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アルマンディンガーネット/鉄礬ざくろ石
1月の誕生石として知られる鉱物ですが,それゆえに一括りにされがちなガーネット。 ガーネットと一口に言ってもその種類は多岐に渡ります。 その中でもこのアルマンディンは鉄とアルミニウムを主成分とする品種で、ガーネット族の中ではポピュラーな存在。 特に断りなくガーネットと言った場合、このアルマンダインを指していることが多いと思われます。 こちらはミャンマーのモゴクで産出した二十四面体の結晶。 結晶形が非常に理想的で、24あるすべての面がほぼ明瞭かつ判別可能です。 鉄分により暗色がかっているとはいえ宝石質の透明結晶はやはり美しく、まさしく果肉に包まれたザクロの種子と見紛うばかりに見事なものです。
宝石 鉱物標本 7.5 Fe₃Al₂(SiO₄)₃テッツァライト
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ツヴィアギンツェバイトwithゴールド/ツヴィアギンツェフ鉱
ツヴィアギンツェバイト。 やや難解なこの鉱物名は、プラチナ金属の研究を専門としたロシアの地球化学者Orest Evgenevich Zvyagintsevに因んで命名されました。 白金族元素であるパラジウムに鉛という組み合わせを主成分とする稀産の元素鉱物で、他にはプラチナ・金・スズ・ビスマス等の不純物を含有することがあります。 こちらは非常に小さい、しかし高貴な煌きで確かな存在感を放つ一石。 ロシア東部ハバロフスクKonderに存在するアルカリ性超塩基性の山塊より採取された結晶です。 そしてIvo Szegeny博士から入手されたという信憑性のある標本であります。 外観上は自然プラチナとそっくりですが、あちらは不純物として鉄分を含有するため磁石に吸着するのに対し、このツヴィアギンツェバイトはネオジム磁石の発する強烈な磁界にも反応を示しません。 このことからこの白銀色の結晶は、不純物の少ない生粋の鉛パラジウム合金であることが分かります。 母岩に接していたのか一部のエッジが緩くなっているのが惜しい点。 しかしその凹部分をよく観察したところ、なんと金と思わしき鉱物が付着していることが分かりました。 嬉しいおまけ付きです。
鉱物標本 4.5 Pd₃Pb ロシアテッツァライト
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キプロスキュプライト/赤銅鉱
キュプライトはその名が示すとおり銅を含有する鉱物です。 化学組成はCu₂Oと不純物が少なく、なおかつ酸素原子1つに対し銅原子が2つ結合してることから高品位の銅鉱として扱われます。 英名はラテン語で銅を意味する"cupurum"に由来し、さらにcupurumは銅の古典的産地であるキプロスにちなむとされています。 まさか出会えると思わなかったキプロス産のキュプライト。 由緒ある古典的産地からの美しい結晶です。 昨今のキュプライトはロシア産の黒色不透明な標本が多く流通していますが、このアルマンダインガーネットのような色と透明感をキプロス産が備えているとは思いもしませんでした。 表面は酸化被膜にやや覆われていますが、それでも古典的産地の意地と底力を感じさせる素晴らしい一石でありました。
宝石 鉱物標本 3.5~4 2019年テッツァライト
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ほしのあきさんのFカップに挟まれていたダイヤモンド/金剛石
2006年発売のフライデー増刊号に付録として封入されていたダイヤモンド原石です。 雑誌の詳細については以下のモノ日記をご参照いただければと思います。 https://muuseo.com/tezzarite/diaries/5 特設ページに記載された情報によると重量は0.006~0.015カラット。 産出国はオーストラリアで、インドから輸入された天然物なのだそうです。 現在2粒所持していますが、一方は発売当時に入手したもの。 そしてもう片方が、その12年後となる2018年に再入手したものになります。 タイトルの如何わしさはさて置き、私にとって記念すべき初ダイヤであります。 どちらも1mm程度の大きさしかなく、よほど視力が良くない限り砂粒にしか見えません。 (そして何よりほしのあきさんのボリュームに埋もれてしまっています) しかしどんなに小さくともダイヤはダイヤ。 ルーペ等で観察すると劈開面が確認でき、2018年版(トップ画の左側)に至っては三角形の結晶面が残っていました。 極小サイズながらも、当時の私に大きな意義をもたらしてくれた思い出の一石。(今となっては二石) 今後も失くさないよう大事にしたいと思います。
