昭和モノ・ストーリー 〜父のカメラ〜

初版 2022/06/04 21:37

改訂 2022/06/06 18:25

いま手元に一枚の写真がある。

後列中央、母親に抱かれた私が写っている。

セピア色に退色したこの写真は後ろのカメラで撮られたものだろう。

カメラの持ち主は私の父。

それまで所有していた中判の二眼レフでは持ち歩きもスナップ撮影も不便とのことで、この頃に中古の35mm判カメラに交換したと昔聞いたことがある。

そのためか練習も兼ねてこんなスナップが何枚かアルバムに残っている。

決してカメラ好きでも撮影好きでも無かった父だが、無類の機械好きではあった。

お陰でメンテナンスが良かったのか、このカメラもレンズはともかく動作に問題は無いように思われる。

ARCO35 AUTOMAT D

レンズは自社製4群5枚クセノタール型のアルコ50mm F2.4

シャッターはセイコー社製

昭和31年に発売されアルコ社最後の35mm判となったこのカメラは当時としては完成度の高い良く出来たカメラとの評を得ている。

製造元であるアルコ写真工業㈱は前身のアサカ精工を含めると戦後間もない昭和21年に発足しわずか14年後の昭和35年に倒産した短命の会社であった。

後のコンパクトカメラと違ってシャッターを押しさえすれば撮れるカメラでは無く、一連の手順や動作が必要であったし、それこそ律儀な父であったから一枚の写真を撮るのに時間を要した記憶がある。むろんオートフォーカスなどは無いから焦点も絞りもシャッタースピードも全て自分の眼と感に頼って行う。

それでも父の撮った写真にはほとんどピンボケや露光オーバーなどが無い。

前述の通り写真撮りが趣味では決して無かった筈だが、真面目で実直な性格が写真にも表れている。


2台目のカメラは私の記憶に全く無いから、恐らく後に誰かからいただいた故障品を修理した物だろう。

OLYMPUS SIX 中判カメラ

1955年頃発売

三度の飯より機械修理が好きだった父は、きれいに撮れる最新のカメラよりこういった壊れたカメラの方が好きだったに違いない。

父にとって興味があったのはどんな写真が撮れるカメラなのかでは無く、どんな仕組みで撮れるカメラなのかだったと思う。


3台目のカメラは父のカメラというよりは母のカメラかもしれない。実は私が母に頼まれて買ったカメラだからだ。

私もどうにか学校を卒業し就職が決まった年、両親は何十年振りに夫婦二人だけで北海道旅行を計画していた。面倒と金ばかりかけるバカ息子の世話がやっと終わって、自分たちの生活にひとつの区切りを付けたかったのだろう。

旅行を目前に控えたある日、母がこんなことを言い出した。

「最近はお父さんも面倒がって旅行にいっても写真を撮らないのよね、せっかく北海道まで行くのだから私にも撮れるような簡単なカメラがあるといいのだけど…」

ちょうど少し前にキヤノンが世界初となるオートフォーカスカメラを発売していた。

後にAFコンパクトカメラの代名詞ともなるキヤノン オートボーイ。

CANON AF35M AUTOBOY

1979年11月発売

オートフォーカス・プログラムEE

レンズ:38mm F2.8 3群4枚


これを早速購入して、どうせ母が写真を撮ることはあまり無いだろうから父に手渡しその使い方を説明した。

「カメラなら家に有るのに…」

と理解出来ないオートフォーカスの仕組みに不機嫌そうな顔をしながらも、フィルムの自動巻き上げや内蔵式フラッシュの構造に興味津々のようであった。


それからしばらくして旅行中に撮った写真を見せてもらう機会があった。

写真は思ったより多くはなかったが、それでも母が撮ったであろう父が斜めに写った写真もあり少しは役に立ったかと嬉しかった。

しかしカメラの性能がまだ良くないのかそれとも父の腕が落ちたのか、かつて昔のカメラで撮った写真に比べるとピントが甘く露光不足や白飛びのものがいくつか見受けられた。


その時になってはたと気がついた。

シャッターのひと押しに時間と手間をかける父に押すだけで撮れるカメラを渡してしまったことを。そして父が修理出来ない、仕組みも解らないつまらないカメラを私が買ってしまったことを。

彼には彼の流儀も楽しみもあることに気が付かない自分がいた。



追記

何でも取っておく律儀な性格のお陰で最初のカメラは革ケースも箱もキチンと取ってありました。





#コレクションでなくてすみません

#昭和モノ

#カメラ

#父は偉大だ

#頑張れ自分

スペースが無くて飾れないモノ達に愛を込めて…

質も量もコレクションとは言えないモノ達ですが、
ここMUUSEOに個人遺産として2020年12月登録されました。

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    レイレイ

    2022/06/04 - 編集済み

    Canonオートボーイ!
    懐かしいです…うちにもあった記憶👏😌
    確か…セルフタイマーのレバーをカチャカチャして遊んだ記憶です😅

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    • セルフタイマーってカメラではおまけ的な機能だから壊れやすく、それやっちゃダメなやつです(笑)。😅
      良くも悪くもスナップ写真とキヤノンを普及させたカメラでしたね。🤔

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    fanta

    2022/06/05 - 編集済み

    カメラをいじってる、好みに操作してる感が味わいたくてAFからわざわざマニュアル型を買ってみたり😁
    確かに・・・それがカメラの楽しみなんでしょか。

    といいながら、今はすっかりスマホのカメラなんですが笑
    今でもカメラコーナー見るのは好きです。

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    • マニュアルでも撮れるカメラってことかな?
      デジタルになって設定とか変えて撮ってもすぐ確認できるから便利になりました。
      今までフィルムとデジタル合わせて十数台も持ってましたが、かくいう私も今やスマホのお任せ撮り専門です(笑)(汗)。
      でも私も今でもカメラは大好きです。

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      fanta

      2022/06/05

      確かニコンのMF、
      ってことはマニュアル操作がメイン…のカメラだったと思います。
      カメラ操作を学ぼうと思い、、

      ですが、ほどなくして使わなくなっちゃいました😅
      AFでポジフィルムを使ってみたり。いろいろ楽しい経験でした。
      今でもポジフィルムって、栄えてるんですかね💧

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    • なるほど、カメラでなくてニコンのMFレンズですね!
      ポジも使ってたということはカメラもフィルムカメラですね。
      ポジフィルムは小さな四角い窓の中に鮮やかな景色が広がっていて切手とどこかしら共通の世界観がありますねぇ。
      是非再挑戦を!(笑)🤗

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