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Olenellus fremonti
カンブリア紀の巨大なオレネルス、オレネルス・フレモンティ (Olenellus fremonti) です。 オレネルス類はカンブリア紀を代表する一派で非常に多くの種がいますが、その多くは似通った形状をしており、なかなかその区別は難しいです。 この中でも、オレネルス・フレモンティは頭鞍が発達しており、頭鞍先端が頭部の辺縁に重なる事から、比較的容易に区別が可能です。100mmを越える巨大なサイズにまで成長する事も特徴的で、本標本も150mmをオーバーしており、大迫力の標本であります。5億年以上前の化石ですが、まるで母岩の中を泳ぎ回っているようなハッとする美しさと生々しさがあります。私のコレクションを代表する重要標本であります。 オレネルスは当時大繁栄した種であり頭部標本の部分化石だけならば、出回る機会は比較的多く、オレネルスの中で比較的希少なこのフレモンティでも、しばしば頭部化石を見かけます。一方、オレネルスは胸部〜尾部が脆弱で、余程の幸運に恵まれなければ化石化しにくい種でもあります。それ故、このように全身が残る標本はかなり希少と言えます。頭部化石のそれなりの多さと、全身化石の希少さを総合的に考慮して、レア度としては★3としました。
Lower Cambrian (Series2, Stage4) Pioche Lincoln county, Nevada, US Olenellus fremontitrilobite.person (orm)
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Ceraurinus marginatus
ケラウリヌス・マルギナトゥス (Ceraurinus marginatus) です。有名な北米のケラウルスの一種 (Ceraurus pleurexanthemus) とよく似ていますが、ケラウルスがスマートな体型であるのに対して、本種は幅広く、がっしりとした体型が特徴的です。サイズも70mm近くとケラウルス/ケラウリヌスの仲間では、比較的大型で迫力もあります。ケラウルスが女性的であるとすると、ケラウリヌスは男性的な印象を受ける種です。がっしりした体型である一方で、外形は丸っこく愛嬌もあり可愛らしさも伴います。 先のケラウルスは、比較的入手がし易い種でありますが、本種は極めて入手が困難で、本標本のような完全体は滅多に市場でも見かける事はありません。他にケラウリヌス・イカルス (Ceraurinus icarus) という良く似た小型の同属異種も居りますが、こちらも希少で完全体は滅多に出回りません。 母岩の中の配置も素晴らしく、マスコット的な可愛らしさも相まって、特にお気に入りの種の一つであります。
Ordovician Cobourg Ontario, Canada Ceraurinus marginatustrilobite.person (orm)
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Pseudosphaerexochus hemicranium
シュードスファエレクソクス・ヘミクラニウム (Pseudosphaerexochus hemicranium) です。 本標本のサイズは15mm程度ですが、最大でも30mmと小型の種です。小さくはありますが、泡状頭 (Bubble head) とも評される大きな膨らんだ頭鞍、ちょこんと可愛らしい眼、フリルのような尾部など、各部位が特徴的で、全体的に奇妙さと可愛らしさを兼ね備えた種です。オルドビス紀英国で産出する、シュードスファエレクソクス・オクトロバトゥス (Pseudosphaerexochus octolobatus) という類似種がいて、サイズこそ本種の2~3倍ですが、見た目はとても良く似ています。 ロシア産三葉虫の中でも、非常に希少な種でもあり、この小ささにも関わらず高額な種でもあります。とても可愛らしいアイドル的な三葉虫であります。 本プレートは、後方に存在感強めの大きなウミリンゴが控えており、全体的な構図も素晴らしい標本です。
Lower Ordovician - Voybokalo quary, St. Peterburg, Russia Pseudospharexochus hemicraniumtrilobite.person (orm)
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Norwoodia boninoi
