-
Viaphacops claviger
ネヴァダ州というと、基本的には三葉虫関連ではカンブリア紀の層が大半を占めております。そんな中でこちらウェンバン累層 (Wenban fm) は、ネヴァダ州でも中央に位置するSimpson Park Mountainにある地層で、同州にしては珍しいデヴォン紀の層が広がっております。 そんなマニアックな産地で産するこの種は、ヴィアファコプス・クラヴィゲル (Viaphacops claviger) 。異色の産地の異色の巨大なファコプス類であります。ウェンバン累層は地層の変形が激しく、押しつぶされたように圧がかかった標本が多いです。本標本もプレスされたように押しつぶされております。 特筆すべきはその特異な風貌。全長100mmオーバーと、ファコプスの仲間ではモロッコの巨大種ドロトプス (Drotops) に匹敵する巨体を有し、髭のような自由頬から伸びる棘や、軸葉から垂直に伸びる棘(本標本では残念ながら摩耗しております) を持つなど、相当な変わり種のファコプスであります。サイズ感の比較用に写真8枚目で、一般サイズのファコプス (NY州のEldredgeops rana) と並べております。 ファコプスにもこんな種がいるのかと、認識を改めてくれる種です。
Lower Devonian Wenban fm he Simpson Park Mountains, Nevada, US Viaphacops clavigertrilobite.person
-
Dindymene didymograpti
『三葉虫の中で、最も好きな名前の種を挙げてください』 そう聞かれれば、私はこの種を推薦します。 ディンディメネ・ディディモグラプティ(Dindymene didymograpti) 。やたら『ディ』が多い種ですが、語感が良いので、発音はし易く、覚え易くもあると思います。 ディンディメネというのは、アナトリア地方の大地の神で、地母神 (the mother of the Gods) の一人の、ディンディメネから取ったものと思われます。この神は別名キベレ (Cybele) とも言います。ちなみに、三葉虫界でキベレと言えば、ロシアの奇妙なカタツムリのような三葉虫 (Cybele panderiなど) を表す属名でもあります。学名はその生物の特徴を表しているものが多いですが、人名、地名や神の名由来だったりして、思わぬところで色々な雑学が繋がるのも、古生物をやっていて面白いなと感じる点であります。 さて、この種はイチゴ頭の三葉虫、エンクリヌルスの仲間なのですが、面白い事に眼がないのです。エンクリヌルスと言えば、ぶつぶつの頭鞍以外に種によっては、ニョキッと伸びた、眼が特徴的であります。この種にはそんな眼が存在しません。多分、光の届かない大陸棚よりも深部、若しくは洞穴環境で生きていたのでしょう。他、写真ではほぼ捉えられないのですが、頭部の最後部より垂直に伸びた避雷針のような棘もあるようです。写真頭鞍後方のピンボケしている部分がそうです。 実は8mmととても小さい標本なのですが、とても見所の多い種であります。
Ordovician, Abereiddian Stage - artus Biozone, Hope Shales of Minsterley, Shropshire, UK Dindymene didymograptitrilobite.person
-
Tricrepicephalus texanus
トリクレピケファルス・テキサヌス (Tricrepicephalus texanus) 。 有名産地ウィークス (Weeks) 累層産の三葉虫で、この地を代表する有名種であります。 一見ケイルルスの仲間のようにも見えますが、旧分類ではプティコパリア目 (Ptychopariida) に属しております。それらの仲間はエルラシア・キンギ (Elrathia kingi) をはじめとして、一般的にはシンプルで、ゴテゴテした装飾がない種が多いのですが、この種は力強い尾棘がある事が特徴的です。実際、この尾部の棘がなければ、他種に埋もれて今ほど有名な種になっていたとは思えません。尾棘に加えて、比較的目立つ頬棘の絶妙な組み合わせが、本種を唯一無二の存在にしています。シンプルながら、とてもバランスが良く美しい種だと思います。 もしも、誰か初めて三葉虫を見る人に対して、『三葉虫というのはこんな感じ』という見本を見せたい場合には、私ならこの種をチョイスするかもしれません。ウィークスというよりは、三葉虫全体を代表する種の一つと言っても、過言ではないと感じます。
