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Placoparia tournemini
本種はイベリア半島一帯で広く産出する。 近縁種まで含めれば、チェコや英国、さらにモロッコでも多産するので、かなりの成功を収めた種類だといえる。 体制も一風変っていて、カクカクした感じの肋のある胸部や、弧を描くように丸まった尾部のトゲ、顆粒に覆われた目のない頭部など、一目でそれとわかるほど特徴的だ。 今回手に入れた標本は、小さいけれども色合いや質感がシックで、フランス産の美点がよく出ているように思う。 全長:22mm
Traveusot Fm. MORD La Dominelais, Britany, Francektr
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Vysocania iberica
なんとも知れない僻地の僻標本。 本種の画像を見て、その尾板の畝から、これはもしかしたらスクテルムの一種ではないか、と思って購入したもの。 ネットにはヴィソカニア・イベリカの資料も散見するけれども、どうも私の手に入れたものと同一とは思えず、いったいこの標本がヴィソカニアかどうかもいまのところ不明だ。 私の希望としては、ヴィソカニアではなくて、オルドビス紀に出た稀少なスクテルムの一種だったら嬉しいのだが、その可能性は低い。 本種について新たな知見があったら、また報告します。 全長:36mm
Ribeira do Casalinho Fm. UORD Mação, Portugalktr
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Altiocculus harrisi
三葉虫にあまり興味のない人にとっては、本種はたぶんエルラシアが長く延びたようにしか見えないだろう。 私もまあ現物を見るまではそんなふうに思っていた。 しかし、じっさいに見ると、やっぱりこれが違うんですな、当り前ですけど。 たんにエルラシアが延びただけではない、サムシングがそこにはある。 そのサムシングが本種の魅力を形作っているわけです。 しかし、前にLabログにも書いたように、表面を覆っている保護剤(?)のギラギラが、そのサムシングの発現を妨げているようにみえた。 そこでアセトンで剥がしてみたわけです。 結果は、おそらく前よりよくなった、少なくとも私の好みには合うようになったと思う。 ビフォーアフターの画像を並べておくので、ご覧ください。 全長:41mm
Wheeler Fm. MCAM Drum Mountains, Millard Co., UT USAktr
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Illaenus crassicauda
本種については、だいぶ前に丸まった小さいのを手に入れたが、どうしても気に入るに至らず、手放してしまった。 一般的には人気のあるらしいエンロール標本が私にはダメなのは、いったいどうしたわけだろうか。 この Illaenus crassicauda はイレヌスの模式種とされているけれども、じっさいのところイレヌスというよりは、北米で産出する Nanillaenus に近いのではないかと思う。 Nanillaenus は Thaleops と混同されることもあり、最近ある研究者がこのあたりのごちゃごちゃしたのを整理したようだが、ともあれその代表種とされる Nanillaenus americanus を本種 Illaenus crassicauda と比較してみると、その類似には注目すべきものがあるように思う。 いちばん最後にその北米種の写真を入れておいたので、ご覧ください。 全長:33mm
Kukruze level UORD Alexeevka quarry, St. Petersburg region, Russiaktr
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Pseudocybele nasuta
顔のかわいさという点では、全三葉虫のうちでも五指に入るだろう。 レドリキアやオレネルスの悪相(とあえていう)とはえらい違いだ。 しかしこんなかわいい顔をしながら、食性の面からみると捕食者すなわちプレデターだったという説がある。 顔で相手を油断させておいてガブッとやったのだろうか。 私は三葉虫にはあまり捕食などという野蛮な行為はしてほしくない。 なるべくならプランクトンあたりを餌にしていてほしい。 そうやって平和な三億年を過していたと思いたい(註)。 全長:18mm (註) 厳密には最大限に見積っても2.9億年ほどで、三億年には達していない
