり昔の鉱物の教科書を1冊引っ張り出してみた。巻頭には宝石にする代表的な非金属鉱物の原石と、カットした石とを対比した図が載っていて、被せてある薄葉紙にそれぞれの名称が書いてある。右上から「紅寶石(=ルビー)」「金剛石(=ダイアモンド)」「黃玉石(=トパーズ)」「蛋白石(=オパール)」「綠柱石(=ベリル)」「藍寶石(=サファイア)」「紫水晶(=アメジスト)」。これは写真ではなくてイラスト、色鉛筆かチョークか、固形の画材で描かれているようだ。拡大してみると意外ともんやりした感じなのだが、ちょっと離れてみると結構それらしい質感が出ている描き方とおもう。極く薄い青の背景が絵を引き立たせている。こんな立派な標本は、現物ではなかなか用意できないだろうが、イラストで描けば理想通りのものが見せられる。だからこそ、写真にはしなかったものとおもわれる。なおHBプロセス方式による三色版が国内のオフセット印刷に導入されたのは大正8年(1919年)だそうだから、この図版は手間のかかる網版多色刷りの最後の方、ということになるだろうか。 本文の「非金屬實用鑛物(其三)寶石類」という章に解説があって、ここに掲げた終いのモノクロ図版3枚はそれに添えられたもの。当時流行った、小さい石と細かい彫金の細身リングの図が応用宝飾製品の例としてあげられている。なお本文の「黃玉石」は身のまわりの装飾用、「金剛石」はくび飾り、えり飾り、帯留め、時計の飾りに使われる、とある。当時のダイアモンド加工品は1カラットあたりだいたい200円あまり(ちなみに、当時の小学校教員初任給が15〜20円くらいだったらしい)、とも書いてある。一方「鋼玉石(=コランダム)」については紅色のものを「紅寶石〈ルビイ〉」、青色のものを「青玉」または「青寶石〈サフアイア〉」といい、わけてもルビーの透明で濃い紅色を帯びたものはダイアモンドよりも高価、とある。それに加えて、ルビーは産出量が少なく需要が多いため、宝石商店で売られているもののうちには人造宝石やザクロ石、トパーズ、蛍石などでこしらえた模造品が少なくない、とか……。やれやれ、人をたぶらかして金もうけしようという手合いはいつの世にもぞろぞろいるものらしい。
訂正中等教育近世鑛物教科書 大正07年(1918年) 大正03年(1914年) 網版多色刷り+銅版刷り+活版刷り図版研レトロ図版博物館