カブトガニの子供の化石 !? 一目みて、そんな印象を受ける方も多いのではないでしょうか? こちらはノルウーディア・ボニノイ (Norwoodia boninoi) 、正真正銘、三葉虫の化石です。アメリカのユタ州のウィークス累層 (Weeks Formation) で産出する有名種であります。 ウィークス累層は、赤色〜黄色の母岩が特徴的なカンブリア紀中期の著名な産地です。現在は採掘が禁止されており、新規標本を得る事はできません。故に、現在市場に出回るのはオールドコレクションのみで、数が限られております。 本種は、そんなウィークス累層の中でも産出量の少ない希少種です。特徴的な三日月のような頭部、長い尾部の棘など、カブトガニを彷彿とさせる形状を持ち、その見た目の面白さからも、非常に人気が高い種であり入手は困難です。 何故こんな形をしているのでしょうか? そこに答えはなく、想像するしかありませんね。 このような形態の多様さこそが、三葉虫、ないしは古生物の世界の面白さをより駆り立ててくれます。
Middle Cambrian (Series3, Guzhangian) Weeks Millard county, Utah, USA Norwoodia boninoitrilobite.person (orm)
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Sphaerexochus britannicus
当ミュージアムのエントランスのアイコンにもなっている三葉虫です。 この不思議な形状の芋虫のような三葉虫は、スファエロクソクス・ブリタニクス (Sphaerexochus britannicus) 。ブリタニクスの名が示す通り、英国の種であります。英国のウースターシャー (Worcetershire) のマルヴァン (Malvern) の産です。 マルヴァンはユネスコジオパークにも登録されている、シルル紀の重要産地であります。地理的に近く採掘が禁じられているダドリー (Dudley) と共に、英国の古典的産地として有名であり、今やそれら産地の化石が市場に出回る機会は限られています。 スファエロクソクスは大きく膨らんだ頭部を特徴とし、胸部は芋虫のようで、尾部は丸いフリルのような構造を持ち、やや地味な見た目ながら、良く見ると実に奇妙で面白い種でマニア受けする種かと思います。他に、スウェーデンや国内でも類似種が産出する事が知られていますが、頭部や尾部だけの部分化石が大半です。 本種は部分化石すら市場に出回る事は珍しく、特に胸部が何故か非常に残りづらい為、このような全身が揃った完全体は世界的にも極めて貴重です。シルル紀を代表する三葉虫の一つでありながらも、独特な形状を持つ超希少種と言えるかと思います。 追記(2023/3/5): Sphaerexochus mirusという、本種に極めてよく似た (もしくは同じ) 種がおり、例えば、英国三葉虫書籍Trilobites of the British Islesには、Sphaerexochus mirusの方しか掲載されていません。 これに関して、S. britannicusとS. mirusは、同一種であるという説 (Thomas AT. British Wenlock trilobites. Part 2. Palaeontographical Society Monographs (London) 1981;134:57–99.) と、尾部の形状から異なる種であるという説 (Ramsköld L. Silurian cheirurid trilobites from Gotland. Palaeontology (Oxford) 1983;26:175–210.) があり、意見が割れているようです。 ここでは、提供者氏からの学名のまま、S. britannicusの方を採用して記載をしておきます。
Silurian, Homerian Coalbrookdale shales, Wenlock limestone fm Malvern, Worcestershire, UK Sphaerexochus britannicustrilobite.person (orm)
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Drotops armatus
一体彼は誰から身を守りたかったのでしょうか? あるいは、誰かにその派手な見た目をアピールしたかったのでしょうか? デヴォン紀を代表する有名種、ドロトプス・アルマトゥス (Drotops armatus) です。アルマトゥスとは『武装した』という意味ですが、その種小名が呈する通り、三葉虫の全身を痛そうなトゲトゲで覆っております。デヴォン紀を代表する三葉虫であるファコプスの仲間であり、同時代を特徴づける『棘』を持ち、まさにこの時代を代表する種と言えるかと思います。この種は多くのファコプス同様、防御姿勢をとる事ができますが、そうなるとぐるり一周棘だらけで、もはや捕食者は手出しできなくなります。この派手な『棘』は、この時代に巨大化・高機能化した魚類に対する防御の為という説が根強くありますが、本当のところは誰にも分かりません。 比較的繁栄した種のようで、常に市場で売りに出されている為、状態を問わなければ比較的入手はし易いです。ただ棘が偽物である事が多いのと、プレパレーションが荒い標本が多いので、状態の良い標本の入手はそれなりに困難です。 いずれにせよ、150mm近くになる巨体も手伝い、初見でのインパクトは凄まじく、多くの三葉虫コレクターが最初に憧れる種の一つであります。
