Die Tödliche Doris “…”

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漸く、たどり着きました。独逸が誇るアヴァンギャルド・グループ、Die Tödliche Doris (ディー・テードリッヒェ・ドーリス)のファースト・アルバムです。特にタイトルとかは付いておらず、”….”なんて表記されていたりします。それで、Die Tödliche Dorisの命名については皆さんも知っているとは思いますが、英語に直訳すると”The lethal Doris”で、lethal dose(致死量)とDoris(女の子の名前)を引っ掛けた造語のグループ名で、そこら辺にも彼等が只者では無いのが分かると思います。そして、その結成には、1981年に西ベルリンで行われたイベントGeniale Dilletanten運動(ゲニアーレ・ディレタンテン; タイプミスをそのまま使っていますが、意味としては「天才的アマチュア」)が大きく関わってきます。このフェスでは、音楽、絵画、映像等を問わず、何か面白くて、新しいことをやろうとするのが、コンセプトだったようで、音楽方面からは、Die Tödliche Dorisの他に、Frieder Butzmann, Einstürzende Neubautenなんかのメンバーが集まっています。また、Die Tödliche Dorisのリーダーであり、作家兼音楽家でもあるWolfgang Müllerが出版社メルヴェ社に”Geniale Dilletanten”という本を書いており、これは、仏のポストモダン哲学者を独で最初に出版したこととして知られています。Die Tödliche Dorisは、ポップミュージック・グループに通常不可欠である一貫したアイデンティティを構築するのではなく、「慣習」や「固定観念」の概念に挑戦しています。 その代わりに、彼らはそれぞれの楽曲やプロダクションにおいて、「スタイル」とか「イメージ」に従わないようにしています。 ボードリヤール、フーコー、ガタリ、リオタールのポスト構造主義に触発されたDie Tödliche Dorisは、音によって作られた彫刻を解体したいと考えており、この音楽的、娯楽的、或いは非音楽的な目に見えない彫刻は、Die Tödliche Dorisそのものの身体となるはずだと言うことです。とまぁ、その頃のDie Tödliche Dorisは、ポストモダンのコンセプトで理論武装した頭脳派演奏下手バンドだった訳です。
 それで、Die Tödliche Dorisの最初の12インチのアルバムにはタイトルがありませんが、通称”7 tödliche Unfälle im Haushalt (「家庭内の 7 つの死亡事故」の意味)” と呼ばれており、それは前回ご紹介しました。 その後、彼らは、1982年に”….”(通称”Die Tödliche Doris”と呼ばれています)をリリースしています。このアルバムには 13曲が収録されていますが、共通点は無いように思えます。つまり、「面白い」曲、「シリアス」な曲、その次が「平凡」な曲、「残酷な」曲、「ソフト」な曲、 どれも一緒に収録されるようには思えず、すべてのスタイルやテーマが互いに厳密に分離されて、バラバラになっている訳です。 なので、Die Tödliche Dorisは人間と同じように、多くの異なる矛盾した特性で構成されており、それらは 1 つの身体の中に存在しますが、同時に存在する訳ではないと言うことを表していると言えましょう。それで、彼等は、このコンセプトを更にレコードで再現することはできないとの考えに至り、「レコード」と言うメディア自体も解体することにしました。それが、あの有名な1983年作の”Chöre & Soli”で、要するに、音質の悪い小さなソノシート8枚とそれ専用のバッテリー付き再生機及びブックレットをボックスに入れたと言う作品です。この作品は、世界中のコレクターズ・アイテムとなっています。
