勝ち負けだけではない、多彩な“楽しみ”が味わえる「すごろくや」

取材・文・写真/山川 譲

昔から映画や音楽、バイクが好き。でも、「なぜ?」と聞かれると困ったもので。気付いたら考えていたので「好き」、「なぜ好きか」は考えたことがない。本連載では、僕が好きなモノの作り手さんにお話しを聴いて、「なぜ好きか」に迫り、モノが持つ魅力を見つけていきます。今回は、世界中のカードゲームを集め、独自の遊びかたも考案している「すごろくや」の丸田康司さんにカードゲームの魅力、“遊び”へのこだわりを聞いてみました。

MuuseoSquareイメージ

すごろくやはDixit(ディクシット)というゲームで知りました。Dixitは、フランスで誕生したボードゲーム。ボードゲームで有名なドイツで、年間ゲーム大賞を取得したほか、世界各国で高い評価を得ています。独創的な絵に自由にタイトルをつけて遊ぶ単純なゲームで、続編や追加のカードも豊富。「ネットではなく実際に追加のカードを見て買いたい」とボードゲームに詳しい友人に話したら、「高円寺に良いお店があるよ!」と教えてもらいました。

「ボードゲームって面白いんだ」

山川:丸田さんがボードゲームに興味を持ったきっかけは?

丸田さん(以下、敬称略):昔、働いていた六本木のWAVEビル近くにプレイシングスというお店がありました。世界中から集めたパズルやボードゲームが並んでいたお店で、当時の上司だった石原恒和さんがよく行っていたそうです。石原さんや先輩たちからドイツ発の新世代ボードゲームを教わって「ボードゲームも楽しいんだな」と思ったのがきっかけでした。

山川:石原さんはテレビゲームソフト「MOTHER2〜ギーグの逆襲」でプロデューサーを務めたかたですよね。丸田さんはすごろくやの前はどんなお仕事をされていたんですか?

丸田:僕は「面白い」を作るのが好きで、テレビゲームの業界にいたんです。「MOTHER2」や「風来のシレン」シリーズの製作にも関わっていました。ゲームキューブで「ホームランド」というゲームを監督したあと、テレビゲーム業界を離れました。

山川:「ホームランド」は大好きなゲームです。仲間と手を繋いでパワーアップしたり、解いた謎によってストーリーが変わってくなど、斬新なゲームなのにあまり有名ではなくもったいないと思っていました。

丸田:チュンソフトの中村社長から「オンラインゲームを作って欲しい」と言われたんですが、どうせ作るなら当時人気だったオンラインゲームがやっていないことをやってみたいと思いました。すでにオンラインプレイ用のサーバは閉じたのですが、実はいまでもオンラインプレイが遊べます。まだ遊んでいるかたもいるようですよ。

山川:テレビゲーム業界を離れたのはなぜですか?

丸田:テレビゲームが追求する“楽しさ”と、個人的に考えていた“楽しさ”にズレが生じてきたからです。たとえばRPGの“楽しさ”は、レベルを上げて強い装備を揃え、強いモンスターを倒していく。でも“楽しさ”はそれだけではありません。モンスターや街、キャラクターなど、“新しい”に出会う、発見することも楽しい。しかし、開発にかかる金額が増えていき、RPGに限らずテレビゲームでは表現できる“楽しさ”に限界が出来ていくように感じたんです。

山川:テレビゲーム業界から離れるとき、ボードゲームのお店を始めることは決めていたんですか?

丸田:そうですね。ボードゲームは一つひとつのゲームに「世界」があります。私自身、探していくのが楽しい。いわゆる“マニア”以外の幅広い人でも楽しめる。だから、そんなボードゲームの発信元、入手できる場所を作りたいと考え、すごろくやを始めたんです。

ルールを作る海外とルールに合わせる日本

山川:すごろくやにはたくさんのボードゲームがありますよね。いままで「WAR HAMMER」や「マジックザギャザリング」みたいな難しいゲームばかりだと思ってました。あとは、トランプやUNOみたいなライトなものかな。

丸田:モノポリーも日本では有名ですよね。

山川:モノポリーは水道や電力を押さえた人が勝ちやすいので、あんまり夢中になれませんでした。どのコマに止まれるか運次第で勝敗が決まってしまう感じで…

丸田:日本では、先に物件を買ったプレイヤーがずっと水道会社や電力会社を持ってしまいますが、本来は交渉で売り買いができるルールなんです。

山川:なるほど!ゲーム性が高くなって面白くなりそうですね!

丸田:テレビゲームを作っていたときにも感じていたのですが、日本ではあらかじめ決められたルールで遊んだり、「常識」と思われるルールからはみ出ないように遊ぶことが当たり前。でも、実は本当のルールと違うこともあります。あと、海外ではゲームが面白くなるなら自分たちで新たにルールを作ってしまうこともあるんです。

山川:テレビゲームでよくルールを作って遊んでいました。ある程度同じゲームをやっていると上手くはなれるんですけど、飽きてしまうので…

僕が友だちと作ったルールで最も面白かったのは、レースゲームで「ギター型のコントローラを使う」と決めたとき。直進したくてもなかなかできない、設定を変えてギターのピック部分をアクセルにすれば弾いていないと前に進めない。飽きてしまったゲームでも、自分たちでルールを作れば面白くなるんだなぁと感じました。

丸田:自分たちでルールを作ると、また違った面白さができますよね(笑)。テレビゲームだとどうしてもシステムの制約で限界がありますが、ボードゲームはプレイヤー次第で自由にルールが作れるんです。ズルをしようとすれば簡単にできますが、ズルするとつまらなくなってしまう。だから誰もやらない。