Middle Cambrian Weeks Utah, USA Tricrepicephalus texanustrilobite.person
-
Balizoma variolaris
何かの病気にでも罹っているいるのじゃないかとでも思えそうな、この三葉虫はバリゾマ・ウァリオラリス (Balizoma variolaris) です。 英国の古典的産地、ダドリー (Dudley) の標本です。ダドリーは産業革命期に鉱石や石炭の採掘で賑わった町ですが、採掘の際に、同時にシルル紀の豊富な化石も見つかりました。三葉虫に関しても、カリメネをはじめとする魅力的なシルル紀の多様な種が産出した事から、歴史的に三葉虫研究の黎明期の重要な研究対象となっています。以後、ダドリー産の化石は、研究者のみならずコレクターも魅了し多くの蒐集家がおしかけましたが、現在、産地は保護されており、新規標本を得る事はできません。今、市場に出回る標本はオールドコレクションの放出によるものです。 この、ダドリーもしくはその周辺で採取された三葉虫全体を指して、ダドリー・バグ (Dudley Bug) もしくはダドリー・バッタ (Dudley locust) と総称されます。 こちらは、そんなダドリー・バグを代表する種の1つ。 頭部にぶつぶつを持つ (イチゴ頭と総称される) 事が特徴であるエンクリヌルスの仲間ですが、この種は中でも病的なほど大きな顆粒を持つ事が特徴で、これは種小名のvariolaris-痘瘡にも反映されております。ダドリーでは、他にもエンクリヌルス (Encrinurus punctatus, Encrinurus tuberculatus) が産出し、いずれも希少ですが、それと比べてもバリゾマは市場に出回る機会が少ないように思います。 16mmという小ささにも関わらず、とても存在感のある種です。
Silurian Wenlock limestone Dudley, West Midlands, UK Balizoma variolaristrilobite.person
-
Pseudosphaerexochus hemicranium
シュードスファエレクソクス・ヘミクラニウム (Pseudosphaerexochus hemicranium) です。 本標本のサイズは15mm程度ですが、最大でも30mmと小型の種です。小さくはありますが、泡状頭 (Bubble head) とも評される大きな膨らんだ頭鞍、ちょこんと可愛らしい眼、フリルのような尾部など、各部位が特徴的で、全体的に奇妙さと可愛らしさを兼ね備えた種です。オルドビス紀英国で産出する、シュードスファエレクソクス・オクトロバトゥス (Pseudosphaerexochus octolobatus) という類似種がいて、サイズこそ本種の2~3倍ですが、見た目はとても良く似ています。 ロシア産三葉虫の中でも、非常に希少な種でもあり、この小ささにも関わらず高額な種でもあります。とても可愛らしいアイドル的な三葉虫であります。
Lower Ordovician - Voybokalo quary, St. Peterburg, Russia Pseudospharexochus hemicraniumtrilobite.person
-
Ceraurinus marginatus
ケラウリヌス・マルギナトゥス (Ceraurinus marginatus) です。有名な北米のケラウルスの一種 (Ceraurus pleurexanthemus) とよく似ていますが、ケラウルスがスマートな体型であるのに対して、本種は幅広く、がっしりとした体型が特徴的です。サイズも70mm近くとケラウルス/ケラウリヌスの仲間では、比較的大型で迫力もあります。ケラウルスが女性的であるとすると、ケラウリヌスは男性的な印象を受ける種です。がっしりした体型である一方で、外形は丸っこく愛嬌もあり可愛らしさも伴います。 先のケラウルスは、比較的入手がし易い種でありますが、本種は極めて入手が困難で、本標本のような完全体は滅多に市場でも見かける事はありません。他にケラウリヌス・イカルス (Ceraurinus icarus) という良く似た小型の同属異種も居りますが、こちらも希少で完全体は滅多に出回りません。 母岩の中の配置も素晴らしく、マスコット的な可愛らしさも相まって、特にお気に入りの種の一つであります。
Ordovician Cobourg Ontario, Canada Ceraurinus marginatustrilobite.person
