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Sinocybele cf. baoshanensis
中国バオシャンのシーシャン (Shihtian) 累層産の三葉虫、シノキベレ (Sinocybele) です。 既記載種の、シノキベレ・バオシャネンシス (Sinocybele baoshanensis) などの可能性は否定できませんが、類似の未記載種の可能性も高いと思います。 Cybeleと比較しても、横に間延びした頭部、みょうに離れた眼、比較的大きな頭鞍に、寸銅な体型をしています。ルーペで覗くと、頬部には細かいぶつぶつ構造も観察できます。7mmとスモールサイズながら、肉眼でも楽しめる標本で、形状が面白くマニア好みしそうな種です。 参考までに、7番目写真に同属別種 (Sinocymele thomasi, Wales産) のピクチャーを掲載しています。Cybele同様、本来は、長い眼軸を持つ眼がニョキっと生えていたものと思われます。ただ、他の標本も参照する限り、本種ではこの図と異なり、第6胸節からの長い棘がない気がします。 本産地 (ShihtianあるいはBaoshan) の石質は脆い事もあり、完全体で残る化石は多くないのですが、尾部がややdisarticulatedしている以外には、本種にしては満足ゆくレベルで残っております。
Ordovician Shihtian Renhe Town, Shidian County, Baoshan, Yunnan 7mmtrilobite.person (orm)
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Sinosaukia distincta
中国のサンドゥ (Sandu) 累層産のシノサウキア・ディスティンクタ (Sinosaukia distincta) です。 ほぼ全身を覆う目立った顆粒と長い頬髭が特徴的な種類であります。この標本は本体67mm、頬棘込みで75mmとかなりのサイズですが、このように大型化する個体も偶におります。8枚目の手との比較でも分かる通り、母岩も巨大でずっしりとしており、私の手持ちでは最重量級の標本の一つです。なお、見た目からはいまいちピンときませんが、新旧分類ともに、アサフス目に属するようです。 サンドゥ累層は広西チワン族自治区に位置し、ベトナムにも接する中国の辺境の産地ですが、2020年頃までは、本産地の種が比較的市場に出回っていたように思います。当時は。本種含めよく見かけたものですが、他の中国産の例に漏れず、最近はぱったりと供給が途絶えてしまいました。 Upper Cambrian産と時代的にも面白く、当時、手をつけておいて良かったなあと思う産地です。
Upper Cambrian (Furongian, Jiangshanian) Sandu Jingxi county, Guangxi Province, China Sinosaukia distinctatrilobite.person (orm)
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Olenellus nevadensis
ネバダ産のオレネルス・ネヴァデンシス (Olenellus nevadensis) です。 O.gilbertiやclarki、chiefensisなどと比較すると、市場で見かける機会が少なく、比較的希産と言える種です。 風化が進みやや表面が荒れていますが、尾棘含み67mm、含まずで45mm程度となかなか大型のサイズの標本です。 鑑別しづらいオレネルスの仲間でありますが、頭鞍先端〜頭部先端の間隔が他の同属に比較しても広い事、頭鞍が縦に長い六角形であること、胸部下部に長い棘が集中する事などから、ぱっと見で鑑別可能かと思います。 もっとも本標本では、特徴の一つの胸部下部の長い棘の付近が不明瞭ではっきりしません。
Lower Cambrian (Series2, Stage4) Pioche Nevada, USA Olenellus nevadensistrilobite.person (orm)
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Paedeumias yorkense
ペンシルバニア州のキンザーズ累層 (Kinzers fm) より産出の、ピードミアス・ヨーケンス (Paedeumias yorkense) です。 オレネルス類にしては、割としっかりした胸尾部を持ち、前後に長細い体躯を持つ種であります。希産ではありますが、厚みがある種なのか、他のオレネルスに比べると全体像がしっかり残っている標本が多い印象です。 産地のキンザーズでは、オレネルス超科 (Olenelloidea) が多く出る事が有名です。代表的な種には、本種以外に、Wanneria walcottana, Olenellus thompsoni, O. getziなどが確認できます。ただ、これらがランカスター群産であるのに対し、本種はヨーク群産と少し離れた場所から産出する事が知られています。 また少しややこしい話ですが、ヨーケンスは"オレネルス"ではなく、"ピードミアス"の属名を冠しております。 このオレネルスとピードミアスの違いは極めて微妙で、分類学上、それぞれが独立したクレード (単系統群) を成しておらず、入れ子構造になっているのが現状で、その分類は未だ議論が続いているようです。 実質ほぼ同属扱いであり、Olenellus (Paedeumias) terminatus、Olenellus (Paedeumias) transitansのように、両属併記となっている種も多く見かけます。 この標本はコレクションの初期の、最も蒐集に脂が乗っていた2016年頃に入手した標本です。久しぶりにコレクションケースから出しじっくり観察して、当時を思い出して懐かしい気持ちになりました。
