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Ductina ductifrons
ドイツの三葉虫、ダクティナ・ダクティフロンス (Ductina ductifrons) です。 市場では、このドイツ産しか見かけたことがありませんが、イギリス、ロシアのウラル地方やポーランドのHoly cross Mts. などでも産出するようです。また有名な類似種として、中国産のダクティナ・ヴェトナミカ (Ductina vietnamica) がおりますが、こちらは二回り程サイズが大きいです。 ファコプスの仲間ですが、眼は二次性に退化して無くなっており、深海環境等に適応していた種なのではないかと考えられています。地味な趣の、コレクターには人気のない三葉虫ですが、三葉虫の進化や生態を考える上では、面白い種であります。
Devonian - Oberbergisches Land, Wuppertal, Eskesberg, Germany Ductina ductifronstrilobite.person (orm)
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Gerastos cuvieri
ゲラストスという種は、小さくて派手でもなく、比較的安価に入手できるので、モロッコ産三葉虫の中では軽視されがちです。しかし実際は、種類も多様で案外奥が深く、何より可愛らしい種であります。 こちらはモロッコ産ではなく、ドイツのGees産のゲラストス・キュヴィエリ (Gerastos cuvieri) です。見た目はモロッコの類似種に似ておりますが、やはり一回り小さい印象があります。 目に艶がありキラキラしているので、まるで生きている小さな昆虫のようです。母岩の端でくるりと丸まっており、実に愛らしい標本です。
Devonian Ahrdorf Gees, Geroltstein, Eifel, Germany Gerastos cuvieritrilobite.person (orm)
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Coltraneia sp.
モロッコのコルトラネイアの一種 (Coltraneia sp.) です。普通のオウファテネンシス (C. oufatenensis) でいいんじゃないかなとは思うのですが、確証がないので、差し当たり一種のままとしております。 エルベノチレほどではないものの、大きく高い複眼をもち、極めて広い視野を持っていた種だと思いわれます。棘なしエルベノチレという雰囲気の種です。 いわゆるモロッコの一般種であり、市場を見回せばほぼ常に供給されている状態です。供給量を見るに、おそらく、その広い視野を存分に活用していち早く索敵し、生存確率を上げることで、当時のデボン紀の海の中で大繁栄を遂げる事ができた種なのではないかと想像します。 この標本の特筆すべき点は、その驚異的なまでのプレパレーションにあります。こちらはモロッコ三葉虫の名プレパレーター、Hammi氏より直接購入した標本です。72時間ほどのプレップ時間を要したとのことです。彼の作品の私の手持ちの中では、最も熱量を感じる逸品です。 惜しくらむべきは、私の稚拙な撮影技術が、彼の卓越した技術の粋を全く捉えきれていないという事でしょうか。そういう意味で実に可哀想な標本であります。
Devonian - Jbel Issoumour, Morocco Coltraneia sp.trilobite.person (orm)
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Crotalocephalina secta (pygidium)
こちらは、No.23やNo.176のクロタロセファリナ・セクタ (Crotalocephalina secta) の尾部の標本です。ネガポジ揃っています。ネガが1-3、ポジが4-5です。 パッと目につくのは、その熊手のような尾部の構造で、中軸には2列の太めの突起が生えていたようです。他地域の類似種だと、モロッコのJolfのケイルルスの一種などが、近い構造をしているのではないかと思います。 また特に、ネガの標本がわかり易いですが、尾部全体の表面にポツポツと穴が空いており、尾部にまで顆粒状構造が広がっていたようです。 私は胸部の標本は所有できていませんが、頭部の標本と合わせて見ると、怪物じみた本種の全体像が浮かび上がってくる気がします。
Devonian - 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地 Crotalocephalina secta (pygidium)trilobite.person (orm)
