宴の準礼装・ディナージャケットの装いを理解する

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文/飯野高広
イラスト/marco

約束事が厳密になりがちな礼装(フォーマルウェア)について整理する本企画。準礼装であるディナージャケットの装いや着用シーンについて、服飾ジャーナリストの飯野高広さんに教えていただきました。

「儀式か宴か」を縦軸に、「格式」を横軸に捉えると理解しやすい

「儀式か宴か」を縦軸に、「格式」を横軸に捉えると理解しやすい

主に昼間に行われる行事は「儀式」=厳か・地味。主に夜間に行われる行事は「宴席・パーティ」=楽しい・派手。

主に昼間に行われる行事は「儀式」=厳か・地味。主に夜間に行われる行事は「宴席・パーティ」=楽しい・派手。

宴の準礼装・ディナージャケットとは?

畏まった礼装が求められる宴の場が極端に減少している今日では、もはや事実上の宴の正礼装とも言え、宮中晩餐会でもイブニングドレスコートではなくこの装いが指定のケースも増えている。

また正礼装・準礼装の中では弔事での着用を想定していない唯一のものであるためか、他のものに比べディテールの選択に許される範囲も広い。

例えば映画のアカデミー賞の受賞式(起源が晩餐会だった名残なのか、「式」ではあるが今日でもこの着用が求められる)での男性の装いを見れば、その許容度はご理解いただけよう。

MuuseoSquareイメージ

日本では遥かにお馴染みの呼称である「タキシード」は米語。「ディナージャケット」はイギリス英語での表現で、英国以外でのヨーロッパでは「スモーキング」と呼ばれる。

各々に由来の微妙な違いがあるのだが(是非ご自身で調べて見てください!)、それが呼称の違いに直結し、またいずれも1870~80年代に原型が登場した点、そしてイブニングドレスコートの簡略化を目的に創造された点では一緒である。

なお、アニメの「セーラームーン」にはタキシード仮面なる人物が出てくるが、彼の装いは実はこれではなくてイブニングドレスコートである。

ディナージャケットの着こなし

ジャケット(ディナージャケット)

ジャケットは一般的な着丈で、シングルブレステッドであってもダブルブレステッドであっても同格。前者なら胸ボタンの数は1つなど、それが少ないほうがより相応しいとされている。

色は黒若しくは濃いミッドナイトブルー、柄は無地が基本だが多少なら光沢を有していても許される。

襟は原則的にはピークドラペルかショールカラーで、前者なら下襟全体、後者なら襟全体をイブニングドレスコートと同様に本体の生地と同色の拝絹で飾るのが特徴。今日では下襟全体をそれで飾った、ノッチドラペルのシングルブレステッドのものも多い。

また、ディレクターズスーツと同様に腰ポケットにはフラップを付けないのが一応良しとされるが、そこまで厳格に考える必要もない。

トラウザーズ(ディナージャケット)

トラウザーズはジャケットと共地で、こちらもイブニングドレスコートと同様に両脇のサイドシーム全体を「側章」と呼ばれる同色のシルク地テープで飾り、ジャケットの拝絹とリズムを合わせているのが大きな特徴。ただし、こちらはテープの線は1本のみである。

ウェストコート(ディナージャケット)

実は選択肢が幾つもあるのがウェストコート。

①素直にウェストコート(ただし一般的なものに比べVゾーンが広い=胸ボタンの数が少ない)

②ウェストコートを腹部にのみ巻く形状にした、ボタン付きの「カマーベスト」

③ウェストコートからボタンも取り除き襞付きの帯状とした「カマーバンド」の3種類から選択可能。

その中では①でかつジャケット・トラウザーズと共地のもの、若しくは②か③でジャケットの拝絹と同種の黒のシルク地を用いたものが格上と見なされる。なおジャケットがダブルブレステッドの場合は、これらを省略することも可能だ。

シャツ(ディナージャケット)

シャツは白無地で、胸元の上下方向に細かな襞を備えたプリーテッドブザム(通称「ヒダ胸」)のものが標準的で、中にはプリーツの代わりにフリルが付けられているものも。

襟はウィングカラー・レギュラーカラーどちらでも大丈夫。袖口はモーニングと同様に元来は硬めのシングルカフだったが、今日では折り返し付きの「ダブルカフス」を用いても良い。

タイおよびチーフ(ディナージャケット)

タイは拝絹と同種の黒のシルク地を用いた蝶ネクタイが最も一般的。結ぶのに少々コツがいるものの、できれば自分で結ぶものを用意したい。

この装いの別名「ブラックタイ」は、この礼装の着用が求められる場への招待状の文末に、その言葉がさりげなく書かれドレスコードを暗喩するのが習わしだから。

ただし、場が許すのであれば鮮やかな色柄の蝶ネクタイやクロスタイのようなものであっても構わない。

その場合はウェストコート・カマーベルト・カマーバンドも同じ色柄の生地として全体を調和させるのが不文律だ。ポケットチーフも基本はリネンの白無地だが、状況に応じ鮮やかな色柄のものを挿しても大丈夫。畳み方も好みに合わせてで構わない。

小物(ディナージャケット)

カフリンクスやシャツのボタン代わりに胸元を飾るスタッズなどは、例えば金色系のメタルで縁取った黒蝶貝やオニキスなど、他の礼装に比べ多少華やかなものを用いても問題ない。

一方手袋はイブニングドレスコートと同様で、本来は白いキッドスキンスエード製の縫い目が表に出ない内縫いのもののみだが、現在では素材が布製でも構わない。またブレーシスは、色は黒若しくはタイやウェストコートの色味に合わせる。

革靴(ディナージャケット)

色は黒が大前提で、牛のカーフやキップ若しくはキッドスキンのパテントレザーを用いたオペラパンプスか内羽根式プレーントウが最適。

ただし今日では、コバの出っ張りが少ないなど品の良いデザインのものであれば同種の素材を用いた外羽根式のVフロントプレーントウで大丈夫。

また綺麗に磨かれたものであれば、アッパーがパテントレザーではなく上質なボックスカーフのスムースレザーのものであっても構わない。また靴下もイブニングドレスコートと同様だ。つまり黒無地で、可能であればシルク製のスムース編みのホーズが理想となる。

ーおわりー

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公開日:2018年6月15日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

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