Lower Cambrian (Series2, Stage4) Kinzers York county, Pensylvania Paedeumias yorkensetrilobite.person (orm)
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Undetermined species_02
中国雲南省の保山市 (Baoshan) のShihtian累層産の標本です。調べる限りでは、おそらく未記載であると思われます。 サイズは尾棘含めて15mm、含めずで11mmほどと小さめです。やや目立つ頬棘をもち、尾部後端から長めのスパインが一本伸びています。この標本では痕跡的なのですが、後端の棘とは別に、尾部からはさらに一対の小さな棘があるようです。目と目の間は離れており、小ぶりながらも、少々独特な顔貌をしております。 この種、形態的には、少し前にUndetermined species (Ordovician) として掲載した、同産地の種に非常によく似通っているなと感じます。6, 7枚目の写真で、該当の標本と並べています。 あくまで推測の域を出ませんが、全体的に非常に類似度が高いことと、サイズ差や以前の標本の方が尾部の2対の棘が発達していることを考慮すると(一部の三葉虫の幼体では、胸〜尾の対の棘が発達している傾向がある気がします。e.g., P.gracilisなど)、本種と前回の種は、完盾体ー幼盾体の関係にあるのかなと夢想してしまいます。
Ordovician Shihtian Puyi town, Baoshan, Yunnan, China Undetermined species_02trilobite.person (orm)
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Undetermined species
中国の三葉虫は未だに見たことのない種も多く、根気よく市場のウォッチを続けていると、気になる種がポツポツと登場します。 そんな種の一つ、中国雲南省の保山市 (Baoshan) のShihtian累層産の謎の三葉虫です。雲南のBaoshanといえば近年Pupiao累層の三葉虫が市場に放出されていたかと思いますが、調べる限りでは、Pupiao ≒ Shihtian累層であるように思います。調査不足なので間違っているかも知れず、差し当たり、話半分で受け取っていただけるとありがたいです。また時間がある時にでも、追って報告します。 この産地の三葉虫は面白い形態の種も多く、皆惹かれるのか微妙に競争率が高く入手に苦労します。ebayを見ていると、最近ではDionideやCyclopygeの一種、illaenusらしき種などが、市場に登場しているようですね。 本種は、長い頬棘および尾部の一対の棘をもち、更に尾部後端からも小さな棘を持つようです。目と目の間は離れており、コミカルな顔貌をしております。本体のみで5mm、尾棘含めても8mm程度と、小指の爪の先ほどの非常に小さな三葉虫なのですが、全体的に興味深いフォルムをしており、このサイズなのに存在感があります。 全然時代も産地も異なるのですが、まるで広西チワン族自治区、カンブリア紀末産のGuangxiaspis guangxiensisの幼楯体のようにも見えます。比較用に、手持ちのG. guangxiensisの画像を7枚目に掲載しておきます。 この産地の他の種含め、とても気になる種です。
Ordovician Shihtian Puyi Town, Baoshan, Yunnan, China Undetermined speciestrilobite.person (orm)
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Orygmaspis spinula
マッケイ (McKay group) 産出のオリグマスピス・スピヌラ (Orygmaspis spinula) と思われる標本です。 マッケイの種々のオリグマスピスのうち、個人的には、本種はオリグマスピス・マッケラリ (Orygmaspis mckellari) と、かなり見分けづらいと思っています。ただ、マッケラリと比較すると、スピヌラでは、胸部の横幅が幾分スリムでその外縁は直線的、さらに胸部の棘の湾曲も弱く、直線的であるように思います。 本種は元々、Orygmaspis sp.として入手しましたが、いくつかの特徴から暫定スピヌラと考えております。
Upper Cambrian (Furongian, Jiangshanian) McKay Group British Columbia, Canada Orygmaspis spinulatrilobite.person (orm)
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Cummingella mesops (grabella & pygidium)