Ninemile shale LORD Eureka, NV, USAktr
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Pliomera fischeri
これは二代目のプリオメラで、当初からかなりアラが目立った。 しかし、これ以上に姿勢のよい、頭部の造作が理想的な、ハイポストマまでついた標本はなかなか見当たらない。 このプリオメラという種類は、かつてはそれなりの数が出ていたのに、最近ではふっつり見かけなくなった。 今後はどんどん稀少になっていくのではないか。 本標本は一見ぼろぼろだが、その目をルーペで見ると、微細な複眼の構造が保存されてる。 これもやはり私がこの標本を手元においている理由のひとつだ。 というわけで、いろいろと見どころの多い標本であることは確かだが、やっぱりどうしても気になるのはその全体のくたびれ具合と、母岩から外れている点だ。 これはまあ、諦めるしかないですね。 全長:40mm
Unknown ORD Russiaktr
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Cybele bellatula
Labログ(キベレの思い出)にも書いたように、復帰後最初に手に入れたのがこれだ。 あれからまだ一年ほどしか経っていないが、なんだかずいぶん昔のことのような気がする。 これはエンクリヌルスの仲間に入れられていて、エンクリヌルスといえば、イチゴ頭と称される頭部のツブツブと、飛び出した目が特徴的だが、本種においては頭部の顆粒はそれほど目立たず、目は飛び出しているけれども控えめで繊細だ。 この控えめで繊細というのは、本種の全体についてもいえることで、全三葉虫のうちでもかなり優美な部類に入るのではないかと思う。 野趣が感じられないので、それが物足らないという人もいると思うが…… この標本は母岩がいびつで、どうしても安定せず、下手をするとひっくり返りそうで、心臓にわるいので、紙粘土で補強して安定させてある。 なお、この繊細すぎる三葉虫には、C. Panderi という姉妹種があって、本種に輪をかけて細長い眼軸をもっている。 その細長さは、チェコのミラスピス・ミラと双璧をなすといってもいいくらいだが、あまりにフラジャイルで私には怖くて扱えない。
Kunda Horizon, zone Asaphus expansus LORD Voibokalo quarry, St. Petersburg region, Russiaktr
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Paradoxides gracilis
今からちょうど10年前に手に入れたもの。 本種については購入当時にブログにいろいろと書いたので、ここでは繰り返さない。 とにもかくにもこれが私のコレクションの核であって、三葉虫探求において私の辿る道はすべて本種に端を発しているといっても過言ではない。 これはふぉっしるの出品で、落札価格は12,000円だった。 この金額が、その後の私の基準となってしまい、なかなかこの金額を超える標本を買うことができなかった。 その縛りは、細々とではあるが、いまも続いている。 全長:90㎜
Jince Fm. MCAM Czech Pepbulicktr
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Ptychoparia striata
かつてはプティコパリア目の頭目のような顔をしていた本種だが、いまでは未確定目に他のものといっしょに放り込まれて、もはや昔日の威光はなくなった。 とはいうものの、本種がチェコを代表する三葉虫のひとつであることに変りはない。 けっして稀少種というのではないが、りっぱな標本はやはりそれなりに貴重だ。 R・フォーティはその著「三葉虫の謎」のなかで、本種について「ミスター平均」という呼称を与えている。 三葉虫の基本的なシェイプからの「いかなる方向への誇張もいっさいない」というのだが、どうだろう。 私にはそれほどプリミティヴにはみえないし、むしろボヘミアらしい奇妙な偏向を感じてしまう。 偏向というのは、ボヘミア三葉虫がもっている、一種異様な地下世界的な風情だ。 私にはそれがなぜか鉱山のイメージと重なってくる。 そこに魅力を見出せるかどうかが、この地の三葉虫を鑑賞する際の決め手になるだろう。 全長:48mm
Jince Fm. MCAM Czech Repblicktr
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Ceratonurus sp.