Devonian - Atlas Mountain Range, Morocco Drotops armatustrilobite.person (orm)
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Gittara gitarriformis
こちらはギタラ・ギタリフォルミス (Gittara gitarriformis) 、英国のプロエトゥス目 (Proetida) に属する石炭紀の三葉虫です。写真の3個体のうち、1個体のみ (写真2番目) のみ、Ventral (三葉虫の腹側から見た化石) です。 似たような形かつシンプルなフォルムの、石炭紀の三葉虫の特徴を挙げる事は少々難しいです。ただ、どちらかというと長細い楕円形の石炭紀三葉虫が多い中で、この種は長細くはなく、幾分広い横幅を持ち丸っこい事が特徴と言えるかもしれません。他に、この種は、複数個体が固まって産出する事が多い為、集団で生活をしていた可能性があります。 石炭紀の三葉虫は市場どうこう以前に、そもそも生きていた当時の個体数が少ないので、当然化石の産出量も少なく、どの種も希少であります。この種も入手の機会は限られており、本標本のような、ほぼ完全体の標本は貴重であります。
Carboniferous - Visean, Chadian Sub-state of Slaidburn, Lancashire, UK Gittara gitarriformistrilobite.person (orm)
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Endops yanagisawai
こちらはエンドプス・ヤナギサワイ (Endops yanagisawai)、世界的に見ても少ないペルム紀中期の希少な三葉虫です。同時代の他の種同様、プトエトゥス目 (Proetida) であります。 属名のEndopsの由来について、『最後』の時期の三葉虫だから、『End-』と勘違いされる事もありますが、違います。精力的に北上や、福島県高倉山、新潟県青海などの化石の研究などにも関わった古生物学者、故 遠藤隆次博士 (1892-1969) の遠藤 (Endo) から取った名であります。元々は遠藤博士により、パラディン・ヤナギサワイ (Paladin yanagisawai) と付けられていたようです。由来としては間違っていますが、それでも、たまたまとはいえ、最後を連想させるEndopsという名がついた事に不思議な運命を感じます。 石炭紀より数の少ないペルム紀の三葉虫として希少なものですが、かの原発事故の影響もあり、採取は今後完全不可のようです。そんな訳で、二つの意味で貴重であります。この標本は頭部と尾部、一部ですが胸部も見えております。 綱レベルで見れば、カンブリア紀から約3億年近くも命脈を保った三葉虫という偉大な種も、ついにはペルム紀には滅び去ってしまいました。そんな希少な『最期/最後』の種が日本で産出する事に、コレクターとしては喜びを覚えます。
Permian Takakurayama 福島県いわき市四倉高倉山 Endops yanagisawaitrilobite.person (orm)
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Calymene sp.
オルドビス紀は、非常に多種多様な三葉虫が登場した時代ですが、それ故、種数が多く記載が追いついておりません。特に、モロッコのオルドビス紀三葉虫は、種数が非常に多く、風化が進んでいる傾向にもあり、未記載種に溢れています。 これも、そんな良くわからないモロッコのオルドビス紀三葉虫のうちの一つ。 入手元では、グラビカリメネ (Gravicalymene sp.) とされておりました。確かに形状はカリメネではあります。6番目の写真で標準的サイズのカリメネである、フレキシカリメネ・ミーキ (Flexicalymene meeki) と比較していますが、ご覧の通り巨大サイズのカリメネです。同国同時代の大型カリメネというと、博物館のショップやお土産レベルの化石でも有名な、多産するフレキシカリメネ・オウズレグイ (Flexicalymene ouzregui) があまりにも有名です。しかし、本種は見た目からして、明らかにオウズレグイとは異なります。 一時は、自由頬のないプラドエラ (Pradoella sp.) かな?とも考えたのですが、やはりどこか頭部や尾部の構造が違うように思うのです。第一に、産地がKaid errami (一方、プラドエラはZagoraで産出する) ので、やはり違う種だろうなと考えております。 結論は未定種、カリメネの一種 (Calymene sp.) としております。このような未知の種の多さもまた、モロッコのオルドビス紀三葉虫の魅力であります。
Ordovician - Kaid errami, Morocco Calymene sp.trilobite.person (orm)
