朝比奈大フィルのブルックナー交響曲第7番

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朝比奈はブルックナーの交響曲を得意とし、3度に渡る全集を軸として数多くの演奏・録音を行ってきた。それらは、我が国におけるブルックナーの幅広い認知に大きく貢献した偉大なる遺産と言えるが、とりわけ1990年代以降の演奏・録音は、現在でもヴァントによる名演と比肩し得る至高の名演揃いであると言えるところだ。もっとも、本盤におさめられたブルックナーの交響曲第7番は、朝比奈&大阪フィルが1975年のヨーロッパ・ツアーの最中にライヴ録音された演奏であるが、1990年代以降の数々の同曲の名演にも匹敵する至高の超名演と高く評価したい。朝比奈は、本演奏の後にも同曲を何度も演奏・録音し、大阪フィルの技量などにおいてはそれらの演奏の方が本演奏よりもはるかに上であると言えるが、それでも本演奏の持つ崇高な高みにはついに達し得なかったのではないかとさえ思われるほどだ。何よりも本演奏は、ブルックナーの聖地でもあるザンクト・フローリアン大聖堂での演奏、地下に眠るブルックナーに対する深い感謝の気持ちを込めた史上初めての奉納演奏、そして演奏中ではなく奇跡的に第2楽章と第3楽章の間に鳴ることになった神の恩寵のような教会の鐘の音、そして当日のレオポルト・ノヴァーク博士をはじめとした聴衆の質の高さなど、様々な諸条件が組み合わさった結果、朝比奈にとっても、そして大阪フィルにとっても特別な演奏会であったと言っても過言ではあるまい。そして、そのような特別な諸条件が、かかる奇跡的な超名演を成し遂げるのに寄与したと言えるのかもしれない。本演奏終了後、拍手喝采が20分も続く(CDではカットされている。)とともに、レオポルト・ノヴァーク博士が本演奏に対して感謝の言葉を朝比奈に送ったこと、そして、とある影響力の大きい某評論家が様々な自著において書き記しているが、当日の一聴衆であったドイツ人が本演奏に感涙し、朝比奈に感謝の手紙を送ったというのも、本演奏がいかに感動的で特別なものであったのかを伝えるものであるとも考えられる。いずれにしても、本演奏は素晴らしい。朝比奈は、大聖堂の残響に配慮したせいかブラスセクションをいつもとは異なり抑制させて吹かせているが、それが逆に功を奏し、全体の響きがあたかも大聖堂のパイプオルガンのようにブレンドし、陶酔的とも言うべき至高の美しさを有する演奏に仕上がっていると言える。悠揚迫らぬテンポで着実に曲想を進行させていくのは朝比奈ならではのアプローチであるが、とりわけ第2楽章の滔々と流れていく美しさの極みとも言うべき清澄な音楽は、本演奏の最大の白眉として、神々しいまでの崇高さを湛えていると評価したい。

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