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Eobronteus laticauda
記載年からも分かる様に非常に古くから知られた種類です。この標本は、この産地の産状を良く表していて、チャートの様な質感にEobronteusの尾部や頭部などの部分化石が積み重なって形成されています。この様にまとまって産出し、完全体での産出は無いのですが、細部の保存は明瞭で尾部や頭部の皴構造を観察するには最適な状態です。
Lower Ordovician Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-711-2 -Trilobites
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Paralejurus brongniarti
一般的なParalejurusで、見た目も完璧とは言えない個体であり、Hammi氏の剖出と言われても表側だけ見てると私も触手が伸びなかったと思います。この標本の特筆すべき所は、裏側の頭部付近です。細かい粒々が確認できます。これは三葉虫の卵であるという説があります。近年ではアメリカNY州から産出する黄鉄鉱化し軟体部が確認できるTriarthrus eatoni(HALL,1838)から、同様に三葉虫の卵とされる学説(#1)が話題となりました。三葉虫は、頭部に産卵口があるとされ、このデボン紀の産地でもHammi氏によれば、他の個体でも頭部裏にしか粒々が発見できないとの事なので、信憑性は一理あるのではと思われます。個人的には、母体の大きさの割に卵が大きく感じたり、もし卵だとしたら、もう少し大量に散乱するのではとも思います。ただ育児嚢の様な器官があって、化石化する前に少し飛び出ただけの可能性もあり、色々想像できます。 【参考リンク】#1 : Pyritized in situ trilobite eggs from the Ordovician of New York (Lorraine Group): Implications for trilobite reproductive biology(2017) https://pubs.geoscienceworld.org/gsa/geology/article-abstract/45/3/199/195237/Pyritized-in-situ-trilobite-eggs-from-the?redirectedFrom=fulltext
Lower Devonian (Pragian Stage) Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-44-2 -Trilobites
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Paralejurus brongniarti
最も一般的なParalejurusで、モロッコ産でも入門種として扱われます。この個体は頬棘が無く、ドーム状に張り出したの尾部、Paralejurusに特徴としてある皴構造は控えめな種類です。これだけ多産する一般種でありながら、小種名は P.dormitzeriとして扱われたり、混迷しています。この標本で注目すべきは、体表面に幾つかある粒上の物体、これはゴミが取り除かれていないのではなく、小さな巻貝なのです。普通なら削り取られてしまうでしょうが、この様な小生物が共存していた痕跡が残された事が重要なのです。生息環境で共存していたのか、Paralejurusの死骸に群がってきた掃除屋なのか、当時の海底に思いを馳せながら色々想像が広がります。
Lower Devonian(Pragian Stage) Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-44 LhandarTrilobites
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Scabriscutellum sp.
背中に棘のあるScabriscutellumが登場しだしたのは、1990年代後半だったと記憶しています。デボン紀モロッコ産は、既に様々な棘々種が登場していましたが、サンドブラストを用いた革新的な剖出技術の向上により、より繊細な体表面の凹凸を飛ばす事なく残す事が出来た要因が大きいと感じます。それまでは、棘があるなんて全く想像もしていなかったScabriscutellumに新たな姿があったとは驚きを得ると共に、更にモロッコ産三葉虫の多様性と保存の良好さに魅了されて行くのでした。本標本も保存が良い個体に見られる尾板縁のギザギザが確認できます。
Middle Devonian Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-721-2 -Trilobites
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Scabriscutellum sp.
Scabriscutellum hammadi(CHATTERTON et al.,2006)として入手した標本ですが、まだ正式な学名は付いていないと思われます。頭部や尾部が分かりやすいのですが、全体が細かい孔状の窪みがあり、体表面がツルっとした種類が多い他のScabriscutellumとは少し印象が異なります。幅広な体形でもあり、例え細かい窪みが無くても他のScabriscutellumとは違うことが分かります。産地のTafraoutは、他の産地とは違う亜種の様な三葉虫が多く見られ、一時期注目していました。
Devonian Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-506 TimrhanrhartTrilobites
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Scabriscutellum sp.
尾部を改札鋏で切り込みを入れた様に切り取られています。しかし、その後も生き抜いたのでしょう、縁取りは丸く滑らかになっています。脱皮直後に別の生き物に捕食されかけたと思われますが、相手が何物だったのか今となっては不明です。尾部の切り取られた場所の近くの尾部の中心付近も歪みが生じています。このScutellumは、胸部に一つずつ垂直方向の棘が並ぶ種類です。棘のあるScutellumは市場に登場して暫く経ちますが、まだ正式な学名が確認できません。
Middle Devonian Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-518-2 -Trilobites
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Scabriscutellum sp.