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Eccoptochile cf. mariana
この何かのマスコットにでもなりそうな、巨大で愛らしい三葉虫は、エコプトキレ (Eccoptochile cf. mariana) といいます。モロッコのオルドビス紀の三葉虫です。欧州で広く産出する種であり、記載も欧州が先ですが、マニアにはモロッコのこちらのタイプが良く知られております。 モロッコのエコプトキレは、形態的に見ても何種類かいる事が知られています。標準的な本種や、頭鞍の目立たないタイプ、集団で産出するそれほど可愛らしさのないタイプ (なんという決めつけ‥) など、少なくとも2種類以上は居るように思います。ただ正確な分類は進んでおらず、いずれも、現時点で科学的には記載されておりません。その為、欧州のエコプトキレ・マリアナ (Eccoptochile mariana) のcf. (confer: マリアナっぽさがあるけど不確実の意) などと表記される事が多いです。 大きな鼻のような頭部、ミシンの縫い後のような胸部側葉の模様、丸いフリルのような尾部など、あまりに特徴にまみれた種で、大変人気があります。産出量もけして多くはなく、比較的希少種と言えるかと思います。 レア度は★2とするか、★3とするか微妙なところですが、状態を選ばなければ入手困難という程でもなく、★2.5といったところです。厳しめにつけて少数切り捨てとして、★2とさせて頂きました。
Middle Ordovician Fezouata Taychoute, Zagora, Morocco Eccoptochile cf. marianatrilobite.person (orm)
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Gabriceraurus dentatus
ウミユリの茎に囲まれるように産出したこの美しい三葉虫は、ガブリケラウルス・デンタトゥス (Gabriceraurus dentatus) といいます。オルドビス紀のカナダは数々の美しい綺羅星のような、ケイルルスを産出する事で有名であります。中には写真でしか見た事のないような超希少な種もいますが、この種は、その中でも比較的良く知られた種です。 最も一般的な北米のケイルルス/ケラウルスである、ケラウルス・プレウレザンセムス (Ceraurus pleurexanthemus) にベースは似ています。ただ、40mm前後のサイズがせいぜいのプレウレザンセムスよりも明らかに大型となる事が知られており、また頬棘と尾棘が長くて発達している事が特徴的です。本標本でも70mm近くと結構大きいのですが、本種の本当に大きな標本は100mmをoverするものさえあり、大迫力であります。 この標本は全てのパーツが良く残っており、何より周囲に散らばるウミユリの茎が、この標本の美しさを際立たせています。右胸部の棘の間にウミユリの茎が複雑に絡んでいるのも面白いです。当時、おそらくウミユリの陰に潜んで生活していたのではないかという事が想像できて楽しい標本です。 かなり希少な種ではあり、★4をつけても良いかと思いましたが、同産地のケラウリヌス・マルギナトゥス (Ceraurinus marginatus) と比べると産出量は多く、★3つとしました。
Ordovician Cobourg Ontario, Canada Gabriceraurus dentatustrilobite.person (orm)
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Flexicalymene ouzregui
フレキシカリメネ・オウズレグイ (Flexicalymene ouzregui) です。 博物館や恐竜展のお土産物などでもおなじみの巨大カリメネで、北米のエルラシア・キンギ (Elrathia kingi) と並び、市場で最も出回る三葉虫です。安価で風化が進んでいるものや、別の個体のパーツを繋げた粗悪品も多く、蒐集家には軽視されがちの種でもあります。 しかし、カリメネの中では実はトップレベルに巨大な種で、実際、本種に大きさで勝負できるカリメネなど、カナダのディアカリメネ・シチュチェルティ (Diacalymene schucherti) という希少カリメネぐらいなのではないかと思います。サイズという一点だけでみても、けして軽視できる種ではないと思います。私が、このカリメネを初めて目にしたのは幼少期ですが、ボロボロの標本だったにも関わらず、その巨体感に感動したものです。 出来るだけ風化が進んでおらず、ノジュールを割ったままの自然な標本を選びました。灰色く表面が風化したような見た目の標本が多い本種ですが、この標本は色も黒くて安っぽくなく、比較的表面の状態は良好です。こちらは、ミネラルショーでドイツの有名ショップ『Horst Burkard』より購入しております。 2個体が縦に並んでいるのも、どこか滑稽で面白い構図です。
