宝石とその原石の図@大正期の鉱物学教科書

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梅雨入りが近づいていてどうもぱっとしないお天気とか、識れば識るほどモヤモヤする世の中の仕組みとか、いろいろ気ふさぎなので綺麗な石ころの絵でもながめて、せめて気分だけでもさわやかにさせておきたい。

……ということで、100年ばかり昔の鉱物の教科書を1冊引っ張り出してみた。巻頭には宝石にする代表的な非金属鉱物の原石と、カットした石とを対比した図が載っていて、被せてある薄葉紙にそれぞれの名称が書いてある。右上から「紅寶石(=ルビー)」「金剛石(=ダイアモンド)」「黃玉石(=トパーズ)」「蛋白石(=オパール)」「綠柱石(=ベリル)」「藍寶石(=サファイア)」「紫水晶(=アメジスト)」。これは写真ではなくてイラスト、色鉛筆かチョークか、固形の画材で描かれているようだ。拡大してみると意外ともんやりした感じなのだが、ちょっと離れてみると結構それらしい質感が出ている描き方とおもう。極く薄い青の背景が絵を引き立たせている。こんな立派な標本は、現物ではなかなか用意できないだろうが、イラストで描けば理想通りのものが見せられる。だからこそ、写真にはしなかったものとおもわれる。なおHBプロセス方式による三色版が国内のオフセット印刷に導入されたのは大正8年(1919年)だそうだから、この図版は手間のかかる網版多色刷りの最後の方、ということになるだろうか。

本文の「非金屬實用鑛物(其三)寶石類」という章に解説があって、ここに掲げた終いのモノクロ図版3枚はそれに添えられたもの。当時流行った、小さい石と細かい彫金の細身リングの図が応用宝飾製品の例としてあげられている。なお本文の「黃玉石」は身のまわりの装飾用、「金剛石」はくび飾り、えり飾り、帯留め、時計の飾りに使われる、とある。当時のダイアモンド加工品は1カラットあたりだいたい200円あまり(ちなみに、当時の小学校教員初任給が15〜20円くらいだったらしい)、とも書いてある。一方「鋼玉石(=コランダム)」については紅色のものを「紅寶石〈ルビイ〉」、青色のものを「青玉」または「青寶石〈サフアイア〉」といい、わけてもルビーの透明で濃い紅色を帯びたものはダイアモンドよりも高価、とある。それに加えて、ルビーは産出量が少なく需要が多いため、宝石商店で売られているもののうちには人造宝石やザクロ石、トパーズ、蛍石などでこしらえた模造品が少なくない、とか……。やれやれ、人をたぶらかして金もうけしようという手合いはいつの世にもぞろぞろいるものらしい。

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    Mineosaurus

    2023/08/23 - 編集済み

    素晴らしいコレクションですね。

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    • こちらにもコメントいただいていたのですね。ありがとうございます✨

      お気に召しましたら幸いです💎

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