山川:勝ち負けではなく、みんなで「楽しさ」を共有するイメージですね。

丸田:日本は古くから将棋や囲碁など「勝ち負け」があるゲームを好んできたように感じます。だからこそ、ゲームの楽しみかたがルールを徹底した上で勝ち負けになっている印象があるんです。最近はチェスや囲碁でAIと人間が対戦していますよね。ただ、僕は純粋な勝ち負けでは進化し続けるAIに敵う訳がないと考えています。でも、人間は「なんでチェスや囲碁で遊ぶのか」を追求し、一緒に遊ぶ人との時間、意外な戦略を考えてみるとか、そういうことが考えられる。勝ち負けだけでは得られない「楽しさ」を見つけて欲しいと考えています。

山川:勝ち負けでも、楽しんだ人が勝ち、ですね。

丸田:ボードゲームの魅力は「人の理解を超えられない」ところなんです。ルールさえ覚えれば誰でも遊べる。たまに「初心者に向いたゲームはどれですか?」と聞かれるんですけど、実はボードゲームに初級や上級はないんです。よく知っている人がいてもマニアなだけで上級ではありません。

山川:勝ち負けがあると「勝ちの多い人」が上級者になりますけど、丸田さんの仰る「楽しさ」を知れば、上級者は存在しませんね。

丸田:ただ、相性はあります。映画だってそうですよね。ラブロマンスが好きな人もいれば、合わない人もいる。ゲームも同じで、大きな賞をとっている有名なゲームがみんなにとって「楽しい」ゲームになる訳じゃないってことも知ってもらえると嬉しいです。

山川がボードゲームにハマるきっかけになった「Dixit」。独創的な絵柄のカードにシンプルなルール、「魅了される」の一言がぴったりなボードゲームです

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「作る」ことは楽しさを広げる

山川:相性の合う楽しいゲームを見つけるためにはどうすればいいんですか?

丸田:自分でゲームを作ってみると良いと思います。紙とペンだけでも作れますし、難しいものでなくてもちょっと「こうすれば面白いかも」と思いついたことでもいい。決められたものを楽しもうとするんじゃなくて、“自分から楽しみにいく”姿勢を持つことが大事ですね。

山川:深いですね…

丸田:僕自身はモノを集めることはあまりしません。その代わり、楽しさに繋がる「仕組み」を集めるのが好きです。テレビゲームから離れたのも、すでにある仕組みをなぞることしかできなくなってきたことが大きい。ボードゲームは、ゲームや作者ごとに新しい世界、仕組みがあるんです。それを集めるのが楽しいですし、知ってもらいたいんです。

山川:モノではなく「仕組み」をコレクションするのは面白いですね。

丸田:音楽に例えると、昔作曲家は特異な能力を持つ存在でした。いまはギターがあれば誰でも作曲できますよね。好きなアーティストを真似するところから始めてみる。ゲームでも同じです。作ろうとしてみる。自分で作ってみると、自分だけじゃなく「喜んでくれる人」の顔が見えてくるんです。どうやったら楽しんでもらえるのか、それを考えていく。そうしていくと「楽しさ」に広がりが持てるんじゃないでしょうか。

ーおわりー

店内には約400のボードゲームが並んでいます。日本人製作のものや丸田さんが企画、製作したゲームなども。

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トークゲームとして人気の人狼ゲームも。プレイヤー全員がモンスター、ゲームマスターが必要ない、など設定やルールを工夫されています。

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丸田さんに“個人的に”オススメされた「パンデミックレガシー」。かなり好みなゲームで、短時間で好みを見抜かれたことに驚きました。どのゲームがいいか迷ったら、店員さんに相談してみてもいいかも!

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ドイツの有名なゲーム大賞にもノミネートされた、日本人製作の「街コロ」。シムシティのような街作りが楽しめます

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File

すごろくや

東京都杉並区高円寺北2-3-8 日光ビル2F
定休日:毎週 水曜日、年末年始
11:00AM〜夜20:00

2006年、「MOTHER2〜ギーグの逆襲」などヒット作の製作に関わったゲームクリエイターの丸田康司が創業。世界から集めた400以上のボードゲームを取りそろえるほか、すごろくやオリジナルでボードゲームやルールも製作、販売している。定期的にボードゲームのイベントやワークショップも開催。

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公開日:2016年6月10日

更新日:2022年2月8日

Contributor Profile

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山川 譲

シンクタンク、ウェブメディア記者、雑誌編集を経て、コピーライターとして活動。ランチ代、定期代もすべてCDにつぎ込んでいた高校時代以降、CDと本を中心に様々なモノをコレクションしている。現在はロシアンウォッチ、カメラレンズ、眼鏡、ネクタイをコレクション。モットーは「保存はしない、実用」。

終わりに

山川 譲_image

お話しを聞いていて、丸田さんは「楽しさ」に徹底的にこだわっているように感じました。最後のお話しは、MUUSEOが目指していることと同じなのかもしれません。僕もいろいろコレクションをしていて、自分だけで楽しんでいましたが、MUUSEOに登録をしてみて「それを楽しんでくれる人がいる」ことに気付きました。「ロシアの時計っていいね」「レンズでいろいろあるんだ」、自然に会話になり楽しさに広がりが出ます。今回で本連載は終わりですが、皆さんも自分のコレクションが、誰かの楽しさにつながり、広がっていくことを体感してもらえれば嬉しいです。

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