通称Scabriscutellum furciferum(HAWLE and CARDA,1847)で知られるモロッコで一番スタンダードなScutellumです。近年、モロッコ産の研究が盛んですが、Scutellumについては何故か先送りのため、昔からの一般種でも正確な学名が付いていない状況です。扇子状の独特の畝を持つ美しい尾板は、一時的な遊泳に大きな推進力を発揮した筈です。尾板の縁は良く見ると細かいギザギザが確認でき、Scabriscutellumは実はThysanopeltis (ティサノペルティス)と同じ様に尾部には棘がある事が分かります。これは状態の良い保存状態だけでなく、剖出技術にも左右されます。胸部には棘がありませんが、この個体には痕跡も確認できないので無いタイプと推定しますが、実際は細かい毛のような棘があった可能性はあります。 (2023.9.3標本を入替ました)
Lower Devonian(Emsian) Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-518 -Trilobites
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Platyscutellum cf. massai
巨大なPlatyscutellumの尾板だけの標本です。同じ個体か分かりませんが、頭部の一部も残されています。扇子を広げた様な巨大な尾板だけでも迫力があり、推定する全長は15㎝を超えていた可能性があります。この大きさですとドロトプスにも引けを取らない存在感だった筈です。尾部の部分化石が積層している様な産状で、1990年位は市場で少し見掛けましたが、近年は珍しい化石となりました。
Devonian Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-276 Hamar LaghadTrilobites
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Illaenus sarsi
ロシア産のキャラメル色や、スウェーデンの緑灰色とも違う漆黒の化石となるノルウェー産です。産出種としてはバルト海沿岸の主要産地と同じか近似ですが、色が違うだけで印象が全く異なるのは不思議なものです。2010年代に研究者から提供された標本が、マスターフォッシルを通じて幾つか流通しましたが、簡単に手を出せない位に高価にコントロールされていた数点の標本の一つです。少し待ては、もう少し安価に供給されるかと思いきや当時流通した標本以外は未だに流通してきません。「Fossils and Strata, Number 56,Trilobites of the Middle Ordovician Elnes Formation of the Oslo Region, Norway」を見るとオスロ近郊の広い範囲に産地があるようですが、この黒い三葉虫が産出するのは、多分狭い範囲だけで場所は公開されていないようです。
Middle Ordovician Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-626 ElnesTrilobites
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Platyscutellum cf. massai
モロッコでもScutellumの仲間は、種類は多く魅力的な尾板をしているのですが、どの種類も数は少なく近年は更に貴重になってしまいました。Platyscutellumという種類は、丸みを帯びた尾板が特徴で、Scutellumの中でも産出量が特に少ないことで知られます。産状は、基本的には部分化石であり、完全体は幻とされていました。この種類、イミテーション(贋物)が数多く出回っており、オークションやミネラルショーでも良く見かけます。コレクターには、Platyscutellum=贋物のイメージが定着してしまい、常に疑いの目を向けられてしまう種類なのですが、裏を返せばそれだけ魅力的な形態をしていて、完全体が貴重な種類でもあるのです。
Devonian Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-276-2 -Trilobites
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Thaleops ovata
Iowa以外にも隣接するWisconsinからも同種は産出します。ただ、どちらも産出は非常に少なく、入手が困難な種類となっています。ロシアのIllenusに似ていますが、大きさはロシア産の様に巨大化はせずに、精々この標本の様に3㎝程度の大きさしかなりません。比率からは不自然な程に大きな頭部に、張り出した大きな頬棘が特徴的です。この標本は、頭部のシミ状に見える部分は補修されています。
Upper Ordovician Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-512 MaquoketaTrilobites
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Scabriscutellum lahceni
剖出技術の向上に寄る所もあったのかもしれませんが、それまで良く目にしてきたScutellumの仲間に棘があるなんて想像もしていませんでしたので、Scutellumの仲間に棘がある種類が出てきた時は衝撃でした。近年は棘々Scutellumは、モロッコでは数種が知られていますが、本種は太めの棘が胸部中央部に体節毎に1本生えています。中央部には何故か棘の無い胸節もありますが、他の標本でも同様の傾向なので、最初から無かったようです。
Middle Devonian Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-499 TimrhanrhartTrilobites
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Calycoscutellum grafi
状態の良い標本ばかり見ていると何の化石かも分からないと思いますが、スクテラムの一種です。既に絶産のドイツのGeesでは、古くから研究され近年のモロッコ産デボン紀三葉虫でお馴染みの近縁種が産出していました。状態が良くない標本が多いのですが、私の様な欧州古典産地が好みの者にとっては、モロッコ産などよりはるかに格上の産地であります。Geesにおいてもスクテラムの仲間は数は少なく、完全体はまず無いと言って良い位に希少さであります。この標本は完全な複眼と特徴的な尾板の畝がよく分かり、「化石標本」らしい渋さがあります。
Middle Devonian Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-473 AhrdorfTrilobites
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Stygina sp.
オルドビス紀のモロッコ産において、数々の注目種が産出するKaid erramiですが、その中で本種は余り注目されるような種ではありませんが、非常に産出数が少ない事で知られます。同様に入手が困難なロシアのStyginaと同じ平面的な形態です。棲息当時としてもマイナーな種類であった事に変わりはないと思われます。母岩が砂岩質の様な粒子が粗目の産状なので、風化している様な印象を与えますが、ここの産地では已むを得ないと感じます。
Ordovician Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-578 KtaouaTrilobites
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Japonoscutellum japonicum
「日本のスクテラム」と名付けられたスクテラムの頭鞍の標本です。見慣れていないと、これが三葉虫の一部であると気が付かないような標本です。スクテラムの仲間はモロッコ産で多産するイメージがありますが、モロッコに於いても相対数は少なく、それは国産に於いても同様の貴重度であります。更に珍しい所として、スクテラムは後世のデボン紀に繁栄しましたが、シルル紀におけるスクテラムの仲間は、産出例が横倉山以外では世界的に見ても少なく、初期のスクテラムの仲間の姿として注目すべき存在に思います。
Upper Silurian Styginidae,Illaenoidea,Illaenina,Corynexochida TRI-593-2 Yokokurayama(G3)Trilobites