宝石 鉱物標本 10 2006年/2018年テッツァライト
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アーガイル・ピンクダイヤモンド/金剛石
マントル由来の火成岩「ランプロアイト」によって齎される炭素の元素鉱物。 西オーストラリア州・キンバリー高原に所在する世界有数のダイヤモンド鉱床『アーガイル鉱山』で産声を上げた粒選りたちの末子です。 とても小ぶりで、ささやかな乙女色。 しかし均整のとれたプロポーションから放たれる光輝がその存在感を確固たるものとしており、その慎ましくも芯のある強さが目に焼き付けられるかのようです。 また紫外線ランプを灯すとハンナリとした雰囲気が一変。 青く涼やかな光を放出し、凛とした姿を暗闇の中に咲き示すのでした。 外周部分を拡大しますと、ある一点にだけアルファベットの "A" を二つ並べたようなマークを認めることができます。 これは鉱山会社によって施されたレーザー刻印で、アーガイルの地で産出したことを保証する極めて控えめなブランドマークであります。 (本来であればこのAの後にシリアルナンバーが続いているのですが一部ぼかしてあります) またそれと同時に、正規ルートにより流通した石であること・・・いわゆる紛争ダイヤではないことを示す証明でもあるのです。 こんな可憐な小花に血塗られた出自など相応しくありません。 #ダイヤモンド
宝石 鉱物標本 10 2019年テッツァライト
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トパゾライトガーネット/灰鉄ざくろ石
ガーネットとしては「灰鉄柘榴石」という品種に属するため、先に投稿していたデマントイドとの色違い種にあたります。 https://muuseo.com/tezzarite/items/75 あちらの鮮やかな翠色はCrに起因するものですが、このウィスキーのように芳醇な琥珀色はFeに由来しています。 デマントイドがダイヤモンドの如きざくろ石であるなら、こちらは "トパーズの如き" ざくろ石。 topazoという語が入っている通り、黄褐色で透明な外観が彼の石を思わせることから『トパゾライト』とも呼ばれるガーネットです。 イエローアンドラダイトと呼称すべきとの主張もありますが、黄玉に親しみを覚える身としてはこの呼び名の方が好きです。 こちらのトパゾライトはウラル山脈の蛇紋岩帯から産出した個体であります。 そのため、やはりと言うべきか結晶内部に蛇紋石系アスベストであるクリソタイルの繊維を取り込んでいる様子が確認できました。 画像3枚目に見られるような針状の結晶がそれです。 こういった結晶の外縁部位に存在するインクルージョンは、恐らく研磨加工する過程で除去されてしまうのでしょう。 宝石らしい輝きや分散光は磨かなければ拝めませんが、原石の状態でなければ観察できない光景があることも忘れてはなりませんね。
宝石 鉱物標本 6.5~7 2015年テッツァライト
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デマントイドガーネット/灰鉄 "翠" ざくろ石
ダイヤモンドの如き分散光を放つガーネット『デマントイド』の菱形十二面体です。 上記のような化学組成を有することから、ガーネットとしては「灰鉄ざくろ石」と呼ばれる品種に属しています。 そのため微弱ながら磁性を有しており、ネオジムほどの強力磁石であれば容易く吸着させることができます。 数あるガーネット族の中では硬度が最低級であり、場合によっては宝石の基準とされている水晶よりも下回ってしまうため宝飾用としてはやや不適格とも取れるかもしれません。 が、そうである反面「分散度」というパラメータはすべてのガーネット、延いてはあらゆる鉱物と比較してもトップクラス。 果てはダイヤモンドのそれを凌駕する数値を誇っていることから、前述の欠点を補って余るほどの品格がこの柘榴石には備わっているのであります。 彼の結晶面には揺らめく流紋のようなテクスチャが見られるのですが、これがまた古風なステンドグラスのようでなんとも小洒落れた風合いを醸し出しています。 この小窓から内部を覗いてみますとやはり『ホーステイル』の姿が確認できました。 これはデマントイド特有かつロシア産に多く見られる特徴で、アスベスト鉱物の一種であるクリソタイルが繊維状に内包されたものであります。 https://muuseo.com/tezzarite/items/73 研磨すればもっと鮮明に観察できるかもしれませんが、せっかくの自形結晶ですので加工せずこのままの形を残しておきたいです。