 と言うように、かなりコンセプチュアルな作品を作り続けているDie Tödliche Dorisですが、今回は、先述の”….” (通称”Die Tödliche Doris”)をご紹介します。何せ常に観客を裏切るのが、Die Tödliche Dorisであり、それを期待している観客を更に裏切ってくるとまで言われた頭脳集団の音ですから。先ずは、タイトル”….”のファースト・アルバムから聴いてみます。因みに、参加メンバーは、Wolfgang Müller(ヴォルフガング・ミューラー)とNikolaus Utermöhlen (ニコラウス・ウーターメーレン)及び(多分)Käthe Kruse(ケェーテ・クルーゼ)の3人ですね。内容的には、A面7曲/B面6曲が収録されています。それでは、各曲の紹介をしていきましょう。
★A1 “Stümmel Mir Die Sprache” (3:37)では、単調なDrsに、男性の叫び声と女性のうめき声の阿鼻叫喚と歪んだBらしき音から成り、一部でコードを弾くオルガンやフリーキーなGも聴取されます。
★A2 “Posaunen Der Liebe” (1:40)では、壊れたラジオのようなノイズが段々と分厚くなってきます。大声援のテープ音も最後に放たれます。
★A3 “Der Tod Ist Ein Skandal” (4:29)では、何とも頼りな気ないDrsと存在感あり過ぎなBに、弱々しい男性Voが呪文のように流れ出してきます。
★A4 “Panzerabwehrfaust” (0:13)は、叫び声とDrsから成る一瞬の曲で、直ぐに過ぎ去ります。
★A5 “Wie Still Es Im Wald Ist” (2:21)は、チェロとおもちゃ楽器(?)をバックに、引き攣るような語り男性Voから成る曲で、不安感が部屋中に充満します。
★A6 “Sie Werden Nicht Beobachtet” (1:50)は、ドカドカしたDrsに合わせた男性の叫び声と、そのバックでGが鳴っている曲で、その構造自体がヘンテコ。
★A7 “Haare Im Mund” (3:35)は、単調なスネアの打撃音に、男性の叫び声Voと女性の叫び声の合いの手が乗る曲で、多層化されたクラリネットが挿入されたり、一瞬の大音量ノイズやBのループ音も加わります。
★B1 “M. Röck: Rhythmus Im Blut” (2:27)は、言葉遊びのようなリズミックな合いの手に、スライド奏法のGとB及び男性Voが乗る曲で、その内、バックに伸びやかな男性コーラスが挿入されてきます。
★B2 “Kavaliere” (3:42)では、多層化したリズムを刻むDrsに、フリーなクラリネットとGノイズ及び多重録音された男女Voが被ってきて、せめぎ合います。
★B3 “Fliegt Schnell Laut Summend” (2:48)は、反復するアコーディオンの上に、語るような女性Voが乗る曲で、それぞれの音や声は多層化して再生されます。
★B4 “Robert” (3:09)は、ホワイトノイズのリズムの上にナレーションが乗っていたと思ったら、いきなり、リムショットにフリーキーなBやG、或いはそれらの逆回転再生音が押し寄せますが、ナレーションは続いています。
★B5 “Über-Mutti” (2:21)では、単調なDrsにBとGの不協和音と段々エキサイトしてくる女性Voが乗る曲で、まるで出来損ないのMarsのようです。それが数回繰り返されます。
★B6 “In Der Pause” (4:25)は、リズムマシンとSynth-Bから成る曲で、ラジオ調のナレーションが重なってきます。しかし、リズムレスになってきて、音数は減少していき、そのまま終わります。
 
 いやー、凄かった!と言うのが、このアルバムを聴いた時の第一印象です。とにかく、男女問わずにVoはただただ叫んでいるだけで、「歌う」ことはしてないです。Drsとかも多分、Kruseだと思いますが、とても叩いていると言える程のテクはないと思われます。メインVo(男性)のMüllerもただ喚いているだけのように聴こえますが、独逸語が分かれば、もっと楽しめるのでしょう。彼の歌の調子っ外れ振りが魅力的ですね。しかし、それらの外れた音をUtermöhlenがしっかり補完している感じで、ちゃんと「曲」として成り立たせ、ギリギリのところで一線を保っているのも凄いです。そう言う意味で、Die Tödliche Dorisは「天才的アマチュア」なのかもしれませんね。必聴の一枚です!

https://youtu.be/iVMGLohJV1Q?si=efxh7yz5ZsMdO9q0

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