儀式の正礼装・モーニングの装いを理解する

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文/飯野高広
イラスト/marco

約束事が厳密になりがちな礼装(フォーマルウェア)について整理する本企画。正礼装であるモーニングの装いについて、服飾ジャーナリストの飯野高広さんに教えていただきました。

「儀式か宴か」を縦軸に、「格式」を横軸に捉えると理解しやすい

「儀式か宴か」を縦軸に、「格式」を横軸に捉えると理解しやすい

主に昼間に行われる行事は「儀式」=厳か・地味。主に夜間に行われる行事は「宴席・パーティ」=楽しい・派手。

主に昼間に行われる行事は「儀式」=厳か・地味。主に夜間に行われる行事は「宴席・パーティ」=楽しい・派手。

儀式の正礼装・モーニングとは

MuuseoSquareイメージ

皇居での新年一般参賀や春・秋の園遊会の際、男性皇族の方々がお召しになられているのがこれ。あるいは内閣認証式での男性新閣僚の装い、と申せばよりピンと来る方も多いだろう。

認証式は典型的な「儀式」であるため、組閣が延びて夜間に行われる場合でもこの装いで大正解。

入学式や卒業式での校長先生の装いも、かつてはこれと相場が決まっていた。また、大きな企業や団体が社葬を執り行う際には、会長・社長をはじめ役員の方々がこれを着用するケースも多い。

「公式度」の高い礼装であり、それ故に立場が立場だと身に着ける必要に迫られる場面は、まだまだ結構存在する。

なお、ジャケット・トラウザーズ・ウェストコートが全て異なる素材・異なる色柄の組み合わせとなり得るのは、対照的にそれらが全て同じ組み合わせであるスーツが登場する以前、つまり19世紀中盤までの価値観や様式美の名残だ。

モーニングの着こなし

ジャケット(モーニング)

膝丈のシングルブレステッドで、フロントカットが前身頃から後身頃にかけて長く斜めに切られているのが特徴。

胸ボタンの数は今日では1つが殆ど(以前は2つのものなどもあった)。色は通常は黒か濃いチャコールグレイで、柄は日本では専ら無地だが、欧米では単色で織られて目立ち難いマイクロヘリンボーンストライプも非常に好まれる。

トラウザーズ(モーニング)

我が国では「コールズボン」「コールパンツ」などと呼ばれるストライプトドレストラウザーズは、文字通り黒とグレイのマルチストライプ柄のものが主体だ。

白黒の細かなハウンドトゥース柄のものもある。慶事には比較的明るめ、弔事には黒に近い暗めのもの(稀にモーニングコートと全く同じ色柄のもの)を用いる傾向が強い。

ウェストコート(モーニング)

ウェストコートはモーニングコートと全く同じ色柄のものでも構わないが、慶事では淡いグレイや「バフ」と呼ばれる淡いクリームのものなど、より淡く明るい色調のもののほうが相応しいとされる(ただし着用にあたっては、自らの「立ち位置」なども踏まえる必要はある)。一方、弔事に際しては専らモーニングコートと同じ色柄のものを着用する。

なお、日本では黒無地のこれで見返し部にボタン着脱式の白い縁取り(スリップ)が付いたものを年配者の礼装でまだ多く見掛ける。ヨーロッパでも色が淡い系統の物を含め稀に見られるこの意匠は、当地での19世紀前半までの装いの慣わし、つまりその下にもう一枚ウェストコートを身に付けていた習慣が形骸化したもの。日本に伝わった後に「白の縁取りを付ければ慶事・外せば弔事」へと解釈も用途も変化したらしい。

シャツ(モーニング)

原則的には白無地だが、慶事では襟と袖口のみ白で身頃が淡いブルーなどであっても大丈夫な場合も。

胸元にプリーツやフリルは付かず、襟はウィングカラーかレギュラーカラー若しくは目立たないスプレッドカラーとする。

袖口は今日では折り返し付きの「ダブルカフス」が最適とされるが、以前は非常に硬いシングルカフ(一般的な「バレルカフ」からボタンを取り去り、別付けのカフリンクスのみで閉じるようにしたもの)が付いたものを用いた。

タイおよびチーフ(モーニング)

慶事には主にシルバーグレイ系のアスコットタイ若しくは一般的な結び下げ(フォア・イン・ハンド)タイ、弔事には黒の無地若しくは目立ち難い柄の結び下げのものを用いる。

ポケットチーフは実質的にはリネンの白無地一択。畳み方は最も格式の高い、頂点が3つ顔を出す「スリーピークス」としたい。なお、弔事には付けないほうが無難。

小物(モーニング)

カフリンクスやネクタイピンなどは、光沢を抑えた銀色系のメタルで縁取った白蝶貝や真珠など、あまり目立たないもので纏めるのが原則。特に弔事では極力目立たないものを用いる。

また、手袋は本来キッドスキン(子ヤギの革)スエード製の、縫い目が表に出ない内縫いのもので、色はクリームかグレイのものが最適とされる。ただしその入手が困難になった現在では、布製のものや白のものでも構わない。

革靴(モーニング)

足元の靴は、色は黒が大前提で、ボックスカーフなど牛のカーフ・キップのスムースレザー、若しくはキッドスキン(子ヤギの革)のそれを用いた内羽根式のストレートチップがやはり最適。

ただし目立たないものであれば内羽根式のパンチドキャップトウや、外羽根式のVフロントプレーントウでも構わない。また靴下は、黒無地のホーズ(長靴下)が大原則で、編みは柄の出ないスムース編みか細いリブ編みのものを。

モーニングの歴史

モーニングコートはフランス革命後に原型が登場。その名の通りもともとは午前中に着る通常服、特に乗馬する際の上着であったが、1870年代から儀式・公務用の準礼装としても使われ始め、第一次大戦前後にそれまでのフロックコートに代わり正礼装用となる。

ーおわりー

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公開日:2018年6月15日

更新日:2022年5月2日

Contributor Profile

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飯野 高広

ファッションジャーナリスト。大手鉄鋼メーカーで11年勤務した後、2002年に独立。紳士ファッション全般に詳しいが、靴への深い造詣と情熱が2015年民放テレビの番組でフィーチャーされ注目される。趣味は他に万年筆などの筆記具の書き味やデザインを比較分類すること。

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