デボン紀オクラホマの産。 オクラホマという土地は、他のアメリカの産地とはちょっと趣を異にしていて、ここから出るものは、むしろモロッコやチェコのものに近い。 オクラホマ、モロッコ、チェコという、今日ではずいぶん離れた場所から似たような種類がいくつも出るのが私にはおもしろく思われるのだが、その理由はまだ調べてみない。 本種はいまだに種としての名がなく、いわば名無しの権兵衛状態なのだが、発見されてからもう二十年は確実に経っているし、その間にいくつもの個体が市場に現れて愛好家には知れ渡っているわけだから、もう改めて記載しなくてもいいんじゃないの、と思われている可能性はある。 母岩の裏側に1991という数字が彫られているが、これが1991年を指すのかどうかは不明。 サイズはトゲ込みで42㎜。
Haragan Fm. LDEV Clarita, OK, USAktr
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Pseudobasilicus lawrowi
全長45㎜の子供個体。 母岩とのマッチングはいいし、形も整っているので、小さくても気にならない。 考えてみれば、私のもっているロシア三葉虫は小さいものばかりだ。 理由は簡単で、そうでもなければとても手に入れられないほど、ロシア三葉虫は高価なのである。 Pseudobasilicus は昔は Ptychopyge の仲間に入れられていて、たしかに見た目もよく似ているのだが、どういうわけかいまは Pseudoasaphus の仲間に入っているようだ。 また Pseudobasilicus にも二種類あって、P. lawrowi と P. planus とを比較すると、前者のほうが頬棘が太くて長い、額の小さい角のような突起が明瞭、頭蓋前方が細長い、尾板の畝がカーブしている、などの違いがあるとのこと(SPPLの図鑑による)。 あと余談だが、本種の名前の元になった Basilicus というのは、イギリスで産出する三葉虫で、ソルターの画期的な論文「英国の三葉虫」でも大きく扱われている。 かなり大型化する種のようで、tyrannus の種小名が示すとおり、威風あたりを払うといった風情だ。 (追記) ソルターの本から Basilicus tyrannus の画像を追加しました。
Aseri Horizon MORD Volkhov river, St. Petersburg region, Russiaktr
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Escharopora falciformis
オルドビス紀ケンタッキー産のコケムシで、その名(falciformis = 刀の形をした)のとおり半月刀のようにもみえる。 もっとも拡大してみると、この刀には細かい孔が規則正しく並んでいて、これがコケムシ本体の棲み処だと知れる。 コケムシにしろサンゴにしろ、本体(個虫)は消え去って棲み処だけ残っているわけだが、同じことはアンモナイトにもいえるだろう。 本体サイズ:約45㎜
Fairview Fm. UORD Bracken, KY, USAktr
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Ceraurus pleurexanthemus
オルドビス紀ニューヨーク産。 ウォルコットの砕石場で採れたものらしいが、同地の他の標本と比べると、どうも風合いが違う。 産地を偽っているわけではないと思うが、あまり目にしないタイプの標本だ。 本種については、ウォルコットが三葉虫の付属肢を調べるのに使った切片標本の話が有名だ。 エンロール状態のものをスライスして磨き上げた標本の画像はじつにファンタスティックで、サイケデリックですらある。 フォーティはその話を紹介した際に、ウォルコットが本種を C.p.と略記している理由として、種小名の pleurexanthemus が長すぎてややこしいことをほのめかしているが、このものものしい名前はおそらく「花弁状の肋」というほどの意味ではないかと思う。 本体サイズ:尾棘込みで45㎜
Rust Fm. UORD Gravesville, NY, USAktr
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Cyphaspis ceratophthalma
意外なことに、これが Cyphaspis の模式種らしい。 買った当時はそんなことはまったく意識しなかった。 アイフェルという古典的産地に対する憧れだけで買ったようなものだ。 いまでもアイフェルに対する憧れはあるけれども、それを満たしてくれる標本に出会うことはない。 もしかしたら本種が私の唯一のアイフェル標本になるかもしれない。 そう思うと、これは大切にしなければという気になってくる。 本体サイズ:トゲ込みで23㎜
unknown MDEV Gerolstein, Germanyktr
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Lemureops lemurei
シュードキベレの仲間だが、見た目がかなり異なるので、別属として立てられたらしい。 北米産の、こういう立体的に保存された三葉虫は、たとえサイズが小さくとも、その質感にはつねに見るべきものがある。 こういうシックでマットな質感は、他の産地にも見られるのだろうか? いずれにせよ、質感のよい北米産の三葉虫は、歴としたフォルマリスト(形相派)をもマテリアリスト(質料派)に傾かせるに十分だ。 本体サイズ:14㎜
Fillmore Fm. LORD Utah, USAktr