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Crotalocephalina secta (Cephalon2)
岐阜県高山市、奥飛騨温泉郷福地 (旧上宝村) のデボン紀の層より産出する、クロタロセファリナ・セクタ (Crotalocephalina secta) の頭部標本です。ネガポジ揃っております。標本No. 23と同種であります。 この標本のアピールポイントは眼、特に複眼が完全にのこっているという事です。それも本種は、比較的残り易いシゾクローアル型複眼でなく、より細かいホロクローアル型複眼であリます。日本産三葉虫で、このタイプの複眼が綺麗に残っている事には、驚きを禁じ得ません。 もちろん、頭鞍・頭鞍葉の構造やその表面を覆う顆粒も素晴らしくのこっています。観察をしていてワクワクする標本です。
Devonian - 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地 Crotalocephalina secta (Cephalon)trilobite.person (orm)
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Crotalocephalina secta (Cephalon)
岐阜県高山市、奥飛騨温泉郷福地 (旧上宝村) のデボン紀の層より産出する、クロタロセファリナ・セクタ (Crotalocephalina secta) です。ネガポジ揃っております。写真1-5がポジ、6-7がネガです。個人の採取者の方より、譲っていただいた標本です。 体表面は、頭部に認めるように顆粒で覆いつくされております。また、別に標本をupしますが、熊手状の特徴的な尾部を持つ種であります。それら特徴のコンビネーションは、他の産地の類似種では、ありそうでない組み合わせであります。 世界のケイルルスの仲間の中でも、サイズは大型であり全身が揃えば、おそらく10cmを超えてくる種なのだろうと思われます。部分化石でありながらも大迫力の一品であり、その威容はモロッコで産出する立派なケイルルスにも、勝るとも劣りません。普段は標本箱に大切にしまい込んでますが、観察の為取り出す度に、日本産離れしたそのサイズ感に、いちいち驚いてしまいます。 この産地は私の好みであるので、贔屓目があるかもですが、同地産のグラビカリメネ・ヤマコシと並び、日本を代表する三葉虫の一つと言えるかと思います。他の福地産三葉虫の標本と併せて、私のお気に入りのトップ5に入る標本群であります。
Devonian - 岐阜県高山市奥飛騨温泉郷福地 Crotalocephalina secta (Cephalon)trilobite.person (orm)
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Phacops imitator (cephalon)
アイフェル (Eifel) 地域産のファコプス類、ファコプス・イミタトル (Phacops imitator) の頭部標本です。部分化石でありますが、本当にアイフェル産かなと思うほどに保存状態は良好です。 呼び慣れたファコプスという名称が、学名としては、モロッコや北米を中心にどんどんと消えていく中、残った数少ない正式なファコプス属であります。頭鞍には、まるで大仏様の螺髪のような、比較的大きくて丈が低い顆粒を認めます。複眼の縦列あたりの眼の数は、4-5個程度と標準的 (?) です。ファコプスのど真ん中のような見た目をしている種という気がします。 私は所有していませんが、他にもアイフェル地域には、ファコプス・ラティフロンス (Phacops latifrons) という、有名なファコプス属のtype species (模式種) がおります。本種はラティフロンスも含め、アイフェルファコプス属の中では、最も古い時代の層から産出する種であります。 私は、この地域の三葉虫の産出量にはあまり詳しくないのですが、この標本は、私が三葉虫の蒐集を始めてから、市場で見かけた唯一のイミタトルの標本です。そういうわけで、多分かなり希産なんじゃないかという事で、レア度は差し当たり星4つとしてみました。
Devonian - Üxheim, Eifel region, Germany Phacops imitator (cephalon)trilobite.person (orm)
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Crotalocephalus gibbus