新潟県の青海の美しい石灰岩から産出する、おそらくカミンゲラ・メソプス (Cummingella mesops) の頭鞍、および尾部と思われる標本です。画像1-5 (頭鞍標本) と6-8 (尾部標本) が別の母岩です。尾部標本は小さく分かりづらいのですが、ぷっくり膨らんだ頭鞍はよく目立ち、まるで、貝類か腕足類の一部のようです。 完全体はもちろんの事、頭部全体が残る標本すら極めて稀と思われ、大半が頭鞍や尾部のみの標本であるようです。全貌が掴みづらい種ですが、オンライン上の頭部全体が残る標本などを確認するに、頭鞍のサイズの大きさが目立ちます。 カミンゲラ自体、ツルッとした比較的大きな頭鞍を持つ種です。ただ、本邦で産出する本種は、中でも目立つ頭鞍を持っていたのかもしれず、興味を唆られます。 実際、記載論文 (Kobayashi and Hamada, 1980) でも、『Cephalon massive, parabolic in outline, strongly convex, most elevating in anterior of glabella‥』→『頭部は巨大で, 外形は放物線を描き、強く凸状になっていて、頭鞍前方で最隆起する‥』などという書き出しで始まっていて、大きく特徴的な頭部を持っていたようです。
Carboniferous - 新潟県西頸城郡青海町 (糸魚川市) Cummingella mesopstrilobite.person (orm)
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Gabriellus sp. & unidentified organism
カナダのブリティッシュコロンビア州の、アタングループ (Atan Group) で産出するガブリエルスの一種 (Gabriellus sp.) です。 オレネルス科ではあるものの、属レベルではガブリエルス属であるように、通常のオレネルスとはやや異なる雰囲気の見た目をしています。特に、一般的なオレネルス (属) の半円状の頭部とは異なり、頬棘の付け根が前方に移動しており、五角形〜菱形の頭部を持ちます。 近年は市場で見かける機会が少なくなった種ですが、他のオレネルス同様に体のパーツが極めて保存されづらい為、大型で良質な個体は、過去には高価格で取引されておりました。 この標本では、三葉虫の右下に隔壁状の体と吻のような構造を持つ、ワームのような生物が共産しており、それがまた面白くあります。
Lower Cambrian (Stage3) Atan group British Columbia, Canada Gabriellus sp.trilobite.person (orm)
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Kendallina greenensis
カナダのマッケイグループ (McKay group) のケンダリナ・グリーネンシス (Kendallina greenensis) です。 胸棘の目立たない、細長くすらっとした体型をしております。一見、地味で見分け難い種に見えます。ただ、マッケイの各種Orygmaspisなどの類似種は、幅広であったり、多かれ少なかれ胸棘を持っていたりする為、マッケイの中で比較してやれば、逆に同定し易い種であります。 この標本ではやや分かりづらいですが、尖った頬棘を持つ事も、本種の特徴の一つです。より細かく見れば、頬棘の根本がやや太く短めの本種と、根本から細く長い、ケンダリナ・クラシテスタ (K. crassitesta) という種が居るようです。
Upper Cambrian (Furongian,Jiangshanian) McKay Group site1, near Cranbrook, British Columbia, Canada Kendallina greenensistrilobite.person (orm)
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Nevadia weeksi
ネバダ州の名を冠する三葉虫、ネヴァディア・ウィークシ (Nevadia weeksi) です。ネガポジあり、1-4がポジ、5-6がネガの標本です。 産出のあるCampito累層は、時代的にはカンブリア紀前期のSeries2のstage3に相当し、同エスメラルダ郡のPoleta累層などと並び、アメリカで三葉虫が出る層として最古級です。 広い意味でのオレネルスの仲間 (オレネルス亜目) ですが、寄り目に、幅広い横幅、胸部の密集した棘と、非常にはっきりした特徴を持ち、一目で他の類似種との区別が可能です。それらの要素の組み合わせと、おそらく微妙に燻んだ体色も手伝い、全体的にとても不気味な印象を受けます。目立つ種ゆえにコレクターの人気も高い為、マニアによる放出も少なく、全体が残った標本は非常に希少です。 この標本は尾部を欠損しております。好みの種なので、出来れば完品が欲しいなとずっと思っていますが、本標本を入手した7年前 (2023年時点) 以来、これ以上の標本を市場で見かける事はなく、ずっと更新できずにおります。
Lower Cambrian (Series2, stage3) Campito Near Silver Park, Esmeralda Country, Nevada, USA Nevadia weeksitrilobite.person (orm)
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Amecephalus laticaudum
