Scabriscutellum sp.

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スカブリスクテルムの一種 (Scabriscutellum sp.) です。ティサノペルティス (Thysanopeltis) と似ておりますが、こちらは明らかに尾板周りの棘がなく、そちらとは容易に鑑別する事ができます。あくまで種にもよりますが、モロッコ三葉虫としてはコモンな種であり、状態を問わなければ入手は容易です。

しかしその鑑別は困難を極め、分類は混乱の最中にあります。まず、Thysanopeltisは別にしても、他に見た目の近い属レベルで違う(かもしれない) 種々のスクテラムが存在します。

第一に、プラティスクテルム (Platyscutellum sp.) 。Platyscutellum cf. massaiなどと表記される事が多いです。これは尾板が極端に頭部に比較して小さく分かり易い種ではあります。ただスクテラムの中でも、見た目が奇妙で大型で目立つので、モロッコの偽物三葉虫の代表としてフェイク品を頻繁に見かけます。次に、体全体が細かい顆粒に覆われたメタスクテルム (Metascutellum sp.) 、ないしはゴルディウム (Goldium sp.) と呼ばれる種もいます。Metascutellum aff. pustulatumなどと呼ばれております。それらよりは極少数ですが、複眼や中葉から目立って長い棘が生えている、ボヨスクテルム (Bojoscutellum sp.) と呼ばれる謎の種もいます。いずれも、主にチェコの類似種などを元に名付けられており、厳密な意味での記載という訳ではないように思います。

さて、ややこしい事に話はそこで終わりません。このスカブリスクテルムにも、やはりと言うか色々なタイプがいます。

中でも、2006年に記載 (Chatterton et al., 2006) された種、
○スカブリスクテルム・ラフチェニ (Scabriscutellum lahceni)
Occipital ring及び胸節軸葉の前3節と後3節にのみ、太く垂直な棘が生えるタイプ
○スカブリスクテルム・ハムマディ (Scabriscutellum hammadi)
尾部周りにルーペで観察できる程度の小さな無数の棘を認めるタイプ

私の知る限り、スカブリスクテルムのうち、厳密に正式に記載されているのは、この2種のみかと思います。

他にスカブリスクテルム・フルシフェルム (Scabriscutellum furciferum) という古くから知られた種がいて、多くの市場のスカブリスクテラムに、取り敢えず名としてつけられております。

正確には、チェコ産のスカブリスクテルム・フルシフェルム・フルシフェルム (Scabriscutellum furciferum furciferum) を元に記載された、スカブリスクテルム・フルシフェルム・ハムラグダディアヌム (Scabriscutellum furciferum hamlagdadianum) という亜種であります。これは確かに1971年にAlbertiらにより記載されています。ただ問題点として、今から半世紀前の当時、今ほどの剖出技術が整っておらず、仮に棘など細かい構造があったとしても、全部プレップ中に飛ばしてしまったものと思われます。Chattertonらは、このフルシフェルム・ハムラグダディアヌムは不完全な頭鞍と、複数の形態の異なる尾板を元に記載されており、その存在は少々怪しいと断じております。

図鑑の説明としては、不適切なほど長文になってしまいましたが、まとめると、極少数の記載種を除けば、スクテルムは正確に分類されるに至っていないという事であります。

そこでやっとこの標本についてですが、特徴としてはOccipital ring及び胸節の全てにやや小型の垂直な棘が並んでいます。入手元で、スカブリスクテルム・フルシフェルムとして手に入れたものであります。確かにその可能性はありますが、上記の通りフルシフェルムはその記載に疑問符が付く上、本種には軸葉に垂直な棘があり、当時のフルシフェルムは少なくとも棘の記載はないので、この種と断定する事はできません。ラフチェニが似ているもの、ラフチェニは胸節軸葉に関しては、前方3節と後方3節にのみ棘がある種である為、明確に違います。

つまり、本標本は、スカブリスクテルムの一種 (Scabriscutellum sp.) とするしかないかな、という結論です。今後の本種の研究を待ちたいものです。

その分類に対する疑義はともかく、見ての通り素晴らしいプレパレーションであります。プレパレーターは凄腕ハンミ氏 (Hammi Ait H'ssaine) 。お見事の一言であります。

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  • 1. 魅惑の三葉虫 2018年09月21日 22:26
    この標本素晴らしいですね。私は予算が無く、ウォッチして静観でした。モロッコのスクテラムに棘ある事が分かってきたのは15年くらい前でしょうか、そんなイメージが全くなかったので、衝撃的だったのを今でも覚えています。近年では、棘の配列や場所を含めた多種多様なスクテラムが存在して、収集しきれない状況ですね。元々数が少なく、更に殻が薄く状態の良い標本が少ないスクテラムなので、良い標本があれば迷わず抑えるが基本なグループだと思っています。

    2. orm 2018年09月21日 23:34
    F氏は怒濤のペースでHammiプレップを出品されるので、とても有り難い反面、買えないと欲求不満が溜まりますね。実際購入してみると、皆がHammiプレップをもて囃すのもうなづける気がします。でも立て続けは身が持ちません。
    棘ありが判明が15年程前とは、思ったよりもかなり前ですね。今のようにネットで三葉虫が出回る前か、ちょうどその矢先の話でしょうか。しかし、例えば魅惑の三葉虫 図鑑に掲載されているS.lahceniなんて、私が上に挙げたどのscutellumにも属さず、本当に多種多様ですね。全ての種など蒐集不能である事がよくわかります。

    (別サイトでの同標本に対する、過去のコメントを掲載させていただおります。)

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