デボン紀の芋虫三葉虫こと、クロタロセファルス・ギブス (Crotalocephalus gibbus) です。うねうねとした、今にも動き出しそうな何かの幼虫のような外見は、私的には可愛らしいのですが、あまりにも生々しく、人によっては気持ち悪いという印象を持つ方もいるでしょう。 その衝撃的な見た目で、多くの人々の度肝を抜き、ともすると彼らを三葉虫コレクターの世界に誘った功労種とも言える三葉虫の一つです。私も約10年ほど前に、ミネラルショーで本種の姿を初めて見た際には、つくりものだと勘違いしてしまいました。 この標本は、右頬が欠損してはおりますが、細部のクリーニングは素晴らしく、特徴的な頭鞍の黒い斑点模様 (筋肉付着痕という説あり) 、軸葉表面の小さな突起、尾部中心にある表層の細かな鳥肌様のぶつぶつなど、全て良好に残っています。側葉と尾部のみ浮かせた、最近の流行りの部分的浮かせプレップが施されています。見栄えが良くない事は承知の上、破損が怖いので、購入時の台座に固定したまま今も置いております。 コレクター入門者には驚きの種ですが、他方、年季の入ったコレクターからすれば、多産する本種は見慣れすぎていて、「なんだまたクロタロか」と感じてしまうかもしれません。 しかしそれでも、三葉虫界広しといえど、この独特の造形は唯一無二のものであり、いつまでも色褪せることがない、魅力的な種と言えるのではないのかなと思います。
Devonian - Oufaten area, Morocco Crotalocephalus gibbustrilobite.person (orm)
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Geesops schlotheimi
一つ前の標本、ネオメタカンサス・ステリフェルと同一の母岩に共存する、ギーソプス・スクロテイミ (Geesops schlotheimi) です。 頭胸部の境でぐにゃりと180度折れ曲がっておりますが、細部はネオメタカンサスに比べても良好に残っています。頭鞍の比較的大粒の顆粒は肉眼でも観察でき、ルーペで確認すると複眼も良好に残っていることがわかります。 モロッコの種より小型なので、判別は可能かもしれませんが、保存状態の良さからは、モロッコの標本であると勘違いしてしまうかもしれません。
Devonian Ahrdorf formation, Flesten Member Gees, Gerolstein, Eifel region, Germany Geesops schlotheimitrilobite.person (orm)
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Neometacanthus stellifer
ドイツの有名古典的産地アイフェル (Eifel) のネオメタカンサス・ステリフェル (Neometacanthus stellifer) です。モロッコの一般種の、メタカンシナ (Metacanthina) やホラルドプス (Hollardops) にそっくりな種ですが、モロッコ種と比較し、本種は市場で目にする機会が少なく貴重です。 モロッコ類似種と比べると、20mm程度とサイズの小ささが際立ちます。三葉虫マニアのバイブル、"TRILOBITI"にも本種は掲載されていますが、本標本と同程度の大きさであり、他方、他のコレクターの方の標本を参照をしても同サイズです。 この種に限らず、アイフェル産の三葉虫の一部は、モロッコ類似種の縮小版のような種が多いです。当時、ゴンドワナ大陸側のモロッコとユーラメリカ大陸側のアイフェルは、レイク海 (Rheic ocean) を挟んで、向かい合う位置関係にあります。近い位置にある両産地の三葉虫の形態が似ているのは理解できるものの、縮尺だけが異なるという事が実に不思議です。 どのような環境の違いが、モロッコの三葉虫群を巨大化させ、もしくはアイフェル三葉虫群を小型化させたのか、興味深くあります。 本標本は写真5枚目にちらっと写っているように、実は同一母岩に別の三葉虫 (Geesops schlotheimi) も共存する標本です。スペースの都合上、こちらは別途紹介いたします。
Devonian Neometacanthus stellifer No. 184trilobite.person (orm)
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Walliserops tridens & Acastoides zguilmensis