不思議な頭部をもつ三葉虫、アメセファルス・ラティカウドゥム (Amecephalus laticaudum) です。 アメリカのスペンス頁岩の産でありますが、その色合いと形状は、モロッコなどのHarpesとHarpidesを足して、2で割ったような見た目です。ただ、Harpesのように、例えば鍔の部分に細かな窪みが無数に存在するという訳ではなく、細部は似ておりません。新分類上でも、目レベルで異なる種類であり、他人の空似であるようです。 アメセファルスには様々な種類がいますが、本種と、逆三角形なフォルムが特徴的なアメセファルス・イダホエンセ (Amecephalus idahoense) が代表する二種であります。イダホエンセと比べても、本種の方が市場で見かける機会は少ない印象です。 この標本は、母岩が大きくて格好いいものの、入手後はや3年にもなりますが、これを納める為の良いサイズの標本箱が未だ見つかっておりません。置き場所が定まらず、あっちへふらふら、こっちへふらふらと収納ケースの中を常に移動させております。 母岩の裏には、歴代の所有者の方の管理者番号や巡見時のメモが記載されており、そのまま残しております。
Middle Cambrian (Series3, Wuliuan) Spence shale Wellsvile Mt., Box Elder County, Utah, USA Amecephalus laticaudumtrilobite.person (orm)
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Crotalocephalina secta (pygidium)
こちらは、No.23やNo.176のクロタロセファリナ・セクタ (Crotalocephalina secta) の尾部の標本です。ネガポジ揃っています。ネガが1-3、ポジが4-5です。 パッと目につくのは、その熊手のような尾部の構造で、中軸には2列の太めの突起が生えていたようです。他地域の類似種だと、モロッコのJolfのケイルルスの一種などが、近い構造をしているのではないかと思います。 また特に、ネガの標本がわかり易いですが、尾部全体の表面にポツポツと穴が空いており、尾部にまで顆粒状構造が広がっていたようです。 私は胸部の標本は所有できていませんが、頭部の標本と合わせて見ると、怪物じみた本種の全体像が浮かび上がってくる気がします。
Devonian - 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地 Crotalocephalina secta (pygidium)trilobite.person (orm)
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Crotalocephalina secta (Cephalon2)
岐阜県高山市、奥飛騨温泉郷福地 (旧上宝村) のデボン紀の層より産出する、クロタロセファリナ・セクタ (Crotalocephalina secta) の頭部標本です。ネガポジ揃っております。標本No. 23と同種であります。 この標本のアピールポイントは眼、特に複眼が完全にのこっているという事です。それも本種は、比較的残り易いシゾクローアル型複眼でなく、より細かいホロクローアル型複眼であリます。日本産三葉虫で、このタイプの複眼が綺麗に残っている事には、驚きを禁じ得ません。 もちろん、頭鞍・頭鞍葉の構造やその表面を覆う顆粒も素晴らしくのこっています。観察をしていてワクワクする標本です。
Devonian - 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地 Crotalocephalina secta (Cephalon)trilobite.person (orm)
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Paradoxides gracilis
チェコの有名三葉虫、パラドキシデス・グラシリス (Paradoxides gracilis) です。 コレクターにとっては、あまりにも有名な三葉虫です。とても優美で格好良く、歴史のある三葉虫であります。 大半のコレクターが初期に知る事になり、運が良ければ入手も叶いますが、蒐集が進んでも、その魅力が色褪せることはけしてありません。 数自体はそれなりにある種なのだと思いますが、大型で頬棘が残った標本は、非常に少なく貴重です。この標本は左頬棘は完全に残っていて、右頬棘も途中まで残っており、サイズも140mmと立派です。自画自賛になりますが、なかなか良い標本だと思います。 なお、成長段階によって姿形が大きく変わる事もよく知られており、若い個体は比較的、頬棘が残った標本が多い気がします。 この標本は、ミネラルショーにて有名化石ショップZoicで購入しております。欧州三葉虫棚の中にしまい込んでいて、更に購入元の通称"Zoic箱"に入れておりますので、普段はあまり目に触れることがありません。今回紹介にあたり、久々に箱から出して観察しましたが、その素晴らしさに再感動してしまいました。 どうしても、オルドビス紀やデボン紀に代表される、"かさ"の高い系三葉虫が目立ちがちなコレクター業界ですが、カンブリア紀の平たい系三葉虫の魅力が、確かにこの一種に詰まっております。
Middle Cambrian (Series3, Drumian) Jince Rejkovice, Czech Rep. Paradoxides gracilistrilobite.person (orm)