Ordovician - Hamar Laghdad, Morocco Flexicalymene ouzreguitrilobite.person (orm)
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Lochmanolenellus trapezoidalis
ネヴァダ州のポレタ累層 (Poleta fm) で産出するこの怪物は、ロクマノレネルス・トラペゾイダリス (Lochmanolenellus trapezoidalis) と呼ばれています。胸部の一部と尾部を欠いた部分化石ですが、70%程が残っていて、全体像がよく分かります。8枚目写真に見るように、この種の幼体、及び別種のオレネルス類 (Teresellus goldfieldensis?) のventralも共産しております。 最も最初期に誕生した三葉虫のオレネルスの仲間ですが、実際、累層の時代はカンブリア紀前期 (Lower Cambrian, Series2, Stage3) と非常に古い時代の種です。 なんと言っても、この種の特徴は、頭部から巨大な頬棘が2対出ている事 (Double genal spinesなどと呼ばれます) であります。このような特徴を持つ三葉虫は、私の知る限り、ロクマノレネルスの一派だけです。 類似種に、ロクマノレネルス・ペンタゴナリス (Lochmanolenellus pentagonalis) やロクマノレネルス・サブクアドラタ (Lochmanolenellus subquadrata) という種がいて、これらもDouble genal spinesを持ちます。 写真7枚目では、私の手持ちの中でもトップ5のサイズを誇る154mmのオレネルス・フレモンティ (Olenellus fremonti) と並べてみました。もし完全体なら、更に一回り上回りそうで、170mmぐらいの巨大な標本であったと思われます。
Lower Cambrian (Series2, Stage3) Poleta Esmeralda county, Nevada, USA Lochmanolenellus trapezoidalistrilobite.person (orm)
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Scabrella sp.
巨大三葉虫、スカブレラ (Scabrella sp.) の尾部標本です。モロッコデボン紀の種の中でも大型の部類で、全体が揃った標本はなかなかなく、幻種とも言える種であります。 こちらは尾部のみの標本ですが保存状態は非常に良く、表面に小さな毛穴のようなものが見えます。ここからは感覚毛が生えていたのではないかという仮説もあります。更によく見ると、表面に棘が取れた跡のような痕跡も見る事ができます。
Devonian - Issoumour, Morocco Scabrella sp.trilobite.person (orm)
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Balizoma variolaris
何かの病気にでも罹っているいるのじゃないかとでも思えそうな、この三葉虫はバリゾマ・ウァリオラリス (Balizoma variolaris) です。 英国の古典的産地、ダドリー (Dudley) の標本です。ダドリーは産業革命期に鉱石や石炭の採掘で賑わった町ですが、採掘の際に、同時にシルル紀の豊富な化石も見つかりました。三葉虫に関しても、カリメネをはじめとする魅力的なシルル紀の多様な種が産出した事から、歴史的に三葉虫研究の黎明期の重要な研究対象となっています。以後、ダドリー産の化石は、研究者のみならずコレクターも魅了し多くの蒐集家がおしかけましたが、現在、産地は保護されており、新規標本を得る事はできません。今、市場に出回る標本はオールドコレクションの放出によるものです。 この、ダドリーもしくはその周辺で採取された三葉虫全体を指して、ダドリー・バグ (Dudley Bug) もしくはダドリー・バッタ (Dudley locust) と総称されます。 こちらは、そんなダドリー・バグを代表する種の1つ。 頭部にぶつぶつを持つ (イチゴ頭と総称される) 事が特徴であるエンクリヌルスの仲間ですが、この種は中でも病的なほど大きな顆粒を持つ事が特徴で、これは種小名のvariolaris-痘瘡にも反映されております。ダドリーでは、他にもエンクリヌルス (Encrinurus punctatus, Encrinurus tuberculatus) が産出し、いずれも希少ですが、それと比べてもバリゾマは市場に出回る機会が少ないように思います。 16mmという小ささにも関わらず、とても存在感のある種です。
Silurian Wenlock limestone Dudley, West Midlands, UK Balizoma variolaristrilobite.person (orm)