一体この謎のフォークにどんな機能があったのでしょうか? 戦いの武器?、一種のセックスアピール? いずれも想像の域を出ませんが、興味が尽きません。 こちらは、Walliserops tridens (ワリセロプス・トリデンス) & Acastoides zguilmensis (アカストイデス・ジグイメンシス) です。このうち、特にワリセロプスは見ての通り、あまりに奇妙な頭部先端のフォークが目立ち、見た目がド派手な為、モロッコ三葉虫の中でもとりわけ人気が高い種です。 さて、このワリセロプスには複数種がいて、 ✔︎フォークが長いタイプ: Walliserops trifurcatus ✔︎フォークが短いタイプ: Walliserops tridens Walliserops hammi Walliserops lindoei と大まかに分けられます。 長いタイプの唯一の種、ワリセロプス・トリフルカトゥス (Walliserops trifurcatus) は実に奇天烈な見た目の種で、『あんた一体何者なんだ?』とツッコミたくなります。フォークや棘の掘り出しには技術を要し、プレパレーターの腕が試される種でもあります。この種は、とりわけ人気がありますが、フォークが短いタイプに比べれば、比較的産出量は多いようです。 一方、短いタイプには主に上記3種類がいます。 ハンミ (Hammi) はフォークが細く両脇の角が大きく湾曲している事が特徴です。リンドエイ (Lindoei) はフォークの3つの角が潰れて、平坦になっている事が特徴であります。本種トリデンスは、特徴がない事が特徴といいますか、細くもなく潰れてもない短いフォークなら、トリデンスかなと私は判断しています。流通量的には、リンドエイ>ハンミ>=トリデンスなイメージです。リンドエイとトリデンスはやや似通っていて、混同されている標本も見かけます。 ところで、このフォーク、日本のカブトムシのようだと思われた方もいるかもしれません。しかし、実は全然構造が違います。カブトムシの角はよく見ると、先が4つに分かれ左右対称です。一方、このフォークは見ての通り3つ組構造です。3つ組の構造物は、古代〜現生種でみても、実はかなり珍しく、この種を特別なものにしています。 三葉虫の形の面白さや奇妙さを説明する際に、これほど適した種もいないと思います。
Devonian - Timrzit, Maider, Alnif, Morocco Walliserops tridens & Acastoides zguilmensistrilobite.person (orm)
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Scabrella sp.
巨大三葉虫、スカブレラ (Scabrella sp.) の尾部標本です。モロッコデボン紀の種の中でも大型の部類で、全体が揃った標本はなかなかなく、幻種とも言える種であります。 こちらは尾部のみの標本ですが保存状態は非常に良く、表面に小さな毛穴のようなものが見えます。ここからは感覚毛が生えていたのではないかという仮説もあります。更によく見ると、表面に棘が取れた跡のような痕跡も見る事ができます。
Devonian - Issoumour, Morocco Scabrella sp.trilobite.person (orm)
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Drotops armatus
一体彼は誰から身を守りたかったのでしょうか? あるいは、誰かにその派手な見た目をアピールしたかったのでしょうか? デヴォン紀を代表する有名種、ドロトプス・アルマトゥス (Drotops armatus) です。アルマトゥスとは『武装した』という意味ですが、その種小名が呈する通り、三葉虫の全身を痛そうなトゲトゲで覆っております。デヴォン紀を代表する三葉虫であるファコプスの仲間であり、同時代を特徴づける『棘』を持ち、まさにこの時代を代表する種と言えるかと思います。この種は多くのファコプス同様、防御姿勢をとる事ができますが、そうなるとぐるり一周棘だらけで、もはや捕食者は手出しできなくなります。この派手な『棘』は、この時代に巨大化・高機能化した魚類に対する防御の為という説が根強くありますが、本当のところは誰にも分かりません。 比較的繁栄した種のようで、常に市場で売りに出されている為、状態を問わなければ比較的入手はし易いです。ただ棘が偽物である事が多いのと、プレパレーションが荒い標本が多いので、状態の良い標本の入手はそれなりに困難です。 いずれにせよ、150mm近くになる巨体も手伝い、初見でのインパクトは凄まじく、多くの三葉虫コレクターが最初に憧れる種の一つであります。
Devonian - Atlas Mountain Range, Morocco Drotops armatustrilobite.person (orm)