宝石 鉱物標本 6.5~7 2013年テッツァライト
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デマントイド・ラウンドブリリアント/灰鉄 "翠" ざくろ石
微量のクロムが紛れ込むことで帯黄緑色に染まったアンドラダイトガーネットが『デマントイド』です。 ガーネット族の中では耐久性(硬度)でやや劣る本種でありますが、ある一点で傑出した特徴を備えていることからの彼らの頂点の座に就いた鉱物であります。 著名な産地としては発見地でもあるロシアのウラル地方が挙げられます。 かつては同地で産出するエメラルドに準えられ "ウラリアンエメラルド" という異名を与えられていました。 石の内部に見られる極細毛はクリソタイルという鉱物の繊維状結晶、すなわちアスベストです。 まるで尻尾の毛先のように見えることから『ホーステイル・インクルージョン』と呼ばれているもので、特にロシア産に多く見られる特徴であります。 画像2枚目以降でも植物の綿毛のような物体を確認できますが、実はこれもすべて鉱物の結晶です。 繊維状の部分はアスベストで間違いありませんが、その根本に見られる黒色の粒はクロム鉄鉱の粒状結晶と思われます。 通常、肉眼で確認できるほどの内包物は美観を損なうとして忌避されるものでありますが、このデマントイドにおいては価値を高める要素として歓迎されているのです。 デマントイドはしばしば "ダイアモンドの如き輝きを持つガーネット" と評されることがありますが、これは「分散度」という光学的性質が格段に強いため、ギラギラとした虹色の光輝が顕著に現れることに由来します。 その度合を具体的な数値にして比較すると、ダイアモンドが0.044であるのに対しこちらはその上を行く0.057。 これこそが「ガーネットの王」たる所以。 "~の如き" どころか実際は本家すら上回っており、ガーネット族はおろか数ある宝石の中でも高位の輝きを放っているのであります。 https://muuseo.com/tezzarite/items/75
宝石 鉱物標本 6.5~7 2012年テッツァライト
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カーボナード/金剛石
圧倒的な機械的強度を誇る炭素の元素鉱物。 歴としたダイヤモンドの一種で、『多結晶質』という特異な構造をもった変種です。 最も「硬い」鉱物として知られているダイヤモンドですが、それはあくまでも表面的な引っ掻き強さを評したもの。 明瞭な劈開性を抱えているため特定方向からの衝撃には滅法弱く、強い打撃が加われば為す術なく砕けてしまいます。 一方で、極微細な結晶の集合体であるこのカーボナードには劈開が見られません。 玉髄やヒスイと同様、結晶の緻密な犇めきあいが頑強性を生むために、通常のダイヤモンドを凌駕するタフネスが備わるのです。 このように個が群を成し堅固な一団となる様は、古代ギリシャにおいて無類の強さを誇ったというファランクスのよう。 ダイヤモンドの石言葉には "不屈" がありますが、あらゆる征服を撥ね退けるこの黒い塊こそが、その言葉を真に体現しているのではないかと思います。 ご覧のとおり能力のすべてを強靭さに極振りしているため、宝石としての煌びやかさはありません。 しかし、光すら通さない鉄壁ぶりにはある種の高潔さすら感じてしまい、工業用ダイヤとして捨て置くには惜しい内面的な魅力が詰まっている気がするのです。 #ダイヤモンド
鉱物標本 10 2012年 Cテッツァライト
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グリーンダイヤモンド/金剛石
