ミルシテイン/チャイコフスキーヴァイオリン協奏曲

0

ここには若き日の技巧の安定や抜群の美音はそのままに、老境に入りしみじみとした味わいの加わった、一人の偉大なアーティストの夕映えのように美しい到達点が記録されています中でもEMIに2度録音があるブラームスのヴァイオリン協奏曲での解釈の深化は素晴らしく、彼自身も以前のレコードに較べて、「よりロマンティックな解釈になっている」とし、「人はその音楽の要求する方向に進歩する」と述べています。第1楽章の自作カデンツァが終わったあと、コーダでヴァイオリンがテーマを弱音で歌う部分など、当盤は同曲CD中でも隔絶した美しさをもっています。
1972年録音のチャイコフスキー、1973年録音のメンデルスゾーンも、以前の録音に較べて肩の力が抜け、極めてしなやかで洗練された、驚くほどノーブルな演奏が展開されています。チャイコフスキーではオリジナル版ではなく、アウアー版を参考に自らの考えを加味した独自の版を演奏しています。
協奏曲は3曲ともウィーン・フィルがバックながら、弦主体の重厚で味わい深い響きを聴かせるヨッフムに対し、若いアバドが木管を重視した明るい響きと軽やかなリズムを示しており、両者の個性が際立っています。
1975年録音の「ヴァイオリン・リサイタル」は、聴いていて思わず息を飲むような名品揃いです。音色も技巧も形式も磨き抜かれ、音楽は侵し難い気品に満ち、それでいて聴き手を優しく包み込むような包容力をもっています。音質的な改善はこのアルバムが最も著しく、実在感の増したピアノとリアルなヴァイオリンの音像・音色がステージに再現される様は圧巻です

Default