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Cheirurus sp.
マルヴァン産のケイルルスの一種 (Cheirurus sp.) です。 長年、クテノウラ・レトロスピノサ (Ktenoura retrospinosa) としてきたのですが、最近、ケイルルス・セントラリス (Cheirurus centralis) の可能性もあるんじゃないかと思い始め、差し当たり、何らかのケイルルスという事で保留としております。 頭鞍が顆粒等に覆われておらずツルッとしており、自由頬にも、やや細かい顆粒があるのみです。 頭鞍/頭鞍葉の形状などからは、また別のケイルルスであるプロロマ (Proromma sp.) とは、少なくとも本種は異なるのではないかなと考えております。種の判断材料になったであろう尾部は、残念ながら失われてしまっており、それが鑑別をより難しくしてしております。 いずれにせよ、英国産のケイルルスは市場に出回る機会が非常に稀で、希少な標本と言えるかと思います。 本標本のアピールポイントとしては、珍しくハイポストマ (hypostoma) が某出されており、その形状がしっかり観察できます (写真4枚目) 。ハイポストマには、これといった特徴はなく、角が丸い三角形をしており、表面には特に目立つ顆粒等はありません。 全体的な構図としては、母岩をよっこらせと登っている最中であるかのような動きを感じる標本で、コミカルな印象をうけ可愛らしいです。色々な意味でお気に入りの標本です。
Wenlock series, Silurian Malvern,Worcestershire, UK Cheirurus sp. 35mmtrilobite.person (orm)
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Gravicalymene arcuata
イギリス産の三葉虫、グラビカリメネ・アルクアタ (Gravicalymene arcuata) です。三葉虫蒐集のかなり初期に入手した標本ですが、その後市場で見かける事もそれほど多くなく、産出量のそこまで多くない種だという印象です。 ぼやっとした境界不明瞭な標本が多い本種ですが、本標本は細部まで観察でき立体感もあり、35mmと本種にしてはサイズもかなり大きめです。ポジネガともに揃っており、良標本かと思います。 カリメネはシルル紀を中心に全世界で繁栄した種ですが、本種のように古くはオルドビス紀にも分布していました。市場で見かける種で、Gravi-が接頭につくカリメネはあまり多くありませんが、有名どころでは本邦で産するグラビカリメネ・ヤマコシィ (Gravicalymene yamakosii) が知られております。アルクアタとは対照的に、ヤマコシィはデヴォン紀の種ですので、カリメネ全体で見ればオルドビス、シルル、デヴォンと3つの紀に渡り、生息していた事がわかります。
Ordovician - Gwynedd, Northwales, UK Gravicalymene arcuatatrilobite.person (orm)
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Walliserops tridens & Acastoides zguilmensis
一体この謎のフォークにどんな機能があったのでしょうか? 戦いの武器?、一種のセックスアピール? いずれも想像の域を出ませんが、興味が尽きません。 こちらは、Walliserops tridens (ワリセロプス・トリデンス) & Acastoides zguilmensis (アカストイデス・ジグイメンシス) です。このうち、特にワリセロプスは見ての通り、あまりに奇妙な頭部先端のフォークが目立ち、見た目がド派手な為、モロッコ三葉虫の中でもとりわけ人気が高い種です。 さて、このワリセロプスには複数種がいて、 ✔︎フォークが長いタイプ: Walliserops trifurcatus ✔︎フォークが短いタイプ: Walliserops tridens Walliserops hammi Walliserops lindoei と大まかに分けられます。 長いタイプの唯一の種、ワリセロプス・トリフルカトゥス (Walliserops trifurcatus) は実に奇天烈な見た目の種で、『あんた一体何者なんだ?』とツッコミたくなります。フォークや棘の掘り出しには技術を要し、プレパレーターの腕が試される種でもあります。この種は、とりわけ人気がありますが、フォークが短いタイプに比べれば、比較的産出量は多いようです。 一方、短いタイプには主に上記3種類がいます。 ハンミ (Hammi) はフォークが細く両脇の角が大きく湾曲している事が特徴です。リンドエイ (Lindoei) はフォークの3つの角が潰れて、平坦になっている事が特徴であります。本種トリデンスは、特徴がない事が特徴といいますか、細くもなく潰れてもない短いフォークなら、トリデンスかなと私は判断しています。流通量的には、リンドエイ>ハンミ>=トリデンスなイメージです。リンドエイとトリデンスはやや似通っていて、混同されている標本も見かけます。 ところで、このフォーク、日本のカブトムシのようだと思われた方もいるかもしれません。しかし、実は全然構造が違います。カブトムシの角はよく見ると、先が4つに分かれ左右対称です。一方、このフォークは見ての通り3つ組構造です。3つ組の構造物は、古代〜現生種でみても、実はかなり珍しく、この種を特別なものにしています。 三葉虫の形の面白さや奇妙さを説明する際に、これほど適した種もいないと思います。
Devonian - Timrzit, Maider, Alnif, Morocco Walliserops tridens & Acastoides zguilmensistrilobite.person (orm)