最高硬度を誇る炭素の元素鉱物。 天然の放射線によって発色した『グリーンダイヤモンド』の八面体結晶です。 ダイヤモンドといえばカラーレスなものが上等とされ、無垢であればあるほど高い等級付けがなされます。 -例えば米国の宝石学会において採用されている、アルファベットDを頂点としZまで続くカラーグレーディング方式がそれであります。 が、かと言って色付きダイヤのすべてが低品位とされる訳ではありません。 自然要因によって着色され、基準石よりも色の濃い個体に関しては「ファンシーカラー」として区別され、また違う基準の下に評価されるのです。 彼のグリーンはやや色味が薄いですが、この淡さを楽しむのもまた一興です。 #ダイヤモンド
宝石 鉱物標本 10 2012年テッツァライト
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プラチナキューブ/自然白金
この「プラチナキューブ」ほど私の目を惹きつけたプラチナ結晶はありません。 何故ならば古代文明の遺跡のような、あるいは超金属生命体のオールスパークを思わせる不可思議で別次元的な存在感を纏っているからです。 表面に刻まれた幾何学模様が人工物っぽさを助長していますが、大自然が創造した天然のプラチナであります。 ロシア東部ハバロフスクKonderに存在するアルカリ性超塩基性の山塊より採取された結晶です。 プラチナもまた高い腐食耐性を備えていることから、宝飾用の貴金属として人々を虜にしてきました。 その化学的な安定性に裏打ちされた輝きはゴールドと同等かそれ以上。 金を凌駕する希少価値を持ちながらも光沢は銀のように上品であるため、ゴールドよりもプラチナのほうが好きという方も多いのではないでしょうか。 他方でこのプラチナという金属には、有害物質を無害化するという強力な触媒作用が備わっています。 この性質に着目し、例えば自動車分野においてはエンジンから発生する排ガスを低減するための触媒コンバータに利用されており、浄化装置として組み込まれ環境負荷の低減に一役買っているのです。 私たち人類にとってかけがえのない友人とも呼べる白金。 その美しい外観に違わず、空気までをも綺麗にしてくれるという非常にありがたい存在なのであります。
鉱物標本 4~4.5 Pt ロシアテッツァライト
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ゴールドonプラチナキューブ/自然白金に付着した自然金
こちらの自然金は、何を考えたのかプラチナキューブの表面に居を構えることにした模様。 当然ながらこれはすべて天然の産物なのですが、この不思議な有り様はさながら人工的な蒸着を施したかのようです。 ロシア東部ハバロフスクKonderに存在するアルカリ性超塩基性の山塊より採取された結晶です。 この地において自然金が付着した自然白金は度々発見されますが、こちらのように完璧な結晶形をもつ標本はなかなか見られません。 金は高い腐食耐性を持つため酸素程度に侵されることはありません。 そのため輝きが褪せることはなく、高貴な存在として人々を魅了し続けてきました。 前述の貨幣材料としてははもちろん、絢爛な装飾品や、豪華さを演出するための金箔。 果ては金メダルといった "栄光の象徴" として用いられて来たこともその表れではないでしょうか。
宝石 鉱物標本 2.5~3 Auテッツァライト
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レッドスピネル/苦土尖晶石
ミャンマーに所在する世界的な宝石産地『モゴック』で産出したレッドスピネルの八面体結晶です。 彼らスピネルの誇る真紅色も見事なもので、しばしばルビーと誤認され用いられることがありました。 イギリス王室が所有する大英帝国王冠。 その正面中央に座す"黒太子のルビー"の正体が、実はスピネルだったというエピソードが最たる例です。 しかし結晶の発達した原石であれば、ルビーとの結晶系の違いから八面体を成すため判別はそこまで難しくありません。 何らかの鉱物でしょうか。 抉れたような結晶面には黒い粒状物が埋め込まれています。 赤いボディの中でただひとつ、太陽の黒点のようでもあります。 数あるスピネルの中から彼を選んだのは、この包有物の存在感に惹かれたからでもありました。 人によっては単なる不純物でしかないかもしれませんが、自分にとっては魅力的な艶ボクロなのです。
宝石 鉱物標本 7.5~8 2018年テッツァライト